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一章 5人の婚約者

異性として好きにはならない

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 翌日、私はいつも通り家を出てガラウェルド学園へと向かった。解決するのなら早い方がいい。
 本当は放課後でも良かったのだけれど、放課後は早く帰宅する人も多い。授業が始まる前であれば、早い時間に今回私のいじめに関係している人はすでにクラスにいるはず。だから授業前に終わらせてしまおう。
 たとえ、その後クラスの空気が悪くなろうとも。

「あら、全員揃っているのね」

 教室の扉を開くと、私をいじめている人と5人の婚約者がすでにクラスにいた。関係ない人も何人かいるけれど、それはそれで構わない。

「馬鹿なの? どう見ても全員なんか揃っていないじゃないの」

 フレイの言葉にフレイの取り巻きが笑う。それを見て私は自分の机の上にカバンを置いて大きく溜息を吐いた。

「言い方を変えましょうか。私をいじめることに関わっている人が全員揃っているのね」

 その言葉に顔色を変えたのはフレイと取り巻きだけではなかった。今回関わりがない人も、こんな朝早くから何を言っているのだと言いたげな顔をしている。
 誰だって問題もなく一日を過ごしたいだろうから当たり前ではあるのだけれど。私はいじめをなくして快適に過ごしたいのだ。
 だから今日くらいは許してほしい。

「私をいじめる理由が私がローレンとの婚約を破棄して、貴方が結婚するためだなんて笑えるわよね。絶対結婚できるなんて保証もないのに。ね、フレイ」
「っ!」

 私が笑顔で言うとフレイはどうして知っているのかというような顔をして私を睨みつけてきた。けれど私が睨みだけで怯えるはずもない。それ以上のことをされているのだから、その程度じゃ何とも思わない。

「私ね、昨日レイラに話を聞いて来たの。フレイから離れられてとても嬉しそうだったわよ。今まで嫌だったことが見ただけでもわかるくらいに」

 そう言って私はダンを見た。何を言われるのかを理解したのだろう。ダンは目を逸らした。
 けれど私は逃がさない。

「ダン、何があったとしても私は貴方のことを異性として好きにはならない。婚約も今破棄させてもらうわ。貴方がやったことはとても残念だわ」
「お前が守ってほしいって!」
「守ってほしいなんて言ってないし、頼んでもないわ。それに、私が探しているのは貴方みたいな人ではない」
「探してる?」

 探している人がいることは知らなかったのだろう。私を守ってくれる人であれば結婚すると考えていたことがよくわかる。
 今回のいじめ騒動には関係ない、フレイのもう1人の婚約者であるローレンを見ると彼は私と目が合うと一度首を傾げた。そして大きく息を吐いた。

「貴様は俺様が次期国王候補だから俺と結婚したいんだろ? だが、俺様自身を見ずみ揚句に誰かをいじめる馬鹿は大嫌いだ。俺様は貴様が嫌いだ。どうあがいても結婚なんかするはずもないだろう」

 見下すようにフレイを睨みつけて言うローレンにフレイは何も言えないようだ。しかし、「私だって貴方みたいな人は大嫌いよ!」と目に涙を溜めて言った。

「それなら俺様も言おうか、貴様との婚約は破棄する。もう二度と関わるな」

 その言葉を聞いたフレイはまるで絶望したような顔をして教室を飛び出した。フレイを追いかける人は誰もいない。

「俺は、好きだから守ってやっていたのに……」
「思えば婚約者の中で誰よりも『守る』という言葉を使っていたのはダンだったのよね。それに、よく言う様になったと同時にいじめが起きた。頼んでもいないし、そんな気持ちだったから私はダンのことを異性としては好きになれなかった。5人の中で一番異性としては好きにならないと思っていたわ」
「俺は好きなんだ!」
「それを押しつけないで。私は私という1人の人間なの。いじめを持ちかけて、自分が守って好きになってもらおうなんて考えが可笑しいわ。それで結婚したとしても最悪な結婚だったでしょうね。私よりも、婚約者のフレイを支えてあげればいいじゃない」

 そう言って私は廊下を見た。フレイの姿は見えないけれど、その先にフレイがいるのだ。何も言わずに追いかけろという意味を込めたのだけれど、ダンは何も言わずに廊下へと出てフレイが向かった方へと走っていった。
 扉の陰からベルディア先生の服が見えたけれど、心配で様子を見に来たのかもしれないと思いながらも私は伸びをした。
 これでいじめの首謀者がいなくなった。いじめが無くなればいいけれど、もしかすると中にはストレス発散のためだけに私をいじめている人もいるかもしれない。それだけのために私をいじめているとすれば、やめさせることはできないかもしれない。
 でも。

「これでいじめは減るでしょう」

 フレイの取り巻きを見て言うと、取り巻きは気まずそうにしながら私から目を逸らすと関係ないとでも言うかのように自分の椅子に座り始めた。

「あれ? ベルディア先生どうしたんですか?」
「おお、ユシア嬢。今日はいつもより早いな」
「早起きしたので早めに来ました。そう言う先生も早いですね。教室に入らないんですか?」

 教室内の出来事を知らないユシアが、様子を見ていたベルディア先生に話しかける声が聞こえてきた。ベルディア先生はどうするか悩んでいるようだったけれど、ユシアと一緒に教室に入ってくると私を見た。
 私は何も言わずに小さく頷いた。それにベルディア先生も小さく頷き返してくれて、窓から外の様子を見て「今日は晴れてるな」と空を見上げて小さく呟いた。

「取り敢えず解決したみたいでよかったですね」
「そうね。いじめが無くなるかはわからないけれどね」

 ハロルドも同じことを思っていたようで「そうですね」と返してきた。

 チャイムが鳴る直前、フレイとダンが教室に戻ってきた。2人は決して私の方を見ようとはしなかった。
 謝ることもできない人だったことに正直がっかりした。フレイはともかくダンは謝ることくらいできるだろうと思っていたのに、それすらもない。
 こんな人が婚約者だったなんて、悲しい。フレイはローレンに謝る様子もない。二度と関わるなと言われたからかもしれないけれど、謝ることができない人が多いのかもしれないと思うと悲しくなってくる。
 悪いことをしたら謝るのが普通なのに。

「さて、お前ら今日から一週間頑張れよ」

 こんな気分で授業なんか受けられるかという意味を込めて睨みつけてくる人には、私が今までしたこともないような目つきで睨みつけた。
 私の気持ちなんかわからないでしょうと意味を込めたのだけれど、顔を痣馬手目を逸らしたことに正直気分がよかった。
 その相手が私をいじめていた1人なのだからなおさら。



―――――
次の話が終わりましたら2章となります。
友人としてダンのことは好きでしたが、これからは関わりがほとんどなくなります。元々ダンには退場してもらう予定でした。
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