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第46話 本物の聖女

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俺は目がおかしくなったのか?

冒険者ギルドの端で無料治療をしているマリアが居た。

見た感じ、凄く手際よくヒールを掛けている。

「ふ~これで大丈夫よ! これからは余り無茶はしない事ね。あら、リヒトもどこか体の調子が悪いの? もしそうなら並んでちゃんと看てあげるから」

お礼を言って冒険者は立ち去っていった。

「あはははっ、俺は……大丈夫の……ことですよ」

思わず、変な答え方してしまった。

しかし、カイトだけじゃなく、マリアも変わったのか?

「そう、なら良かったわ……ゴメン忙しいのよ! はい次の方……」

そう言いながら俺に微笑むマリアは、本物の聖女のように見えた。

勇者パーティって言うのは凄いな。

こんな僅かな時間で此処まで変わるのか……

マリアの前には行列が出来ている。

聖女というのは別にしてもヒーラーが無料で治療をしてくれるのだ、みんな並ぶに決まっている。

この国にはお金が無くて治療を受けられない人間が沢山いる。

駆け出しの冒険者。

スラムを含む貧民街の人間。

街や村を歩けば幾らでも貧しき者が居て、病んでいようが怪我をしていても治療はおろか、その日の食事に困る者も多い。

勇者は世界を救う為に魔王や魔族と戦う。

聖女も一緒に戦うが、聖女にはそれ以外にも救世の仕事もある。

そして今のマリアは……その救世の仕事の一環として無償で治療をしているようだ。

たった数日で此処まで変わるのか…….

邪魔をしてはいけないので、声を掛けずに冒険者ギルドを後にしようとしたが……

「待って、あと三人で午前中の治療が終わるから、予定が無いなら待っててもらえないかな?」

予定は無い。

いや、予定が仮にあったとしても『聖女』の仕事をしているマリアが待てというなら、話は別だ。

待つべきだな。

「解った。すぐそこでお茶でも飲みながら待っているから、終わったら声を掛けてくれ」

「ええっ」

俺は近くのテーブルに座り、マリアが治療をし続ける姿を眺め続けた。

◆◆◆

「待たせたわね」

そういって俺のテーブルの前に座ったマリアの顔には隈が出来ていた。

「いや、大して待ってないよ。それで何か相談があるのかな?」

「あると言えばあるし、無いと言えばないかな」

どう言う事だろう?

なんだか、顔が少し赤くマリアらしくない気がする。

「どうかしたのか?」

「いえ……そのね……取り敢えず謝るわ。ゴメンなさい」

マリアが謝るなんて、俺に一体何をしたんだ。

「また、何かしたの?」

ヤバいな、教会や王国にまた相談しなくちゃならないのか……胃が痛い。

「違うわ! あのね……あの時リヒトが言った事が凄く心に響いたのよ……」

「俺なにか言ったかな?」

「ええっ、ほら……カイトに言っていたじゃない? 『勇者の旅は救世の旅。人々を救う旅でもあるんだ。その旅の中でオークやオーガ等に襲われている村や町を救う。助けてあげれば『勇者様ありがとう』となる。その反面、今みたいにサボっていると、村や町が滅んで『なんで勇者様来てくれなかったの』と生き残った人に一生恨まれる。そのうち、歩くだけで石をぶつけられるようになる事すらある』という言葉とそれが嫌なら『死ぬ程努力する。それだけだ』って」

「それなら、確かにカイトに言った記憶がある」

「そうね……あの時はあの言葉はカイトに言っているんで自分じゃない。そう思っていたのよ。だけど、此処に来る時にね……オークに襲われている家族にあったのよ。勿論オークは倒したわ。でもね、怪我人、まぁお父さんね『聖女様助けて』『お父さんを助けて』そう言われたけど……私、助けられなかったの、まだヒール位しか使えないから、目の前で死んでいく命を救えなかったの……その結果、家族から父親を奪ってしまったわ」

沈むのは解る。

だが、もしマリアが最初から真摯に頑張っていても救えなかった筈だ。

恐らく、最初から真面目に頑張ってもハイヒールはきっとまだ覚えてない。

「それは仕方ないよ……もし、最初から死ぬ気で頑張っていてもハイヒールは」

「解っているわ。だけど、私達が頑張っていれば、恐らくあの辺りのオークは駆逐できていたかも知れない。 治療すら要らなかった可能性もあるわ……それより、何より、リヒトの言う『死ぬ程努力』それをしていない私は言い訳しちゃいけないわ」

「だが、勇者や聖女だからって全てを救える訳じゃない」

「ええっ、でも出来なくても、それを目指すのが聖女なのよ」

「そうだな……」

「だから、死ぬ気の努力はまだ解らない。だけど出来る事からやり始める事にしたのよ」

「頑張れよ」


「そろそろ、午後の治療に入るわ……それじゃ」

「ああっ」

まだヒールしか出来ない。

だが、今のマリアは本物の聖女に俺には見えた。


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