見捨ててくれてありがとうございます。あとはご勝手に。

有賀冬馬

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レオン様と愛を誓い合ってから、私の世界はまばゆい光に満ちていた。毎朝起きるたびに、心に温かいものが溢れてくる。もう、人目を気にして隅っこにいる必要なんてなかった。私は、レオン様の隣を堂々と歩くことができるようになったのだ。

「ティアナ様、本当に素敵ですわ!そのピンクのドレス、とてもお似合いです!」

「ありがとう、クリス。レオン様が、私には明るい色が似合うって言ってくださったの」

「レオン様は、ティアナ様のことをとても大切にしてくださいますね。見ていて、微笑ましくなります」

クリスの言葉に、私は胸を弾ませた。彼女の言う通り、レオン様はいつも私のことを気にかけてくれる。まるで、私がこの世で一番大切な存在であるかのように。

そんな私たちの幸せな日々と裏腹に、ギルベルト様とリリアーナ様の評判は、日を追うごとに地に落ちていった。

「聞いた?リリアーナ様、またとんでもない額の宝石を買い込んだんですって。ギルベルト様が、もう大変だと嘆いているらしいわ」

「それだけじゃないわ。ギルベルト様、最近は公務もおろそかにして、毎晩のようにリリアーナ様と夜会で遊び歩いているそうよ」

社交界の噂は、あっという間に広まった。リリアーナ様の際限ない浪費癖は、ギルベルト様の家計を圧迫し、侯爵家内でのギルベルト様の立場を危うくしていた。さらに、公務を疎かにしたことで、国王陛下の信任も失いかけていると囁かれていた。





私は、レオン様と二人、静かにお茶を飲んでいた。

「君は、もう彼らのことを気にしていないんだね」

レオン様が、私の手を取って微笑む。

「はい。もう、あの頃の私ではありませんから。レオン様が、私に新しい世界を見せてくださったんですもの」

「嬉しいよ、ティアナ」

彼の笑顔が、私の心を温かくしてくれる。



ある日、私たちは王宮で開かれる大きな夜会に招待された。

「今日は、僕の隣で堂々と振る舞ってほしい。君の美しさを、みんなに知らしめてやろう」

レオン様の言葉に、私は少し緊張しながらも、誇らしい気持ちになった。

私は、レオン様が選んでくれた、深い海の底のような美しいブルードレスを身につけた。胸元には、レオン様がプレゼントしてくれた、小さなサファイアのブローチが輝いている。

会場に入ると、周囲の視線が一斉に私たちに集まった。

「あれ、あの女性は……?」

「もしかして、あの陰気な子爵令嬢?」

「信じられないわ!まるで別人じゃない!」

そんな声が聞こえてくる。

私は、もう怖くなかった。レオン様が、私の手を優しく握っていてくれたから。

私たちは、たくさんの人から挨拶を受け、祝福の言葉をかけられた。そのたびに、レオン様は私を誇らしげに紹介してくれた。

「私の大切な人、ティアナです」

その言葉が、私の心を震わせる。

そんな中、私はある人物と目が合った。

ギルベルト様と、彼の隣に立つリリアーナ様だった。

ギルベルト様は、私の姿を見て、目を見開いていた。まるで信じられないものを見るかのように。

「ティアナ……なのか?」

彼は、呆然とした声で呟いた。その顔には、以前のような傲慢さはなく、焦りと困惑が浮かんでいた。

リリアーナ様は、私を睨みつけ、鼻で笑った。

「なんだか、小奇麗になったじゃない。でも、所詮は子爵令嬢。私とは住む世界が違うわ」

その言葉に、私は何も言い返さなかった。ただ、レオン様の手をぎゅっと握りしめた。

レオン様は、静かに一歩前に出て、リリアーナ様を見据えた。

「口を慎みなさい、リリアーナ嬢。ティアナの美しさは、君のような薄っぺらな女には理解できないだろう」

レオン様の冷たい声に、リリアーナ様は顔を真っ赤にして、何も言い返すことができなかった。

その夜会から、ギルベルト様とリリアーナ様の凋落は加速した。

リリアーナ様の父親である伯爵家は、彼女の浪費癖とギルベルト様の放蕩ぶりに愛想を尽かし、援助を打ち切った。

「どうするんだ、ギルベルト!このままでは、家が破産してしまうぞ!」

「うるさい!リリアーナに、もっと金を稼いでくるように言え!」

そんな口論が、ギルベルト様と彼の父親の間で交わされていると、噂で聞いた。

そして、ついにそのときが来た。

ギルベルト様が、リリアーナ様の起こした詐欺事件の責任を負わされ、侯爵家の嫡男の地位を剥奪されるという話が、社交界を駆け巡ったのだ。

「そんな……嘘だ……!」

ギルベルト様は、公務中に王宮の廊下で倒れ込んだらしい。その姿は、かつての傲慢な彼からは想像もつかないほど、見るに堪えないものだったという。

彼は、侯爵家からも見放され、完全に孤立した。

リリアーナ様は、責任をすべてギルベルト様に押し付け、自分だけは逃げようと画策していた。そんな彼女の醜い姿も、あちこちで噂になっていた。

「もう、二度と会うことはないだろうな」

私はそう思っていた。

しかし、ギルベルト様は、最後のあがきを見せた。

彼は、私に復縁を求めるために、子爵家を訪れたのだ。

「ティアナ、僕の話を聞いてくれ!」

ギルベルト様は、門の前で大声で叫んでいた。その姿は、かつての威厳など欠片もなく、みすぼらしかった。

「ティアナ様、どうなさいますか?」

メイドのクリスが、不安そうに私を見つめる。

私は、静かに首を横に振った。

「会う必要はありません。彼とは、もう何も話すことはないわ」

「ですが、ギルベルト様は、このままでは門前で騒ぎ続けるかもしれません」

クリスの言葉に、私は少し考えた。

このまま彼を放っておいても、何か厄介なことを仕掛けてくるかもしれない。それに、一度、この目で彼の惨めな姿を確かめておきたいという、小さな復讐心が芽生えていた。

「わかったわ。少しだけ、話を聞きましょう」

私は、クリスにそう告げ、門を開けさせた。

ギルベルト様は、私を見ると、縋るような目で駆け寄ってきた。

「ティアナ!会ってくれたんだな!やはり、君は僕のことを……!」

「何かご用ですか、ギルベルト様」

私は、彼の言葉を遮り、冷たく言い放った。

彼の顔が、絶望に歪む。

「お願いだ、ティアナ!僕と、もう一度やり直してくれないか!君がいれば、僕はまだ、侯爵家の地位を取り戻せるかもしれない!」

彼は、私の手を掴もうとした。

しかし、その手は、もう一人の人物によって、振り払われた。

「彼女に、軽々しく触れるな」

レオン様だった。

いつからそこにいたのだろう。彼は、いつものように冷静な表情で、ギルベルト様を睨みつけていた。

「レオン!お前まで、ティアナを騙す気か!彼女は僕の婚約者だったんだぞ!」

「それは、過去の話だ。君が、その婚約を破棄したのだろう。ティアナを傷つけて、見下したのだろう」

レオン様の言葉に、ギルベルト様は何も言い返すことができなかった。

彼は、悔しそうに唇を噛みしめ、私を睨みつけた。その目には、憎悪の炎が燃え上がっていた。

「ティアナ……お前さえいなければ……!」

ギルベルト様は、そう言って、私に向かって手を伸ばした。

その手は、まるで蛇のように、私にまとわりつこうとしていた。

私は、一歩も引かなかった。

私の隣には、レオン様がいる。もう、何も怖くない。

「私を恨むのは、筋違いですよ。あの日、私を見捨てたのは、あなた自身なのですから」

私の声は、静かで、冷たかった。

それは、あの日のギルベルト様の言葉を、そのまま彼に返したような響きだった。

ギルベルト様は、私の言葉に、さらに顔を歪ませた。彼の瞳に、かすかな涙が浮かんでいた。

しかし、その涙は、同情を誘うものではなかった。ただ、自業自得の男が流す、醜い涙に過ぎなかった。

彼は、何かを言おうと口を開いたが、その前にレオン様が静かに口を開いた。

「これ以上、彼女を苦しめるなら、容赦はしない」

レオン様の言葉は、ギルベルト様に明確な警告だった。

ギルベルト様は、悔しそうに地面を睨みつけ、よろよろと立ち上がった。

彼は、最後の最後に、私を嘲笑うように呟いた。

「せいぜい、その騎士ごっこを楽しんでいろ。どうせ、すぐに飽きられて、また捨てられるさ……」

その言葉は、私の耳には届かなかった。

なぜなら、その瞬間、レオン様が私を優しく抱きしめてくれたから。

彼の温かさが、私の心を包み込んでくれた。

私は、もう、過去のことに囚われない。
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