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エピローグ
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名残惜しく離れたキースは、ぐったりと横になる私の乱れたドレスを直し、溢れた蜜をきれいに拭った。
ひと段落したらしく私の額にキスをすると、頬に手を添えた。
「キース様」
私の頬を掴む彼の腕に触れると、
「…披露宴は夜だから少しだけ休むといい」
目を細め親指の腹で優しく頬を撫でる。
「しかし…私だけ休むわけには」
なおも起きようとする私を、
「私は少しだけ用があるから抜けるが…休むように」
少しだけ声を低く発し、起き上がる事を禁じた。
「…夜は一緒ですよね?」
彼の腕をぎゅっと掴むと、ああ、と低い声が返って来て、瞼が重くなってきた私の頭を撫でていくのを感じた。
*********************
「お父様、お母様本日はありがとうございました」
屋敷の中にある大広間で、身内だけの軽食の立食パーティーを開く。ウェディングドレスから銀色の首元が隠れるAラインのドレスに着替えた私の腰を、離さないキースが横にいる。
「…いや、愛娘の結婚式に出るのは当たり前だよ」
ひくひくと口元を引き攣らせる父に、キースはニヤッと笑う。
「ソフィア…本当におめでとう」
母はやはり泣いていて、ハンカチを握りしめていた。
「しかしながら、雪国とは…ソフィア身体に負担はないのか?」
父の気遣いに、ジーンと感動していると、
「そちらは、大丈夫ですヒル男爵…我が屋敷総出でソフィア殿のケアを行なっておりますので…なっ?ソフィア」
ぐっと私を引き寄せる力が強くなって、何故か私を見る目が笑っていなかった。
「えっ…ええ…勿論ですわ…とてもよくして頂いて」
キースから無理矢理視線を外し、父と母に視線を向けた。
「そっ…そうか…ならいいのだが」
「…あなた」
母の窘める声が聞こえ、父はブツブツと何かを言っていた。
披露宴もお開きになり、当たり前のように私を横抱きに持ち上げ、主寝室へと向かう。
彼の首に腕を回すと、
「もう以前使っていた部屋に戻らなくていいからな」
「…はい…2人の部屋で待ってます」
うっとりと見つめる私に微笑むキース。
あの殺風景な主寝室が無くなるように、彼の安らげる空間になるように。
ムール領に来た花嫁は、屋敷から出る事なくただただ当主の愛を受け、豊富な知識で当主の補佐を完璧に務めた。
どこにいても、どんなに遠くにいる地にいても、必ず帰る当主に領民は、揶揄い、やっと訪れた当主の春をお祝いした。
ひと段落したらしく私の額にキスをすると、頬に手を添えた。
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目を細め親指の腹で優しく頬を撫でる。
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なおも起きようとする私を、
「私は少しだけ用があるから抜けるが…休むように」
少しだけ声を低く発し、起き上がる事を禁じた。
「…夜は一緒ですよね?」
彼の腕をぎゅっと掴むと、ああ、と低い声が返って来て、瞼が重くなってきた私の頭を撫でていくのを感じた。
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「お父様、お母様本日はありがとうございました」
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「ソフィア…本当におめでとう」
母はやはり泣いていて、ハンカチを握りしめていた。
「しかしながら、雪国とは…ソフィア身体に負担はないのか?」
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「そちらは、大丈夫ですヒル男爵…我が屋敷総出でソフィア殿のケアを行なっておりますので…なっ?ソフィア」
ぐっと私を引き寄せる力が強くなって、何故か私を見る目が笑っていなかった。
「えっ…ええ…勿論ですわ…とてもよくして頂いて」
キースから無理矢理視線を外し、父と母に視線を向けた。
「そっ…そうか…ならいいのだが」
「…あなた」
母の窘める声が聞こえ、父はブツブツと何かを言っていた。
披露宴もお開きになり、当たり前のように私を横抱きに持ち上げ、主寝室へと向かう。
彼の首に腕を回すと、
「もう以前使っていた部屋に戻らなくていいからな」
「…はい…2人の部屋で待ってます」
うっとりと見つめる私に微笑むキース。
あの殺風景な主寝室が無くなるように、彼の安らげる空間になるように。
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どこにいても、どんなに遠くにいる地にいても、必ず帰る当主に領民は、揶揄い、やっと訪れた当主の春をお祝いした。
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