魔力ゼロ令嬢ですが元ライバル魔術師に司書として雇われただけのはずなのに、なぜか溺愛されています。

氷雨そら

文字の大きさ
64 / 68

新たな筆頭魔術師 1

しおりを挟む
 ――私たちが星空の下で結婚の約束を交してから半年の月日が経った。

 フール様とアルベルトは王立魔術院を次々と改革していった。
 二人の発明は他の追従を許さず、今や王国に流通する魔道具に二人が関係していない物などない、と言われるほどだった

 一方、私は筆頭魔術師の部屋に引きこもっていた。

「……これが、フール様の時を止めた魔法」

 フール様には時間がないという。
 その言葉が気になってしまった私は、フール様が長い年月年齢さえとることなく生き延びさせてきた魔法を調べ続けていた。

 結局のところ、その魔法は例の本に載っていた。
 宝石や金箔で飾られた美しい本。その中に書かれている内容は、予言のように難解で、魔法陣は自由気ままな線を描いて再現が難しい。

「……時を止めるには」

 フール様の体に何が起こっていたのか、それはわからない。
 けれど、この魔法を使ったせいで長い年月生きていた初代筆頭魔術師が命を失い、代わりにフール様が時を止めたことは間違いない。

「ねえ、フィーはどう思う?」
『ふぉん……』

 尻尾が垂れ下がってしまっているフィー。
 遠い過去に二人に起きた出来事をこの目にしてきたのだろう。
 それは幸せとは言いがたかったのかもしれない。

「……取り残されるって恐ろしいね」
『ふぉん!』

 もちろん、愛する人に自分よりも長く生きて欲しいというのはよくある願いなのかもしれない。
 けれど、その結果相手を長い期間孤独にしてしまうのだとしたら……。

「……この魔法は使わない方が良さそうね」
『ふぉん!』

 部屋から出ると、なぜかフール様が待っていた。

「フール様?」

 少しだけ複雑な表情を浮かべたフール様は、かなり疲れているように見えた。
 実際は魔力がないのに、魔石を使って魔術を行使するなんて普通の人には出来ない。
 ましてや、この半年、王都周辺には何度も大型の魔獣が現れてそれらを討伐し続けていたのだ。
 アルベルトの助けがあったとしても、とても大変だったと思う。

「お疲れのようですね……」
「そうだね。寄る年波には勝てないかな」
「ふふ。お若く見えるのに」
「それもこれも、時を止めてしまったからだけで、気持ち的にはもうとっくに人生三週目だからね、僕は……」

 にっこりと笑えば、今日もやはり目の前にはこの世に合ってはならないと思えるほどの美しさ。
 フール様の造形は、精霊たちの会心の作品に違いない。

「少し話せるかな?」
「ええ、もちろんです」

 今私が来ているのは、正式に支給された王立魔術院の制服だ。
 装飾や勲章の数こそ違うけれど、フール様とお揃いの制服。
 
(ずっと憧れていた……。王立魔術院の制服を着ることを)

「……君に渡しておきたい物があってね」
「何でしょうか」

 フール様が差し出してきたのは、美しい腕輪だった。
 キラキラ輝くそれには、透明の魔石が飾られている。

「これは?」
「高純度でありながら、どの魔力も含んでいない魔石」
「それって」
「手に入りにくいものだ。君自身は魔力がないから、これにため込んでおくと良い」
「……」

 そう、魔臓を失った私自身には魔力がない。
 私が闇の魔法を使えるのは、闇属性の使い魔のフィーから魔力を譲り受けているからだ。

「こんな高価な物」
「お詫びの気持ちだから……。自分の願いのために君を巻き込んだんだから、もちろん許してほしいなんて言えないけど」

 お別れみたいなその言葉に、胸がズキリと痛んだ。

「……あの」
「君にも筆頭魔術師の資格はあると思うけど?」
「それは」
「アルベルトもそのことをよくわかっているだろう」
「……」

 筆頭魔術師に興味がないと言ったら嘘になる。
 けれど、だからといってその地位に立ちたいかと言われれば……。

「研究が出来て、本が読めればそれでいいです」
「そう、君らしい答えだね。筆頭魔術師の地位に立てば、どうしても相手を追い落とさなければいけないときもあるし、純真な君には会っていないだろうから」
「……」
「そういうのは、アルベルトに任せるのが正解だと思うよ?」
「あの……」
「思ったよりも時間がないから、そろそろこの場所を去ろうと思うんだ」

 フール様は微笑んだ。
 儚い笑顔。漆黒の髪と瞳。

「……君には伝えておこうと思って」
「レイラ様には」
「うーん。案外あれで落ち込みやすいし、直情的で、ついつい無理をして僕のことを助けようとした結果命を落とすような人だから」
「……言わないで行くつもりですか?」
「君たちの同級生だったディール・フィブランシア伯爵令息。彼はとレイラ嬢は僕が現れなければ恋仲になっただろう」
「……」
「記憶を消す魔法。僕は結構得意でね」

 それは違う、と大きな声で叫びたかったけれど、それはできなかった。
 でも、私なら大好きな人の記憶を忘れるなんて絶対に嫌だと思う。
 たとえ、その記憶があるばかりに一人取り残されたように生きていくとしても。

「……でも、それは」

 そのとき、まるでバケツの水をひっくり返したようにフール様の頭上から大量の水が降ってきた。
 驚いて一歩下がる。フール様の足元は池みたいに水浸し。
 私の足元もびしょびしょになった。

「フール」
「師匠……いや、レイラ嬢?」

 レイラ様はとても怒っているようだった。
 それはそうだろう。私だってアルベルトが同じことをしようとしたら怒りを露わにするだろう。

「……あなたって最低だわ」
「……レイラ嬢」
「でも、あなたを一人取り残したかつての私も最低だわ」
「……」

 レイラ様は大きな荷物を背負っていた。
 明らかに旅支度をしている。そしてそのままフール様にすがりついた。

「連れていって……」
「は……?」
「記憶を消されて、アルベルト・ローランドが筆頭魔術師になった上に彼の心を射止められず他の女性と結婚したなら、魔術だけが取り柄の高位貴族に嫁がされてしまうわ!」
「……それは許しがたい」
「でしょう? だから、あなたと一緒に旅に出ることにしたの」
「でも、僕は……」

 レイラ様が背伸びをして、フール様の唇を奪った。
 私がいるのを忘れないで欲しいと思っているうちに、呆然としたフール様の手をレイラ様が強く引いた。

「水魔法は癒やしの力。あなたの時間は限りあるかもしれないけれど、そんなに短くもないかもしれないわ?」
「……」
「だって、私は初代筆頭魔術師。水魔法の最高峰にたどり着くのにそんなに時間はかからないはずだもの」
「はは……君という人は」
「それに、あなたもいるしね?」

 明るく笑ったレイラ様。彼女のこんな表情を見たのは、初めてだ。

「じゃ、あとはよろしくね?」

 二人は肩を寄せ合い消えていった。
 取り残された私は二人の幸せを願いながら、ふと思う。

(これから、大変なことになるのでは)

 それは事実。筆頭魔術師と序列十二位が同時に消えてしまった王立魔術院。
 魔術の中心を担う王立魔術院は、筆頭魔術師の指令を中心に機能している。
 だからもちろんしばらくの間、王立魔術院、そして王国は混乱の渦に巻き込まれるのだ。

 予想通りに、その日から大捜索が組まれたけれど、二人の行方を誰も見つけることは出来なかった。

(それはそうよね……。二人とも筆頭魔術師経験者だもの)

 二人ならきっと解決策を見つけるに違いない。
 それは小さな希望かもしれないけれど……。

 少しの寂しさと心残りを感じながら、私は事態の収束に向けて騒がしい王立魔術院始まって以来の筆頭魔術師失踪騒動に巻き込まれていくのだった。


 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

勝手にしろと言ったのに、流刑地で愛人と子供たちと幸せスローライフを送ることに、なにか問題が?

赤羽夕夜
恋愛
アエノール・リンダークネッシュは新婚一日目にして、夫のエリオット・リンダークネッシュにより、リンダークネッシュ家の領地であり、滞在人の流刑地である孤島に送られることになる。 その理由が、平民の愛人であるエディットと真実の愛に満ちた生活を送る為。アエノールは二人の体裁を守る為に嫁に迎えられた駒に過ぎなかった。 ――それから10年後。アエノールのことも忘れ、愛人との幸せな日々を過ごしていたエリオットの元に、アエノールによる離婚状と慰謝料の請求の紙が送られてくる。 王室と裁判所が正式に受理したことを示す紋章。事態を把握するために、アエノールが暮らしている流刑地に向かうと。 絶海孤島だった流刑地は、ひとつの島として栄えていた。10年以上前は、たしかになにもない島だったはずなのに、いつの間にか一つの町を形成していて領主屋敷と呼ばれる建物も建てられていた。 エリオットが尋ねると、その庭園部分では、十年前、追い出したはずのアエノールと、愛する人と一緒になる為に婚約者を晒し者にして国王の怒りを買って流刑地に送られた悪役王子――エドが幼い子を抱いて幸せに笑い合う姿が――。 ※気が向いたら物語の補填となるような短めなお話を追加していこうかなと思うので、気長にお待ちいただければ幸いです。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました

鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。 素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。 とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。 「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

処理中です...