魔力ゼロ令嬢ですが元ライバル魔術師に司書として雇われただけのはずなのに、なぜか溺愛されています。

氷雨そら

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記憶と時間 2

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『ふぉん! ふぉん! ……ふぉ、ふぉん?』

 うれしそうに私にじゃれついていたフィーが、部屋の奥を見つめて動きを止めた。
 そして私とレイラ様を交互に見つめて、首をかしげる。

『ふぉ、ふぉん……?』

 そういえば、不思議な場所でフィーは初代筆頭魔術師ミリア様と一緒にいた。
 かつて、フィーが初代筆頭魔術師の使い魔だったことは間違いないのだろう。

「……フィー。行って良いのよ?」
『ふぉんっ!!』

 フィーは駆け出すと、勢いよくレイラ様に飛び込んだ。
 レイラ様が座っていた椅子ごと後ろに勢いよく倒れ込む。

(行って良いとは言ったけど、どれだけの力で飛び込むのよ……)

 使い魔は私たちとは違う世界に住む高位の存在だと言われている。
 けれど、私の知っているフィーはどうみても無邪気で自由な愛犬だ。

『ふぉん!』

 ブンブン尻尾を振りながら、ベロベロとレイラ様の顔を舐めるフィー。
 姿形が違っても、フィーにはレイラ様がかつての主であることがわかるようだ。

「……」
「いいのかな? 今は君があの使い魔の主なのに」
「……うーん。懐かしい人に会ったときには、再会を素直に喜びたいじゃないですか」
「……そうか。何というか、君と話しているとごちゃごちゃと悩む自分が馬鹿らしくなるな」
「フール様?」

 見上げると、まつげが長くて最高の造形の漆黒の瞳と美しい端正すぎる唇が弧を描いていた。
 まるでそれは、何一つ光がない漆黒の夜に浮かぶ青白い三日月。
 神秘的すぎて美しすぎて、見つめ続けずにはいられない。

 カツカツとフール様はレイラ様に近づいて、乗り上げて離れないフィーをどける。
 そして、しゃがみ込んでレイラ様をお姫様みたいに抱き上げた。

「きゃ……!?」
『ふぉんっ!!』

 かつての飼い主とのふれ合いを邪魔されて怒ったらしいフィーが、フール様のふくらはぎに噛みついた。

「……こら。今は魔法が簡単に使えない生身の人間なんだから、噛みつくな。痛いだろう」
『ふぉんっ!』
「それよりも私を降ろしなさい! 無礼よ!!」
「……嫌だ」
「え……!?」

 大事な宝物のようにレイラ様を抱きかかえ、フール様はそのまま部屋の中のソファーに座った。
 ジタバタしているレイラ様は、けれどその腕の中から抜け出せないようだ。

「フィー!」
『ふぉんっ!!』

 尻尾をブンブン振りながら走り寄ってきて、私に鼻先をこすりつけたフィーの頭を撫でる。

「少しだけ二人だけにしてあげよう?」
『ふぉん』

 フィーと一緒に序列十二位の部屋から退室する。
 後ろからレイラ様の怒った声が聞こえてきたけれど、フール様が彼女に危害を加えることはないだろう。

(たぶん……。今のうちにレイラ様に頼まれた物をとってこよう)

 私は来た道を引き返し、初代筆頭魔術師の部屋へと向かったのだった。

 ***

 フィーと一緒に部屋に入る。
 フィーは慣れた様子で部屋の奥にある紫色の炎を上げて燃え続ける暖炉の前の敷物の上で丸くなった。
 おそらく、遠い昔からその場所がフィーの定位置だったに違いない。
 炎はユラユラ揺れながら、不思議なことに薪をくべていないのに燃え続けている。

(何をエネルギーにしているのかしら?)

 通常であれば暖炉は魔法の力を使うにしても魔石か使用者の魔力を動力源にする。
 それは有限で、数百年にもわたって燃え続けるなんて出来るはずがない。

 のぞき込めば、炎の下には魔法陣が描かれていた。

(難解すぎてわからないけれど、どこか別の時間、場所から炎を移動させている?)

 燃え続ける炎を移動させて安定した暖をとることが出来るなら、使用回数が有限な魔石の枯渇に悩むことも、魔力が少ない人たちが凍えることもないに違いない。

(でも、たぶん闇の魔力で満たされたこの部屋だけで使えるのでしょうね……)

 そう思いながら暖炉から離れて机に向かう。
 ツヤツヤに磨き上げられた机の引き出しを開くと、可愛らしい赤いリボンが結ばれた小さな箱が入っていた。

(きっと、レイラ様が言っていたのはこれね)

 包装紙もそのままに空けた様子がないその箱を持って、もう一度私は序列十二位の部屋へと向かったのだった。
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