異世界転移でアイドルから聖女に~歌声が奇跡をもたらすようです~

snow

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瑠璃彩side

……あたたかい。








冷たくなっていったはずの身体が、
ゆっくり、ゆっくり包まれている。

目を開けると、そこは空だった。
どこまでも白く、やわらかな光に満ちた場所。

「……ここ、どこ……?」

声が――出た。
驚いて喉に手を当てる。

「大丈夫。怖がらなくていい」

振り返ると、そこにひとりの男性が立っていた。
黄金色の髪、穏やかな微笑み。
なのに、視線を向けられただけで胸の奥が震える。

「私はアポローン。この世界を創った神だよ」

……神。
そう言われて、不思議と疑う気はしなかった。

「君はもう、元の世界では命を終えている」

その言葉は残酷なはずなのに、
胸の奥にすとんと落ちた。

「……やっぱり、死んだんだ」

「うん。でもね」

アポローンは少し困ったように笑って、
私の目をまっすぐ見た。

「君は、本当によく頑張った」

その一言で、
胸の奥に溜まっていたものが、音を立てて崩れた。

「誰にも愛されなくて」
「声を否定されて」
「それでも、歌うことを手放さなかった」

「それは、奇跡なんかじゃない」
「君自身の力だ、瑠璃彩」

……名前を、呼ばれた。
怒鳴られるためじゃない。
期待を押し付けられるためでもない。

ただ、呼ばれただけ。

「……私、歌えなくなったら……」
「何も、残らないって思ってました」

アポローンは首を振る。




「違う。君は“歌うために生きていた”んじゃない」
「“生きるために歌っていた”んだ




そして、静かに続けた。

「だから私は、君を迎えた」





「君を――娘にしたい」







……え?













言葉が、出なかった。
でも、逃げたいとは思わなかった。

「父として、守りたい」
「もう二度と、“捨てられる”と思わせないために」

気づいたら、泣いていた。
声を上げて、子どもみたいに。

「……お父、さん……?」

「うん」

アポローンは、やさしく笑って、私を抱きしめた。

「けれどずっとルリ(←勝手に愛称つけた)をこの空間には居させられないんだ.........」

「これから君を送る世界は《メロディオン》」
「歌と音が力を持つ世界だ
そこで聖女として歌って欲しい」

「大丈夫
もう向こうの私の教会に神託は出してあるから」



詳しく話を聞くと、
そこでは今、魔王の復活が近づき、
魔物を呼ぶスタンビートが発生し、
大地は魔障に侵され、隣国との争いが絶えないと言う。






「君の歌は、その世界を癒す」

「でも――無理に救わなくていい」

「君が歌えなくなるほど苦しむなら、意味がない」

私は、胸に手を当てた。

「……それでも」
「誰かの心が、少しでも軽くなるなら」
「歌いたいです」

歌うことしか、知らないから。
それでも――それが、私。

アポローンは満足そう優しい眼差しで頷いた。

「君には“聖歌魔法”を授けよう」
「歌えば感情と共に音符が形を変え、みんなを助ける






君だけの力だ」












光が、私の胸に溶け込んでいく。



「ルリ」




最後に、彼は父の顔で言った。





「怖くなったら、思い出しなさい」
「君は、愛されている」
「そして協会に来て祈ればいつでも私に会いに来れるからね
遠慮せずに何時でも来なさい」







世界が、光に包まれる。










落ちていく感覚の中で、
私は小さく、息を吸った。

――歌えなくなったら、終わり?

ううん、違う。

歌う限り、私は生きている。












そして私は、
異世界《メロディオン》へと転移した。
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