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一章 中村悠太
魔球ストレート
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7月、時間は夜の11時。
父の経営するダンススクールの手伝いが終わり一人公園で何かを確認しながらボールを投げる蓮。
球速は90kmそこそこ。
中学一年生としては控えめに言って並中の並のスピード。
いや、やっぱりピッチャーでそのスピードは並以下かもしれない。
「結構速いかも…」
それでも蓮は嬉しそうだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここは野球が強いことで知られる愛知県。
蓮は学校が終わり友達の山田正夫(まさお)と帰っていた。
「夏の大会うちの野球部が市内で一位だったんだぜ。これから県大会が始まるんだ。」
「すげえな」
「そういえば蓮は何で部活入らないんだよ。野球部楽しいぜ。」
「俺はお小遣い貰う為にダンススクールの手伝いで忙しいからな」
「なんだよそれ…」
全く興味なさそうに答える蓮にため息をつく正夫。
「小学4年生になって俺がクラブチーム入るまではいつも野球して遊んでたじゃないか。」
「あん時は楽しかったけどもう今やってもつまんないだろうなぁ。」
「そんなわけあるかよ…そうだ、明日野球部の見学に来て見ろよ。先輩達には話しておくからさ、んじゃまた明日な!」
「おい…」
強引に話を進めて逃げるように帰っていく正夫に今度は蓮がため息をつくのだった…
家に帰り父が趣味(本業)で開いているダンススクールの時間になり他の子達のトレーニングを眺めながら時には鏡に移る自分の動きを見ながら時間を潰す。
そして本日のレッスンが終わり掃除を始めている時にふと明日の見学のことを思い出し父に話しかける。
「あのさ、父ちゃん。明日友達と約束があって帰り遅くなるかもしんない。」
「遅くまで遊ぶのは良いけどいつもの日課サボったら小遣いやんねーからな。」
「わかってるよ…」
話を終えてまた掃除を再開する。
「蓮くん明日お友達と遊びに行くの?」
「?…なんだ、凛まだいたのか」
忘れ物をしたと戻ってきた彼女は山田凛。ダンススクールに通う蓮の幼なじみだ。
「遊びに行くわけじゃないよ。正夫に少し強引に言われて野球部の見学に行くんだ。」
「え!とうとう蓮くん野球を始めるの!?」
「いや違うよ。野球って一人だけじゃないだろ?難しそうだし練習も沢山あるしな。やりたくな…」
「え~でも、もし野球部に入って凄く強くなっちゃって高校生で甲子園に行っちゃったらどうしよう!?凛はチアガールになって応援しようかな!!」
「俺やるなんて言ってないんだけど…」
一人で騒ぐ凛にブツブツと呟きながらまたため息をつく蓮だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
次の日授業が終わり蓮は正夫と一緒にグラウンドへ向かうと先に来ていた部員達が練習を始めていた。
すると蓮達に気づき近づいてくる部員がいた。
「君が体験入部したいって言う子か!野球部へようこそ、歓迎するぞ」
と蓮に上から目線で入部するも同然かのように話しかけてくる部員はここの愛知中学校野球部のキャプテン、青木だ。
「この人がキャッチャーを務めるキャプテンの青木先輩だぞ!」
「…あの、僕野球のことあまり知らなくて…キャッチャーって確かピッチャーの球を取るところですよね?」
(…あれ?正夫から聞いた話だと、小学校3年生まで一緒に野球をしていて中々センスのある奴だったって言ってたけどな。ま、いいか。)
「ああ!で、あそこで投げてるのがうちのエースだ。県大会出場投手の実力、よく見てみるといいぞ」
自慢げに投球練習をしているエースを紹介して自分達の実力を見せつけられることに満足そうな青木。
「随分と自信満々に話してたじゃないか。」
どこから会話が聞こえていたのか影に隠れて盗み聞きしていたのか監督が青木の方へ近寄ってきた。
「監督…そりゃあ市内で一番強い野球部のエースですからね。」
「たまたま今回市内一位だったからって今まで常に負けなしだった訳じゃないだろ?」
そんなことを言われても自分達は強いチームであると変わらない表情の青木。
「俺の時代の時のキャプテンはな、凄いバッターだったよ。どんなピッチャーだろうが必ずバットに当てていく。三振したところなんて一度だって見たことなかったな。残念なことに強豪校には進学せずに地元の高校でマイペースに野球を楽しむような奴だったからプロには行けなかったが俺は今でもプロで通用すると思ってる。」
「そ、そんな真剣にやってないやつがどんな球も打てるなんて…」
「とにかく動きに無駄が全くない完璧なフォームだったな…あいつと俺がコンビを組んで他校の野球部に恐れられてたのが懐かしいな!久々に連絡でもとってやるかな!ははははは!」
青木は自分の中学校が一度も全国の舞台に立っていないのを知っていた。
自慢げな監督の話を聞き、そこまでの選手がいながら当時のチームが全国に行けなかったのは監督や他のメンバーが足を引っ張っていたからだと悟る青木だった…
そのころ蓮達はエースの投球練習を見ていた。
(へっへっへ!俺の投げる球を見て驚いてるな)
「すげえだろ?大塚先輩のストレートmax115kmもあるんだぜ。それにカーブとスライダーも。」
「…凄いのか、あれは。」
解説付きでエースの大塚先輩のバシバシと投げ込むところを見せつけられても興味ない蓮。
監督は青木とグラウンドから離れてかつての戦友に電話をかけていた。
「久しぶりだな、直樹。今野球部の生徒の子と昔のお前の話をしていたとこだ。」
「そうなのか。で、なんの用だ?」
「今見学に来てるんだよ、お前の息子が。」
監督のかつての戦友、直樹は蓮の父親だった。
「蓮が?昨日約束があるとか言ってたけど見学しに行ってたのか。あいつ野球なんかに興味ないはずだけどな」
「でもこれをきっかけにはじめてくれればいいんだけどな。あの子達が中学上がる前に野球やらせてるって言ってたよな?」
監督は定期的に直樹と連絡を取り合っていて蓮が野球をかじっていることは少しは知っていた。
「…無理やりだけどな。だからこの先部活入るかわかんねえけどな。最初は遊び半分でやらせてたしそこまで強制する気もないからやらなかったらそこまでだな。」
「おいおい、勿体無い事言うなよ。お前の息子なんだからちゃんと練習させりゃいい選手になりそうだろうが。」
「…というか、今でも充分全国レベルにはなってるがな。あいつは嫌々でも自主的に投げ込みやってんだ。」
「なんだと!?本当かそれは!?」
「本当だ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「皆集まってくれ!」
青木が部員達を呼び出す。
そして円になると青木は話しだした。
「県大会一回戦目であたる青春高校のやつらが偵察に来てるぞ。」
「ええ!今年の夏の大会優勝候補の青春高校がですか?」
「きっと今年の俺たちが手強いことを知って来てんだ。愛知中学も有名になったもんだな。構わず見せつけてやろうぜ!!」
市内大会を一位通過しただけで自意識過剰になる愛知中学部員達は自慢げに練習を見せつける。
グラウンドの外から眺めていた青春中学部員達はこんなことを話していた。
「優秀な奴がいたら高等部に誘ってやろうと思ったが雑魚ばかりで時間の無駄だったな。」
暴言を吐くのは青春学園の理事長の息子の3年生、中村奏太(そうた)
「あいつら俺達に気づいて集まったと思ったら自信満々で練習始めやがったぜ。せっかく1時間かけてここまで走って来たんだし暗くなる前に近くの公園で練習でもしていくか?兄貴。」
こちらは2年生の弟、中村悠太(ゆうた)
「いや俺は帰って親父に報告してくる。二人でやってこい。」
「わかったよ、じゃあ行くか陽太。」
「うん!」
悠太は兄と別れて一年生の弟陽太(ようた)を連れて近くの公園に練習しに行くのだった。
愛知中学部員達も下校の時間になり片付けをし帰り始める。
「あの、青木先輩と大塚先輩。青春高校の野球部ってどういうチームなんですか?」
正夫が二人に問いかける。
「あの学校はな中等部と高等部があって理事長の息子が自分の学校に通うために作られた、まだ出来たばかりの学校だ。三兄弟が高校で甲子園に行くためにいい環境で練習させ強い選手を集めてるって噂だぜ。」
「嫌な感じだよな。暗くなれば照明もあるし雨が降れば室内の練習場もある。身体のケアする専門で雇ってる人もいるらしいぜ。」
「俺たちだって沢山練習してきたんだ。そんな恵まれた奴らには負けたくないんだよな。…蓮くんだったな。入る気になったらいつでもおいでよ。」
「…はい。」
興味のない話だけど今だけは少しだけ真剣に聞いていた蓮だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
夜7時過ぎて空が暗くなり始める頃の公園。
「兄ちゃん暗くなって来たね。」
「結構やったな。まだこっから1時間以上走るしそろそろ帰るか。」
と、二人が帰ろうとしたその時声をかけてきた少年がいた。
「あの、僕と勝負しませんか。」
「ん?…まあいいけど。」
(ちょうど良かった。二人だけで練習していてもつまんなかったしな。気晴らしにはなるか。)
見る限り背は150cm少しあるくらい。マウンドの位置に向かっていく少年の服装は愛知中学にいた生徒達の体操服だった。今年の優勝候補の青春学園に勝負を挑むのはなんと、蓮だったのだ。
「兄ちゃん僕にやらせてよ。明らかに僕と同い年くらいの人だ。ユニフォームも着てないしきっとメンバーにもなってないんだよ。」
弟に譲ろうと一瞬は思った悠太だったがそれを断る。
「いや俺がやる。あの愛知中学野球部達の自信たっぷりの練習を見てたらぶち壊したい気分になってたんだ。陽太キャッチャーをやれ。」
ちぇ。と不満そうな顔をしながらも渋々蓮のいる方へ向かう陽太。
「あの、変化球とかありますか?」
「ないよ。まっすぐだけでやる。」
変化球はないと知って挑むなんて馬鹿なのかと疑問に思う陽太だったが、右打席で構えた悠太の後ろに座りグローブを構える。
一球目、蓮は投げ出した。
パンッ!
「す、ストライク…」
「あ?なんだこの球は。」
球速90km。打つ気満々でいた悠太だったがそこら辺にいそうな小学生並みのヘボい球で拍子抜けてバットを振れない。
返されたボールを再び投げる二球目…
球速は95kmくらい。
「っ…!!」
キンッ!
ボールは一塁ベースのはるか右側にそれて転がっていく。
「ファール…」
(くそっ!今のは外角高めギリギリ。いやボールだったか?コントロールはいいらしいがあんなへぼい球に打つのを迷って振り遅れた!)
そして三球目、今度こそは絶対に打つと意気込む。
パンッ!!
「ストライク……三振…」
「それじゃあ…」
一打席勝負の決着がつき公園を出る蓮。
(なんだ今のは…完全に油断していたぜ。コントロールはよかったが最初の2球は3球目で三振を取るためにスピードを抑えて投げていたのか…)
「兄ちゃん…」
奇跡的にも全国レベルの相手に勝った蓮なのであった…
父の経営するダンススクールの手伝いが終わり一人公園で何かを確認しながらボールを投げる蓮。
球速は90kmそこそこ。
中学一年生としては控えめに言って並中の並のスピード。
いや、やっぱりピッチャーでそのスピードは並以下かもしれない。
「結構速いかも…」
それでも蓮は嬉しそうだった。
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ここは野球が強いことで知られる愛知県。
蓮は学校が終わり友達の山田正夫(まさお)と帰っていた。
「夏の大会うちの野球部が市内で一位だったんだぜ。これから県大会が始まるんだ。」
「すげえな」
「そういえば蓮は何で部活入らないんだよ。野球部楽しいぜ。」
「俺はお小遣い貰う為にダンススクールの手伝いで忙しいからな」
「なんだよそれ…」
全く興味なさそうに答える蓮にため息をつく正夫。
「小学4年生になって俺がクラブチーム入るまではいつも野球して遊んでたじゃないか。」
「あん時は楽しかったけどもう今やってもつまんないだろうなぁ。」
「そんなわけあるかよ…そうだ、明日野球部の見学に来て見ろよ。先輩達には話しておくからさ、んじゃまた明日な!」
「おい…」
強引に話を進めて逃げるように帰っていく正夫に今度は蓮がため息をつくのだった…
家に帰り父が趣味(本業)で開いているダンススクールの時間になり他の子達のトレーニングを眺めながら時には鏡に移る自分の動きを見ながら時間を潰す。
そして本日のレッスンが終わり掃除を始めている時にふと明日の見学のことを思い出し父に話しかける。
「あのさ、父ちゃん。明日友達と約束があって帰り遅くなるかもしんない。」
「遅くまで遊ぶのは良いけどいつもの日課サボったら小遣いやんねーからな。」
「わかってるよ…」
話を終えてまた掃除を再開する。
「蓮くん明日お友達と遊びに行くの?」
「?…なんだ、凛まだいたのか」
忘れ物をしたと戻ってきた彼女は山田凛。ダンススクールに通う蓮の幼なじみだ。
「遊びに行くわけじゃないよ。正夫に少し強引に言われて野球部の見学に行くんだ。」
「え!とうとう蓮くん野球を始めるの!?」
「いや違うよ。野球って一人だけじゃないだろ?難しそうだし練習も沢山あるしな。やりたくな…」
「え~でも、もし野球部に入って凄く強くなっちゃって高校生で甲子園に行っちゃったらどうしよう!?凛はチアガールになって応援しようかな!!」
「俺やるなんて言ってないんだけど…」
一人で騒ぐ凛にブツブツと呟きながらまたため息をつく蓮だった。
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次の日授業が終わり蓮は正夫と一緒にグラウンドへ向かうと先に来ていた部員達が練習を始めていた。
すると蓮達に気づき近づいてくる部員がいた。
「君が体験入部したいって言う子か!野球部へようこそ、歓迎するぞ」
と蓮に上から目線で入部するも同然かのように話しかけてくる部員はここの愛知中学校野球部のキャプテン、青木だ。
「この人がキャッチャーを務めるキャプテンの青木先輩だぞ!」
「…あの、僕野球のことあまり知らなくて…キャッチャーって確かピッチャーの球を取るところですよね?」
(…あれ?正夫から聞いた話だと、小学校3年生まで一緒に野球をしていて中々センスのある奴だったって言ってたけどな。ま、いいか。)
「ああ!で、あそこで投げてるのがうちのエースだ。県大会出場投手の実力、よく見てみるといいぞ」
自慢げに投球練習をしているエースを紹介して自分達の実力を見せつけられることに満足そうな青木。
「随分と自信満々に話してたじゃないか。」
どこから会話が聞こえていたのか影に隠れて盗み聞きしていたのか監督が青木の方へ近寄ってきた。
「監督…そりゃあ市内で一番強い野球部のエースですからね。」
「たまたま今回市内一位だったからって今まで常に負けなしだった訳じゃないだろ?」
そんなことを言われても自分達は強いチームであると変わらない表情の青木。
「俺の時代の時のキャプテンはな、凄いバッターだったよ。どんなピッチャーだろうが必ずバットに当てていく。三振したところなんて一度だって見たことなかったな。残念なことに強豪校には進学せずに地元の高校でマイペースに野球を楽しむような奴だったからプロには行けなかったが俺は今でもプロで通用すると思ってる。」
「そ、そんな真剣にやってないやつがどんな球も打てるなんて…」
「とにかく動きに無駄が全くない完璧なフォームだったな…あいつと俺がコンビを組んで他校の野球部に恐れられてたのが懐かしいな!久々に連絡でもとってやるかな!ははははは!」
青木は自分の中学校が一度も全国の舞台に立っていないのを知っていた。
自慢げな監督の話を聞き、そこまでの選手がいながら当時のチームが全国に行けなかったのは監督や他のメンバーが足を引っ張っていたからだと悟る青木だった…
そのころ蓮達はエースの投球練習を見ていた。
(へっへっへ!俺の投げる球を見て驚いてるな)
「すげえだろ?大塚先輩のストレートmax115kmもあるんだぜ。それにカーブとスライダーも。」
「…凄いのか、あれは。」
解説付きでエースの大塚先輩のバシバシと投げ込むところを見せつけられても興味ない蓮。
監督は青木とグラウンドから離れてかつての戦友に電話をかけていた。
「久しぶりだな、直樹。今野球部の生徒の子と昔のお前の話をしていたとこだ。」
「そうなのか。で、なんの用だ?」
「今見学に来てるんだよ、お前の息子が。」
監督のかつての戦友、直樹は蓮の父親だった。
「蓮が?昨日約束があるとか言ってたけど見学しに行ってたのか。あいつ野球なんかに興味ないはずだけどな」
「でもこれをきっかけにはじめてくれればいいんだけどな。あの子達が中学上がる前に野球やらせてるって言ってたよな?」
監督は定期的に直樹と連絡を取り合っていて蓮が野球をかじっていることは少しは知っていた。
「…無理やりだけどな。だからこの先部活入るかわかんねえけどな。最初は遊び半分でやらせてたしそこまで強制する気もないからやらなかったらそこまでだな。」
「おいおい、勿体無い事言うなよ。お前の息子なんだからちゃんと練習させりゃいい選手になりそうだろうが。」
「…というか、今でも充分全国レベルにはなってるがな。あいつは嫌々でも自主的に投げ込みやってんだ。」
「なんだと!?本当かそれは!?」
「本当だ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「皆集まってくれ!」
青木が部員達を呼び出す。
そして円になると青木は話しだした。
「県大会一回戦目であたる青春高校のやつらが偵察に来てるぞ。」
「ええ!今年の夏の大会優勝候補の青春高校がですか?」
「きっと今年の俺たちが手強いことを知って来てんだ。愛知中学も有名になったもんだな。構わず見せつけてやろうぜ!!」
市内大会を一位通過しただけで自意識過剰になる愛知中学部員達は自慢げに練習を見せつける。
グラウンドの外から眺めていた青春中学部員達はこんなことを話していた。
「優秀な奴がいたら高等部に誘ってやろうと思ったが雑魚ばかりで時間の無駄だったな。」
暴言を吐くのは青春学園の理事長の息子の3年生、中村奏太(そうた)
「あいつら俺達に気づいて集まったと思ったら自信満々で練習始めやがったぜ。せっかく1時間かけてここまで走って来たんだし暗くなる前に近くの公園で練習でもしていくか?兄貴。」
こちらは2年生の弟、中村悠太(ゆうた)
「いや俺は帰って親父に報告してくる。二人でやってこい。」
「わかったよ、じゃあ行くか陽太。」
「うん!」
悠太は兄と別れて一年生の弟陽太(ようた)を連れて近くの公園に練習しに行くのだった。
愛知中学部員達も下校の時間になり片付けをし帰り始める。
「あの、青木先輩と大塚先輩。青春高校の野球部ってどういうチームなんですか?」
正夫が二人に問いかける。
「あの学校はな中等部と高等部があって理事長の息子が自分の学校に通うために作られた、まだ出来たばかりの学校だ。三兄弟が高校で甲子園に行くためにいい環境で練習させ強い選手を集めてるって噂だぜ。」
「嫌な感じだよな。暗くなれば照明もあるし雨が降れば室内の練習場もある。身体のケアする専門で雇ってる人もいるらしいぜ。」
「俺たちだって沢山練習してきたんだ。そんな恵まれた奴らには負けたくないんだよな。…蓮くんだったな。入る気になったらいつでもおいでよ。」
「…はい。」
興味のない話だけど今だけは少しだけ真剣に聞いていた蓮だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
夜7時過ぎて空が暗くなり始める頃の公園。
「兄ちゃん暗くなって来たね。」
「結構やったな。まだこっから1時間以上走るしそろそろ帰るか。」
と、二人が帰ろうとしたその時声をかけてきた少年がいた。
「あの、僕と勝負しませんか。」
「ん?…まあいいけど。」
(ちょうど良かった。二人だけで練習していてもつまんなかったしな。気晴らしにはなるか。)
見る限り背は150cm少しあるくらい。マウンドの位置に向かっていく少年の服装は愛知中学にいた生徒達の体操服だった。今年の優勝候補の青春学園に勝負を挑むのはなんと、蓮だったのだ。
「兄ちゃん僕にやらせてよ。明らかに僕と同い年くらいの人だ。ユニフォームも着てないしきっとメンバーにもなってないんだよ。」
弟に譲ろうと一瞬は思った悠太だったがそれを断る。
「いや俺がやる。あの愛知中学野球部達の自信たっぷりの練習を見てたらぶち壊したい気分になってたんだ。陽太キャッチャーをやれ。」
ちぇ。と不満そうな顔をしながらも渋々蓮のいる方へ向かう陽太。
「あの、変化球とかありますか?」
「ないよ。まっすぐだけでやる。」
変化球はないと知って挑むなんて馬鹿なのかと疑問に思う陽太だったが、右打席で構えた悠太の後ろに座りグローブを構える。
一球目、蓮は投げ出した。
パンッ!
「す、ストライク…」
「あ?なんだこの球は。」
球速90km。打つ気満々でいた悠太だったがそこら辺にいそうな小学生並みのヘボい球で拍子抜けてバットを振れない。
返されたボールを再び投げる二球目…
球速は95kmくらい。
「っ…!!」
キンッ!
ボールは一塁ベースのはるか右側にそれて転がっていく。
「ファール…」
(くそっ!今のは外角高めギリギリ。いやボールだったか?コントロールはいいらしいがあんなへぼい球に打つのを迷って振り遅れた!)
そして三球目、今度こそは絶対に打つと意気込む。
パンッ!!
「ストライク……三振…」
「それじゃあ…」
一打席勝負の決着がつき公園を出る蓮。
(なんだ今のは…完全に油断していたぜ。コントロールはよかったが最初の2球は3球目で三振を取るためにスピードを抑えて投げていたのか…)
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奇跡的にも全国レベルの相手に勝った蓮なのであった…
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