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第一の謎

先代の残したもの②

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 桐野に手助けをしてもらって、畳二枚ほどの大きさの分厚い蓋を少しずらしながら、
「おそらく、左衛門殿と店の方々は、何度も確認したことでしょう。でも、穴蔵の中からは何を見つからなかった。桐野さん、どうしてでしょうか?」

 桐野は少し考えてから、
「そいつは誰かが既に、取り出してしまったからか……」

 貞次郎はポンと手を打ち、
「そう、充分ありうることです」
「えっ、そうなのか」と、桐野自身が驚きの声を上げる。

「でも、その場合、探し物の在り処は、一の土蔵ではありません。手がかりが一つもないのですから、今は考えないでおきましょう」
「だったら、最初から訊くなよ」

「一の土蔵の中なのに、なぜか、あなた方が探さなかったところ。それこそが、探し物の仕舞い場所なのではないか。そのように考えてみました」

「だから、それはどこなんだよ」
「ずっと目の前にあった、と言ったはずですよ」

 左衛門の視線に気づいて、桐野はそれを見た。それは確かに、目の前にあった。

 貞次郎は深くうなずいて、
「はい、その通りです。一の土蔵の蓋しかないのです。桐野さん、手伝ってください」

 二人は両腕に力を込めて、大きく分厚い蓋をひっくり返した。

 一の土蔵の蓋が、他のそれと同じ作りで、厚さは三寸(約10cm)ほど。貞次郎は側面をなでたり指先に力を込めたりして、板の合わせ目をずらそうと試みる。

「探し物が嵩張るものでない。そう思い至った時、からくり細工しかないだろう、と考えました」

 左衛門と番頭の見守る中、貞次郎は細工の解明に取り組んだ。

 江戸時代末期には、からくり箱が存在し、寄せ木細工も完成していた。手先の器用な日本人らしい細工である。先代の幼馴染だった大工も、おそらく、優れた創作力と遊び心を持ち合わせた職人だったのだろう。

 しばらくして、貞次郎は蓋の裏側に折り畳まれていた部位を見つけた。現代でいうストッパーに似ている。それを直角に起こすと、細長い板が一枚浮き上がった。反対側の部位も起こすと、完全に板は外れた。

「おいおい、そんなからくりがあったのかよ」

 桐野も加わって同じ方法を繰り返し、五枚の板を取り去ると、そこに一尺(約30cm)四方のくぼみが現れた。
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