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オカルト研究部
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(う~ん、すごい視線を感じる)
翌日の学園で朝のホームルームからずっと、神奈は当摩をじっと見ていた。
あの魔眼で見られると、色んな意味で動揺が隠しきれない。
そんな微妙な空気が流れる中、授業は淡々と進みお昼休みになった。
神奈は無言で立ち上ると、一人分にはちょっと大きいようなお弁当と思しき風呂敷包みをもって、当摩のもとへやってきた。
「わたしの記憶が正しければ、あなたはいつも購買のパンを食べていたわね?」
「えっ⁉ う、うん~まあそうだけど……」
今日もまた買いに行くところだった。
神奈がじっとこちらを見つめた。近くで見ると彼女の瞳が宝石のように揺らめいて見える。世界最高レベルの魔眼の証で魔力とかマナ、あるいはプラーナとか言われるエネルギーが満ちているからだ。まあそう見えるだけで実際に目が光っているわけじゃない。
「育ち盛りに購買のパンだけでは足りないわ……これを食べなさい」
神奈は風呂敷をほどくと中にふたつあった朱塗りの弁当箱の片方を当摩に渡した。開けてみる。
「……これ……ウナギ? だよね……」
「嫌いだった?」
「いや……むしろ大好物だけど」
だからこそわかる。
(これ、四五千はするウナギだ)
「こんな良いもの貰っちゃ悪いよ」
「遠慮しないで食べなさい、まあペットの餌付けのようなものよ。これからあなたも大変な思いをするでしょうから、貰える役得は貰っておきなさい」
「う……そ、そうなんだ」
ふと神奈のお弁当を見ると、たんぱく源は卵焼きくらいで、あとは煮物とかの野菜中心の弁当だった。
「何よ、見ててもわたしのお弁当はあげないわよ」
「う、うん……」
下を向いて鰻重を見つめながら、一口食べてみた。
(うう……メチャメチャ美味い)
そしてふと問題に気がつく。神奈が作ったお手製弁当などを、教室内で堂々と食べていてはどんな噂をされるかわからない。
顔をあげて辺りを見回す。
誰もこちらを見ていない。まるで自分たちなんて存在しないかのごとく。
「何? 噂になりたかったの?」
神奈が見透かしたように微笑みを浮かべた。
「誰も気がつかないわよ」
(うわぁ……なんだか凄い非日常)
ちょっとビビってしまう。
その後なんとなく二人無言でお弁当を食べ、当摩がぎこちなくお礼を述べると、神奈は微かに笑みを見せ。
「それじゃあ、放課後オカルト研究部の部室に来なさいね」
こんなご馳走を貰うと、断りにくかった。案外それが狙いだったのかもしれない。
※
「あはは、それで神奈ちゃんの幻術にだまされたんだ」
放課後、オカ研の部室。思ったよりは妖しくない室内で大きく口を開けて笑うのは部員の花咲梨花だ。
やや茶髪がかったショートボブの元気そうな女の子だ。制服をそれとなく着崩していて、ミニスカっぽい感じがセクシーで、肌の血色がよく結構な美人さんなんだが、とにかく親しみやすい。
部員その二のが星野京史そこそこのイケメンでどこか某有名アイドル事務所のタレントのような印象がある。髪は清潔感のあるショートへアで背丈も百八十センチ近くある。制服はきちんと校則どおりに着ている。当摩が部室へ入ってきても特に気にする様子はなく、スマホで天気予報をじっと見ている。
「しかし、神奈ちゃんはどうして俺を呼びつけたりしたんだろう」
「神奈ちゃんがオカ研に誘ったってことは、たぶん魔術の才能があるからだと思うよ」
「そ……そうなのかな? なんだか不安定な状態で危ないとか言ってたけど」
「へえ……私には普通に見えるけどね」
梨花は大きな瞳でパチパチとまばたきをしながら、当摩の顔をジロジロ見た。
「なんか変かな?」
「う、う~ん。さっぱりわからない。超平凡に見える」
「だよね。自分でもそう思う」
二人一緒にう~んと唸りながら黙り込んだところで、部室のドアが開いた。
現れたのは神奈だ。相変わらず美人で制服はビッと着こなしている。
「みんな、お待たせ。当摩も来てるわね、今日のオカ研の活動を始めるわよ」
「は~い」
さっきまで立ち話をしていた梨花が部室中央にあるソファーへ腰かける。ガラステーブルにソファーがよっつ、それぞれ一人ずつ円を囲むように座る。
「今日の活動はとりあえず当摩の歓迎会よ」
そう言いながら白い箱をテーブルに置く、中を開くと苺ショートのケーキだった。
「すわっ! 紅茶を淹れるであります」
梨花が手際よく四カップの紅茶を淹れる。甘く良い香りが鼻孔をくすぐる。
(うわ、アールグレイだ。凝ってるな)
「まずは自己紹介からよ。わたしは黒崎神奈、一応三大魔女といわれる魔術師よ。得意魔術は呪いよ」
(うわっ! こわっ! 呪われたくないな)
神奈は不敵な笑みをして、面白がるように当摩を見ている。
「は~い、次はあたし。花咲梨花です。使える魔術は一個だけコックリさんです」
「へえ、コックリさんか、それって当たるの?」
「当たるかどうかは呼んだ霊によるけどね。予言とかは無理よ」
よろしくね。といって梨花は当摩にウィンクした。
「星野京史です。得意魔術はてるてる坊主による晴天祈願と雨ごいだ」
「へえ……何気に凄そうな魔術だね。本当に天気を好きに操れるの?」
「失敗することも多い。そもそも僕は魔術をほとんど使わない。悪影響が出たとき、とんでもない事態になりかねないから」
「そっか……」
以上だと京史は言うと紅茶を一口すすった。
「えっと……浜屋当摩です。魔術とかは全然わかりません」
しばし、沈黙が訪れる。
「当摩の魔術の才能はわたしが見ても未知数よ。ただ昨日のことなんだけど、当摩にわたしの魔眼がまったく効かなかったの」
「えっ! それって何かまずい呪い返しとかですか?」
梨花が目を剥いて驚く。
「そういう感じじゃなかったわ。まるで何の手応えもなく、魔術が効かなかったの」
訝し気な神奈。
「そっ……そうだったんだ。それでその状態って危ないの?」
当摩は相変わらずビビリ気だ。
「それをこれから調査するのよ。とりあえず異世界へ行ってジョブ鑑定をするわ」
神奈の手には魔法陣が描かれた分厚い辞書のような本があった。
翌日の学園で朝のホームルームからずっと、神奈は当摩をじっと見ていた。
あの魔眼で見られると、色んな意味で動揺が隠しきれない。
そんな微妙な空気が流れる中、授業は淡々と進みお昼休みになった。
神奈は無言で立ち上ると、一人分にはちょっと大きいようなお弁当と思しき風呂敷包みをもって、当摩のもとへやってきた。
「わたしの記憶が正しければ、あなたはいつも購買のパンを食べていたわね?」
「えっ⁉ う、うん~まあそうだけど……」
今日もまた買いに行くところだった。
神奈がじっとこちらを見つめた。近くで見ると彼女の瞳が宝石のように揺らめいて見える。世界最高レベルの魔眼の証で魔力とかマナ、あるいはプラーナとか言われるエネルギーが満ちているからだ。まあそう見えるだけで実際に目が光っているわけじゃない。
「育ち盛りに購買のパンだけでは足りないわ……これを食べなさい」
神奈は風呂敷をほどくと中にふたつあった朱塗りの弁当箱の片方を当摩に渡した。開けてみる。
「……これ……ウナギ? だよね……」
「嫌いだった?」
「いや……むしろ大好物だけど」
だからこそわかる。
(これ、四五千はするウナギだ)
「こんな良いもの貰っちゃ悪いよ」
「遠慮しないで食べなさい、まあペットの餌付けのようなものよ。これからあなたも大変な思いをするでしょうから、貰える役得は貰っておきなさい」
「う……そ、そうなんだ」
ふと神奈のお弁当を見ると、たんぱく源は卵焼きくらいで、あとは煮物とかの野菜中心の弁当だった。
「何よ、見ててもわたしのお弁当はあげないわよ」
「う、うん……」
下を向いて鰻重を見つめながら、一口食べてみた。
(うう……メチャメチャ美味い)
そしてふと問題に気がつく。神奈が作ったお手製弁当などを、教室内で堂々と食べていてはどんな噂をされるかわからない。
顔をあげて辺りを見回す。
誰もこちらを見ていない。まるで自分たちなんて存在しないかのごとく。
「何? 噂になりたかったの?」
神奈が見透かしたように微笑みを浮かべた。
「誰も気がつかないわよ」
(うわぁ……なんだか凄い非日常)
ちょっとビビってしまう。
その後なんとなく二人無言でお弁当を食べ、当摩がぎこちなくお礼を述べると、神奈は微かに笑みを見せ。
「それじゃあ、放課後オカルト研究部の部室に来なさいね」
こんなご馳走を貰うと、断りにくかった。案外それが狙いだったのかもしれない。
※
「あはは、それで神奈ちゃんの幻術にだまされたんだ」
放課後、オカ研の部室。思ったよりは妖しくない室内で大きく口を開けて笑うのは部員の花咲梨花だ。
やや茶髪がかったショートボブの元気そうな女の子だ。制服をそれとなく着崩していて、ミニスカっぽい感じがセクシーで、肌の血色がよく結構な美人さんなんだが、とにかく親しみやすい。
部員その二のが星野京史そこそこのイケメンでどこか某有名アイドル事務所のタレントのような印象がある。髪は清潔感のあるショートへアで背丈も百八十センチ近くある。制服はきちんと校則どおりに着ている。当摩が部室へ入ってきても特に気にする様子はなく、スマホで天気予報をじっと見ている。
「しかし、神奈ちゃんはどうして俺を呼びつけたりしたんだろう」
「神奈ちゃんがオカ研に誘ったってことは、たぶん魔術の才能があるからだと思うよ」
「そ……そうなのかな? なんだか不安定な状態で危ないとか言ってたけど」
「へえ……私には普通に見えるけどね」
梨花は大きな瞳でパチパチとまばたきをしながら、当摩の顔をジロジロ見た。
「なんか変かな?」
「う、う~ん。さっぱりわからない。超平凡に見える」
「だよね。自分でもそう思う」
二人一緒にう~んと唸りながら黙り込んだところで、部室のドアが開いた。
現れたのは神奈だ。相変わらず美人で制服はビッと着こなしている。
「みんな、お待たせ。当摩も来てるわね、今日のオカ研の活動を始めるわよ」
「は~い」
さっきまで立ち話をしていた梨花が部室中央にあるソファーへ腰かける。ガラステーブルにソファーがよっつ、それぞれ一人ずつ円を囲むように座る。
「今日の活動はとりあえず当摩の歓迎会よ」
そう言いながら白い箱をテーブルに置く、中を開くと苺ショートのケーキだった。
「すわっ! 紅茶を淹れるであります」
梨花が手際よく四カップの紅茶を淹れる。甘く良い香りが鼻孔をくすぐる。
(うわ、アールグレイだ。凝ってるな)
「まずは自己紹介からよ。わたしは黒崎神奈、一応三大魔女といわれる魔術師よ。得意魔術は呪いよ」
(うわっ! こわっ! 呪われたくないな)
神奈は不敵な笑みをして、面白がるように当摩を見ている。
「は~い、次はあたし。花咲梨花です。使える魔術は一個だけコックリさんです」
「へえ、コックリさんか、それって当たるの?」
「当たるかどうかは呼んだ霊によるけどね。予言とかは無理よ」
よろしくね。といって梨花は当摩にウィンクした。
「星野京史です。得意魔術はてるてる坊主による晴天祈願と雨ごいだ」
「へえ……何気に凄そうな魔術だね。本当に天気を好きに操れるの?」
「失敗することも多い。そもそも僕は魔術をほとんど使わない。悪影響が出たとき、とんでもない事態になりかねないから」
「そっか……」
以上だと京史は言うと紅茶を一口すすった。
「えっと……浜屋当摩です。魔術とかは全然わかりません」
しばし、沈黙が訪れる。
「当摩の魔術の才能はわたしが見ても未知数よ。ただ昨日のことなんだけど、当摩にわたしの魔眼がまったく効かなかったの」
「えっ! それって何かまずい呪い返しとかですか?」
梨花が目を剥いて驚く。
「そういう感じじゃなかったわ。まるで何の手応えもなく、魔術が効かなかったの」
訝し気な神奈。
「そっ……そうだったんだ。それでその状態って危ないの?」
当摩は相変わらずビビリ気だ。
「それをこれから調査するのよ。とりあえず異世界へ行ってジョブ鑑定をするわ」
神奈の手には魔法陣が描かれた分厚い辞書のような本があった。
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