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17>> シャルルの終わり (ざまぁ)
しおりを挟む18歳のシャルルはこの国では成人と扱われる。
その為彼女は罰として娼館に入れられた。
高級娼館。
その殆どが元貴族の女性で、教え込まれた淑女のマナーで男性たちを持て成し、本物の貴族の女性では身に着けないような露出の高いドレスを着て男たちを楽しませる。そんな特別な場所。
金があるだけの平民にはその店の扉は開かれない。特別な伝がないと女性たちの顔さえも見ることができない。そんな、選ばれた者の場所が、この国の高級娼館だった。
そんな店の奥深くで、
シャルルは手足を切り落とされて水瓶の中に浸されていた。
『理不尽な暴力』
それがビャクロー侯爵家の面々に望まれた罰だった。
心を育むことも知らずに育ったエーの立場を理解させる為に、ありきたりな罰などでは許されないと思われたのだ。
拒絶することさえも許されない。
そういう目にシャルルも遭わされる。
娼館行きだと言われた時、シャルルは内心少しだけホッとした。鉱山などの強制労働など絶対に嫌だった。市井に落とされるのも貧民の餌食にされそうで嫌だった。監獄行きだって何をされるか分からないから嫌だった。
でも娼館や娼婦についてはシャルルにも少しの知識があった。『体を綺麗にして、綺麗なドレスを着て、男性を持て成すお仕事』『男性にチヤホヤされて、愛されるお仕事』『美しい女であれば一番にもなれるお仕事』『身請けされれば貴族の愛人にもなれるお仕事』
シャルルは友人から聞かされた娼婦の情報を思い出して安堵した。
──直ぐに身請けされてみせるわ!!──
そんなことを考えてシャルルは娼館へと入った。
しかしそんなシャルルの希望は直ぐに幻想だったのだと思い知らされる。
娼館に入った直後はまだシャルルは浮かれていた。風呂に入れられ、体を貴族の時と同じ様にメイドたちが磨いてくれたからだ。貴族牢にいた時は自分で体を洗わなければいけなかった。人生で一度も自分一人だけでお風呂に入ったことがなかったシャルルは上手く体や髪が洗えずに少しずつ薄汚れていった。その汚れを久し振りに全て洗い流せたのだ。スッキリしたシャルルは久し振りに感じる安堵感に幸せを感じていた。
しかし地獄はその直ぐ後に始まった。
体を綺麗にされたシャルルは風呂上がりに出された水を飲んで意識を失った。
そして気が付いた時には既に水瓶の中に体が浸っていた。
その時点ではまだシャルルは自分の体の異変に気付けなかった。
そもそも意識が朦朧としていたのだ。
「あ……れ? ……あ…………、な、に………れ?」
目が回る。舌が縺れる。体の感覚がない。
「な……、に…………??」
不思議に思っている内にまた意識が飛んだ。
シャルルが次に意識が戻った時には、やはりまだ水瓶の中だった。抜け出そうと体を動かすも、手と足の感覚がない。腕を動かしている感覚があるけど何かがおかしい。足……太ももの辺りは動かせるのにその下の部分が動いていない気がする。
でもそれも水瓶に入れられている所為だからだろうと思った。
「あ……、ふぁ………????」
口に違和感を感じて舌先で口の中を探ったら前歯がなかった。
鏡を見れないので分からないが上と下の前側の歯が無くなっていることに気付いた。頬側の歯はあった。
ナゼだろう? と、シャルルは回らない頭で思った。
ガチャリ。
扉が開く音が聞こえてきてシャルルはそちらを見た。
母の歳と同じくらいに見える女性が四角いウッドプレートを手に持って部屋に入ってきた。
「あら? 起きたのね」
そう言ってシャルルに近付いてきた。
「だ……、へぇえ…………?」
シャルルは女の顔をちゃんと見ようと顔を上げるが視界がボンヤリとしていてよく分からなかった。
「貴女の今の持ち主よ」
サラリと言われた言葉にシャルルの頭にクエッションマークが浮かぶが、次の瞬間首がズキリと痛み、それと同時に体に感じたことのない痺れが駆け抜けた。
「っ?! あぁあっッ?!?!」
自分の口から初めて出るような艶を帯びた声が出て、更にシャルルを混乱させる。
だが直ぐにシャルルの頭は霞が掛かり、シャルルは涎を垂らしながら虚ろな目で沈黙した。
「痛くないでしょ? そういう液体に浸けてるの。
痛みも苦しみも全部“快楽”に変えてくれるわ。
今刺した薬は体の中から綺麗になる薬よ。貴女の穴という穴は全て綺麗な物しか出ないようにするの」
部屋に入ってきた女はシャルルが聞いていないと分かっていて説明する。『ちゃんと最初に説明した』という形を示す為だけに。
「3日間は絶食ね。水は飲ませて上げる。
その後は貴女専用の食事を食べてもらうわ。今後貴女の食事はそれよ。ちょっと特殊だけど毒じゃないから安心して。
そうねぇ……貴女の面倒を見る子が居るわねぇ……どうしようかしら…………」
部屋に入ってきた女は……この娼館の主人であるマリエルは、独り言を言いながらシャルルから離れ、そして部屋からも出て行った。
残されたシャルルは時折小さく体をビクリと揺らしながら、水瓶の中で眠りについた。
◇
シャルルが次に目を覚ました時、
目の前にエーが居た。
「…………?」
「あ! 起きた?」
混乱するシャルルを気にすることなく目の前のエー……、シャルルが妹だと思った少女はニカリと笑う。
何度か瞬きをしたシャルルは、まだ霞む目でちゃんと少女を見た。
エーだと思った少女は、エーとは似ても似つかない外見の、それでもボロボロな見た目をしている小さな女の子だった。
「あたしロカってゆーの! あなたのお世話をまかされたわ! ヨロシクね!」
ニヒヒっと歯を見せて笑ったロカと名乗った少女は、まだぼうっとしているシャルルに構わず、シャルルの髪を櫛で丁寧に梳かしだした。
「きれーにしましょ~ね~♪」
ロカは人形遊びをするかのようにシャルルの髪を梳かす。水瓶の中のシャルルは戸惑いながらもそれを受け入れるしかなかった。
シャルルの頭は常に靄がかかったようにはっきりとはしなかったが、それでも徐々にシャルルにも自分の状況が分かってきた。
切り落とされた手足。
媚薬効果などがある液体に常に浸され、口にできるものは水と謎のゼリー状の物だけ。
前側の歯は全て抜かれ、時々喉の奥まで届く棒を口の中に押し込まれた。
舌を上手く使いなさい、と言われた意味は未だに理解できない。ただ、気持ち悪い、吐きそう、そんな感覚さえも体は何故か快楽だと認識してシャルルを絶頂へと導いた。頭では苦しい痛いツラい嫌だと思うのに、体は気持ちが良いとシャルルの意識とは真逆に常にビクビクと快楽を感じている。その差にシャルルの“心”がついていけない。いっそ殺して、とシャルルが願い出すのにそんなに時間は掛からなかった。
そんなシャルルに小さなロカが笑いかける。
ロカはシャルルのお世話係を任されていた。最初の頃はシャルルの排泄物で汚れて細かく水の入れ替えが行われていた水瓶も、シャルルの体質が変わってくると水の入れ替えも必要なくなり、シャルルの周りからはロカだけが残った。
ロカはシャルルに水を与え、食事を口に運び、シャルルの水瓶から出ている部分──顔や髪──を綺麗にした。
シャルルは殆ど喋れなかったが、ロカは気にせず色々喋った。ロカのそれは元々独り言だったのだが、話す相手を見つけたことで、聞いてもらえる楽しみに変わったのだ。
ロカは自分が知ってる話をシャルルに聞かせた。
「ここはね、おーきなショーカンなんだよ。おエライさんがたくさんくるの。
でもそれを外で言っちゃダメなの。オクサンに怒られるから!」
「おねー様たちはみんなキレーだから、あたしも大きくなったらおねー様たちみたいになりたいの! でもお母さんはダメってゆーのよ! ヒドイわよね!」
「ミーおねー様が泣いてたの……どこか痛いのかなぁ……」
「奥様はね! とおいヨソの国からきたのよ! いらない家族はこっちからすてちゃいなさい! が奥様のクチグセなのよ!」
「今日はおねー様からめずらしいオカシをもらったの! すごく甘かった!! シャルルにも食べさせてあげたかったな!」
「おそとは今日ねぇ──」
シャルルが返事をしなくてもロカはずっと楽しそうに喋っていた。
娼婦たちのことをお姉様と呼ぶロカは、聞かなくてもこの娼館の下働きだと分かる。母親がきっとここの娼婦なのだろうとシャルルは思った。
『娼婦が娼館で生んだ少女』
なんて惨めな生まれの子だろうとシャルルは思った。そしてそんな子供が自分に親しげに話しかけてくることが腹立たしかった。
しかし最初はそんな風に煩いと思っていたシャルルも、段々とロカのお喋りを聞くのが好きになってきた。シャルルにはそれしか穏やかな時間がないからだ。
ロカが居ない間はシャルルは主人マリエルが連れて来る男たちの手によってテーブルの上に乗せられ、女性器以外の性器となる場所を“客が喜ぶように”改良された。シャルル自身には何をされているのか分からなかったが、その時間は常にシャルルの体は快楽からくる絶頂でまともな思考などできなくなっていた。
苦しい時間を“苦しい”とすら思えない絶望の時間の中で、唯一シャルルに訪れる安らぎの時間がロカが居る時だった。
ロカは、幼い口で、少し呂律が回らない言葉で、可愛らしい声で言葉を紡ぎ、シャルルの黒く淀んでいく心に綺麗な空気を送ってくれた。耳を防げないシャルルはただロカから与えられる音を受け入れる。
ロカのお喋りを聞いている時間だけが、シャルルの落ち着ける時間となった。
シャルルがロカを見ると嬉しく思うようになった頃。
ロカが言った。
「シャルルってあの聖女様のお姉さんなのね!」
無邪気に聞かれた言葉にシャルルの心は凍りついた。
知られたくなかった! 嫌われる! 今この子に嫌われたらどうなるの?!
そんな心配が瞬時に頭に駆け巡ったシャルルに気づくことなくロカは少しだか上気した頬を上げてシャルルに笑いかけた。
「あたしも生まれてきちゃいけなかった子だから、きっとあの聖女様と友達になれると思う!!」
無邪気に笑って言われた言葉にシャルルはただ両目を大きく開けて驚くことしかできなかった。
『生まれてきてはいけなかった子』
それは母が妹に対してずっと言ってきた言葉。
その言葉があったからシャルルもサマンサも妹を愛さなかった。
妹が生まれてこなければ自分たち家族はずっと幸せでいられた。
妹なんかが生まれてきた所為でシャルルは今こんな目にあっている。
妹なんかが生まれてきたから家族が不幸になった。
エーが生まれたから家族が不幸になった。
エーが悪いのだから叱らなければいけない。
エーの存在が“害”なのだからそれを排除することは“正義”だ。
悪者が悪いから駄目なのだ。
悪者が全ての原因だ。
“あんな子が生まれてこなければ……!”
憎しみを込めて考えていた言葉が、ロカの笑顔に重なる。
今シャルルを救ってくれている存在が、憎しみの対象と同じ言葉を言われている。
シャルルは驚愕した。
だがロカは変わらず笑っている。
「生まれちゃいけなかったからね! ここにいることも変なの! そんざい? しちゃいけないんだって、あたし!! だからね! あたしのことを誰かにしられちゃダメなのよ!
だからシー! シーよ! シャルルにだから教えてあげたのよ! 誰にも言っちゃダメだからね!」
お姉さんぶってそう言ったロカは無邪気に笑う。シーッと言いながら口元に立てた人差し指を当てて喋ってはいけないとシャルルに教える。酷い言葉を言っているのにロカはその言葉の意味を知らないかのように思えた。
『生まれてきてはいけない』
『存在してはいけない』
シャルルが妹に思ってきたことをロカが誰かに言われている。何も分かっていないロカに向って直接言葉を投げかけている。
──なんて酷いことを!?!──
そう思った瞬間、シャルルの頭に妹の姿が思い浮かんだ。
存在そのものが“害”だった妹。
そんな妹と目の前のロカが“同じ”……
“同じ”扱いを受ける存在……
ただでさえまともに動かないシャルルの頭が更に混乱する。ぐるぐると脳内に代わる代わる現れるエーの顔とロカの顔が入り交じる。まともに働かない思考回路がシャルルを更に混乱させる。
気を失うように眠ったシャルルは夢を見る。
「あぁウザったい!」
ドカッ、と蹴った足元に小さな少女が蹲る。
そんな少女の背中をシャルルは力いっぱいに踏んだ。
「あんたの所為でお母様が泣いてるのよ!! あんたは何で生まれてきたのよ?! あんたの所為でわたくしたち家族はバラパラになっちゃったんだから!!
あんたの所為よ!!」
何度も何度も小さな少女の背中を踏んだ。
まだシャルルも“少女”と呼ばれる年齢で、その足は小さく力も弱かったが、それでも、更に小さな少女には恐ろしい凶器だった。
「なんで生きてるのよ、あんた!
死んでよ! さっさと死んでよ!
死になさいよ!! さっさと死ね!!!」
そう叫んだシャルルに蹲る少女は蹲ったままの姿勢で謝罪した。
「もうしわけありません。
もうしわけありません。
もうしわけありません。シャルルさま」
そう言って顔を上げた少女は、ロカだった。
「っ!?! ……ぃきゃあぁアア?!?!」
悲鳴を上げてシャルルは目を覚ました。
真っ暗な部屋で体は水瓶に浸っている。
シャルルは何故自分がこんなところに居るのかと混乱した。家は? ドレスは? 足は??
少ししてシャルルは今が現実なのだと理解した。
ハァハァと息が上がっている。
痛みを感じないはずの心臓が痛い。
苦しみなんて感じなくなった筈の体が苦しい。
無意識に頭の中では『違う違う違う違うの違う違う違う』と繰り返していた。
何が違うのかもシャルルには分からなかったが、心は『違う』と叫んでいた。
「……あ……、ぁ…………
…………ろ、……カ………………」
ロカの笑顔を思い出そうとして、エーの感情の欠落した無表情な顔が浮かんだ。
「……っ、ちが……っ! ちがぁぁ…………っ」
気付けばシャルルの目からは大粒の涙が流れていた。
心が痛い。
自分のしてきたことを、自分の大切な者が『同じ様にされているかもしれない』と思うと、心が引き裂かれるかのような気持ちになった。悲しみ、憤り……自分でも分からない感情が湧き上がる。
だがそれは、『シャルルがしてきたことと同じ』なのだ。
自分は良いけど他人は駄目なのか。
侯爵令嬢だったから、は理由にはならない。何故なら妹はシャルルと同じ身分だったのだから。そんなことを言い出せば、ならロカを虐げているのが親ならば良い、ということになる。でもシャルルは例えそれがロカの親でも許せないと本能で思っていた。だから覚えた怒りがそのままシャルルに返ってくる。過去のシャルルの行動に。
エーはいいの。エーは特別なの。エーは違うの。
どれだけそう考えても『だからその自分の妹の立場が、誰かにとってのロカなのだ』と決して知能が低い訳では無いシャルルの冷静な部分が考える。『誰かにとってロカが“特別”で“邪魔”なら……シャルルのしたことと同じことをしても、許されるでしょう?』、と……
違う。違う。何が違う?
違うロカは違う。エーとは違う。違う。エーは違う。
ロカは違う。エーとは違う。
違う違う違う。
何が違う?
何が違う????????
ただでさえ薬や快楽でまともな思考ができないのに、更にこんがらがった頭ではシャルルはまともな考えなどできなかった。
「あ……、ぁ…………」
涎を垂らして虚空を見つめるシャルルの目からは涙が流れる。その涙に意味はない。脳の許容範囲を越えたことで起こる自然現象だったが、それでも、流れた涙がシャルルの気持ちを落ち着かせていく。
気付かなかった、知ろうともしなかったことに。
自分が『何をしたか』を、シャルルはここに来て初めて分かった気がした。
「ろ……カ………………」
時間が経てばロカがこの部屋に来てくれる。あの無邪気な笑顔を自分に向けて、あの可愛らしい声で色んな話をしてくれる……
──貴女は違うわロカ。貴女は純粋なわたくしの天使……
貴女は違うわ…………──
シャルルがそう自分に言い聞かせ、自分の心を落ち着けたその時。
後ろに人の気配がした。
『そう。次はあの子なのね』
「え?」
驚いて振り返ったシャルルの前に見窄らしく汚い妹が居た。
驚き目を見開くシャルルにエーが恨みが籠もった目を向ける。
『あの子も虐めるの? 貴女に優しくしてくれたあの子も蹴るの? 貴女に少しの安らぎをくれたあの子の髪も引っ張るの? 貴女に笑顔をくれるあの子の頬も叩くの? 罵るの?
だって貴女の楽しみは、小さい子を痛めつけること、だものね?』
ニヤリと口の両端をゆっくりと持ち上げて、妹は大きな口で笑った。その気持ちの悪い笑顔にシャルルの体は恐怖で震える。
逃げたいのに足が動いてくれなくてその場から動けなかった。
そんなシャルルにエーが寄り添い、顔を近付けてくる。
首だけが伸びてシャルルの顔にエーの顔が目の前に見えた。
目玉のある場所に暗闇が広がっている。
口の中が真っ赤に揺れる。
三日月型に弧を描く口がシャルルを呼ぶ。
『お姉様』
『お姉様。次はロカを痛めつけるのね』
『小さい子が怯える姿が好きなのよね』
『自分に逆らわない存在を蹴り飛ばすのが楽しいのだものね』
『小さい体で苦しんでる姿が好みなのよね』
『次はロカね』
エーの言葉がシャルルの頭の中に木霊する。
自分の記憶の中の妹の姿がロカに代わる。
小さなロカを、無邪気なロカを、あの優しい優しいロカを、
高笑いしながら蹴り続けるシャルル。
血を吐いて、それでも床に頭を付けて謝罪の言葉を喋り続けるロカ。
その小さく可愛いロカの小さな手のひらを靴の踵で踏み潰すシャルル。
「きゃああああああ!!!」
ロカの悲鳴を聞いた。
でも本当に悲鳴を上げているのはシャルルだった。
「乱用すると悪夢を見るって本当なのね」
悲鳴を上げて水瓶の中で身体を暴れさせるシャルルを眺めてながら、シャルルの持ち主であるマリエルは感心したかのようにそう零した。
けれど別に、シャルルに使っている薬の量を減らす気はない。
シャルルの妹である新しい聖女は、『悪夢』の意味も言葉さえも知らないのではないかと思えるような育ち方をしたらしい。『夢』というもの自体を知らない可能性が高い。それにシャルルもしっかり加担していると聞いた。だからむしろ。これさえも“罰”なのだ。
水瓶の中から頭だけ出しているシャルルが顔を苦痛に歪ませている。
体への苦痛なら全て快楽へと変わるが、精神的苦痛はそのまま苦痛としてシャルルを苦しめる。
「…………可哀想に。
貴女の親が別の人だったら、貴女はもっと人の痛みを理解できたのかしら…………」
マリエルはシャルルの呻き声を聞きながら小さた溜め息を吐いた。
◇
シャルルは娼館の中に特別に用意された部屋の中で天井から吊るされて展示されていた。
貴族の令嬢の時と同じ様に美しく着飾られ、丁寧に化粧をされて豪華なドレスを身に着けている。
シャルルを天井に吊るしているのは鎖だったが、それも宝石などで装飾されて花などで彩られていた。
シャルルは二の腕の半分から下、太腿の半分から下が切り落とされている。その切断部分と、腰、肩と首に、天井から伸びた鎖が繋がっている。そして大きく開かされた股の部分のドレスは腰までの切込みが入っており、簡単に捲れてシャルルの何も履いていない股間が見れるようになっていた。
シャルルを吊るす高さは調節でき、男性が来ればその男性の股間の高さにシャルルは調節される。
シャルルを囲んでお酒を飲めるように作られた部屋は、観賞用兼玩具のシャルルを見ながらお酒とおしゃべりができる場所になっていた。
「さぁ今宵、皆様にお披露目するのはこの麗しき令嬢!
シャルル・ビャクロー元侯爵令嬢に御座います!!
実の妹である聖女様を、聖女様が保護されるまで虐げ続けた悪女!
我らの聖女様を虐待した悪人に正義の鉄槌を直に振り下ろせるのは、ここ! 当店だけに御座いますよ!!
さぁ紳士の方々!! この悪女に正義の鉄槌を打ち込みたくはないですか?!
最初の勇者はこの女に、初めての女の幸せを教えてやることができますよ!!」
「おいおい処女かよ?!」
店員の言葉に客から野次が飛んだ。その言葉に笑いが起こる。
「当然で御座います! この女はこんな姿になってもまだ初心で御座いますよ!
まぁ、それ以外はベテランですけどね!」
そう言って店員はパシんッとシャルルのお尻を叩いた。
「っあ……!」
叩かれたシャルルは甘い声を上げる。それにまた周りから笑い声が上がる。
シャルルは宝石が付いた目隠しをされていて何も見えていない。声だけで周りにたくさん人が居ることを知る。
たくさんの人が自分を見ている。
それを怖いと怯える心と、これから始まる行為に期待する心が反発する。
嫌だ逃げたいマダなの早く止めて嫌よ怖い早く怖い触って直ぐ早く嫌よシテ嫌なの早く。
シャルルの心情など誰にも気付かれることなく周りは楽しく盛り上がる。
「では俺が最初の一太刀を入れよう」
そう言って中年の男性貴族が立ち上がった。そのことに他の客は更に盛り上がる。
客たちはシャルルの顔側に居る。その後ろに回って男が準備するが、シャルルの身に着けている豪華なドレスで男性の下半身は客たちからは見えなくなっていた。
その状態で準備をした男性がシャルルと身体を近付ける。距離が無くなるシャルルと男性、それに呼応するようにシャルルの表情が変化した。
「……っ、あ、あぁアあっ!!」
シャルルが舌を出して嬌声を上げれば客たちは歓声を上げてシャルルの純潔卒業を祝福した。
シャルルにはそれが侮辱だと分かっていて。
そうしてシャルルは次々と男を受け入れた。
天井から吊るされた女を犯すのは男たちも初めてで、それに他人に自分の性行為を見せている異常性も相まって、シャルルを一度犯した男性も時間を置いてまた次もと行為を繰り返した。
貴族の令嬢として、人生で一人の男性しか経験しない筈だったシャルルは、初めての性行為をした日に何人もの男性と交わった。
これがこれからずっと続くのだ。
快楽に飲み込まれたシャルルは今はただ無様に喘いで身体をくねらせるだけだが、水瓶の中に戻される度に打ちひしがれるだろう。自分の身に起きている地獄に。
そしてロカに会って自分がしてきたことがどんな行為だったかを思い起こされる。
いっそ狂いたい。いっそ殺して。
シャルルにはそれを願うことしか残ってはいなかった。
◇
「思った以上にお客様が喜んでくれましたね」
店員が主人のマリエルに話しかける。
「シャルルは有名人だからね。貴族で知らない人はいないから相当稼げると思うわ」
「でもどれくらい持ちますかね?」
「そんな大して持ちはしないわよ。精々持って3年ね」
「その後はどうするんです? 処分?」
「王太子様から最上級ポーションを数本渡されてるから、コレか下火になったら手足を戻して普通の娼婦にするわよ」
「え? 戻すんですか?」
「あんた、“幼子を虐待した十代”にどれだけ重罪かます気よ?」
「ここまでやった人に言われたくないですよ」
「それは仕方ないのよ。幼子が聖女だったんだから。
普通より厳しくなるのは仕方がないけど、……さすがにこれ以上はいいでしょ。ていうか、この後に“生きて償う”方がキッツいわよぉ~?」
「あぁ……戻るのは欠損部分だけですもんね……
あの体で普通の生活するのはキッツいでしょうねぇ……」
「乳首が服に擦れるだけで絶頂でしょうね」
「うわぁ……」
「まぁシャルルも散々自分も他者に好き勝手やったんだから、それがそのまま自分に返ってきたって考えれば、自業自得よね」
「自分に返ってくる時は倍増する、ってのが世の常だとしても怖いですよね~」
そう言って店員はブルリと体を震わせた。
マリエルはそんな店員を横目で見て肩を揺らした。
……──余談だが、ロカが言われた『生まれてきてはいけない』『存在してはいけない』という言葉にはちゃんと理由がある。
それはロカが他国の王族の血を引いているからだ。
ロカの母親は他国の第一王子の専属侍女の子供だった。その為、幼い頃から第一王子と親しくしていたが、身分は子爵家の令嬢だった。
子爵家の令嬢と第一王子。
決して結ばれない関係だったが、二人は互いに相手に惹かれ、それぞれが誰にも知られることなく相手を好きになってしまった。
互いに胸に秘めた恋心。
第一王子に婚約者ができたことで一度は傷付いた恋心も、直ぐにまた第一王子に恋をした。
手も触れない、側に寄り添うこともないのに、冷めることのなかった恋心は……遂に暴走した。
ロカの母が18歳の時、第一王子の侍女になっていた彼女は、第一王子の飲み物に媚薬を入れて体の関係を作った。
そして、逃げた。
一夜の思い出だけを無理矢理作ってロカの母は逃げたのだ。
まさかその一回で自分が妊娠するなんて夢にも思わずに。
そして他国でロカを生んだ。ロカの母は娼館で働いてはいたが、娼婦ではない。事務全般、メイドの仕事も熟していた。娼館の主人マリエルからは絶大な信頼を得ている。
ロカの本当の名前はジャミロカ。ジャミス第一王子から取った名前だ。バレたら絶対に殺されると思ったロカの母は、そんな名前を付けておいてロカにたくさんの秘密を持たせた。
本当の名前は誰にも教えちゃいけない。父親のことも誰にも知られちゃいけない。
ロカの母は小さなロカに説明した。
「あなたは本当なら生まれちゃいけなかったの。だって王族の血は決して外には出しちゃいけないのよ。大切な血なの。だけどあなたはそれを持って生まれてしまったの。とてもとても高貴な血を。
だからそれがバレたら殺されてしまうわ。だってあなたは本来ならばここに存在してはいけない子供なのだから。第一王子の娘が他に居るとバレたらそれこそお家騒動よ。妻となった人からしたら離婚ものよ。だからロカのことは秘密にしなきゃいけないの。
ロカは特別な特別な存在なのだから。だからこっそり生きなきゃいけないの。私は生まれていませんよ~存在してませんよ~って、こっそりこっそり一般人のフリをして生きるのよ?
だってロカは、本当はお姫様なんだから。攫われちゃうわ。そんなの怖いわお母さん。
だからね。秘密よ、ロカ。
誰にも秘密なのよ、わたくしの大切な大切なお姫様」
ギュウッと抱きしめて、物語のように話してくれる母の言葉をロカはロカなりに覚えていた。
『私は秘密の国のお姫様だから、こっそりひっそり生きなきゃ! 見つかったらお母さんが怒られちゃうわ!』
『生まれてきてはいけない(だって本来ならこことは別の場所で生まれるはずだったから)』
『存在してはいけない(この場所では。だって本当なら別の場所で存在しているべき存在だから)』
ロカはとても明るく前向きな性格だった。
ロカが笑って育っている別の場所では全く笑えなくなってしまった人が居た。
ロカの実の父親の第一王子だ。
彼は既成事実ができてしまったのだからと腹を括って王位を弟たちに譲る気でいた。二人居る弟に王位を譲って、婚約者に何発か殴られる覚悟で謝り倒して、その契約不履行を理由に王家からも離籍してロカの母を娶ろうと覚悟を決めていた。
それなのにロカの母は逃げた。
やりたいことだけやって逃げた。
第一王子は『ヤリ逃げされた男』となった。泣いた。
ロカの母に操を立てた第一王子は引き止める家族たちを振り切って平民となった。もう無理やりだった。こんな横暴が許されて良いのかと弟たちは怒っていた。第一王子の婚約者はむしろラッキーと義弟と腕を組んで喜んでいた。
平民となった第一王子はその時から全力でロカの母を探している。絶対に見つけて、万が一他の男と結婚していたら第二夫として居座ってやろうと考えていた。自分に娘が生まれているなど夢にも思わずに。
ロカの母が見つかるのはもう直ぐだ。
その時、ロカの新しい物語が始まる。
(※別にロカが主人公の小説が書かれる訳ではありません)
(※ロカは父親似です。王家の色持ち。即バレ不可避)
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手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
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