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ワイナリー=ヴェールという男
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ワイナリー=ヴェールは、ヴェール家の先代伯爵の次男である。
兄のベネツィアは成績優秀、剣の腕もよく、当時の王太子の覚えもよく、一介の伯爵令息でありながら側近候補になっていた。
優秀な兄と比べられる弟。
まだ年が離れていればよかった。
だが、二人は双子だった。
双子を産んで亡くなった母。肖像画でしか知らない母が生きていれば、また違ったのだろうか。
父は仕事が出来る男だが、口数が少なく、あまり家に帰ってこない。
見た目も、母親に似た金髪に見事なエメラルド色の瞳の甘いマスクな兄に対し、父親似のありきたりな茶色の髪、茶色の目の普通な自分。
貴族の通う学校に通えば、隣国から留学してきた公爵令嬢と仲良くなり、婚約してしまう。
ストロベリーブロンドに菫色の瞳が映える、パッチリした目元の綺麗な人。
悔しい。
悔しい。
悔しい。
父からあてがわれた自分の婚約者は、この国の子爵令嬢で、地味で普通の子だった。
地味で何もない自分に相応しい地味で普通な娘。
子爵家には男子がおらず、自分を婿として出すつもりなのだということが分かった。
嫌だ。
私だって父の子だ。
優秀な兄が隣国に行くことだってあるかもしれないじゃないか。
そうでなくても、こんな子はいやだ。
何か一つでも兄に勝ちたい。
兄の婚約者より綺麗な娘と。
ロザリア=ダンカン男爵令嬢。
男爵が最近、市井の愛人を後妻として受け入れ、その娘を男爵家の養女にしたことは有名だった。
元平民の娘。
だが、見事な銀髪と青い眼の美女だった。
男爵が銀髪なので、血のつながりはあるのだろう。
平民暮らしが長い彼女は、こんな貴族としては凡庸な自分でもほめたたえてくれる。
すぐに体の関係になり、子爵令嬢とは婚約破棄した。
しかし父の怒りを買い、廃嫡されてしまった。
だが、父は甘い。
廃嫡したものの、兄が爵位をついだ後で移り住む予定の別邸の使用人として、私たちを置いてくれたのだから。
「ねぇ、あなたはとても素晴らしい人なのに、こんな扱いを受けるなんておかしいわ。能力だって、他の貴族と比べて劣っていて?お兄様が異常に優れているだけよ。他の家なら、跡取りになれたのに。そのくらい貴方は優秀なのに、もったいないわ。」
うん、私もそう思う。
それからしばらくして、兄が結婚し、爵位を継いで、父が別邸に暮らすようになった。
年だったのか、爵位を譲って気が抜けたせいか、父はだんだん弱っていった。
「ねぇ、あなた。お父さんもあんなだし、今だったらどうにかなるんじゃない?聞けば、お姉さんのおじい様たちに跡取りがいなくて困っていらっしゃるそうじゃないの。ちょっと脅かしたら、向こうの跡取りになってくれるんじゃないかしら。人間、死ぬかもしれないって思ったら、気持ちが変わるものよ。」
「そうだな、向こうは公爵家。兄にとっても悪くない話のはずだし。」
「お兄さまが向こうの公爵になったら、伯爵家を継げるのはあなただけだもの、廃嫡は撤回されるわよ。」
脅かすだけ。
怪我をさせるだけ。
だが、兄夫婦は死んでしまった。
馬車の車輪への細工は分からないようにすぐに馬車を壊して処分した。
弱っていた父の書類を偽造し、廃嫡届を撤回させた。
そう、表向きは子爵家に婿入りしたのをで戻ってきたことになっているが、そうではない。
望んだ爵位。
だが、何か引っかかる。
でも、きっと気づいてはいけない。
恐ろしい。
思考を放棄して、今日も仕事へ行く。
領民は私に好意的。なんで、兄は鉱物採取をやめさせようとしたのだろう。どんどんやればいい。
ロザリアは上手くやっているようで、最近は隣国向けの出荷のためにネジやモーター等の材料や金型を生産し出荷しているようだ。
隣国向けで国内の仕様とは違うようだが、もうかっているからいいだろう。
兄のように陛下の側近として出仕しているわけではないが、文書の仕分けをする文官室の責任者として勤務している。
副官の青年が持ってくる書類に毎日印鑑を押すだけだが、量があるので結構しんどい。
最初は書類を確認していたが、何も問題がない書類ばかりである。
文官は能力が高いようだ。
もうすぐ長男とあの子の卒業式か。
あの子は卒業したらどこかに仕事にやろう。
成績は良くもないが悪くもなかったから仕事に困ることはないだろう。
兄のベネツィアは成績優秀、剣の腕もよく、当時の王太子の覚えもよく、一介の伯爵令息でありながら側近候補になっていた。
優秀な兄と比べられる弟。
まだ年が離れていればよかった。
だが、二人は双子だった。
双子を産んで亡くなった母。肖像画でしか知らない母が生きていれば、また違ったのだろうか。
父は仕事が出来る男だが、口数が少なく、あまり家に帰ってこない。
見た目も、母親に似た金髪に見事なエメラルド色の瞳の甘いマスクな兄に対し、父親似のありきたりな茶色の髪、茶色の目の普通な自分。
貴族の通う学校に通えば、隣国から留学してきた公爵令嬢と仲良くなり、婚約してしまう。
ストロベリーブロンドに菫色の瞳が映える、パッチリした目元の綺麗な人。
悔しい。
悔しい。
悔しい。
父からあてがわれた自分の婚約者は、この国の子爵令嬢で、地味で普通の子だった。
地味で何もない自分に相応しい地味で普通な娘。
子爵家には男子がおらず、自分を婿として出すつもりなのだということが分かった。
嫌だ。
私だって父の子だ。
優秀な兄が隣国に行くことだってあるかもしれないじゃないか。
そうでなくても、こんな子はいやだ。
何か一つでも兄に勝ちたい。
兄の婚約者より綺麗な娘と。
ロザリア=ダンカン男爵令嬢。
男爵が最近、市井の愛人を後妻として受け入れ、その娘を男爵家の養女にしたことは有名だった。
元平民の娘。
だが、見事な銀髪と青い眼の美女だった。
男爵が銀髪なので、血のつながりはあるのだろう。
平民暮らしが長い彼女は、こんな貴族としては凡庸な自分でもほめたたえてくれる。
すぐに体の関係になり、子爵令嬢とは婚約破棄した。
しかし父の怒りを買い、廃嫡されてしまった。
だが、父は甘い。
廃嫡したものの、兄が爵位をついだ後で移り住む予定の別邸の使用人として、私たちを置いてくれたのだから。
「ねぇ、あなたはとても素晴らしい人なのに、こんな扱いを受けるなんておかしいわ。能力だって、他の貴族と比べて劣っていて?お兄様が異常に優れているだけよ。他の家なら、跡取りになれたのに。そのくらい貴方は優秀なのに、もったいないわ。」
うん、私もそう思う。
それからしばらくして、兄が結婚し、爵位を継いで、父が別邸に暮らすようになった。
年だったのか、爵位を譲って気が抜けたせいか、父はだんだん弱っていった。
「ねぇ、あなた。お父さんもあんなだし、今だったらどうにかなるんじゃない?聞けば、お姉さんのおじい様たちに跡取りがいなくて困っていらっしゃるそうじゃないの。ちょっと脅かしたら、向こうの跡取りになってくれるんじゃないかしら。人間、死ぬかもしれないって思ったら、気持ちが変わるものよ。」
「そうだな、向こうは公爵家。兄にとっても悪くない話のはずだし。」
「お兄さまが向こうの公爵になったら、伯爵家を継げるのはあなただけだもの、廃嫡は撤回されるわよ。」
脅かすだけ。
怪我をさせるだけ。
だが、兄夫婦は死んでしまった。
馬車の車輪への細工は分からないようにすぐに馬車を壊して処分した。
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そう、表向きは子爵家に婿入りしたのをで戻ってきたことになっているが、そうではない。
望んだ爵位。
だが、何か引っかかる。
でも、きっと気づいてはいけない。
恐ろしい。
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