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不幸の中の幸せ、幸せの中の不幸

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次の日から、僕の使用人としての人生が始まった。

朝はいきなり5時に起こされた。

「セロ、お前は一番の新米なのだから、誰よりも早く起きなくてはいけないのだ、まだ何も出来ないのだろう、今日の所は水汲みをしなさい!」

「解りました」

自分で自覚しなければいけないんだ...僕はもう使用人なんだから..

慣れない手つきで僕は桶を持った。

まだ子供の僕にはとても重く感じた...

「セロは本当にグズなんだから...まぁ子供だから仕方ないか..水は半分にして回数増やして運んだ方が楽だよ」

「ありがとうございます」

「まぁ頑張りなセロ」

この家は本当に徹底している、もう僕をこの家の子供として扱う人はいない。


それから1年が経ち6歳になった。

学園に入るのは10歳だからあと4年ある。

流石に1年経つと家での仕事には慣れてきた。


スジャーナはあれから人が変わったように冷たくなった。

酷い時には僕にムチを入れる事もある。

何回かムチで叩かれた時にもう母親と思う事は無くなっていた。

お父様はまだ少しは愛情があるのか基本的には無視だが、たまにお菓子をくれる。

「これは親子の情では無い..子供の使用人には先代も普通に菓子をあげてた..それだけだ」

そういうお父様の顔は、昔のお父様に見えた。

そんなある日の事...スジャーナは妊娠をした。

これには、お父様をはじめ、他の使用人も全部喜んだ。

僕は...気持ちは複雑だ。

《あの中年ババア、あの年で妊娠したのか..良くあんな香水臭い糞ババアとやれるな》

誰だろう、スジャーナの悪口を言ったのは...だけど、周りには誰も居ない。

「可笑しいな...空耳かな」

その日から、スジャーナは僕に対してムチを振るう事は無くなった。

愛情が...そんなことは無い、完全に僕に興味が無い...それだけだ。

それと同時にアベルも僕に対して興味がなくなったのだろう、子供扱いする事が無くなった。

もう、心の中でもお父様と呼ぶことは無いだろう..

無関心は僕にとっては前に比べて幸せだったのかも知れない。

スジャーナにムチを打たれて痛い思いをする事も無いし、アベルにたまに優しくされて妙な気分になる事もなくなった。

だが、この頃から僕は夢を見るようになった。

《妊婦って簡単に死んじゃうんだよね..殺すなら今だよ》
《流産したらあのババアとジジイ悲しむよね..楽しくない?》

僕の頭の中で誰かが話しかけてくる。

そして、夢の中で僕は両親を楽しそうに殺していた。

弟を楽しそうにいたぶっていた。

あと少しで殺してしまう、大体がその時に目を覚ます。

《僕はそんな人間じゃない》

心で否定する...だが、死んでしまえば良いのに..そう思う自分も何処かにいるのかも知れない。

それから、また3年の月日が過ぎた。

僕は9歳になり後1年後には学園に入る。

もうここまでくると、しっかりと使用人の仕事が板についてきた。

最近はルドルにも褒められる事がある。

「セロは良く頑張っているな9歳とは思えない...執事を目指してみたらどうだ? 来年から学園に行くのだろう?将来仕えたい主を探してみても良いかもな」

メイドの人達も良く話してくれるようになった。

「セロもどうにか使えるようになったわね...これなら普通に屋敷仕えが出来ると思うわ」

最初の頃冷たかったのは、僕が貴族として生きれないならと平民ならでは生き方を教えてくれる為だった。

そう思うと彼らは凄く優しい人だったのかも知れない。

《お人よしが..人間に良い奴なんて居ない》

また何処からか男の声が聞こえてきた。

学園入学まで後1年、僕の仕事は少し減らして貰えていた。

それは学園で学ぶ基礎を勉強する為。

魔法も剣術も僕には誰も教えてくれない。

ただ、この館で書斎に入る事は許されているので勝手に本を読んで勝手に学んでいた。

魔法を使うのも本格的な討伐も学園で最初から教えてくれるので、今は何もすることは本来は無い。

だが、殆どの貴族が家庭教師を雇い勉強してから入学してくるから..落ちこぼれたく無いなら、学んでおいた方が良いだろう...特に僕は落第=働くなのだから。

仕事が終わって部屋に帰った。

だが、その日は僕の部屋に弟(血縁上)のヘンドリックがいた。

そして、その足元には折れた杖と刃こぼれを起こした剣があった。

僕がその生涯で親に初めて、そして最後に貰った物。

そう思ったら僕は叫んでいた。

「何をするんだ!」

「出来損ないのセロには杖も剣も要らないだろう..だから壊してたんだよ」

咄嗟に僕はヘンドリックを突き飛ばしていた。

「うわーん」

ヘンドリックが泣きだした。

そして駆けつけてきた、スジャーナがファイヤーボールの魔法を使った。

それの直撃を受け僕は意識を失った。

《だから殺しとけばよかったんだ》

そんな声がした気がした。






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