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第十六話 過去 宝石箱

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使用人を呼びつけて話を聞いてみた。

やはり、マリアの宝石箱は親の形見だった。

これは幾らなんでもやり過ぎだと思った。

本当にマリアとロゼは持ち物に差があり過ぎる。

マリアは多くの物を母親から引き継いでいる。

その為、他の貴族の令嬢より遙かに物持ちだ。

だが、それは逆に言えば、幼くして母親を亡くしたという不幸があればこそだ。

私が生きている以上、私の持ち物はロゼにいく事は無い。

ただでさえ貧乏子爵の家出身の私は物が少ないのだからロゼが物を持っていないのは当たり前だ。


私は確かにマリアから物を取り上げたのかも知れない。

それは反省するしかないわ。

だけど、誰かが本当に大切な物は奪ってわいけない。

多分、マリアが持ち物の中で一番大切な物は...さっきロゼが奪った宝石箱だ。

本当は取り返して返すのが正しい。

だが...もう話がついてしまった。

マリアは書面にまでして、その権利を手放した、ロゼを説得して返しても受け取ってくれないと思う。


私は結局、怒らなければならないロゼに味方しマリアに悪い事をした。

自分が腹を痛めて産んだロゼ...可愛いに決まっている。

だが、マリアだって私の子供だ。

先妻の子で可愛く無いけど、私の子だ。

「マリア、貴方は義理とはいえ私の娘でロゼの姉でしょう? 少しは慈悲の気持ちは無いのですか?」

言ってしまった...マリアにこれを言った私がこのままで良い訳が無いわ。


『義理』とはいえ母親なのだから...


私は、シューベルト子爵が娘に綺麗な宝石箱をプレゼントした事を聞いた事がある。

今の私はマリアの言う通り伯爵夫人だ。

自由になるお金も沢山ある。

だけど...お金だけじゃ償いにはならないわね...仕方ないわ。


私は自分の机の上のオルゴールに手を伸ばした。

これは私の宝物だけど仕方ないわね。

貧乏子爵だった父が無理して私に買ってくれた宝物...これを手放す事で償いとさせて貰おう。


そして使用人に頼み、王都に向った。



【1ヵ月後】


「奥様、約束の物が完成しました、奥様のオルゴールから取り出した部品を使い、宝石箱を開けると音を奏でるようにしました」

確かに音楽は奏でる。

だけど、駄目だわ...王都で1番と言う割には、ロゼがマリアから取り上げた物より数段劣るわ。

「あの...もう少し細工を旨く出来ないかしら? 『幸運の女神の笑顔』に劣らない様な物が欲しいのよ」

「それは、今では誰も作れないでしょう...最早、その技術は消失しまして現存しません、作者は不明ですが似た様な物は世界に5つも存在しないし、1つは王立美術館にある位ですよ」

マリアが国宝、家宝って言ったのが今なら解る気がします。

仕方ないわね...



「マリア...今良いかしら?」

「どうしたのですかお義母さま...」

あんな事があった後ですから、私やロゼの顔なんて見るのも嫌でしょうね...


「マリア、貴方、あんなみすぼらしい宝石箱なんて使わないで頂戴」

「お義母さま、私、他には持ってなくて、それにあれで充分です」

私は本当に教育を間違えたわ...

「それでは私が困るのよ、ほら宝石箱を用意したからこれを使いなさい」

《えーと、なにこれ?》


「お義母さま、この宝石箱はいったい...」

「煩いわね、私が悪かったわ...だから王都に行って作らせたのよ、まぁそんなにいい物じゃないわ」

国宝級の物とは比べ物にならないわね...仕方ないじゃない。


「お義母さま、貴重なオルゴールがついています」

「それは、私がお母さまから貰ったオルゴールを使って貰ったのよ...貴方のと迄はいかないけどね」


「それじゃ...これはお義母さまが大切なオルゴールを部品にして作って下さったんですか」


「そうよ、貧乏子爵の娘なりの宝物だったんだけどね...気にくわないなら使わなくてよいわ」

「いえ、お義母さま、私このオルゴール大切に使わせて頂きます」

本当に馬鹿な子ね...国宝級の宝石箱を取り上げられて、こんな物で喜ぶなんて。

だけど...この子こんな笑顔もするのね。



※4話と14話の辻褄合わせで書きました、多少むりやり感がありますがお許し下さい。















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