王都のモウカハナは夜に咲く

咲村門

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疑惑の仮面が踊るパレード

#4

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 オランディには収穫期を祝うマスカレードと呼ばれるお祭があります。
 月末までの一週間は連日どこかに華麗な衣装と仮面に身に付けた人がおり、至る所で屋台や出店が設営されます。
 王都全体が華やかな色で溢れ、夏とはまた違う賑わいを見せます。

 私は去年の今頃は店の営業をしておりましたが、今年はお休みにしています。
 今年は普段親しくして下さっている皆様と、カーラ様が貸してくださった衣装を着てミケーノ様のお店の屋上に集まっています。
 港の近くにあり人通りも多い場所ですが、屋上には私達しかいません。
 港の賑わいを眼下に眺めながら簡単なパーティを開いております。

「それにしても、アンタ達よく似合ってるわね。ちょっと自信なくすわ」

 カーラ様は黒を基調とした魔法使いマーゴのような装いです。
 上半身の左側全体に施された羽の装飾と大胆に開いた胸元は、シンプルでありながら大胆な印象を持ちます。

「去年とそれほど変わってませんよ。今年の最終日はカーラから別の衣装を借りる予定ですから、そちらの方が楽しみなんですよ」

 シオ様は悪魔オルコと聞いておりましたが、スーツは白く角の生えた黒い仮面が特徴的です。
 白のスーツも一見天使アンジェロのようにも見えますが、仮面や尻尾の形状がそれではないのを表現しています。

「そうだな。オレは結局最終日も狼男リカントロポにしたけどよ、全身毛皮になるとは思わなかったな」

 ミケーノ様の狼男リカントロポは反射の強い素材の赤いスーツと黒いドレスシャツ、仮面は狼のような耳の着いたものになっています。

「マルモワの雪狼の革素材です! 白い狼の毛皮なんて珍しいですからね、すごくかっこ良かったですよ!」

 メル様は学生ストゥデンテのようですね。
 深緑と黒の学生服のようなデザインで、仮面ではなく黒ふちで装飾の施されたメガネをかけています。
 気のせいでなければ、私の学者ストゥディオーゾと同じ系統のように見えます。

「カズロはまだ来ないの?」
「ビャンコさんと二人で遅れるってよ、庁舎の集まりが先にあるんだとよ」
「仲良いですね、オランディの行政機関の方々。陛下のお人柄なんでしょうけど」
「今年は殿下はいないのよねぇ、毎年楽しみにしてたのに少し残念だわ」
「去年は本当に王子様プリンチペの格好してましたね、僕少し笑っちゃいました」
「あれな、発案誰だったんだろうな。オレも笑ったわ」

 今は皆様仮面を外しております。
 来る途中に屋台で買った料理と持参したお酒を楽しみながら会話に花を咲かせます。

「貸衣装順調みたいだな」
「えぇ! 順調すぎて大変よ、メルがいなかったら今日もここにいられなかったわ」
カツラってシオさんの伝手なんですよね、あれだけの数どうやったんですか?」
「別荘の事件がきっかけですが、そう言えばメル君には言ってませんでしたね」
「え、分かったんですか!?」
「はい。まだ謎は残ってますがね」
「あ、犯人の方を脅したんですね!」
「そんな事してませんよ、でもそれほど間違ってはいませんね」

 それからシオ様はメル様に別荘での事件の結果を説明なさいました。
 メル様は真剣な表情で聞いていますが、悪魔オルコ学生ストゥデンテに何かを教えてる様子には何か背徳感を感じます。

「すごい絵面ね……」
「去年も思ったけどよ……白って言ったらビャンコさんの印象強いけど、シオの悪魔オルコもハマってるんだよな」
「アナタの真っ赤な狼男リカントロポもすごいわよ? 元々の髪の毛も真っ赤だから、遠目から見たらすごく目立つわよそれ」
「いやお前のその胸元の空き具合のがすごいぞ、オレはそれ着れる気がしねぇよ」
「なんかねぇ、ケータ君の試着した姿見て思いついちゃって。作ったのは良いんだけど、誰も着たがらなかったのよ」

 それで魔法使いマーゴなのですね。
 確かにケータ様がこの衣装を着るにはまだお若いかもしれません。

「メルの格好、分かるかもしれないけどキーノスと対になってるのよ!」
「似てるなぁとは思ったがやっぱそうなのか」
「先週キーノスのがコレに決まった後、メルがウチの商品組み合わせて自分で用意してたのよ!」
「なんかもっと違うの想像してたんだよな。去年の忘年会みたいなのとか」
「最終日はクラウン パリアッチョよ、コレは元々のイメージはカズロなのよ」
「あぁ、それなら納得だな」
「私はこれが気に入ってますし、最終日は今のところ予定はありません」

 この話を聞いて、ミケーノ様とカーラ様が驚かれたようです。

「ん? キーノスは最終日はあの女兵士とデートなんだろ?」
「……その予定はありません」
「前オレの店でデートしてたって聞いたぞ?」
「あら、そうなの? 振ったって言ってなかった?」
「私もそう聞きましたが」

 メル様に説明を終えたのか、シオ様とメル様も会話に参加なさいます。

「だよな、オレもそう聞いてたから驚いてな」
「結局何にもなっておりませんし、お断りする機会もないままになっています」
「え、でもキーノスさんデートしてたんですよね?」
「ギュンター様も同席しておりましたので、デートと言われると違うと思います」

 おそらくあの日の事を仰ってるのかと思います。

「それにビャンコさんなんだろ、本当は」
「それが、どうも私で合っていたそうで……」
「どういう事なの? 私よく知らないのよね」
「僕もです!」
「私もです、『心を受け取る』の意味を教えた話から先どうなったのか聞きたいですね」

 結局何にもなっていないのですよね……
 皆様興味をお持ちのようですので、演習場に呼び出された話からミケーノ様のお店での出来事までの説明をさせていただきました。

 話を聞いた後でミケーノ様とシオ様は笑い、カーラ様とメル様は複雑な表情をなさっています。

「は、背筋……! そりゃ確かにビャンコさんじゃねぇな」
「ギュンター君も大変ですね、背筋は……ちょっと予想外でした」
「天使なのに羽が生えてなかったから、って意味でしょ?」
「いやまぁそうだけどよ、顔! とか性格! じゃなくて背筋だぞ? 笑うだろこんなの」
「うーん、でも結局キーノスさんお断りもしてないんですね」
「はい。お互いに謝罪をしあった後解散しましたので、何にもなっておりません」

 そうなのです。
 ミケーノ様が言うには恋人としてのお付き合いを申し込まれたとの事ですが、そちらに関してギュンター様もゾフィ様も特に何も仰いませんでした。

「なんか聞いてると、そのゾフィって女兵士言って満足したって印象だな」
「そうねぇ、普通気になるわよね相手のキモチ」
「キーノスはどう思ってるんですか?」
「素敵な方だと思います」
「じゃあ、お付き合いするんですか!?」
「それは難しいでしょう。来週にはマルモワにお帰りになりますし」

 留学が終わること以外でも、彼女とお付き合いをするのには問題になる事が多すぎます。

「まぁ、そうかもな。何にしてもキーノス、彼女は出来なかったかもしれねぇけど、告白された経験はできたな!」
「そうかもしれません。皆様はすごいと思いました、私は言葉に詰まってしまいました」
「みんなそうよ? いきなり予想外の人に『好きです』なんて言われたら、急には反応できないわよ」
「いや、お前ら知らないだろ。最初の最初は言われてる意味分かってなくて無視して帰ってんだぞ?」
「青ざめてましたよね、意味を理解した時」
「……キーノスさん、無視は酷いと思います」
「……後で謝罪しました」
「まだまだポンコツから脱するのは難しそうね」

 正直無理な気がします。

「それにしても、留学も終わりですね。殿下は留学と言いながら仕事をなさっているようですが」
「そうねぇ、すごい成果だとは思うけど留学? って思うわよね」
「そういや『より違う文化を学ぶ』って名目だよな確か。なんでマルモワの関税率が下がる話に繋がんだ?」
「カズロが来たら聞いてみますか」

 会話が盛り上がっており、楽しい時間を過ごしておりますが、不幸の使者……いえ一羽のカラスが私の肩に止まりました。

「え、カラス? なんで?」

 ……見つかったようです。
 急ぎ席を立ち移動した方が良さそうです。

「少し離席します」
「え~、すぐ行くから待ってて欲しいけどねぇ」
「うわ、カラスが喋った!!」
「来ないでいただきたいのですが」
「キー坊見たら帰るよ」
「キー坊?」

 その時屋上の片隅に光を帯びた陣が浮かび上がり、長身の黄色いスーツを着た男性が現れました。
 そしてそのままツカツカと私の元へ歩いてきます。
 急です、事前に連絡も出来たはずです。

「わぁ、地味だねぇ。でもレウロ君のセンスのお陰でオシャレだねぇ、なかなか」
「キーノス、この方はどなたですか?」
「あれ、いきなり来た事には驚かないんだねぇ」

 ニヤリと笑い、テーブルを見回します。

「なるほどねぇ、じゃ楽しんで」

 それだけ言うと店の階段を使ってこの場を去りました。

「何なんだ……あれ、カーラの兄貴の友達だろ?」
「すごく目立つ人ですね」

 嵐のように去った師匠も気にはなりますが、唖然としてる皆様に聞きたいことがあります。

「あの……彼の発言を繰り返す訳ではありませんが、驚かないのですか?」
「いや、なんか喋るカラスって事は例のお前の……あ! え、もしかしてそうなのか!?」
「例の手品師の本物です」
「彼が、あのマーゴ・フィオリトゥーラなんですか?」
「は、ハァ!? ちょ、ちょっとキーノスどういう事!?」

 現れた段階でもっと驚いて欲しいものですが……
 とりあえず彼に関しての説明を皆様にした方が良さそうです。
 まさか集まりの最中に現れるとは考えておりませんでした。
 一番驚いたのは私かもしれません。
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