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第一章 (仮)
第七十話 戦況
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「へぇ、軍人の家柄だってほんとなんだ。慣れたもんだね。馬は僕のいうこと聞いてくれないよ」
何が何だかわからないままエリッツは馬にまたがっていた。もちろん着替えはしたが、念のためカルザム長官から借りた短刀はそのままだ。
後ろには乗馬が苦手だというアルヴィンがくっついている。エリッツの乗馬の腕というよりは馬がいいのだ。アルヴィンがいなければもっと早く走れるのに。エリッツはうらめしげにはるか前方をいくシェイルとラヴォート殿下を見ていた。せっかく再会できたのに遠すぎる。
「いろいろ言いたいことがある」
「ん? 何? 聞こえないよ」
丈の短い草の生えた草原を馬たちは全力疾走していた。左右には広大な針葉樹林の森が広がっている。どうやらかなり急いでいるらしい。シェイルとラヴォート殿下は遅れているエリッツたちを気にもとめない。代りなのかオズバル・カウラニーがしんがりをつとめエリッツたちに速度を合わせてくれている。
結局、死人が出てしまったためローズガーデンは中止となってしまった。それどころかのんびりと薔薇を見ているわけにはいかない報告がもたらされたのだ。
帝国軍が国境警備を突破し侵攻しているという。
「やはりきみのお兄さんの見解が正解だった」
シェイルは拘泥もなくそういうが、エリッツはジェルガスが書いた手紙の現物を見ているので断言できる。あの時点では本気でただの嫌がらせだった。国境付近が騒がしいという報告も今となっては疑問である。帝国軍はこの日の侵攻をレジス軍にさとられないよう殊の外慎重に準備にあたったはずだ。グランディアス総督が帝国軍にとってどれほどの人物か知らないが、彼を敵地に送りこみレジス軍の兵を分裂させるという捨て身の作戦である。おそらくアイザック・デルゴヴァをつかい北の王を討ちロイの残党という兵力を削ぐまでが本当の作戦だったのだろう。
ローズガーデンの警備がかなり手薄だったということはシェイルとラヴォート殿下は主戦場が「ここではない」と気づき国境に兵力を集中させたと思われる。シェイルの言う「仕掛け」はよくわからないが、北の王を討たれることも阻止した。ここまではレジス側は実にうまくやったのだ。
「それでも帝国とは兵の桁が違う」
オズバルからさらなる情報を得ているらしきアルヴィンは訳知り顔で言っていた。それでシェイルとラヴォート殿下は急いでいるのである。国王陛下の直属の軍をラヴォート殿下が借り受け、シェイルが指揮するという。軍は先んじて前線に向かっているが、戦況はかなり悪いらしい。
そのとき後ろのアルヴィンのお腹が鳴ったのを感じた。音は聞こえないが振動でわかる。前線までは馬で一刻はかかるだろう。もうだいぶ近いところまで来ているはずだが、しばらくゆっくり食事をとる暇などない。
「あれ、どうしたのかな」
エリッツが馬をとめると、すぐに後ろのオズバルが馬を寄せた。
「何かあったのかい」
「あれは何をしてるんでしょうか」
オズバルは目を細めてエリッツが指す前方を見る。
「伝令がいるな。何か報告があったんだろうが。うん、これはまた、久々に見る光景だな」
そして「やれやれ、この非常時に」とぶつぶつ言いながら馬を進める。オズバルに続きつつ、エリッツは「何やってるんでしょう」と、再度首をかしげた。
「見たままだよ」
「取っ組み合っているようにしか見えません」
「そのとおり」
オズバルは何でもないことのようにいうが、殿下はともかくとして、普段冷静で口数の少ないシェイルが取っ組み合いのケンカをするなんてまったく想像ができない。
「俺は知らん。俺の指示ではない」
近づくと必死で弁解をしているのはむしろラヴォート殿下の方だった。
「騙しましたね。陛下の軍を隠れ蓑にして最初からそのつもりだったのでしょう」
「断じて違う。むしろお前じゃないのか」
「わたしがこの国を裏切るような真似をするとでも?」
「お前が先に俺を疑ったんだろうが」
「疑いの質が違います」
シェイルはラヴォート殿下の首に手をかけようとし、ラヴォート殿下はそれに抵抗しようとシェイルの手首を懸命に握りしめる。伝令らしい二名の兵士は右往左往しているだけだ。
「おい、そこのデブ。ロイだな。ちょっと来い」
エリッツたちが追いついたのを認めると、ラヴォート殿下はアルヴィンに向かって暴言を吐く。
「失礼な王子様だな」
さすがのアルヴィンも「デブ」にはムッとしている。
「前線にロイがいる。ロイだけの軍だ。あれは何なんだ。そんな軍、認められないぞ」
シェイルの手を必死に押し返しながらラヴォート殿下は声をあげる。
「ああ、それならロイ保護区の町内会だと思うけど。軍じゃないよ」
『町内会?』
伝令も含めその場にいる全員の声が重なり、しばし沈黙がおりる。シェイルもさすがに手をとめてアルヴィンを見ていた。
「僕がアイザック・デルゴヴァの部屋で国境での奇襲計画を暗示するような書類を見つけたから、念のため連絡したんだよ。また住む場所を帝国に取られるかもしれないって」
あの夜アルヴィンは「お金を盗ろうと思った」とかいいながらアイザックの部屋に不審なものがないかを探っていたのか。
「聞いたか。俺の指示ではないぞ。『町内会』だ。ロイだけの軍などさすがに陛下の許可がおりるわけがない」
「ロイの軍が殿下の指示かどうかはどうでもいいんです。それをわたしに指揮しろといったのが気に入りません。術士たちの指揮は術士にしか務まりません。つまりわたしに首輪をかけるつもりだったんでしょう」
「わかった、わかった。俺が悪かった。それは町内会長に任せよう」
伝令たちが顔をあげてお互いを見る。
「申し上げます。実はそのロイの町内会? ――その統率があまりにとれていないので前線は混乱を極めています。あれは確かに軍人ではないようです。力にまかせて各々自由に動きまわるのでこちらの動きが制限され、帝国軍はすでにマルロの丘まで占拠せんばかりです」
伝令のひとりが悲鳴のような声をあげた。
「そんなところにまで侵攻しているのか。マルロの砦をとられたら後がないぞ。ジェルガス将軍は何をしている。ああ、あれにはロイの術士を従える能力はないな」
ラヴォート殿下は恨みがましい目をしてシェイルを見る。
シェイルはエリッツを見た。次の瞬間、エリッツが腰にさしていた短刀を素早く抜き取る。まばたき一回分の間もない。刃物を手にしたシェイルはそれをなぜか自身の左手の中指に当てる。背後でオズバルが大仰にため息をつくのが聞こえた。
「首輪をかけられる前に首を落すまでです」
「勘弁してくれ」
ラヴォート殿下は膝をついてうなだれ、それからハッと何かに気づいたようにオズバルを見る。
「オズバルのじいさん、お前の息子だろう。なんとかしろ」
「恐れながら殿下。そいつは私の言うことは聞きません」
オズバル・カウラニーは文字通りお手上げというように両手をあげて首をふる。
続いて殿下はエリッツの方を見る。
「おい、クソガキ。お前の師匠が指を落すぞ。とめろ」
指を。あの美しい指を。
エリッツは激しい焦燥に駆られ師にとりすがって泣き叫んでいた。
「やめて、やめて、お願い」
次から次へと涙が流れてとまらない。ついでに鼻水も出る。あの指を落すなんて神への冒涜だ。世界の損失だ。
わんわんと子供のように泣きじゃくるエリッツの声だけが広大な大地に響き渡っていた。
「エリッツ、まだ鼻血が混じっています」
シェイルはあっけにとられたようにエリッツを見ていたが、やがてやわらかな布でやさしく顔をぬぐってくれる。短刀はいつの間にか手放していると思ったら気づかないうちにエリッツの腰にある鞘に戻されていた。
エリッツはほっとして師を見あげる。
「なでてください」
シェイルはエリッツの髪を一度だけなでると、さっと背を向けて馬にまたがる。
「ロイの人々は何人ほどいますか」
唐突な問いに、伝令の兵たちはあわてて背をただす。
「百名ほどが散り散りに戦っています」
「術式は」
「すみません、専門的なことはわりませんが、炎を扱う者が多いです。風に煽られた大きな焚火のようなものがあちこちで上がるんです。それで帝国軍に加えて我が軍も陣形を乱されている状況で。陣形の穴をついて帝国の騎馬にどんどん侵攻されています」
ようやく現場の窮地を伝えられるとばかりに伝令の兵は勢い込んで説明をする。
「最も初歩的な解放炎式を人が入り乱れた戦場で? 潜在能力が高い人々なのは間違いなさそうですが、術士としての訓練を受けた軍人ではないですね。その状況ではレジス軍の術士たちも手の施しようがないでしょう。エリッツ、メモを」
突然名前を呼ばれエリッツははじかれたように顔をあげた。あわてて懐の帳面をとりだすと、左手にペンをかまえる。
「敵の歩兵、騎兵、術兵の数を」
「はい、敵歩兵はおよそ二万、騎兵が五千、術兵はいません」
「術兵がいない?」
「歩兵にまぎれて潜んでいる可能性は否定できませんが、今のところ術の発動を確認できないと報告を受けています」
シェイルはしばらく黙っていたが、急にふりかえる。
「殿下、どう思われますか」
めずらしくラヴォート殿下は虚を突かれたような顔でじっとシェイルを見る。そしておもむろに立ち上がると優雅な仕草で膝の土をはらってから口を開く。シェイルにふりまわされてうんざりしているのかと思いきやその顔には安堵の表情が濃くうかがえた。
「まぁ、侵攻で圧倒的な力を発揮する術兵を出さないということは何かをたくらんでいるんだろうな。機動力のある騎兵の動きをみれば何かわかるかもしれん。ここでは判断できん」
「では、そちらはお任せします。アルヴィン、草笛を持っていますね。ロイの人々に話を聞いてもらうにはその音が一番です」
急に話しかけられ、アルヴィンは下をむいたまま「はい」と、うなずいた。気持ちが悪い静かさだ。さすがに戦場に出るのは初めてのことで緊張しているのかもしれない。
シェイルが背を向けているのをいいことにラヴォート殿下とオズバルが「今、何が起こった? ついていけない」「あまりお気になさらないことですな」と、小声でやりとりをしているのが聞こえる。
「オズバル様、ご助力願いたいことがあります」
何が何だかわからないままエリッツは馬にまたがっていた。もちろん着替えはしたが、念のためカルザム長官から借りた短刀はそのままだ。
後ろには乗馬が苦手だというアルヴィンがくっついている。エリッツの乗馬の腕というよりは馬がいいのだ。アルヴィンがいなければもっと早く走れるのに。エリッツはうらめしげにはるか前方をいくシェイルとラヴォート殿下を見ていた。せっかく再会できたのに遠すぎる。
「いろいろ言いたいことがある」
「ん? 何? 聞こえないよ」
丈の短い草の生えた草原を馬たちは全力疾走していた。左右には広大な針葉樹林の森が広がっている。どうやらかなり急いでいるらしい。シェイルとラヴォート殿下は遅れているエリッツたちを気にもとめない。代りなのかオズバル・カウラニーがしんがりをつとめエリッツたちに速度を合わせてくれている。
結局、死人が出てしまったためローズガーデンは中止となってしまった。それどころかのんびりと薔薇を見ているわけにはいかない報告がもたらされたのだ。
帝国軍が国境警備を突破し侵攻しているという。
「やはりきみのお兄さんの見解が正解だった」
シェイルは拘泥もなくそういうが、エリッツはジェルガスが書いた手紙の現物を見ているので断言できる。あの時点では本気でただの嫌がらせだった。国境付近が騒がしいという報告も今となっては疑問である。帝国軍はこの日の侵攻をレジス軍にさとられないよう殊の外慎重に準備にあたったはずだ。グランディアス総督が帝国軍にとってどれほどの人物か知らないが、彼を敵地に送りこみレジス軍の兵を分裂させるという捨て身の作戦である。おそらくアイザック・デルゴヴァをつかい北の王を討ちロイの残党という兵力を削ぐまでが本当の作戦だったのだろう。
ローズガーデンの警備がかなり手薄だったということはシェイルとラヴォート殿下は主戦場が「ここではない」と気づき国境に兵力を集中させたと思われる。シェイルの言う「仕掛け」はよくわからないが、北の王を討たれることも阻止した。ここまではレジス側は実にうまくやったのだ。
「それでも帝国とは兵の桁が違う」
オズバルからさらなる情報を得ているらしきアルヴィンは訳知り顔で言っていた。それでシェイルとラヴォート殿下は急いでいるのである。国王陛下の直属の軍をラヴォート殿下が借り受け、シェイルが指揮するという。軍は先んじて前線に向かっているが、戦況はかなり悪いらしい。
そのとき後ろのアルヴィンのお腹が鳴ったのを感じた。音は聞こえないが振動でわかる。前線までは馬で一刻はかかるだろう。もうだいぶ近いところまで来ているはずだが、しばらくゆっくり食事をとる暇などない。
「あれ、どうしたのかな」
エリッツが馬をとめると、すぐに後ろのオズバルが馬を寄せた。
「何かあったのかい」
「あれは何をしてるんでしょうか」
オズバルは目を細めてエリッツが指す前方を見る。
「伝令がいるな。何か報告があったんだろうが。うん、これはまた、久々に見る光景だな」
そして「やれやれ、この非常時に」とぶつぶつ言いながら馬を進める。オズバルに続きつつ、エリッツは「何やってるんでしょう」と、再度首をかしげた。
「見たままだよ」
「取っ組み合っているようにしか見えません」
「そのとおり」
オズバルは何でもないことのようにいうが、殿下はともかくとして、普段冷静で口数の少ないシェイルが取っ組み合いのケンカをするなんてまったく想像ができない。
「俺は知らん。俺の指示ではない」
近づくと必死で弁解をしているのはむしろラヴォート殿下の方だった。
「騙しましたね。陛下の軍を隠れ蓑にして最初からそのつもりだったのでしょう」
「断じて違う。むしろお前じゃないのか」
「わたしがこの国を裏切るような真似をするとでも?」
「お前が先に俺を疑ったんだろうが」
「疑いの質が違います」
シェイルはラヴォート殿下の首に手をかけようとし、ラヴォート殿下はそれに抵抗しようとシェイルの手首を懸命に握りしめる。伝令らしい二名の兵士は右往左往しているだけだ。
「おい、そこのデブ。ロイだな。ちょっと来い」
エリッツたちが追いついたのを認めると、ラヴォート殿下はアルヴィンに向かって暴言を吐く。
「失礼な王子様だな」
さすがのアルヴィンも「デブ」にはムッとしている。
「前線にロイがいる。ロイだけの軍だ。あれは何なんだ。そんな軍、認められないぞ」
シェイルの手を必死に押し返しながらラヴォート殿下は声をあげる。
「ああ、それならロイ保護区の町内会だと思うけど。軍じゃないよ」
『町内会?』
伝令も含めその場にいる全員の声が重なり、しばし沈黙がおりる。シェイルもさすがに手をとめてアルヴィンを見ていた。
「僕がアイザック・デルゴヴァの部屋で国境での奇襲計画を暗示するような書類を見つけたから、念のため連絡したんだよ。また住む場所を帝国に取られるかもしれないって」
あの夜アルヴィンは「お金を盗ろうと思った」とかいいながらアイザックの部屋に不審なものがないかを探っていたのか。
「聞いたか。俺の指示ではないぞ。『町内会』だ。ロイだけの軍などさすがに陛下の許可がおりるわけがない」
「ロイの軍が殿下の指示かどうかはどうでもいいんです。それをわたしに指揮しろといったのが気に入りません。術士たちの指揮は術士にしか務まりません。つまりわたしに首輪をかけるつもりだったんでしょう」
「わかった、わかった。俺が悪かった。それは町内会長に任せよう」
伝令たちが顔をあげてお互いを見る。
「申し上げます。実はそのロイの町内会? ――その統率があまりにとれていないので前線は混乱を極めています。あれは確かに軍人ではないようです。力にまかせて各々自由に動きまわるのでこちらの動きが制限され、帝国軍はすでにマルロの丘まで占拠せんばかりです」
伝令のひとりが悲鳴のような声をあげた。
「そんなところにまで侵攻しているのか。マルロの砦をとられたら後がないぞ。ジェルガス将軍は何をしている。ああ、あれにはロイの術士を従える能力はないな」
ラヴォート殿下は恨みがましい目をしてシェイルを見る。
シェイルはエリッツを見た。次の瞬間、エリッツが腰にさしていた短刀を素早く抜き取る。まばたき一回分の間もない。刃物を手にしたシェイルはそれをなぜか自身の左手の中指に当てる。背後でオズバルが大仰にため息をつくのが聞こえた。
「首輪をかけられる前に首を落すまでです」
「勘弁してくれ」
ラヴォート殿下は膝をついてうなだれ、それからハッと何かに気づいたようにオズバルを見る。
「オズバルのじいさん、お前の息子だろう。なんとかしろ」
「恐れながら殿下。そいつは私の言うことは聞きません」
オズバル・カウラニーは文字通りお手上げというように両手をあげて首をふる。
続いて殿下はエリッツの方を見る。
「おい、クソガキ。お前の師匠が指を落すぞ。とめろ」
指を。あの美しい指を。
エリッツは激しい焦燥に駆られ師にとりすがって泣き叫んでいた。
「やめて、やめて、お願い」
次から次へと涙が流れてとまらない。ついでに鼻水も出る。あの指を落すなんて神への冒涜だ。世界の損失だ。
わんわんと子供のように泣きじゃくるエリッツの声だけが広大な大地に響き渡っていた。
「エリッツ、まだ鼻血が混じっています」
シェイルはあっけにとられたようにエリッツを見ていたが、やがてやわらかな布でやさしく顔をぬぐってくれる。短刀はいつの間にか手放していると思ったら気づかないうちにエリッツの腰にある鞘に戻されていた。
エリッツはほっとして師を見あげる。
「なでてください」
シェイルはエリッツの髪を一度だけなでると、さっと背を向けて馬にまたがる。
「ロイの人々は何人ほどいますか」
唐突な問いに、伝令の兵たちはあわてて背をただす。
「百名ほどが散り散りに戦っています」
「術式は」
「すみません、専門的なことはわりませんが、炎を扱う者が多いです。風に煽られた大きな焚火のようなものがあちこちで上がるんです。それで帝国軍に加えて我が軍も陣形を乱されている状況で。陣形の穴をついて帝国の騎馬にどんどん侵攻されています」
ようやく現場の窮地を伝えられるとばかりに伝令の兵は勢い込んで説明をする。
「最も初歩的な解放炎式を人が入り乱れた戦場で? 潜在能力が高い人々なのは間違いなさそうですが、術士としての訓練を受けた軍人ではないですね。その状況ではレジス軍の術士たちも手の施しようがないでしょう。エリッツ、メモを」
突然名前を呼ばれエリッツははじかれたように顔をあげた。あわてて懐の帳面をとりだすと、左手にペンをかまえる。
「敵の歩兵、騎兵、術兵の数を」
「はい、敵歩兵はおよそ二万、騎兵が五千、術兵はいません」
「術兵がいない?」
「歩兵にまぎれて潜んでいる可能性は否定できませんが、今のところ術の発動を確認できないと報告を受けています」
シェイルはしばらく黙っていたが、急にふりかえる。
「殿下、どう思われますか」
めずらしくラヴォート殿下は虚を突かれたような顔でじっとシェイルを見る。そしておもむろに立ち上がると優雅な仕草で膝の土をはらってから口を開く。シェイルにふりまわされてうんざりしているのかと思いきやその顔には安堵の表情が濃くうかがえた。
「まぁ、侵攻で圧倒的な力を発揮する術兵を出さないということは何かをたくらんでいるんだろうな。機動力のある騎兵の動きをみれば何かわかるかもしれん。ここでは判断できん」
「では、そちらはお任せします。アルヴィン、草笛を持っていますね。ロイの人々に話を聞いてもらうにはその音が一番です」
急に話しかけられ、アルヴィンは下をむいたまま「はい」と、うなずいた。気持ちが悪い静かさだ。さすがに戦場に出るのは初めてのことで緊張しているのかもしれない。
シェイルが背を向けているのをいいことにラヴォート殿下とオズバルが「今、何が起こった? ついていけない」「あまりお気になさらないことですな」と、小声でやりとりをしているのが聞こえる。
「オズバル様、ご助力願いたいことがあります」
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