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第23話:「最強の味方」

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 それは、麗が経営する会員制バーの開店時間前のこと…


「ヨースケ、このあいだ淹れてくれたミルクティーが飲みたいです。お願いできませんか?」

「ああ。あれ、すごく気に入ってたもんな。いいよ、ベルギア」

「レイは今日も綺麗だね」

「いやだわ、ルメアーノったら。褒められてもワタクシしかあげられないわよ?」

「それは光栄だね」

「アラ♡」


 そこかしこに、ハートが飛び交う夜のバーにヴェリキュス・ロ・ラベリッタは堪えきれず叫んだ。


「みなさんばっかり、ズルイです!!私だって、響さんと結ばれたい!」


 かなり切実な願いだった。
 なぜなら、ヴェリキュスの想い人である杜若響は大変鈍いからだ。

 己の恋心を自覚したヴェリキュスは響に振り向いてもらうべく自覚後、努力を続けていた。
 一生懸命に勉強した料理の腕を活かして愛情たっぷりのご飯を作ってあげたり、響のこういうところが素敵だと伝えてみたり…この関係が壊れるのが嫌で告白はできないものの少しでも自分を好きになってもらいたいと切実な努力を。

 だが、効果は一切なし。
 照れたような反応はするものの全然、意識してもらえている気配を感じられないのだ。


「そんな周りくどいアピールするくらいなら、サッサと好きだって言っちゃえばいいじゃないのよ」


 麗は呆れたように言葉を漏らした。


「それができたら、どんなにいいか…!告白して振られてしまったら気まずくなって、もう今のように一緒にいられなくなってしまうかもしれない…だから、勇気が出ないんです」


 想像するだけで、しょんぼりとしてしまう私に意外な人物、ベルギア様が口を開いた。


「では、皆でヴェリキュスが響にするアピール方法を考えてあげる…というのは、どうでしょうか?」


 慈しむように笑うベルギアの姿にヴェリキュスは目を輝かせた。


「ほ、本当ですか…っ!?」

「こらこら、ベルギア!何を勝手なこと言ってるのさ!これは彼らの問題なんだからオレたちが変に首を突っ込むのも…」


 言葉を制するようにして片手を上げたベルギア様の姿を見てモモさんは言葉を飲み込んだ。


「二人の問題なのかもしれませんが、ここで協力してあげない方が迷走してしまうとは思いませんか?」

「た、確かに…」


 モモさんは何か思い当たる節があるというように遠い目をしている。


「そういえば、この間もヴェリくん暴走してましたもね…」

「お酒を飲んでやりたい放題だったものね」

「お酒ってこの間の片喰さんに高いお酒をご馳走になった時のことですよね…?私、何かやらかしてしまいましたか?」


 情けない話、私はお酒が弱かったようで片喰さんからご馳走いただいた、お酒を一杯飲んだ辺りから記憶がないのだ。


「何も覚えてないっていうのが、恐ろしいっすよね…危うく死人を出しかけていたのに」

「ええ、そうね。響という死人がね」

「え!?し、死人!??わ、私は一体、何をしてしまったんですか…!?!?」


 物騒な言葉の数々に血の気が引くのを感じる。

 も、もしかして包丁でも振り回したりしたんだろうか…と震えていると片喰さんからツッコミが入る。


「何を考えてるんだか、だいたい想像つくけど、そういうのじゃないから落ち着きなさい」

「そうだぞ、ヴェリくん!君がやったのは響くんに抱きつくという所業だぞ~」

「だ、抱き……ッ?!!」

「アラ、アンタにしてはすんなり教えちゃうのね」

「だって、言わないとヴェリくん変な勘違いしそうじゃないですか~」

「それもそうね」


 モモさんと片喰さんが、そんな会話をされている横で私は響さんに抱きついたという所業に愕然としていた。


「ぜ、全然知らなかった…私はなんてことを……」

「響くんからは何も聞いていなかったのかい?」


 ルメアーノ様も会話に乗っかってくる。


「いえ、特には…あ、でも振り返ってみると朝、少し様子がおかしかったかもしれません」

「どういう風にです?」


 ベルギア様は不思議そうに首を傾げた。


「ええと…この間の片喰さんからご馳走いただいたお酒美味しかったですねってお話ししたら、だいぶ酔っ払っていたけど大丈夫かと聞かれて。正直、よく覚えていないとお伝えしたらひどく驚いて家出はいいけど外ではお酒を飲まない方がいいって止められましたね。てっきりよく覚えていないって私の発言にご心配されたのかと思っていましたが、私の酔っ払った際の言動のせいだったんですね…」


 深く反省している私を見て、ルメアーノ様とベルギア様は優しく笑った。


「なんだか微笑ましいね、ベルギア」

「そうですね、ルメアーノ。我々は比較的すぐに運命の相手と結ばれた故、このように相手に振り向いてもらいたくて思い悩むなどしていないですからね」


 楽しそうに笑うベルギア様をモモさんは愛おしそうに見つめた。
 片喰さんもルメアーノ様への溢れんばかりの愛を瞳に宿している。

…ああ、本当に羨ましい。
 もしも叶うなら、私も響さんにあんな瞳で見つめられてみたい。

 響さんのことを考えていると、モモさんと片喰さんは顔を見合わせて、やれやれと言わんばかりに肩をすくめた。


「ヴェリキュス。人の恋路に口出しをするのは、どうかと思っていたけれどワタクシたちはアナタに協力するわ」


 その言葉に私は喜びを隠しきれずにはいられなかった。


「ほ、本当ですかっ!?片喰さん、ルメアーノ様。モモさん、ベルギア様。本当にありがとうございます!!」


 かくして私は、とっても頼り甲斐のある味方を手に入れたのだった。




+++



「ふぇっくしゅん!」


 突然のくしゃみ。
 咄嗟に抑えることができたものの、急にくしゃみが出てきて我ながら驚く。


「風邪引いたかなー?最近、少し時間帯で気温差あるから、気をつけないとだな…」


 気のせいだろうか。
 ほんの少し、悪寒がするような気もする。


「くしゃみって言ったら、昔から人に噂されてる証拠って言ったりもするよな」


 くだらない独り言を言って笑いながら、俺はヴェリきゅんのいないリビングで寛いでいた。


「あれ、でもなんだろう。なんか…本当に嫌な予感とまでは言わないんだけど、なんか…よくないことが行われている気がする」


 響の勘が当たっていたと知るのは、この翌日のことだった。



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