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八月 親衛隊はルールを破って想いを伝えたら退学になるルール
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湊(18)攻。水泳部部長。人望厚いガチムチイケメン。
水谷(16)攻。高校一年生。新進気鋭の水泳部エース。異常にモテるガチムチイケメン。
外を見れば照りつける強い陽射し。窓を閉めていてもミンミンとセミの煩い声が聞こえる。
——夏休みまで補講があるんだよなぁ。
吉良は窓の外を見ながら溜め息をついた。
終業式を迎え、夏休みに入ったものの、吉良は怒涛の補講ラッシュだ。
寮もいつもより閑散としている。実家に帰ったり、旅行や部活の合宿に行く者がいるからだ。
残っているのは補講のある生徒や、部活動のある生徒など。吉良は補講があるため寮に残ることになった。
昼休みはいつメンの小田切たちがいない。どうしようかなと思っていたら「吉良、昼メシ一緒に食おうぜ」と声をかけられた。
吉良の隣の席で補講を受けていた湊だ。
湊は水泳部の部長で、とんでもなく男前。それでいて部員からの人望も厚いと聞いたことがある。
「いいよ」
吉良が快諾すると、湊は顔をくしゃくしゃにして、嬉しそうに笑った。
「すげぇ嬉しい。俺、補講になってこんなに嬉しいと思ったことないよ」
学食でチキン竜田と棒棒鶏サラダとミートソースパスタを爆食いしながら湊は色んな話をしてくれた。
「お前よく食うなぁ」
「まぁ。身体作りたいし、すぐ腹が減るんだよ」
確かに水泳部の湊はガチムチ逆三角形の体型だ。
そんな体格なのに、なぜ顔までかっこいいのだろう。それでいてこんなエリート学校に通ってるだなんて、何もかもに恵まれすぎな男だ。
「吉良はほんと可愛いよなぁ」
「うるさいな、お前みたいになれるわけがないだろ」
何が「可愛い」だ! 湊からすれば平凡体型の吉良は子供みたいにみえるのかもしれないが、ひどい言われようだ。
「あー! 頭ナデナデしたい!」
「やめろって」
湊が手を伸ばしてくるから吉良はそれを振り払う。俺は子供じゃない!
「この学校で吉良みたいな子に出会えるなんて思ってもみなかったよ」
「だよなぁ。俺もそう思う。俺はここには似つかわしくないよ」
やっぱり高校は身の丈に合ったところがいい。勉強についていくのに必死で、青春らしい青春は何もないまま三年間を終えるのだろう。
「吉良、明日も補講?」
「そうだよ、俺は全科目補講だから、明日も学校に来るよ」
補講コンプリートとは本当に情けない。これも自分自身の能力のなさのせいだ。
「そっか。俺は補講は今日の数学で最後なんだけど、明日は部活があるから学校に来る」
「うわ、忙しいんだな、湊は」
「まぁ。でも俺水泳は好きだから」
「すごいな、俺はまったく泳げないんだよ、だから水泳まで補講だ……」
九月には遠泳の授業があるから、水泳の授業で一定の水準まで泳げなかった者は夏休みに補講がある。吉良はもれなくそれも補講になった。
「知ってる」
「なんで知ってるんだよ?!」
「あ、水泳部が補講の手伝いをすることになったから。その中のリストに吉良の名前があった」
「おい……」
生徒が生徒に教わるのかよ。まぁ、湊率いる水泳部はかなりの強豪だ。同じ生徒といっても吉良と比べものにはならないだろう。
「楽しみだな」
「いや楽しくねぇよ!」
湊はバカか? 補講が楽しいわけないだろ?!
はぁ。もう最悪だ……。
数学の補講のあと、湊に呼び出された。誰もいない校舎の裏まで連れて行かれて何か込み入った話でもあるのだろうか。
「あのさ、吉良」
「何?」
「明日俺、ちょっとした勝負をすることになっててさ」
「勝負?」
「ああ。水泳の、どっちが速いかっていう勝負」
「へぇ。湊なら勝てるんじゃないのか?」
湊を泳がせたら最強だろう。湊が水泳で負ける姿を想像できないくらいだ。
「相手は強いし、勝負は終わるまでわからない。でも俺は全力を尽くすつもりだ」
湊はやけに真剣だ。よほどその勝負に力を入れているのだろう。
「それでさ、俺、決めてることがある」
湊は真っ直ぐに吉良を見つめてきた。こいつ、こんな真面目な顔もするんだとドキッとした。
「もし明日の勝負で俺が勝ったら、吉良、お前に告白する」
「えっ……?」
告白? いったいなんの告白だ……?
「だから明日の勝負、見ていて欲しい」
湊は勝負に勝ったら何をするつもりなんだ?
告白?
一瞬吉良の脳裏に、愛の告白か?! という考えがかすめたが、まさかそんなことあるはずがない。
だってこの学校には親衛隊ルールがあって、想いを伝えることはタブーとされているのだから。
「じゃあ、また明日」
湊は笑った。
その顔はいつもどおりのくしゃくしゃな笑顔だった。
水谷(16)攻。高校一年生。新進気鋭の水泳部エース。異常にモテるガチムチイケメン。
外を見れば照りつける強い陽射し。窓を閉めていてもミンミンとセミの煩い声が聞こえる。
——夏休みまで補講があるんだよなぁ。
吉良は窓の外を見ながら溜め息をついた。
終業式を迎え、夏休みに入ったものの、吉良は怒涛の補講ラッシュだ。
寮もいつもより閑散としている。実家に帰ったり、旅行や部活の合宿に行く者がいるからだ。
残っているのは補講のある生徒や、部活動のある生徒など。吉良は補講があるため寮に残ることになった。
昼休みはいつメンの小田切たちがいない。どうしようかなと思っていたら「吉良、昼メシ一緒に食おうぜ」と声をかけられた。
吉良の隣の席で補講を受けていた湊だ。
湊は水泳部の部長で、とんでもなく男前。それでいて部員からの人望も厚いと聞いたことがある。
「いいよ」
吉良が快諾すると、湊は顔をくしゃくしゃにして、嬉しそうに笑った。
「すげぇ嬉しい。俺、補講になってこんなに嬉しいと思ったことないよ」
学食でチキン竜田と棒棒鶏サラダとミートソースパスタを爆食いしながら湊は色んな話をしてくれた。
「お前よく食うなぁ」
「まぁ。身体作りたいし、すぐ腹が減るんだよ」
確かに水泳部の湊はガチムチ逆三角形の体型だ。
そんな体格なのに、なぜ顔までかっこいいのだろう。それでいてこんなエリート学校に通ってるだなんて、何もかもに恵まれすぎな男だ。
「吉良はほんと可愛いよなぁ」
「うるさいな、お前みたいになれるわけがないだろ」
何が「可愛い」だ! 湊からすれば平凡体型の吉良は子供みたいにみえるのかもしれないが、ひどい言われようだ。
「あー! 頭ナデナデしたい!」
「やめろって」
湊が手を伸ばしてくるから吉良はそれを振り払う。俺は子供じゃない!
「この学校で吉良みたいな子に出会えるなんて思ってもみなかったよ」
「だよなぁ。俺もそう思う。俺はここには似つかわしくないよ」
やっぱり高校は身の丈に合ったところがいい。勉強についていくのに必死で、青春らしい青春は何もないまま三年間を終えるのだろう。
「吉良、明日も補講?」
「そうだよ、俺は全科目補講だから、明日も学校に来るよ」
補講コンプリートとは本当に情けない。これも自分自身の能力のなさのせいだ。
「そっか。俺は補講は今日の数学で最後なんだけど、明日は部活があるから学校に来る」
「うわ、忙しいんだな、湊は」
「まぁ。でも俺水泳は好きだから」
「すごいな、俺はまったく泳げないんだよ、だから水泳まで補講だ……」
九月には遠泳の授業があるから、水泳の授業で一定の水準まで泳げなかった者は夏休みに補講がある。吉良はもれなくそれも補講になった。
「知ってる」
「なんで知ってるんだよ?!」
「あ、水泳部が補講の手伝いをすることになったから。その中のリストに吉良の名前があった」
「おい……」
生徒が生徒に教わるのかよ。まぁ、湊率いる水泳部はかなりの強豪だ。同じ生徒といっても吉良と比べものにはならないだろう。
「楽しみだな」
「いや楽しくねぇよ!」
湊はバカか? 補講が楽しいわけないだろ?!
はぁ。もう最悪だ……。
数学の補講のあと、湊に呼び出された。誰もいない校舎の裏まで連れて行かれて何か込み入った話でもあるのだろうか。
「あのさ、吉良」
「何?」
「明日俺、ちょっとした勝負をすることになっててさ」
「勝負?」
「ああ。水泳の、どっちが速いかっていう勝負」
「へぇ。湊なら勝てるんじゃないのか?」
湊を泳がせたら最強だろう。湊が水泳で負ける姿を想像できないくらいだ。
「相手は強いし、勝負は終わるまでわからない。でも俺は全力を尽くすつもりだ」
湊はやけに真剣だ。よほどその勝負に力を入れているのだろう。
「それでさ、俺、決めてることがある」
湊は真っ直ぐに吉良を見つめてきた。こいつ、こんな真面目な顔もするんだとドキッとした。
「もし明日の勝負で俺が勝ったら、吉良、お前に告白する」
「えっ……?」
告白? いったいなんの告白だ……?
「だから明日の勝負、見ていて欲しい」
湊は勝負に勝ったら何をするつもりなんだ?
告白?
一瞬吉良の脳裏に、愛の告白か?! という考えがかすめたが、まさかそんなことあるはずがない。
だってこの学校には親衛隊ルールがあって、想いを伝えることはタブーとされているのだから。
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湊は笑った。
その顔はいつもどおりのくしゃくしゃな笑顔だった。
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