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カイルの溺愛
9.
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「カイル様、これは恥ずかしすぎます……私はもうここから出られません……」
情事を終え、衣服を身に付けたはいいものの、ふたりの熱で東屋のすりガラスには水滴が張りつき、曇っている。さっきまでの声といい、これでは中で何が行われていたのか誰の目にも明白だ。
「国王は隠し事などできない。常に誰かに見張られている。一日に何をどのくらい食べたかも管理されているし、誰に会ったかも、そのうちユリスと交じわった回数まで管理されるな」
聞いてるだけで顔から火が出そうになる。だが国王と関係を結ぶということは、つまりそういうことなのだろう。
「だから何も恥ずかしがることではない。俺がユリスをどれだけ寵愛しているかの証明になる。なんなら俺がお前を抱き抱えて出ようか? ユリスは顔を隠していればいい。それなら何も見えないから恥ずかしくないか?」
「いえ、遠慮します……」
そのほうがさらに恥ずかしいに決まっている。この国王は時々とんでもないことを言い出すし、黙っていたら実行しかねないことをユリスは思い知った。
庭園から城へ戻る帰り道、ユリスはカイルに城を外出したい旨を伝えた。
「……薬草?」
「はい。薬の調合のために必要で、そのための外出許可をいただけませんか?」
「なんの薬だ?」
カイルにそう問われて一瞬戸惑った。以前カイルにヒートの抑制薬を飲むことを禁止されたことがあるからだ。
「肺の持病があるのです。そのための薬を用意したくて……」
「それなら城の薬師に話してみろ。必要な薬があるならそこでもらえ。ナルカには薬師はいないのか?」
「いえ……私には王宮の薬を使用する許可はいただけませんでしたから全て自分で用意しておりました」
「ユリスはなんでもできるんだな。剣の腕前も大したものだった。ムカつくウェルマーの鼻を明かしたときはよくやったぞと俺も嬉しかった。それだけじゃなく薬の知識もあるなんて、ユリスは幼い頃からずっと勉強熱心だったんだな。偉いぞ」
そうではない。生きていくための術だ。学ばなければ、知らなければ生きていけないと必死になっただけだ。
それなのにカイルによく頑張ったと言わんばかりに頭を撫でられて、自分が幼い子供になった気分になる。
そういえば幼い頃、人から褒められたことはなかった。
側室の母親の立場を良くするため必死で勉強して優秀な王子のふりをした。それでも周りから劣っていたのはユリスがアルファではなかったからなのだろう。
オメガと判明してからは虐げられるようになり、ユリスのせいで罵られる母親と妹をなんとか守ろうとした。
唯一認められた暗殺の仕事だって好きな仕事じゃない。生きるためにやらねばならない生業だった。
どれも必死でやってきたが、労いの言葉などはない。報われたことなどなかった。
「うっ……ぇ……」
ユリスはしゃくり声になる。ユリス自身もどうして突然涙が溢れたのかわからない。
「ユリス?!」
カイルが慌てて立ち尽くしたままのユリスの顔を覗き込む。それでも涙は止まらない。
「何が辛い? なんでも話せ。絶対にひとりで抱え込むな」
視界は涙で滲むが、目の前には優しい言葉をかけてくれるカイルがいる。
もうひとりで悩むことなんかない。頑張ったぶんだけ自分を認めてくれる人がいる。カイルがそばにいてくれるならオメガの自分を恥じることなく立ち向かっていける、そう思った。
「カイル様……ありがとうございます」
ユリスがカイルに抱きつくと、望みどおりにカイルの抱擁とつむじへのキスが落ちてきた。
情事を終え、衣服を身に付けたはいいものの、ふたりの熱で東屋のすりガラスには水滴が張りつき、曇っている。さっきまでの声といい、これでは中で何が行われていたのか誰の目にも明白だ。
「国王は隠し事などできない。常に誰かに見張られている。一日に何をどのくらい食べたかも管理されているし、誰に会ったかも、そのうちユリスと交じわった回数まで管理されるな」
聞いてるだけで顔から火が出そうになる。だが国王と関係を結ぶということは、つまりそういうことなのだろう。
「だから何も恥ずかしがることではない。俺がユリスをどれだけ寵愛しているかの証明になる。なんなら俺がお前を抱き抱えて出ようか? ユリスは顔を隠していればいい。それなら何も見えないから恥ずかしくないか?」
「いえ、遠慮します……」
そのほうがさらに恥ずかしいに決まっている。この国王は時々とんでもないことを言い出すし、黙っていたら実行しかねないことをユリスは思い知った。
庭園から城へ戻る帰り道、ユリスはカイルに城を外出したい旨を伝えた。
「……薬草?」
「はい。薬の調合のために必要で、そのための外出許可をいただけませんか?」
「なんの薬だ?」
カイルにそう問われて一瞬戸惑った。以前カイルにヒートの抑制薬を飲むことを禁止されたことがあるからだ。
「肺の持病があるのです。そのための薬を用意したくて……」
「それなら城の薬師に話してみろ。必要な薬があるならそこでもらえ。ナルカには薬師はいないのか?」
「いえ……私には王宮の薬を使用する許可はいただけませんでしたから全て自分で用意しておりました」
「ユリスはなんでもできるんだな。剣の腕前も大したものだった。ムカつくウェルマーの鼻を明かしたときはよくやったぞと俺も嬉しかった。それだけじゃなく薬の知識もあるなんて、ユリスは幼い頃からずっと勉強熱心だったんだな。偉いぞ」
そうではない。生きていくための術だ。学ばなければ、知らなければ生きていけないと必死になっただけだ。
それなのにカイルによく頑張ったと言わんばかりに頭を撫でられて、自分が幼い子供になった気分になる。
そういえば幼い頃、人から褒められたことはなかった。
側室の母親の立場を良くするため必死で勉強して優秀な王子のふりをした。それでも周りから劣っていたのはユリスがアルファではなかったからなのだろう。
オメガと判明してからは虐げられるようになり、ユリスのせいで罵られる母親と妹をなんとか守ろうとした。
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どれも必死でやってきたが、労いの言葉などはない。報われたことなどなかった。
「うっ……ぇ……」
ユリスはしゃくり声になる。ユリス自身もどうして突然涙が溢れたのかわからない。
「ユリス?!」
カイルが慌てて立ち尽くしたままのユリスの顔を覗き込む。それでも涙は止まらない。
「何が辛い? なんでも話せ。絶対にひとりで抱え込むな」
視界は涙で滲むが、目の前には優しい言葉をかけてくれるカイルがいる。
もうひとりで悩むことなんかない。頑張ったぶんだけ自分を認めてくれる人がいる。カイルがそばにいてくれるならオメガの自分を恥じることなく立ち向かっていける、そう思った。
「カイル様……ありがとうございます」
ユリスがカイルに抱きつくと、望みどおりにカイルの抱擁とつむじへのキスが落ちてきた。
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