双子の公爵令嬢の姉は騎士団長に今宵も会いに行く

狭山雪菜

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18 王族主催の舞踏会

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「イルゼ騎士団長、娘を頼むぞ・・・・・

玄関先でお父様とお母様に見送られ、ルーギス家の家紋が入った馬車で私を迎えに来たイルゼ様と城へと向かった。
婚約の発表後初めての公の場に出るので、少しだけ緊張していたが、迎えに来たイルゼ様を見て全てが吹き飛んだ。
黒い軍服の彼の胸には彼の今の地位を表す勲章が沢山ついており、軍服から飛び出してる白いYシャツには私が街で購入したカフスボタンがつけられていた。彼の凛々しい姿にうっとりとしていると、マーガレット、と低い声で呼ばれた。
向き合って座っていたが、イルゼ様が私の隣に移動するけど、ふんわりとさせたスカートが嵩張り彼の身体に密着出来なくなってしまう。
「…今日も美しい」
そう言って私の頬に手を添えた彼は親指の腹で私の頬を撫で、首に掛けたネックレスをじっと満足げに見つめていた。
彼が美しいと言うのにも理由わけがあって、今日のドレスから身につける物全てが彼からの贈り物だからだ。
胸元が開いた白いプリンセスラインのドレスに、銀色の糸で蔦のようなデザインの刺繍に赤い薔薇の花が何個か混じり、胸元とイヤリング、そして頭に被るティアラは赤い宝石が付いていた。編み込みで結ばれた銀色の髪は全て纏まっていて幼い雰囲気と、首から肩のラインを出しているため大人の雰囲気が合わさっている。マーガレット本来の美しさを醸し出すデザインのドレスにアスナとお母様はほぅと見惚れ、「分かってるわね」とアスナとお母様のイルゼ様の印象が上がった。
「…イルゼ様…も…とても凛々しくて素敵ですわ」
彼が私の頬を触れる手に自分の手を添えて、自分の頬に押し付けた。お互いじっと見つめあって、いつもならもう口づけしているのに、今日のためにばっちりとお化粧をしたからそれすら叶わない。
「…終わったら、な」
「…はい」
何が、なんて聞き返さず返事をする。
――キスをしたい
きっと彼もそう思っていると知っているから。




***************



「皆の者、よく来た、本日は息子のエル王子とマリアン・ルナルス公爵令嬢の婚姻記念の宴だ…楽しむとよい」
国王陛下の一声で始まった舞踏会は、緩やかな曲調の音楽から始まった。
「…マーガレット、一曲いいか」
最初はエル王子とマリアンのダンス、その次に婚約者のいない成人したばかりの貴族のダンス、そしてパートナーのいる貴族のダンスという流れで、最後にパートナーを変えたりもう一度踊ったりするのだ。
「もちろんです」
舞踏会に入場した時から好奇な視線を感じていたが、彼が私を隠すように立ってくれていた。
――いつもは国王陛下の後ろで会場の監視をしているから、みんなも気になるわよね
参加している貴族とは違う、縦にも横にもひと回り大きいイルゼ様のそばにいるのがとても誇らしい。
――キリッとした御顔も素敵
いつも会場で警備している癖なのか鋭い眼差しを会場全体を見渡していて、こうして彼と話す前は柱の陰からこっそり見つめていたのが嘘みたいだ。
そんな意中の――といっても婚約してるが――彼にダンスに誘われ、断る理由なんてない。彼が私の指先をそっと手を取り、舞踏会のダンスホールの中央へとエスコートされた。始まった音楽は大人のクラッシックの曲で、エスコートされた手はそのまま上がり、彼の手が私の腰に回りステップを踏んでいく。
――イルゼ様と、一緒に踊れるなんて…夢のよう
うっとりとイルゼ様に見惚れていると、彼は私の視線に気がつき、そっと顔を寄せた。
「…何を考えてる?」
そう言われて、口が勝手に開き言葉を紡ぐ。
「イルゼ様のこと…一緒に踊れるなんて…幸せ…ですわ」
にっこりと微笑み返すと、イルゼ様の顔が心なしか赤くなり、周囲がざわつく。
「?」
何かあったのかと、周りを見ようとイルゼ様から視線を外すと、彼が私の腰を掴みぐるっと回る。
「っ…きゃっ」
なんとか足が絡れずに済んだのは、彼が私をしっかりと支えていてくれたからだ。
「…気にするな、今は俺に集中して」
まるで彼から視線を外しただけで拗ねたように言うもんだから、可愛らしくてくすくすと笑ってしまう。
「いつも、貴方だけ」
そっと彼の胸に手を添えて、自分の頬を彼の胸へと軽くつけて、参加する人々に仲睦まじい姿を見せつけた。
――実は…彼は私の物って…アピールしてるけど…バカみたいかな
ここの舞踏会の参加者の誰よりもカッコいいイルゼ様。きっとご令嬢達も彼の良さを知って、きゃーきゃーと騒ぐはず。その前に、もうルナルス公爵家のマーガレットの婚約者と知らしめた方がいい。ただでさえ不安でしょうがないのに、貴族令嬢になんかに渡せない。
いつの間にかイルゼ様の手が私の背中に回り、音楽もバラード調となっていた。
――気のせい…だろうか…
彼の鼓動が少しだけ早い気がする。
「…マーガレット」
私にだけ聞こえる声で囁くイルゼ様に、私も小声で、はい、と返事をした。
「ダンスが終わったら、少し休憩しないか」
彼が喋ると彼の胸にも声が響いてるように聞こえて、胸と話しているみたいな気分になる。
「ええ」
小さな返事は音楽に掻き消されたけど、イルゼ様には聞こえたはずだ。

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