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3.星蘭群生地
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黒髪の青年は、耳付きの毛玉を追いかけて斜面を下る。他の2人もすぐ側に追い付いた。
「あの毛玉、どこまで行くつもりだろう?」
「……霧が出てきたな」
追いかけて斜面を下れば下るほど、霧は濃くなっていく。
「ここまで視界が悪いと危険やな。2人とも、あんまり離れんといてや」
「わかった」
「……ああ」
やがて、谷底へと到達した。
谷底には高い木々が生え、小さな森を形成している。山と木々が影を落とし、一帯は薄暗くなっていた。
耳付きの毛玉は、奥の広場でこちらの様子を伺っている。広場一帯がぼんやりと黄色に光っていた。甘ったるい香りが霧と同じ濃度で立ち込めている。
「これは、もう【闇月の森】に入ったのか」
銀髪のエルフが辺りを見回して言う。
「さっきの花の匂いだ」
黒髪の青年が奥へと踏み込む。他の2人も後に続いた。
木々が途切れた広場の一面に、黄色い花が群生していた。霧の中で、星屑に似た花が淡く光を放ち、風になびいている。幻想的な光景だった。
「ニュッ」
毛玉が耳で差し出した花を、黒髪の青年は屈んで手に取った。
「やっぱりこれ、探してた花か。すげえ、めちゃくちゃ咲いてる……貴重な花だって言ってなかったか?」
「言うとった……」
「ラッキーだな」
じっとして耳を揺らしている毛玉を、黒髪の青年は、もふもふと撫でた。毛玉は逃げようともしない。
「ありがとな、これ探してたんだ」
「ニュ!」
「さてと、それじゃっ」
黒髪の青年は立ち上がると、肩から下げたカバンの口を開けた。
「さっそく採取しよう」
そのまま足元の10本ほどを摘み取り、カバンに放り込む。甘い香りがよりいっそう強くなった。
「このくらいあれば十分だよな?」
「そやな。少しあればいいって話やった」
「じゃ、帰ろ……」
言いながらカバンの口を閉めた青年の左腕に、シュルッと何かが巻き付く。
「……っ!?」
それはタコ足のような触手。霧の中に引きずり込まれそうになり、両足を踏ん張った。
「放せっ!」
すぐに右手で腰の剣を引き抜き、触手を断ち切る。ドロリとした液体が溢れ、引っ張る力が途切れる。切られてもなお腕に巻きつき離れない触手を、どうにか手で引き剥がした。
「うぇ、ヌルヌルするっ」
「気ぃつけや! まだおる」
空色の髪の青年が棒を振るい、周囲の霧を裂いた。
霧の間から、タコ型の魔物が数メートル先にいるのが垣間見えた。しかも1匹ではない。広場を囲んでウジャウジャと蠢いていた。
「う゛っ……やべぇ……」
黒髪の青年は、光景を見て絶句した。
「囲まれてるな」
一番後ろにいたエルフが淡々と告げる。
「数が多すぎるだろっ! いつの間にこんなにっ!」
また飛んできたタコ足を切り払いながら、黒髪の青年が叫ぶ。
「とにかく1体ずつ片付けていくしかない。お前はここにいろ、下手に動くなよ」
エルフの青年の声が、遠ざかっていく。
「確かに、ここからやと埒があかん。片付けてくるわ」
空色の髪の青年も、霧の中へと飛び出していった。
「え、マジ、かよ」
残された青年は、何度も霧の中から襲ってくるタコ足を、必死に切り伏せる。
「つーか、さっきから俺ばっかり狙ってるよな、こいつら!?」
「……花の匂いだろう! さっきの全部捨てろ!」
遠くから叫ぶエルフの声が聞こえた。しかし、黒髪の青年には、そんな余裕などまるでない。
ただ霧の中から現れるタコ足を切っては捨て、切っては捨てる。一瞬でも手を止めれば絡みつかれそうだった。
「花なんて、たくさんあるのに、なんで俺を、狙うんだよっ!」
ひたすら切ってもキリがなく、すぐに息が上がった。しかも、切るたびに断面から粘性のある液体が吹き出す。拭う暇すらない。
「ああ、もうっ!」
青年は、必死に剣を振るい続けた。
「あの毛玉、どこまで行くつもりだろう?」
「……霧が出てきたな」
追いかけて斜面を下れば下るほど、霧は濃くなっていく。
「ここまで視界が悪いと危険やな。2人とも、あんまり離れんといてや」
「わかった」
「……ああ」
やがて、谷底へと到達した。
谷底には高い木々が生え、小さな森を形成している。山と木々が影を落とし、一帯は薄暗くなっていた。
耳付きの毛玉は、奥の広場でこちらの様子を伺っている。広場一帯がぼんやりと黄色に光っていた。甘ったるい香りが霧と同じ濃度で立ち込めている。
「これは、もう【闇月の森】に入ったのか」
銀髪のエルフが辺りを見回して言う。
「さっきの花の匂いだ」
黒髪の青年が奥へと踏み込む。他の2人も後に続いた。
木々が途切れた広場の一面に、黄色い花が群生していた。霧の中で、星屑に似た花が淡く光を放ち、風になびいている。幻想的な光景だった。
「ニュッ」
毛玉が耳で差し出した花を、黒髪の青年は屈んで手に取った。
「やっぱりこれ、探してた花か。すげえ、めちゃくちゃ咲いてる……貴重な花だって言ってなかったか?」
「言うとった……」
「ラッキーだな」
じっとして耳を揺らしている毛玉を、黒髪の青年は、もふもふと撫でた。毛玉は逃げようともしない。
「ありがとな、これ探してたんだ」
「ニュ!」
「さてと、それじゃっ」
黒髪の青年は立ち上がると、肩から下げたカバンの口を開けた。
「さっそく採取しよう」
そのまま足元の10本ほどを摘み取り、カバンに放り込む。甘い香りがよりいっそう強くなった。
「このくらいあれば十分だよな?」
「そやな。少しあればいいって話やった」
「じゃ、帰ろ……」
言いながらカバンの口を閉めた青年の左腕に、シュルッと何かが巻き付く。
「……っ!?」
それはタコ足のような触手。霧の中に引きずり込まれそうになり、両足を踏ん張った。
「放せっ!」
すぐに右手で腰の剣を引き抜き、触手を断ち切る。ドロリとした液体が溢れ、引っ張る力が途切れる。切られてもなお腕に巻きつき離れない触手を、どうにか手で引き剥がした。
「うぇ、ヌルヌルするっ」
「気ぃつけや! まだおる」
空色の髪の青年が棒を振るい、周囲の霧を裂いた。
霧の間から、タコ型の魔物が数メートル先にいるのが垣間見えた。しかも1匹ではない。広場を囲んでウジャウジャと蠢いていた。
「う゛っ……やべぇ……」
黒髪の青年は、光景を見て絶句した。
「囲まれてるな」
一番後ろにいたエルフが淡々と告げる。
「数が多すぎるだろっ! いつの間にこんなにっ!」
また飛んできたタコ足を切り払いながら、黒髪の青年が叫ぶ。
「とにかく1体ずつ片付けていくしかない。お前はここにいろ、下手に動くなよ」
エルフの青年の声が、遠ざかっていく。
「確かに、ここからやと埒があかん。片付けてくるわ」
空色の髪の青年も、霧の中へと飛び出していった。
「え、マジ、かよ」
残された青年は、何度も霧の中から襲ってくるタコ足を、必死に切り伏せる。
「つーか、さっきから俺ばっかり狙ってるよな、こいつら!?」
「……花の匂いだろう! さっきの全部捨てろ!」
遠くから叫ぶエルフの声が聞こえた。しかし、黒髪の青年には、そんな余裕などまるでない。
ただ霧の中から現れるタコ足を切っては捨て、切っては捨てる。一瞬でも手を止めれば絡みつかれそうだった。
「花なんて、たくさんあるのに、なんで俺を、狙うんだよっ!」
ひたすら切ってもキリがなく、すぐに息が上がった。しかも、切るたびに断面から粘性のある液体が吹き出す。拭う暇すらない。
「ああ、もうっ!」
青年は、必死に剣を振るい続けた。
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