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66:おつかい
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アーベルがサンガレアの医学研究所で働き始めて早くも5日が過ぎた。義兄と同じ研究チームに所属することになったので、少し人見知りなアーベルとしてはかなり助かる。義兄は口数は少ないが、非常に愛妻家で優しい男である。研究チームは癖の強そうな者もいるが、なんとかうまくやっていけそうな雰囲気だったので、その事にも安堵した。アーベル以外は結婚しているか、恋人がいる者だけなので、変なちょっかいをかけられる可能性が低い。具体的な出向期間を教えてもらっていないが、どれだけの期間ここに所属するにせよ、人間関係がそれなりうまくいく方がいい。
ーーーーーー
アーベルは、休日は剣の鍛練か医療関係の本を読む以外は特にすることがない。祖父フーガは今日は仕事だ。父アルジャーノは飛竜に乗ってどこぞへ飛んでいる。アルジャーノに一緒に行かないか、と誘われたが、なんとなく気分じゃなかったので断った。飛竜の乗せてもらうのは好きだが、アルジャーノと2人きりになるのが、なんとなく嫌だった。
マーサ様の家の居間で、テーブルに頬をつけてぼーっとしていると、マーサ様がやって来た。
「あら?アーベル君だけ?」
「うん」
「あー。じゃあ、どうしようかしら……」
「どうしたの?」
「サーちゃんかドリーちゃんがいたら、おつかい頼もうと思ってたのよ。少し急ぎだし私が行ければいいんだけど、急に呼び出されちゃって。すぐ行かなきゃいけないの」
「じゃあ俺が行くよ」
「いいの?魔術研究所なんだけど、場所知ってる?」
「なんとなく?」
「んー。お願いしていいかしら?簡単な地図を渡すし、馬小屋にいる馬を使っていいから」
「うん」
「魔術研究所の所長に書類を直接渡してほしいの。その場で読んでもらって、メモ紙でもなんでもいいから書類に対する意見をもらってきてほしいわ。研究所の受付で私からだって言ってもらえたら、所長室まで案内してもらえるでしょうし」
「分かったよ。魔術研究所の所長って、確かフリオ叔父上の友達だよね」
「そうそう。本当ごめんねー。お願いするわ。すぐに書類を持ってくるわね」
「うん」
マーサ様がパタパタと書類を取りに走っていくのを見送り、アーベルはぐだーっとテーブルに伏していた身体を起こした。もしかしたら気分転換になるかもしれない。1人でいると後ろ向きな思考に支配されてしんどいのだ。かといって、誰かとずっと一緒にいるのもなんとなく嫌だ。面倒くさい自分に嫌気がさすが、どうしようもない。
戻ってきたマーサ様から分厚い書類の入った肩掛け鞄とメモ紙の地図をもらってから、アーベルは居間を出て、馬小屋へと向かい歩きだした。
地図を見ながら馬を走らせる。初夏の風が心地よい。今日は晴れているが、日差しがまだそこまでキツくないし、気温や湿度もそこまで高くないので過ごしやすい。
地図を時折確認しながら馬を走らせていると、かなり大きな建物が見えてきた。あれが魔術研究所だろう。馬を下りて門を通り、敷地の中に入ると、近くに馬小屋を見つけた。人がいたので乗ってきた馬を頼むと、快く預かってくれた。ついでに研究所内の受付の場所も聞いた。
研究所の建物に入ってすぐの所にカウンターがあって、2人の男がそこに座っている。『受付』と記された看板があったので、真っ直ぐそこへ向かう。受付にいた人に来訪した目的を告げると、所長室まで案内してくれることになった。受付の1人の後ろをついて歩いて、3階まで階段で上がり、所長室の前まで連れてきてもらった。受付に戻っていく案内してくれた人に軽くお礼を言ってから、アーベルは所長室のドアをノックした。
低い穏やかな優しい声が入室を促した。あ、よかった。優しい人っぽい。叔父のフリオの友達だから悪い人や怖い人ではないだろうとは思っていたが、声を聞く感じ、優しそうである。ちょっと安心である。
ドアを開けて中を覗き込むと、思わずアーベルは固まった。
部屋がきっったない。本棚はごちゃごちゃ。書類と思わしきものがあちこちに適当に積んであり、よく分からない器具や魔導具と思われるものがそこら辺に散乱、多分来客がある時や休憩に使われると思われるソファーには明らかに使用済みな毛布がぐちゃぐちゃに丸まっている上に、ローテーブルの上は本と書類で埋まっている。よくよく見れば、部屋の色んな所に脱ぎ散らかしたシャツやら使用済みっぽい靴下がいくつもある。きれい好きなアーベルが入りたくない程汚い。思わず顔をひきつらせるが、入らない訳にはいかない。部屋の主の顔は机の上の書類の山で見えない。
アーベルはおそるおそる部屋に入った。床に落ちているものを踏まないように気をつけながら、所長がいると思われる書類の山になっている机に向かい、正面に立った。
「……あの、マーサ様のおつかいで来ました」
「あぁ。マーサ様より話は伺っております。わざわざありがとうございました。アーベル様。とても助かります。私は魔術研究所所長をしておりますリカルド・ナーブルと申します」
「アーベルです」
柔らかい丁寧な話し方だ。なんとなく、ほっとしていると、椅子から立ち上がった所長の顔を見て、アーベルはピシッと固まった。
怖い。顔が怖い。ものすごく怖い。
全体の造りは整っている気がするが、目付きがヤバい。目付きが悪いを通り越して凶悪のレベルだ。少し薄目の眉と堀の深い目元、そして鋭すぎる目付き。完全に2、3人殺ってきました、みたいな目だ。失礼かもしれないが、凶悪犯罪者にしか見えない。なにこの人怖い。声に完全に騙された。油断していた分、衝撃が大きい。
アーベルが硬直してぷるぷるしていると、所長が首を傾げた。
「アーベル様?」
「うえっ!は、はい……」
「書類を見せていただいてもよろしいですか?書類への意見を、ということなので、少々お待ちいただくことになってしまい、とても申し訳ないのですが……」
「えっ、あ、いや、全然構わない……です……ど、どうぞ」
アーベルはぎこちない動きで肩掛け鞄から分厚い書類を取り出した。机の上は書類が山のようになっていて机越しでは渡せない。所長が机の前から離れて、アーベルのすぐ側に来て書類を受け取った。
「ありがとうございます。よろしかったらソファーに座ってお待ちください。すぐに読んでしまいますので。あ、お茶をお出ししますね」
「いやいやいや!お構い無く!本当、大丈夫なんでっ!」
「そうですか?」
「あ、はい」
きったないソファーに座るのは嫌だし、こんな汚い部屋で出てくるお茶も飲みたくない。目の前に立つ怖い顔は直接見なければいい。アーベルは所長の怖い顔から視線を外して、埃で白っぽくなっている床をじっと見た。パラパラと書類を捲る音を聞きながら、早く終われっ!と強く願う。穏やかな優しく丁寧な話し方をする男だが、兎に角顔が怖い。このきっったない部屋からも早く出たい。そう思って待っていると、所長室のドアが開いた。
「所長ー。第3研究室から報告が……って、あら?お客様ですか?」
「ミケーネ。アーベル様です。マーサ様のおつかいで来て下さいました」
「それはありがとうございます。って、所長。せめてソファーに座っていただいてくださいよ。あ、お茶をお持ちしますね」
「……あ、あの、お構い無く……」
入室してきた男の顔を見て、アーベルは思わずポカンとした。少しハスキーな低めの声からして男な筈である。しかし、どこからどう見ても女にしか見えない。それもとびきりの美女だ。
お茶を持ってくると言って出ていったミケーネと呼ばれた男を、ポカンとしたまま見送った。
「……すっげぇ美女」
男だけど。思わずボソッと呟いてしまった。美形な男女には見慣れているが、今まで見たことがある中でも余裕で上位に食い込む超美形だった。
「確かに見た目はいいですが、あまり近寄らない方がよろしいかと思います。中身は真性のド変態ですから」
「は?」
「家庭内ストーカーをして、毎朝旦那の使用済みのパンツの匂いを嗅ぎながらシコるのが日課な変態ですよ、あれ」
「なにそれ怖い」
「ミケーネは副所長でして。総合庁長官と結婚しております」
「はぁ……」
「世間では何故あんな美女のように美しいミケーネが厳ついオッサンの総合庁長官と結婚したのかと不思議がっていますが、私からすると何故総合庁長官があんなド変態と結婚したのかが不思議ですね。総合庁長官はとても常識のある普通の人なのですけど……」
「……顔?」
「いくら顔がよくても、あんな変態と長年結婚生活するなんて……私には無理ですね」
「えぇーと……そもそもなんで家庭内ストーカーしてるとか知ってるの……ですか?」
「疲れが一定以上溜まると、のろけだか変態自慢だか分からない話を垂れ流し始めるのです。ミケーネと一緒に働く者は皆知っておりますよ」
「えぇ……」
ドン引きである。あんなに美しい人が変態だなんて普通に嫌だ。
さらさらとペンを走らせる音がして、少し俯くアーベルの目の前にメモ紙が差し出された。
「こちらをマーサ様にお渡ししていただけますか?」
「あ、はい」
「よろしくお願いいたします」
アーベルはメモ紙を受け取ってから、きったない部屋から出た。
所長室のドアを閉めると、アーベルは廊下で大きな溜め息を吐いた。怖かった。顔がすっごく怖かった。メモ紙を受け取ったアーベルに所長が微笑んだのだが、今から殺ってきます、みたいな顔だった。怖い。叔父の友達だから多分顔ほど怖い人じゃないのだろうが、兎に角顔が怖かった。部屋もきったなかったし、2度と来ることはないと思うが、失礼かもしれないがもう会いたくないなと思ってしまう。それだけ顔が怖かった。
アーベルはメモ紙を失くさないように大事に肩掛け鞄に入れると、廊下を歩きだした。
なんにせよ、頼まれたおつかいは終わりである。あとはマーサ様にメモ紙を渡すだけだ。
アーベルは研究所から出て馬に乗ると、のんびり馬に揺られながら初夏のサンガレアの風を楽しんだ。
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アーベルは、休日は剣の鍛練か医療関係の本を読む以外は特にすることがない。祖父フーガは今日は仕事だ。父アルジャーノは飛竜に乗ってどこぞへ飛んでいる。アルジャーノに一緒に行かないか、と誘われたが、なんとなく気分じゃなかったので断った。飛竜の乗せてもらうのは好きだが、アルジャーノと2人きりになるのが、なんとなく嫌だった。
マーサ様の家の居間で、テーブルに頬をつけてぼーっとしていると、マーサ様がやって来た。
「あら?アーベル君だけ?」
「うん」
「あー。じゃあ、どうしようかしら……」
「どうしたの?」
「サーちゃんかドリーちゃんがいたら、おつかい頼もうと思ってたのよ。少し急ぎだし私が行ければいいんだけど、急に呼び出されちゃって。すぐ行かなきゃいけないの」
「じゃあ俺が行くよ」
「いいの?魔術研究所なんだけど、場所知ってる?」
「なんとなく?」
「んー。お願いしていいかしら?簡単な地図を渡すし、馬小屋にいる馬を使っていいから」
「うん」
「魔術研究所の所長に書類を直接渡してほしいの。その場で読んでもらって、メモ紙でもなんでもいいから書類に対する意見をもらってきてほしいわ。研究所の受付で私からだって言ってもらえたら、所長室まで案内してもらえるでしょうし」
「分かったよ。魔術研究所の所長って、確かフリオ叔父上の友達だよね」
「そうそう。本当ごめんねー。お願いするわ。すぐに書類を持ってくるわね」
「うん」
マーサ様がパタパタと書類を取りに走っていくのを見送り、アーベルはぐだーっとテーブルに伏していた身体を起こした。もしかしたら気分転換になるかもしれない。1人でいると後ろ向きな思考に支配されてしんどいのだ。かといって、誰かとずっと一緒にいるのもなんとなく嫌だ。面倒くさい自分に嫌気がさすが、どうしようもない。
戻ってきたマーサ様から分厚い書類の入った肩掛け鞄とメモ紙の地図をもらってから、アーベルは居間を出て、馬小屋へと向かい歩きだした。
地図を見ながら馬を走らせる。初夏の風が心地よい。今日は晴れているが、日差しがまだそこまでキツくないし、気温や湿度もそこまで高くないので過ごしやすい。
地図を時折確認しながら馬を走らせていると、かなり大きな建物が見えてきた。あれが魔術研究所だろう。馬を下りて門を通り、敷地の中に入ると、近くに馬小屋を見つけた。人がいたので乗ってきた馬を頼むと、快く預かってくれた。ついでに研究所内の受付の場所も聞いた。
研究所の建物に入ってすぐの所にカウンターがあって、2人の男がそこに座っている。『受付』と記された看板があったので、真っ直ぐそこへ向かう。受付にいた人に来訪した目的を告げると、所長室まで案内してくれることになった。受付の1人の後ろをついて歩いて、3階まで階段で上がり、所長室の前まで連れてきてもらった。受付に戻っていく案内してくれた人に軽くお礼を言ってから、アーベルは所長室のドアをノックした。
低い穏やかな優しい声が入室を促した。あ、よかった。優しい人っぽい。叔父のフリオの友達だから悪い人や怖い人ではないだろうとは思っていたが、声を聞く感じ、優しそうである。ちょっと安心である。
ドアを開けて中を覗き込むと、思わずアーベルは固まった。
部屋がきっったない。本棚はごちゃごちゃ。書類と思わしきものがあちこちに適当に積んであり、よく分からない器具や魔導具と思われるものがそこら辺に散乱、多分来客がある時や休憩に使われると思われるソファーには明らかに使用済みな毛布がぐちゃぐちゃに丸まっている上に、ローテーブルの上は本と書類で埋まっている。よくよく見れば、部屋の色んな所に脱ぎ散らかしたシャツやら使用済みっぽい靴下がいくつもある。きれい好きなアーベルが入りたくない程汚い。思わず顔をひきつらせるが、入らない訳にはいかない。部屋の主の顔は机の上の書類の山で見えない。
アーベルはおそるおそる部屋に入った。床に落ちているものを踏まないように気をつけながら、所長がいると思われる書類の山になっている机に向かい、正面に立った。
「……あの、マーサ様のおつかいで来ました」
「あぁ。マーサ様より話は伺っております。わざわざありがとうございました。アーベル様。とても助かります。私は魔術研究所所長をしておりますリカルド・ナーブルと申します」
「アーベルです」
柔らかい丁寧な話し方だ。なんとなく、ほっとしていると、椅子から立ち上がった所長の顔を見て、アーベルはピシッと固まった。
怖い。顔が怖い。ものすごく怖い。
全体の造りは整っている気がするが、目付きがヤバい。目付きが悪いを通り越して凶悪のレベルだ。少し薄目の眉と堀の深い目元、そして鋭すぎる目付き。完全に2、3人殺ってきました、みたいな目だ。失礼かもしれないが、凶悪犯罪者にしか見えない。なにこの人怖い。声に完全に騙された。油断していた分、衝撃が大きい。
アーベルが硬直してぷるぷるしていると、所長が首を傾げた。
「アーベル様?」
「うえっ!は、はい……」
「書類を見せていただいてもよろしいですか?書類への意見を、ということなので、少々お待ちいただくことになってしまい、とても申し訳ないのですが……」
「えっ、あ、いや、全然構わない……です……ど、どうぞ」
アーベルはぎこちない動きで肩掛け鞄から分厚い書類を取り出した。机の上は書類が山のようになっていて机越しでは渡せない。所長が机の前から離れて、アーベルのすぐ側に来て書類を受け取った。
「ありがとうございます。よろしかったらソファーに座ってお待ちください。すぐに読んでしまいますので。あ、お茶をお出ししますね」
「いやいやいや!お構い無く!本当、大丈夫なんでっ!」
「そうですか?」
「あ、はい」
きったないソファーに座るのは嫌だし、こんな汚い部屋で出てくるお茶も飲みたくない。目の前に立つ怖い顔は直接見なければいい。アーベルは所長の怖い顔から視線を外して、埃で白っぽくなっている床をじっと見た。パラパラと書類を捲る音を聞きながら、早く終われっ!と強く願う。穏やかな優しく丁寧な話し方をする男だが、兎に角顔が怖い。このきっったない部屋からも早く出たい。そう思って待っていると、所長室のドアが開いた。
「所長ー。第3研究室から報告が……って、あら?お客様ですか?」
「ミケーネ。アーベル様です。マーサ様のおつかいで来て下さいました」
「それはありがとうございます。って、所長。せめてソファーに座っていただいてくださいよ。あ、お茶をお持ちしますね」
「……あ、あの、お構い無く……」
入室してきた男の顔を見て、アーベルは思わずポカンとした。少しハスキーな低めの声からして男な筈である。しかし、どこからどう見ても女にしか見えない。それもとびきりの美女だ。
お茶を持ってくると言って出ていったミケーネと呼ばれた男を、ポカンとしたまま見送った。
「……すっげぇ美女」
男だけど。思わずボソッと呟いてしまった。美形な男女には見慣れているが、今まで見たことがある中でも余裕で上位に食い込む超美形だった。
「確かに見た目はいいですが、あまり近寄らない方がよろしいかと思います。中身は真性のド変態ですから」
「は?」
「家庭内ストーカーをして、毎朝旦那の使用済みのパンツの匂いを嗅ぎながらシコるのが日課な変態ですよ、あれ」
「なにそれ怖い」
「ミケーネは副所長でして。総合庁長官と結婚しております」
「はぁ……」
「世間では何故あんな美女のように美しいミケーネが厳ついオッサンの総合庁長官と結婚したのかと不思議がっていますが、私からすると何故総合庁長官があんなド変態と結婚したのかが不思議ですね。総合庁長官はとても常識のある普通の人なのですけど……」
「……顔?」
「いくら顔がよくても、あんな変態と長年結婚生活するなんて……私には無理ですね」
「えぇーと……そもそもなんで家庭内ストーカーしてるとか知ってるの……ですか?」
「疲れが一定以上溜まると、のろけだか変態自慢だか分からない話を垂れ流し始めるのです。ミケーネと一緒に働く者は皆知っておりますよ」
「えぇ……」
ドン引きである。あんなに美しい人が変態だなんて普通に嫌だ。
さらさらとペンを走らせる音がして、少し俯くアーベルの目の前にメモ紙が差し出された。
「こちらをマーサ様にお渡ししていただけますか?」
「あ、はい」
「よろしくお願いいたします」
アーベルはメモ紙を受け取ってから、きったない部屋から出た。
所長室のドアを閉めると、アーベルは廊下で大きな溜め息を吐いた。怖かった。顔がすっごく怖かった。メモ紙を受け取ったアーベルに所長が微笑んだのだが、今から殺ってきます、みたいな顔だった。怖い。叔父の友達だから多分顔ほど怖い人じゃないのだろうが、兎に角顔が怖かった。部屋もきったなかったし、2度と来ることはないと思うが、失礼かもしれないがもう会いたくないなと思ってしまう。それだけ顔が怖かった。
アーベルはメモ紙を失くさないように大事に肩掛け鞄に入れると、廊下を歩きだした。
なんにせよ、頼まれたおつかいは終わりである。あとはマーサ様にメモ紙を渡すだけだ。
アーベルは研究所から出て馬に乗ると、のんびり馬に揺られながら初夏のサンガレアの風を楽しんだ。
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