うちの悪役令息が追放されたので、今日から共闘して一発逆転狙うことにしました

椿谷あずる

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83.すんなり身の引く女性ほど警戒しとけ

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「もうタネも明かされちゃったし今回はリタイアしようかしら」
「今回は、って」

 つまり次回があるらしい。
 マリアさんの意外すぎるほどあっさりとした身の引きように、私達は全員硬直した。

「だって貴方達、この先ずっとこのイベントに参加する訳じゃないんでしょう?」
「ま、まあ、そうですね」

 そもそも追放されてなきゃいけない身分だし。
 レイズ様が気まぐれを起こさなければ、今この場でこんなイベントに参加している事も無かっただろう。

「それならわざわざ今この場で悪あがきをしなくても、貴方達がいない時を狙ってもう一度参加するわ」

 なるほど。
 確かに彼女の魔法の秘密を知っているのは私達だけだ。タネを知る私達さえいなくなれば、また同じ手を使ってライバルを減らしていけるだろう。

「魔法のこと、俺達が運営に黙っているとでも?」

 ここぞとばかりにレイズ様の鋭い一言。

「そうね、そうなったら困るかもしれないわね」

 マリアさんは頬に手を当てながら首を傾げた。
 けれどその声はあまり困っているようには思えない。

「じゃあ」
「でも魔法の存在を知ったとして、私が魔法を使ったという確信を明確に得られるかしら」

 なんてことない日常会話のようにさらりと言うマリアさん。彼女は落ち着いた様子で私達の顔をみつめた。

「だって私の魔法は他人の感情を増幅させるだけなのよ。もしかしたら、魔法じゃなくて本当にその人の機嫌が悪くなっただけかもしれないのに、そこをはっきり魔法を使ったせいだと断言することが出来る?」
「それは」

 難しいかもしれない。
 今日のアクシデントだって、確かに異様ではあったけど魔法だという証拠を出せと言われたら何も出せるものはない。

「それにこれは本来その人が持った感情に依存するのよ。多かれ少なかれ、その人は場にそぐわない感情を持ってしまったということだとは思わない? そんな人が花嫁として選ばれないようになるのは運営としても喜ばしいことなんじゃないかしら」
「……」

 反論する言葉が見当たらない。
 確かにその通りだとさえ思ってしまった。これが彼女の術中というなら私は完全にそこに嵌っている。うーん、困った。

「だからって」

 うん?
 私は声の聞こえた方に顔を向けた。

「君が花嫁に選ばれても問題だと思うけどなぁ」

 そう答えたのはベルさんだった。

「ベルさん」
「確かに言っていることはごもっともだけど、だからって君が花嫁になっていいってことじゃない」

 さっきまで私に深い謝罪を述べていた様子とはうって変わって、その男はいつものようにヘラヘラと緩い笑みを浮かべながら、そうマリアさんに言葉を返したのだった。


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