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あいつよりも俺の方が貴女を想っているから

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どうやらあのすけこまし…

精霊王は結局ユークと契約したらしい。

話の流れとしては王家に譲渡する流れだったのに…

どんな手を使われたのかと必死に聞き出そうとしたが教えてくれなかった。

あいつとユークだけの秘密というのが気に入らない。

ユークに譲渡するのは間違いだったか…おかしいな、あの時俺は王子の方に飛ばしたと思ったが。

「兄様、何かあったの?なんか最近の兄様変だよ?」

…必死に悟られないようにしていたのに。

ユークは人の気持ちを感じ取るのが上手い。

俺も、ユークに気があるであろうカイラーシの令嬢も、そんなユークに惚れてしまった。

でも、今この時もユークの隣にアイツがいるのではないかと気になってしまい、あまり平常心になれない。

あそこを使うか。

「……今日、父様と母様がいない時に、中庭に来て。」


何もないところに鍵を差し込む。

いや、正確には何もないように見えるところに鍵を差し込む。

そして、そこにできた穴に足を踏み入れる。

ここは俺が作った部屋。

生活に必要なものは何でも揃っている。それに時間は止まったまま。

だからどれだけここにいても時間は経たない。十年という期限付きで。

ただ、ここを創り上げるのにかなりの血と魔力を使ってしまった。だから一昨日からずっと身体が重い。

だけどここには魔力や精霊の干渉を受けない。…まずい、サーシャが来た。

「あ、兄様!」

「ここ、入ってみて。」

「え?でもここ草むら…」

そうか、ユークにはまだ穴が見えないのか。強引に言ってみるか。

「いいから」

やっとユークが中に入った。先に入っておくか。


「ようこそ。」

ここは何年か前に秘密基地と称して二人で過ごした場所。ユークは覚えているかわからないけど。

「なにこれ!?お家?」

「ああ、暮らすのに必要なものは全部揃っている。」

「すごーい!ここで暮らしてみたいな~。」

よかった。だってここはユークと俺のために作ったから。だから…

「じゃあこれ預かって。」

ここに入るための鍵を手渡す。

「…鍵?」

あとで話すとするか。

「兄様これ全部ほんむぐっ」

「秘密だ。何かあったらこれ使って。」

気付いてしまった。これは俺の宝石をつけた鍵で、七個、ものを創り出すことができる。

俺が学園に行ってからユークが入学するまでの四年間、何があるかわからない。だからその時の護身用でもある。

「兄様血使いすぎ!だからフラフラだったの?」

「…気のせい。」

ユークに心配させないように、次までは魔力と体力を上げないと。

「何か飲み物いる?お菓子あるよ。」

まずは話を逸らさないと。思惑通り、食いついた。

「いる!じゃなくて、兄様座ってて!私が準備するから!」

これは逸らせたのか…?

まあ、戸棚のお菓子を見つけて喜んでつまみ食いしてるユークを見ることができただけ良しとしよう。

…少しからかってみるか。

「新婚生活みたいだな。」

「何が?」

「今。」

この前アルカがメイドに言っていた言葉。

メイドは怒りながらもまんざらでもなさそうだった。だから部屋に無言で入ってやったけど。

人の気持ち?別にユークに直接何かしらの影響を与えるとは思えないし、別にいい。

そしてユークの答えだが、予想と全く違った。

「じゃあ兄様のお嫁さんが来るときの予行演習だねー!」

そう嬉々とした表情で告げられると、流石に俺もカチーンときた。

ここまでユークは鈍感だったのか…いや、六歳児としては普通か。

気持ちを汲み取るのが上手いからこれなら少しでも意識してくれると思ったのだが。

「ユークのばーか。」

でも腹の虫がおさまらないのでちょっと子供じみたことを言って、煽り合いを繰り返して、ひと段落着いた。


気が付くと、ソファーの上にユークと一緒に寝ていた。

正確には、ユークは俺の横に入り込んで、まだ寝ていなかったが。

「ユーク?」

「眠い…って兄様!?起きてたの?」

「今起きた…それより、なんで俺の横で寝ようとしてるの?」

だがそこに期待しても仕方がなく、そこにふかふかがあったから。という謎の理由を述べられた。

「紅茶飲む?」

体に疲れは残っているけど、もう目も冴えたし…いや、

「このまま寝る。ユークも。」

「やった~、おやすみ…」

もう少しだけ、このままでいたい。

これからしばらく会えなくなる。だから今はこのままでいたい。

俺にくっついてくれるユークを見ながら、しばらくゆったりとした時間を過ごした。


ディアン出発、3日前。
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