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24>> お父様への反抗
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下げていた頭を上げて見た父の顔は、やけに優しい眼差しをしていました。
「ロンナ。可哀想な私の娘よ。
そんな思い詰める事はない。
お前のような無能で無価値で、一人では何もできない欠陥品が、この家を出て行ってどうやって生きられるというのだ。そんな不可能な妄想を考えるのは止めなさい。
お前だって娼婦になったり行きずりの男に犯されて無惨に殺されたくはないだろう?
泥水を啜ってゴミを食べ、寝ているところをネズミや虫に齧られたくはないだろう?
家を勘当されるということはそういう事なんだよ。
そんな目に我が子を合わせる親が居る訳がないじゃないか。
安心しなさい、ロンナ。
お前はそんなに悲観する事などないんだ。
お前にはまだまだ利用価値がある。
だから、お前はこの家に居ていいんだよ」
優しく我が子を愛おしむ父親の顔で、目の前の男からは悪夢のような言葉が紡がれます。
その言葉が本当に『労りの言葉』だと信じているのだと、その声音からも分かってしまい……虫酸が……走りました…………
眼差しだけは立派に愛情を滲ませる目の前の男は、寛大な自分の言葉に満足しているのか少しだけ口角を上げた表情でわたくしを見ながら、またワインをグラスに注いで口に運びました。
『利用価値があるから、この家に居ていい』
そんな言葉に感動すると、本気で思っているのでしょうか?
わたくしは自分の体の血が少し温度を上げたのを感じました。腹の中が沸き立つような息苦しさを感じます……それでも、平静なフリをしてお父様を見つめました。
「……、っ!?」
お父様が慌てます。
わたくしは何も言わずにただ、
お父様が飲んでいるワインを操って、
お父様の口と鼻をワインで覆いました。
「……?! ……?!?!」
何が起こったのか分からないお父様が、自分の口と鼻を覆い空気を遮断するワインを取り払おうと両手を動かします。
だけどワインは液体なのでお父様の指には掴めません。ただもがくだけしかできないお父様をわたくしはジッと無感情に見つめました。
お父様のお顔が真っ赤になった頃にわたくしはワインを操る魔法を解きました。
お父様の口と鼻を覆っていたワインは重力に従って下に流れてお父様の服を赤く染めます。
「っ……、はっ、はあっ……っ!?
ゴホッ……! ……?!
な、何だ今のはっ?!」
ゴホゴホと息をしながら慌てふためき、そしてわたくしと目が合ったお父様は困惑した表情で、それでもわたくしを睨んできました。
そんなお父様に首を傾げて答えます。
「どうされたのですか?」
とぼけてみせるわたくしにお父様は怒りの表情でわたくしを更に睨みました。
「い、今のはっ!?
お前が何か、したのかっ!?!」
「何か、した……ですか?
お父様。
……わたくしに、『何ができる』と言うのですか?」
「っ、……そ…………っ!?」
わたくしの問にお父様は苦虫を噛み潰したような顔をして言葉に詰まりました。
今まで散々わたくしの事を出来損ないで欠陥品で無能だと言ってきたのです。『何もできない』わたくしを散々罵ってきておいて、今更『何をした?』は、なんだか滑稽な言葉ですね。
とぼけるわたくしをただお父様は憎しみの篭った目で睨みつけ、歯をギリギリと噛み締めています。
「い、いつからだ……」
「はい……?」
「いつからそんな力が使えるようになったっ!?」
「そんな……とは?」
「とぼけるな!! 今やった事だ!!
ここ最近アレックスやキャリビナやララーシュの体に起こっていた問題もお前がやっていた事なのか!?
ま、まさか、カッシム君の病気もお前の仕業か!?
お前は何を考えているんだ!?!」
ダンッ、と机を叩いて騒ぐお父様に、わたくしは困った様に首を捻って答えます。
「お父様が何を言われているのか分かりませんわ……」
「えぇい! とぼけるのは止めろ!!
自分がやったかやってないか、お前が自分で分かるだろう!!」
「そんな……
無能なわたくしに、一体何ができると言うのですか?」
「っ!!」
言葉に詰まったお父様は我慢できなかったのか、ガタンッと音を立てて椅子を倒し、両手で強く机を叩いて立ち上がりました。その振動でワインボトルが倒れて机の下に落ち中身を床に零します。
そんな事をされても、今のわたくしには恐怖心は湧きませんでした。
あんなに怖かったお父様が。
大きな声を出されただけで心が凍ってしまうんじゃないかと思う程に恐れていたお父様に。
いつ叩かれるかと怯えていたお父様に対して。
今のわたくしにはただ呆れた感情しか湧きませんでした。
「お父様……
わたくしはお父様が何を言っているのかが分かりませんわ。
わたくしに、何ができると言うのでしょうか?」
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下げていた頭を上げて見た父の顔は、やけに優しい眼差しをしていました。
「ロンナ。可哀想な私の娘よ。
そんな思い詰める事はない。
お前のような無能で無価値で、一人では何もできない欠陥品が、この家を出て行ってどうやって生きられるというのだ。そんな不可能な妄想を考えるのは止めなさい。
お前だって娼婦になったり行きずりの男に犯されて無惨に殺されたくはないだろう?
泥水を啜ってゴミを食べ、寝ているところをネズミや虫に齧られたくはないだろう?
家を勘当されるということはそういう事なんだよ。
そんな目に我が子を合わせる親が居る訳がないじゃないか。
安心しなさい、ロンナ。
お前はそんなに悲観する事などないんだ。
お前にはまだまだ利用価値がある。
だから、お前はこの家に居ていいんだよ」
優しく我が子を愛おしむ父親の顔で、目の前の男からは悪夢のような言葉が紡がれます。
その言葉が本当に『労りの言葉』だと信じているのだと、その声音からも分かってしまい……虫酸が……走りました…………
眼差しだけは立派に愛情を滲ませる目の前の男は、寛大な自分の言葉に満足しているのか少しだけ口角を上げた表情でわたくしを見ながら、またワインをグラスに注いで口に運びました。
『利用価値があるから、この家に居ていい』
そんな言葉に感動すると、本気で思っているのでしょうか?
わたくしは自分の体の血が少し温度を上げたのを感じました。腹の中が沸き立つような息苦しさを感じます……それでも、平静なフリをしてお父様を見つめました。
「……、っ!?」
お父様が慌てます。
わたくしは何も言わずにただ、
お父様が飲んでいるワインを操って、
お父様の口と鼻をワインで覆いました。
「……?! ……?!?!」
何が起こったのか分からないお父様が、自分の口と鼻を覆い空気を遮断するワインを取り払おうと両手を動かします。
だけどワインは液体なのでお父様の指には掴めません。ただもがくだけしかできないお父様をわたくしはジッと無感情に見つめました。
お父様のお顔が真っ赤になった頃にわたくしはワインを操る魔法を解きました。
お父様の口と鼻を覆っていたワインは重力に従って下に流れてお父様の服を赤く染めます。
「っ……、はっ、はあっ……っ!?
ゴホッ……! ……?!
な、何だ今のはっ?!」
ゴホゴホと息をしながら慌てふためき、そしてわたくしと目が合ったお父様は困惑した表情で、それでもわたくしを睨んできました。
そんなお父様に首を傾げて答えます。
「どうされたのですか?」
とぼけてみせるわたくしにお父様は怒りの表情でわたくしを更に睨みました。
「い、今のはっ!?
お前が何か、したのかっ!?!」
「何か、した……ですか?
お父様。
……わたくしに、『何ができる』と言うのですか?」
「っ、……そ…………っ!?」
わたくしの問にお父様は苦虫を噛み潰したような顔をして言葉に詰まりました。
今まで散々わたくしの事を出来損ないで欠陥品で無能だと言ってきたのです。『何もできない』わたくしを散々罵ってきておいて、今更『何をした?』は、なんだか滑稽な言葉ですね。
とぼけるわたくしをただお父様は憎しみの篭った目で睨みつけ、歯をギリギリと噛み締めています。
「い、いつからだ……」
「はい……?」
「いつからそんな力が使えるようになったっ!?」
「そんな……とは?」
「とぼけるな!! 今やった事だ!!
ここ最近アレックスやキャリビナやララーシュの体に起こっていた問題もお前がやっていた事なのか!?
ま、まさか、カッシム君の病気もお前の仕業か!?
お前は何を考えているんだ!?!」
ダンッ、と机を叩いて騒ぐお父様に、わたくしは困った様に首を捻って答えます。
「お父様が何を言われているのか分かりませんわ……」
「えぇい! とぼけるのは止めろ!!
自分がやったかやってないか、お前が自分で分かるだろう!!」
「そんな……
無能なわたくしに、一体何ができると言うのですか?」
「っ!!」
言葉に詰まったお父様は我慢できなかったのか、ガタンッと音を立てて椅子を倒し、両手で強く机を叩いて立ち上がりました。その振動でワインボトルが倒れて机の下に落ち中身を床に零します。
そんな事をされても、今のわたくしには恐怖心は湧きませんでした。
あんなに怖かったお父様が。
大きな声を出されただけで心が凍ってしまうんじゃないかと思う程に恐れていたお父様に。
いつ叩かれるかと怯えていたお父様に対して。
今のわたくしにはただ呆れた感情しか湧きませんでした。
「お父様……
わたくしはお父様が何を言っているのかが分かりませんわ。
わたくしに、何ができると言うのでしょうか?」
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