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そして私は彼の婚約者(仮)となる2
しおりを挟むあーあ、また始まっちゃったよ、とその光景をいつものように神妙な顔を作って眺めていると、何を感じたのか侯爵がカッと目を見開く。
「それは……っ、それは我がアヴァロン家も同じですよ、ヴォスボアール子爵殿……!
私だって、あんな不甲斐ない息子でも本当は可愛くて仕方ない。
大学内で奇人変人言われながらも、常に雑草の研究に邁進する姿は目を見張るものがある。薬学学会での評価も高い。あんな息子でも良いところがある、悪人ではないのです、……少々変わっているだけで。
そんな可愛い息子に何とかして可愛いお嫁さんをもらって欲しいと思うのは罪なことでしょうか。私は、ここでクロエ嬢に断られたとしても、あの子の幸せを見るまでは何千、何万回だってあの子を貰ってくれとお願いする所存ですぞ…!それがきっとあの子の幸せに繋がると確信していすからな…!」
「アヴァロン侯爵殿……!」
「ヴォスボアール子爵殿……!」
ハッと何かを感じたらしい父親二人が、涙ながらに見つめ合う。
それはまるで、互いの健闘を祈るような、同じ目的を志す同士だと確信したようなそんな眼差しで。
床に崩れ落ちたままの体勢で涙ながらに二人の様子を見守るマーシャと、カケラも本心を覗かせないいつもの微笑みを絶やさない侍女マリア。
そしてその真ん中で、ひとり立ち竦むわたくし、クロエ・ヴォスボアール。
余りのカオスっぷりに呆然としながらも、同時に嫌な予感がして、私はそっと身を縮こませた。
誰にもバレないように、お花を摘みに行こうかしらなんてひとりごちて。ゆっくりけれど確実に後ずさる。
誰も聞いてはくれないだろうけれど。私は、嫌だ。
何が悲しくてあんなコソ泥みたいな見た目の変人と一生一緒にいなきゃいけないんだ。人は見かけではないとは言うけれど限度ってものがある。
私は別に優しいわけじゃない。ただ揉め事や面倒ごとが嫌いだから、誰にでもよく思われようとして生きているだけ。
心の中は打算と計算でてんてこ舞いで、誰かに無償の愛で接したことも無い。
私は、あの変人を受け入れる器量も余裕も優しさも持ち合わせてない。
だって、私は本当はみんなが大好きな王子様に同じように憧れる、ただのミーハー女なのだ。
部屋の出口にあたる扉にたどり着く前に、マリアがサッと扉を開けてくれる。
お化粧直しですね、と微笑み部屋からそっと連れ出してくれた。
普段から何を考えているのかわからない彼女は、全ての感情をその変わらない微笑みの向こうに隠してしまうけれど、誰よりも私の気持ちを分かってくれる有能な侍女だ。
こくん、と頷いて足早に部屋を後にする。
「ここの廊下の突き当たりに化粧室がございます。
わたくしはここでお待ちしておりますので、ゆっくりとお直しくださいませ」
本来、化粧直しは侍女の仕事だ。けれど彼女はこの少し離れた廊下で待つ、という。
即ちそれは、私があの部屋から逃げてきたことをわかってて、ゆっくり自分一人で考える時間をくれると言うことで。
ここから化粧室の扉は見えるし、この屋敷が危険なわけでもないから、私を一人で行かせても大丈夫だという判断だろう。本当にどこまで私の気持ちを汲み取ってくれるのか。
「ありがとう」
ふ、と気の抜けるような笑みでもってマリアに礼を言うと、全て分かっているだろう彼女は、何も分かりませんという顔のままにこりと笑んだ。
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