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人肉世界⑭
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乙都のナイフが照明を受け、閃いた。
左手のカーテンが切り裂かれ、ばさりと音を立てて床に落ちた。
その向こうに、こちら側と瓜二つの空間が現れた。
が、違うのは、中央に置かれたベッドに、肉色の奇妙な物体が乗っていることである。
「うあああああああ…」
気色の悪い唸り声を上げているのは、その物体だった。
よく見ると、それは生きていた。
しかも、どうやら元は人間だったらしい。
年齢不詳の、禿頭の男である。
男は全裸で、手足がなかった。
肩と太腿のつけ根が切り株状になり、切断面を覆った肉が豚饅のような形に盛り上がっている。
奇怪なのは、それだけではなかった。
男は両のまぶたと口を、二度と開かないように、赤い糸で縫いつけられているのだ。
まるで凄惨な修行に耐える苦行僧のような感じだった。
しかも男の首には鎖が四本巻きつき、反対側の端が四方のベッドの脚にくくりつけられている。
「ひ、ひどい…誰が、こんなことを?」
蓮月はあやうく手にしたサイトカインを取り落としそうになった。
敵というには、その”囚人”は、あまりにも痛々しい。
この様子は、むしろ犠牲者か囚人というべきだろう。
乙都はそれには答えず、通路側のカーテンを引き開けると、続く一連の動作で正面の区画を隠したもう一枚のカーテンを切り裂いた。
うめき声が高まった。
現れたベッドの上で身悶えするのは、案の定、こちらと同じ、手足を切断された全裸の男である。
男はやはり四本の鎖でベッドに繋がれ、半身を起こした状態で苦しげに呻いている。
その目と口が糸で縫われているのも、こちらのベッドの囚人と同様だった。
「性器がない」
ふたりの囚人を見比べていた乙都が、やがてぽつりと言った。
「見て。彼らの股間を」
蓮月はのろのろと視線を動かした。
言われてみれば、そうだった。
ふたりの股間には、あるべきところに突起物がなく、代わりにやけどの跡のような引き攣れができていた。
あたかも、頭の狂った外科医に、陰茎と睾丸を切除されたかのような、そんな無残な様相を呈しているのだ。
「探している? ここは男が少ないから?」
乙都がひとり言のようにつぶやいた。
「つまり、このふたりは希少な男性患者? もしくは男性医師なのかも」
「何ぶつぶつ言ってるの? あたし、もうひとつのベッドが、気になってならないんだけど…」
通路の真ん中に立ったまま動かない乙都に、蓮月はそう声をかけずにはいられなかった。
カーテンで仕切られた区画は、もうひとつある。
入口から見て右奥、つまり、コンドーサンのベッドの真向かいだ。
ふたつの区画の間の壁には本来は窓があるはずだが、こちら側の世界の病室にはそれがない。
人間の皮膚でできたような、産毛の生えた壁が、一面を覆っているだけだ。
その壁の向かって右側にあるカーテンは、今、風もないのに、かすかに揺れている。
そう、まるでその向こうに何者かかが潜んでいて、じっと蓮月たちの様子をうかがっているかのように。
「そこだけ声がしないでしょ? おかしいと思わない?」
乙都がうなずき、問題の一画に向き直った。
その刹那ー。
ふいにカーテンがめくれ上がり、乙都を包むように頭から落ちかかった。
そして、蒸気を噴き出すような重低音が、大気を震わせた。
左手のカーテンが切り裂かれ、ばさりと音を立てて床に落ちた。
その向こうに、こちら側と瓜二つの空間が現れた。
が、違うのは、中央に置かれたベッドに、肉色の奇妙な物体が乗っていることである。
「うあああああああ…」
気色の悪い唸り声を上げているのは、その物体だった。
よく見ると、それは生きていた。
しかも、どうやら元は人間だったらしい。
年齢不詳の、禿頭の男である。
男は全裸で、手足がなかった。
肩と太腿のつけ根が切り株状になり、切断面を覆った肉が豚饅のような形に盛り上がっている。
奇怪なのは、それだけではなかった。
男は両のまぶたと口を、二度と開かないように、赤い糸で縫いつけられているのだ。
まるで凄惨な修行に耐える苦行僧のような感じだった。
しかも男の首には鎖が四本巻きつき、反対側の端が四方のベッドの脚にくくりつけられている。
「ひ、ひどい…誰が、こんなことを?」
蓮月はあやうく手にしたサイトカインを取り落としそうになった。
敵というには、その”囚人”は、あまりにも痛々しい。
この様子は、むしろ犠牲者か囚人というべきだろう。
乙都はそれには答えず、通路側のカーテンを引き開けると、続く一連の動作で正面の区画を隠したもう一枚のカーテンを切り裂いた。
うめき声が高まった。
現れたベッドの上で身悶えするのは、案の定、こちらと同じ、手足を切断された全裸の男である。
男はやはり四本の鎖でベッドに繋がれ、半身を起こした状態で苦しげに呻いている。
その目と口が糸で縫われているのも、こちらのベッドの囚人と同様だった。
「性器がない」
ふたりの囚人を見比べていた乙都が、やがてぽつりと言った。
「見て。彼らの股間を」
蓮月はのろのろと視線を動かした。
言われてみれば、そうだった。
ふたりの股間には、あるべきところに突起物がなく、代わりにやけどの跡のような引き攣れができていた。
あたかも、頭の狂った外科医に、陰茎と睾丸を切除されたかのような、そんな無残な様相を呈しているのだ。
「探している? ここは男が少ないから?」
乙都がひとり言のようにつぶやいた。
「つまり、このふたりは希少な男性患者? もしくは男性医師なのかも」
「何ぶつぶつ言ってるの? あたし、もうひとつのベッドが、気になってならないんだけど…」
通路の真ん中に立ったまま動かない乙都に、蓮月はそう声をかけずにはいられなかった。
カーテンで仕切られた区画は、もうひとつある。
入口から見て右奥、つまり、コンドーサンのベッドの真向かいだ。
ふたつの区画の間の壁には本来は窓があるはずだが、こちら側の世界の病室にはそれがない。
人間の皮膚でできたような、産毛の生えた壁が、一面を覆っているだけだ。
その壁の向かって右側にあるカーテンは、今、風もないのに、かすかに揺れている。
そう、まるでその向こうに何者かかが潜んでいて、じっと蓮月たちの様子をうかがっているかのように。
「そこだけ声がしないでしょ? おかしいと思わない?」
乙都がうなずき、問題の一画に向き直った。
その刹那ー。
ふいにカーテンがめくれ上がり、乙都を包むように頭から落ちかかった。
そして、蒸気を噴き出すような重低音が、大気を震わせた。
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