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9.入学試験(3)
しおりを挟む闘技場に入ってきたのはどうみても父さんだった。
「えぇぇぇ!?」
「あはは…急に呼ばれてきちゃった」
「「「えぇぇぇ!」」」
観客席に居る人を含めこの場に居る誰もがそう叫んだ。
いや、そりゃ驚くわ。
〔英雄〕がこんな所にいたら…ね。
「よし、そういうことだ」
何がそういうことだかは理解できないが避けて通る道はなさそうだ。
だが俺は実際に父さんに一度勝利しているのも事実だ。
油断させていたところもあるが。
少なくともこの場に俺以外に父さんに勝てる奴は一人として居ない。
何故こんな無茶な試験なんだ?
「あ、そうだ。予め言っておくが俺を倒さないと失格なんて事は言わないさ。俺が手合わせしている時に腕を確かめるからな。勿論、俺を倒しても合格だ!」
いやいや、無理だろ。
しかし周りの奴は皆〔英雄〕が出てきたことによって興奮気味だな。
「よし、君からだな」
あれはちゃちな火の玉を出した奴だな。
見る限り少しも敵いそうにないが、さて何処まで対抗できるか。
◇
「ぐはぁっ!」
剣でガードしたまま壁際へと吹き飛ばされてるじゃないか…。
やれやれ。
それからというもの、AからCグループで誰一人として父さんに剣を届かせた者は居なかった。
勿論、俺を除いてな。
「アレン、数日ぶりだな」
「俺もこんなに早く再会するとは思ってもなかったね」
「あの時は油断していたが…今度こそ見切る!」
一方観客席等からは「〔英雄〕の息子!?」「だろうな、だからあんな魔法を」「嘘ぉ!」等の声で溢れていた。
「ちょっとの期間でいいから隠してたのにさ」
「なんで隠す必要があるんだよ」
「騒がれたくなかったから」
「ははっ、成る程な。お前らしい…か」
「じゃあ…行くよ!」
この前みたいな魔法を使用しての戦闘は面白くないから今回は初歩的な魔法だけにしよう。
「悪いけど今回も勝たせてもらう!」
〈肉体強化〉を使用したが、今回は〈限界突破〉は使わないでおこう。
取り敢えず〈縮地〉を使用し、超速移動をしてみるがまだ足りない。
父さんに剣は届かず見事に防がれてしまった。
「ほぅ〈縮地〉を使うのか…まぁ、使えるとは思っていたが」
流石に防がれたか。
父さんは既に癖の方は直ってる様でこれといった弱点は無かった。
だが今の歳では負けているが、経験では俺の方が上だ。
「喋ってる暇ないと思うよ」
父さんも〈縮地〉を使って来るが対応して剣で受け止める。
剣を流し懐へと入り込もうとするが、流石は〔英雄〕といったところか。
寸前で横に〈縮地〉されてしまった。
だが俺がその一瞬、避けた隙を逃さない。
父さんを追いかけ横薙ぎに振るう。
「ぐぅっ!」
これもギリギリ防がれ、剣と共に弾き飛ばされるが受け身をとって〈縮地〉を発動、父さんもギリギリ弾き飛ばしたのに更に追い討ちをかけていく。
「すまないが出し惜しみする時じゃないかもな…」
これが父さんの本気なのだろうな。
何時もとは比べのもになんてならない。
あのときの俺なら不意をつかないと勝てなかっただろう。
そう思わせるほどに父さんの力は膨れ上がっている。
「ははっ、それはこっちの台詞かもね」
先程までの余裕は俺にもないな。
だがこの生徒、教師の面前ではちょっときが引ける。
「はっ!」
地面に向かって拳を殴り付け〈限界突破〉を発動、舞い上がる土煙に乗じて〈偽りの視界〉を重ねてみるが…。
「はっ!ギリギリだっ!」
早速対応してきたって訳か。
だが一応それを想定して今のはこちらとて同じだ。
「ふぅ、似たような終わり方だけどね」
「なっ!?」
今防いだ筈の剣は確かな手応えがあっただろう。
「〈現実か幻想か〉今度は一瞬だけ実体作り出せる魔法、それは偽物さ」
「これは流石に反則だ…」
丁度喋っていたその時、教官が魔法を使い土煙を吹き飛ばした。
「こ…これはどういう…」
なんかデジャブだな。
確かに息子といえどもこの年齢で〔英雄〕と呼ばれる父さんに勝ったらそうなるか。
当たり前か。
「見ての通り、合格確定だな」
その後教官から「わざとですかね」等と言われ機嫌を悪くした父さんはそのまま帰っていった。
俺の特別枠合格を確認しなかったのはほぼ確定したもんだろ、との事。
◇
一週間後、特別枠合格発表の結果。
見事に首席で合格した。
2位にはテレサが、4位にルーカスが合格してるな。
その他合計で16人が今年は合格という前年より2人多い合格者数だ。
「アレン!あんなに強いと思てなかったよ…。てか〔英雄〕グランの息子だったなんて」
「はは、隠してて悪かったな」
「まぁ気にしないで、目立つもんね」
ルーカスは良き理解者になってくれそうだ。
こんないい友達はカイル以来かもしれないな。
今日の結果発表でテレサに会うことはなかったが入れ違いだったのだろうか。
あの美しさは目の保養に………。
よし、今日は帰って寝るか。
俺の家はすっかり綺麗になっている。
毎日コツコツと直してきたお陰だな。
あの売ってくれた人に査定してもらうとアダマンタイト貨2枚だと言われるくらいに良い家に改装してやったくらいにだ。
帰ろうと家への方向へ向かったその時。
「アレン君、久しぶりですね!」
声ですら魅了されてしまいそうな人、テレサが丁度今着いたところだった。
「あぁ、久しぶり」
実は探していたなんて言えるはずもなく、僅かながら照れて答えてしまった。
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