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第114話
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アルフレッド。 ユウヤが使用している支援機の名称だ。
システム上は装備品扱いになるが、構成しているパーツはトルーパーと同等で実際は無人機という認識が正しい。 この装備の最大の強みは一機の出撃枠で二機分の戦力を扱えることにある。
そう考えるなら誰しもが獲得に動くのだが、このICpwのAIは学習型――要は経験を積ませる事で動きを最適化させる仕様となっている。 つまり、プレイヤーと高度な連携を取らせたいのなら相応の戦績を積ませる事が必須だ。 強くするにはとにかく手間がかかる。
プレイヤーの自機と違い、AIの装備はエネミーに近い扱いを受けるので仮に大破した場合はロスト、つまり消失を意味する。 完全に大破した場合、フレームまで消えるので新しく買い直さなければならない。
このゲームにおいてフレームは非常に高額だ。
ランカーであったなら購入自体は可能ではあるが、一戦ごとに買い直していてはいくら資金があっても足りない。 それ以下のプレイヤーであるなら言わずもがな、賄え切れる訳がないのだ。
AIの支援機を導入したいのであればしっかりと育てる根気と何度破壊されても修復する資産の二つの条件と破壊された場合のパーツロストを許容するといった高いハードルが存在する。
乗り越えるのが困難であればある程に得られるリターンは大きい。 ユウヤの相棒であるアルフレッドはAランクの戦闘であっても充分に介入できる程の成長を見せた。
キマイラタイプの派生型であるキマイラループスフレームに支援機としてユウヤの死角を補える装備。
パーツの質だけでいうのならBランク、部分的にはAランク相当の高級装備だ。 そんなアルフレッドはユウヤの近くでじっと身を潜めている。 光学迷彩とステルス素材はありとあらゆる探知を無効化し、その気配を完全に消していた。 初見であるならまず見切れない奥の手ともいえる存在だが、ユウヤと何度も戦って手の内を知っているベリアルからすれば見知った厄介な存在だ。 存在を意識するだけで奇襲を警戒しなければならないので対応する為の余力を残さなければならず思い切り攻められない。
ユウヤ当人の技量も高いのに支援機への警戒までしなければならないのは厳しかった。
プルガトリオが走りながら近くの樹を蹴って飛び反転。 ベリアルへと襲い掛かってくる。
回避前に奇襲されない、もしくはされても察知しやすい場所を選んで躱し、お返しとばかりに手の平からエネルギー弾を連射。 ユウヤは器用にハンマーを盾にして防ぎ、押し込んで来る。
「ふ、番犬を従えし、煉獄の化身よ。 この俺が影からの一撃を恐れる事になろうとはな」
アルフレッドが何処にいるか分からない。 もしかしたらこの乱戦なので既に撃破された可能性もあるが、はっきりしない以上は警戒を怠る訳には行かなかった。
ユウヤを倒す上で必要なのはまずは不確定な要素であるアルフレッドの撃破だ。
それを怠って敗北した者をベリアルは自身を含めて何人も見て来た。 戦えば二対一を強いられる。
それをズルだ、チートだと囁く者達は多かったがベリアルはそうは思わない。
幾度の大破を乗り越え、最高のパートナーへと昇華された主従の関係をそんな陳腐な言葉で括る程、彼は度量の小さな男ではなかった。 そんなユウヤを倒せたならば自分は更に上へと行ける。
ベリアルは強者を倒せば倒す程に自身は更なる高みへと行けると固く信じていた。
このゲームにレベルや経験値のシステムは存在しない。 純粋な技量のみが勝敗を分ける最も大きく重要な要素ではあるが、強者を撃破したという実績は確実に自身の糧となる。
そう信じているからこそ入りたくもないユニオンに臨時で参加し、強敵との戦いを経験できる場に自ら飛び込んだのだ。
「あぁ、そうかい。 だったらこのまま邪魔が入るまでダラダラやるのか?」
「慌てるな。 勝敗にはそれを分ける運命の分岐点が存在する。 時が来れば俺の闇か、お前達の力のどちらが勝利という栄光を掴めるかが明らかになるだろう」
「要は迂闊に攻められないから様子を見てるって事か」
ベリアルは応えないが、ユウヤはそれを見てなるほどと納得する。
この戦いは生き残れば勝ちであって無理に敵を倒す必要はない。 つまり、わざわざ手強い相手と戦うリスクを負う必要はないのだ。 その為、ユウヤは早い段階からベリアルを撒くつもりではあったのだが、この思春期特有の重い病を患ったプレイヤーから逃げ切るのは難しいと悟り始めていた。
プルガトリオとプセウドテイでは機動力に大きな差があり、この樹海という入り組んだ地形を利用しても引き離すのは難しい。 どこかで他のプレイヤーの横槍などを期待して上手に擦り付けようと目論んだが、足止めに手頃な相手もいなかった。 血の気の多いプレイヤー達が派手に潰して回っている様で未だにあちこちで戦闘の物と思われる爆発などは発生しているが、イベント開始直後に比べれば大きく減っている。
ユウヤの目的はあくまでカナタを倒す事なのでその途中で躓く事はあってはならないが――
「……やるか」
撒く方向で動いていたが、仕留めるまで諦めなさそうなのでここで始末しておいた方がよさそうと思い始めたのだ。 ベリアルが警戒している通りアルフレッドは近くに潜んで隙を窺っており、下手に突っ込んできた場合はそのまま挟撃して仕留める算段だったが流石にお互いに手の内を知っている相手なのでそう簡単には勝たせてくれない。 ベリアルがユウヤを仕留める道筋を描けているようにユウヤもベリアルに対しての勝ち筋は描けていた。
「ふ、その気になったようだな。 俺は闇にして影、影は存在の本質に根差し、何処までもそこに居る概念に近い存在だ。 逃げる事は叶わない」
「あぁ、はいはい。 取り合えずいい加減にウザイから消えてくれ」
大剣に変形させて正面から突っ込む。 途中、ギミックを展開し刃が割れ、丸鋸が唸りを上げる。
機動力に差があるのでベリアルは背にしていた樹の裏に回って回避。
大剣が樹に当たる直前にハンマーへと変形。 そのまま圧し折り、倒れる前にベリアルの方へと蹴り飛ばす。 ベリアルは飛んできた樹木を掻い潜り下からエネルギーを纏った抜き手で突きこもうとするが空いた手を背後に翳す。 エネルギーのシールドが展開され、そこに無数の銃弾が命中する。
「とうとう出て来たか番犬! 煉獄の化身よ、これで貴様の手札は全て開かれた。 本当の勝負はこれからだ!」
システム上は装備品扱いになるが、構成しているパーツはトルーパーと同等で実際は無人機という認識が正しい。 この装備の最大の強みは一機の出撃枠で二機分の戦力を扱えることにある。
そう考えるなら誰しもが獲得に動くのだが、このICpwのAIは学習型――要は経験を積ませる事で動きを最適化させる仕様となっている。 つまり、プレイヤーと高度な連携を取らせたいのなら相応の戦績を積ませる事が必須だ。 強くするにはとにかく手間がかかる。
プレイヤーの自機と違い、AIの装備はエネミーに近い扱いを受けるので仮に大破した場合はロスト、つまり消失を意味する。 完全に大破した場合、フレームまで消えるので新しく買い直さなければならない。
このゲームにおいてフレームは非常に高額だ。
ランカーであったなら購入自体は可能ではあるが、一戦ごとに買い直していてはいくら資金があっても足りない。 それ以下のプレイヤーであるなら言わずもがな、賄え切れる訳がないのだ。
AIの支援機を導入したいのであればしっかりと育てる根気と何度破壊されても修復する資産の二つの条件と破壊された場合のパーツロストを許容するといった高いハードルが存在する。
乗り越えるのが困難であればある程に得られるリターンは大きい。 ユウヤの相棒であるアルフレッドはAランクの戦闘であっても充分に介入できる程の成長を見せた。
キマイラタイプの派生型であるキマイラループスフレームに支援機としてユウヤの死角を補える装備。
パーツの質だけでいうのならBランク、部分的にはAランク相当の高級装備だ。 そんなアルフレッドはユウヤの近くでじっと身を潜めている。 光学迷彩とステルス素材はありとあらゆる探知を無効化し、その気配を完全に消していた。 初見であるならまず見切れない奥の手ともいえる存在だが、ユウヤと何度も戦って手の内を知っているベリアルからすれば見知った厄介な存在だ。 存在を意識するだけで奇襲を警戒しなければならないので対応する為の余力を残さなければならず思い切り攻められない。
ユウヤ当人の技量も高いのに支援機への警戒までしなければならないのは厳しかった。
プルガトリオが走りながら近くの樹を蹴って飛び反転。 ベリアルへと襲い掛かってくる。
回避前に奇襲されない、もしくはされても察知しやすい場所を選んで躱し、お返しとばかりに手の平からエネルギー弾を連射。 ユウヤは器用にハンマーを盾にして防ぎ、押し込んで来る。
「ふ、番犬を従えし、煉獄の化身よ。 この俺が影からの一撃を恐れる事になろうとはな」
アルフレッドが何処にいるか分からない。 もしかしたらこの乱戦なので既に撃破された可能性もあるが、はっきりしない以上は警戒を怠る訳には行かなかった。
ユウヤを倒す上で必要なのはまずは不確定な要素であるアルフレッドの撃破だ。
それを怠って敗北した者をベリアルは自身を含めて何人も見て来た。 戦えば二対一を強いられる。
それをズルだ、チートだと囁く者達は多かったがベリアルはそうは思わない。
幾度の大破を乗り越え、最高のパートナーへと昇華された主従の関係をそんな陳腐な言葉で括る程、彼は度量の小さな男ではなかった。 そんなユウヤを倒せたならば自分は更に上へと行ける。
ベリアルは強者を倒せば倒す程に自身は更なる高みへと行けると固く信じていた。
このゲームにレベルや経験値のシステムは存在しない。 純粋な技量のみが勝敗を分ける最も大きく重要な要素ではあるが、強者を撃破したという実績は確実に自身の糧となる。
そう信じているからこそ入りたくもないユニオンに臨時で参加し、強敵との戦いを経験できる場に自ら飛び込んだのだ。
「あぁ、そうかい。 だったらこのまま邪魔が入るまでダラダラやるのか?」
「慌てるな。 勝敗にはそれを分ける運命の分岐点が存在する。 時が来れば俺の闇か、お前達の力のどちらが勝利という栄光を掴めるかが明らかになるだろう」
「要は迂闊に攻められないから様子を見てるって事か」
ベリアルは応えないが、ユウヤはそれを見てなるほどと納得する。
この戦いは生き残れば勝ちであって無理に敵を倒す必要はない。 つまり、わざわざ手強い相手と戦うリスクを負う必要はないのだ。 その為、ユウヤは早い段階からベリアルを撒くつもりではあったのだが、この思春期特有の重い病を患ったプレイヤーから逃げ切るのは難しいと悟り始めていた。
プルガトリオとプセウドテイでは機動力に大きな差があり、この樹海という入り組んだ地形を利用しても引き離すのは難しい。 どこかで他のプレイヤーの横槍などを期待して上手に擦り付けようと目論んだが、足止めに手頃な相手もいなかった。 血の気の多いプレイヤー達が派手に潰して回っている様で未だにあちこちで戦闘の物と思われる爆発などは発生しているが、イベント開始直後に比べれば大きく減っている。
ユウヤの目的はあくまでカナタを倒す事なのでその途中で躓く事はあってはならないが――
「……やるか」
撒く方向で動いていたが、仕留めるまで諦めなさそうなのでここで始末しておいた方がよさそうと思い始めたのだ。 ベリアルが警戒している通りアルフレッドは近くに潜んで隙を窺っており、下手に突っ込んできた場合はそのまま挟撃して仕留める算段だったが流石にお互いに手の内を知っている相手なのでそう簡単には勝たせてくれない。 ベリアルがユウヤを仕留める道筋を描けているようにユウヤもベリアルに対しての勝ち筋は描けていた。
「ふ、その気になったようだな。 俺は闇にして影、影は存在の本質に根差し、何処までもそこに居る概念に近い存在だ。 逃げる事は叶わない」
「あぁ、はいはい。 取り合えずいい加減にウザイから消えてくれ」
大剣に変形させて正面から突っ込む。 途中、ギミックを展開し刃が割れ、丸鋸が唸りを上げる。
機動力に差があるのでベリアルは背にしていた樹の裏に回って回避。
大剣が樹に当たる直前にハンマーへと変形。 そのまま圧し折り、倒れる前にベリアルの方へと蹴り飛ばす。 ベリアルは飛んできた樹木を掻い潜り下からエネルギーを纏った抜き手で突きこもうとするが空いた手を背後に翳す。 エネルギーのシールドが展開され、そこに無数の銃弾が命中する。
「とうとう出て来たか番犬! 煉獄の化身よ、これで貴様の手札は全て開かれた。 本当の勝負はこれからだ!」
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