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#18 隠れ家
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丘を西に下った先に小川があり、その川をまたぐ橋を渡った先が真帆の言う隣町だった。
メモ用紙を片手に、電柱の住所表示を頼りに狭い路地を歩いた。
「それで仮に彼が捜査に協力してくれることになったとして、具体的にはどうするつもりなんっすか?」
肩を並べて歩きながら、瑠璃が訊く。
「犯人は、同じ町内に住んでる可能性が高いって気がするの。『アンジュ』のマスターが言ってたんだけど、顔見知りじゃなきゃ、いくら幼児とはいえ、騒がれずに三つ子を犯行現場に誘い込むのは不可能じゃないかって。あの子たちはまだ5歳だから、行動範囲がそんなに広いとは思えない。ならば、犯人と知り合った場所は、公園や幼稚園、あるいは自宅の近くに限られてくるんじゃないかしら。だから、もし健斗君がOKしてくれたら、町内をくまなく一緒に歩いてみようと思うの」
「なるほどー。町内一周くらいなら、日帰りでなんとかなるもんね」
「もちろん、そんな狭い範囲のことだから、警察の捜査も進展してるはずなんだけどね」
「それがさあ、ポチ1号の話だと、そうでもないみたいっすよ。現場はあんなに酷い有様なのに、指紋も遺留品もなくって、しかも目撃情報もないもんだから、捜査、難航してるんだって。廃業したコンビニの防犯カメラなんて動いてないだろうしさ、周りも鎮守の森しかないさびれたとこだから、監視カメラの映像も期待できないってわけ」
「だとすると、私のこの思いつきも、満更的外れじゃないかもしれないね。犯人の特定までは無理でも、せめて容疑者を絞りこめれば話はだいぶ違ってくるだろうし…」
「人権侵害や誹謗中傷、冤罪に発展しないよう、注意する必要はありますけどね」
「うん。だから、怪しい人物を見つけたら、後は警察にお任せしようと思ってる」
「健斗少年出陣の折は、自分も同行していいっすか? 用心棒ってことで」
「用心棒?」
私は、ひょろっとしておよそそれっぽくない瑠璃を横目で見た。
「自分、こう見えても、趣味、サバゲーなんで」
ちょっぴり得意そうに瑠璃が言う。
「サバゲーって?」
「サバイバルゲームの略っす」
「それが…何かの役に立つの?」
「さあ」
1時間近くぐるぐる歩き回った頃、瑠璃が突然足を止めた。
今時珍しい、モルタル2階建ての古いアパートの前だった。
地震が来たら真っ先に倒壊しそうな建物である。
「あった。ここだね、ここ」
メモとわきの電柱の住所を見比べて、瑠璃がうなずいた。
「日の出荘。間違いないっす。ここの1階4号室」
三輪車や洗濯機で足の踏み場もない通路を奥に進んだ。
104号室は一番奥だ。
ペンキのはがれたドア周辺には、表札もインターホンもない。
中に誰かいる証拠に、すりガラス越しに電灯がついているのが見える。
「あの、榊健斗君のお宅ですか。私、10年前、小学校の担任だった…」
ノックして、そこまで言った時だった。
内側に人の気配がして、ガチャリとドアが開いた。
隙間から、片目がのぞいた。
「桜色と…ん?」
少年の声が、言った。
その声が、驚いたように高くなる。
「はあん? なんだ、その色は?」
メモ用紙を片手に、電柱の住所表示を頼りに狭い路地を歩いた。
「それで仮に彼が捜査に協力してくれることになったとして、具体的にはどうするつもりなんっすか?」
肩を並べて歩きながら、瑠璃が訊く。
「犯人は、同じ町内に住んでる可能性が高いって気がするの。『アンジュ』のマスターが言ってたんだけど、顔見知りじゃなきゃ、いくら幼児とはいえ、騒がれずに三つ子を犯行現場に誘い込むのは不可能じゃないかって。あの子たちはまだ5歳だから、行動範囲がそんなに広いとは思えない。ならば、犯人と知り合った場所は、公園や幼稚園、あるいは自宅の近くに限られてくるんじゃないかしら。だから、もし健斗君がOKしてくれたら、町内をくまなく一緒に歩いてみようと思うの」
「なるほどー。町内一周くらいなら、日帰りでなんとかなるもんね」
「もちろん、そんな狭い範囲のことだから、警察の捜査も進展してるはずなんだけどね」
「それがさあ、ポチ1号の話だと、そうでもないみたいっすよ。現場はあんなに酷い有様なのに、指紋も遺留品もなくって、しかも目撃情報もないもんだから、捜査、難航してるんだって。廃業したコンビニの防犯カメラなんて動いてないだろうしさ、周りも鎮守の森しかないさびれたとこだから、監視カメラの映像も期待できないってわけ」
「だとすると、私のこの思いつきも、満更的外れじゃないかもしれないね。犯人の特定までは無理でも、せめて容疑者を絞りこめれば話はだいぶ違ってくるだろうし…」
「人権侵害や誹謗中傷、冤罪に発展しないよう、注意する必要はありますけどね」
「うん。だから、怪しい人物を見つけたら、後は警察にお任せしようと思ってる」
「健斗少年出陣の折は、自分も同行していいっすか? 用心棒ってことで」
「用心棒?」
私は、ひょろっとしておよそそれっぽくない瑠璃を横目で見た。
「自分、こう見えても、趣味、サバゲーなんで」
ちょっぴり得意そうに瑠璃が言う。
「サバゲーって?」
「サバイバルゲームの略っす」
「それが…何かの役に立つの?」
「さあ」
1時間近くぐるぐる歩き回った頃、瑠璃が突然足を止めた。
今時珍しい、モルタル2階建ての古いアパートの前だった。
地震が来たら真っ先に倒壊しそうな建物である。
「あった。ここだね、ここ」
メモとわきの電柱の住所を見比べて、瑠璃がうなずいた。
「日の出荘。間違いないっす。ここの1階4号室」
三輪車や洗濯機で足の踏み場もない通路を奥に進んだ。
104号室は一番奥だ。
ペンキのはがれたドア周辺には、表札もインターホンもない。
中に誰かいる証拠に、すりガラス越しに電灯がついているのが見える。
「あの、榊健斗君のお宅ですか。私、10年前、小学校の担任だった…」
ノックして、そこまで言った時だった。
内側に人の気配がして、ガチャリとドアが開いた。
隙間から、片目がのぞいた。
「桜色と…ん?」
少年の声が、言った。
その声が、驚いたように高くなる。
「はあん? なんだ、その色は?」
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