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グレイス=ティス=ブルーローズ陛下
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「陛下。お召し物を着せてさしあげますわ。」
にこやかにほほ笑んで、ルビー王妃が陛下の部屋を訪れた。
コネクティングルームの扉を開けて入って来た彼女は、嫁いできた当時から陛下の身の回りの世話をしている。
亡くなった王弟の妃を正妃にし、自分の正妃を側妃に格下げしたことは、当時、反発もあった。
しかし、王弟の妃は和平のために結ばれた隣国の王女であり、そもそも先に婚約者と結婚していなければ、陛下の正妃になるはずだったことから、子もなさずに未亡人としてしまうよりも、政略のための婚姻をすることは、まあまあ理解を貰えた。
淡い金髪に青い眼のグレイス=ティス=ブルーローズ陛下と、オレンジに近い金髪に青い眼のルビー王妃。
今では、仲睦まじい二人には、22歳を迎えるユリウス王子がいる。
人払いをし、二人きりになって、王妃は呟いた。
「今夜の夜会には、聖国の大司教が来るそうですね。」
「あ、あぁ…。」
「この23年間、寄り付かなかった男がどういう風の吹き回しかしら。あなたとお兄様の幼馴染なんでしょう?絶対にぼろを出してはだめよ。あなたは爪が甘いんですから。自信がなかったら仮病を使いなさい。私がフォローしますわ。」
くれぐれも、この痣を人に見られてはダメ。
右腕の袖のカフスボタンを留めながら、王妃は陛下を睨んだ。
「分かっている!今更…、バレるわけにはいかん!双子の兄に毒を盛り、すり替わったなど!」
兄弟顔も身長も、色味さえ全く同じで、唯一違うのは、生まれつきの右腕の痣だった。
だから、着替えは常に王妃が手伝い、侍従には見せていないし、今更――――――。
亡き兄と兄の妃だったサンディの忘れ形見。アレックスを始末したかったがし損ねた。
タイガー前公爵は孤児院から養子にしたと言ったが、あれは絶対にあの子だ。
だが、大人になり、将来の剣聖と名を馳せ、今更どうにもできない。
せめて、社交界から遠ざけ、北の砦に行かせたが…。
そうか、社交界にはあの子も来るのか。
「全く忌々しいことだ。」
「ええ。でも、私たちは揺るぎませんわ。永遠に。」
にいっと王妃は口の端を歪める。
王女たるこの私が、第二王子の王子妃にしかなれないなど、許せなかった。
凡庸なこの男が、陛下と瓜二つの双子なのを幸いに、コンプレックスをつついて誘導させ、兄を殺してすり替わらせた。
私を王妃、正妃にあげてもらったのはいいが、この男は兄の妃に思いを寄せていたらしい。
あの女を側妃にとどめて、通い始めた。
だが、なんか違うと感じたのでしょう。
あの女は拒絶した。
しかし、あの女は懐妊。
本当の陛下の子。
しかも、男児だった。
子どもが幼いことを理由に陛下を拒絶し続けたのに、あれが3歳になり、陛下は本宮に召し上げた。
許せない。
私の地位を脅かすものを許せない。
だから、こっそりばらしてあげた。
あなたの愛した夫は、もうこの世にはいないのよ。
死んだのは、貴方の夫の方だったの。
そうしたらあの人、陛下に詰め寄るものだから、もう処分するしかないでしょう?って陛下に教えてあげて、始末したわ。
彼女を庇って侍女も飛び出して。
でも馬鹿ね、結局二人とも事切れて。
もう、後戻りはできない。
私は、悪女。
にこやかにほほ笑んで、ルビー王妃が陛下の部屋を訪れた。
コネクティングルームの扉を開けて入って来た彼女は、嫁いできた当時から陛下の身の回りの世話をしている。
亡くなった王弟の妃を正妃にし、自分の正妃を側妃に格下げしたことは、当時、反発もあった。
しかし、王弟の妃は和平のために結ばれた隣国の王女であり、そもそも先に婚約者と結婚していなければ、陛下の正妃になるはずだったことから、子もなさずに未亡人としてしまうよりも、政略のための婚姻をすることは、まあまあ理解を貰えた。
淡い金髪に青い眼のグレイス=ティス=ブルーローズ陛下と、オレンジに近い金髪に青い眼のルビー王妃。
今では、仲睦まじい二人には、22歳を迎えるユリウス王子がいる。
人払いをし、二人きりになって、王妃は呟いた。
「今夜の夜会には、聖国の大司教が来るそうですね。」
「あ、あぁ…。」
「この23年間、寄り付かなかった男がどういう風の吹き回しかしら。あなたとお兄様の幼馴染なんでしょう?絶対にぼろを出してはだめよ。あなたは爪が甘いんですから。自信がなかったら仮病を使いなさい。私がフォローしますわ。」
くれぐれも、この痣を人に見られてはダメ。
右腕の袖のカフスボタンを留めながら、王妃は陛下を睨んだ。
「分かっている!今更…、バレるわけにはいかん!双子の兄に毒を盛り、すり替わったなど!」
兄弟顔も身長も、色味さえ全く同じで、唯一違うのは、生まれつきの右腕の痣だった。
だから、着替えは常に王妃が手伝い、侍従には見せていないし、今更――――――。
亡き兄と兄の妃だったサンディの忘れ形見。アレックスを始末したかったがし損ねた。
タイガー前公爵は孤児院から養子にしたと言ったが、あれは絶対にあの子だ。
だが、大人になり、将来の剣聖と名を馳せ、今更どうにもできない。
せめて、社交界から遠ざけ、北の砦に行かせたが…。
そうか、社交界にはあの子も来るのか。
「全く忌々しいことだ。」
「ええ。でも、私たちは揺るぎませんわ。永遠に。」
にいっと王妃は口の端を歪める。
王女たるこの私が、第二王子の王子妃にしかなれないなど、許せなかった。
凡庸なこの男が、陛下と瓜二つの双子なのを幸いに、コンプレックスをつついて誘導させ、兄を殺してすり替わらせた。
私を王妃、正妃にあげてもらったのはいいが、この男は兄の妃に思いを寄せていたらしい。
あの女を側妃にとどめて、通い始めた。
だが、なんか違うと感じたのでしょう。
あの女は拒絶した。
しかし、あの女は懐妊。
本当の陛下の子。
しかも、男児だった。
子どもが幼いことを理由に陛下を拒絶し続けたのに、あれが3歳になり、陛下は本宮に召し上げた。
許せない。
私の地位を脅かすものを許せない。
だから、こっそりばらしてあげた。
あなたの愛した夫は、もうこの世にはいないのよ。
死んだのは、貴方の夫の方だったの。
そうしたらあの人、陛下に詰め寄るものだから、もう処分するしかないでしょう?って陛下に教えてあげて、始末したわ。
彼女を庇って侍女も飛び出して。
でも馬鹿ね、結局二人とも事切れて。
もう、後戻りはできない。
私は、悪女。
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