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89:元彼登場

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フェリはサンガレアの家に帰ってきていた。現在サンガレアは夏のど真ん中である。春から小学校に通い始めたジェラルドも、今は小学校の夏休みで昼間も家にいる。ブラコンなアンジェラは毎日昼間もジェラルドと一緒なので、ものすごく機嫌がいい。ジェラルドが小学校に通い始めた1ヶ月目くらいは、アンジェラが毎日拗ねて大変だったそうだ。
ジェラルドは小学校の新聞部に入ったらしい。好きな女の子が入ったからだそうだ。入部理由は不純だが、それはそれでいいと思う。少し早めの青春である。

台所でロヴィーノと一緒に朝食の後片付けをしていると、ジェラルドが台所にやって来て、フェリの腰に抱きついた。


「ねー。母上」

「んー?」

「明日アデルをうちに連れてきていい?こないださ、魔術研究所に取材で新聞部皆で行ったんだ。それで記事を書くんだけど、俺アデルと合同なんだよ。うちでやりたい」

「アデル……あー。お前が可愛いって言ってた女の子か」

「そう」

「俺は別に構わないよ。クラウディオとジャンにも聞いたか?」

「まだ」

「じゃあ、聞いてこいよ」

「うん」


ジェラルドがフェリの腰から離れて、パタパタ走ってクラウディオ達の元へと行った。なんだか微笑ましい気分になる。合同で記事を書くってことは順調に仲良くなっているみたいだ。


「母上。明日はケーキを焼いた方がいいですね」

「だなぁ。俺まだ噂のアデルちゃん見たことがないんだよな」

「俺もです。明日が楽しみですね」

「なー」


のほほんとロヴィーノと会話しつつ、後片付けを終えた。アンジェラが妬かなければいいが。ジェラルドがまた走って来て、フェリに抱きついた。


「父上も父様もいいって!」

「お!よかったなぁ」

「うん」

「あ、じゃあ今日は部屋の掃除をしとけよ。散らかってると恥ずかしいぞ」

「はーい」

「明日はどうやってアデルちゃんを連れてくるんだ?」

「本当は街の図書館でやる予定なんだ。でも図書館って話ながら記事の中身を決めたりとかしにくいし。うちでやった方が絶対いいよ」

「まあな」

「街の図書館集合ってこないだ決めたから、図書館で合流してから、うちに連れてくる」

「じゃあ、俺が馬を出そう」

「ロヴィーノ」

「いいの!?ロヴィ兄上!」

「あぁ。子供2人なら1頭でも乗れるだろ」

「やったぁ!」

「ははっ。明日が楽しみだな、ジェラルド」

「うん!俺掃除してくるっ!」


パタパタとまた走っていったジェラルドを見送り、フェリは小さく微笑んだ。






ーーーーーー
翌日。
起きた時からずっとソワソワしているジェラルドを一緒に馬に乗せて、ロヴィーノが街の図書館へと向かうのを玄関先で見送った。
置いていかれたアンジェラはむくれている。頬を膨らませているアンジェラの頭を優しく撫でて、家の中に入った。
今日はクラウディオが休みなので、クラウディオがケーキを焼くことになった。今日はチーズケーキを作るらしい。毎年大量に作る木苺ジャムを添えて食べるそうだ。

ケーキが焼き上がり、冷やしている時にジェラルド達が帰ってきた。フェリは急いで玄関に向かった。噂のアデルちゃんが見たい。


「おかえりー」

「「ただいま」」

「お邪魔します」

「えっと、お邪魔します」


フェリはちょっと目を丸くした。ロヴィーノと子供達だけかと思っていたが、軍人っぽいかなりのイケメンも一緒である。フェリは首を少し傾げながら、とりあえず自己紹介した。


「ジェラルドの母親のフェリだよ。よく来てくれたね」

「あ、えっと、はじめまして。アデル・アンダーソンです」

「はじめまして。よろしくな」

「はい」

「お初にお目にかかります。バード・アンダーソンと申します。アデルの父親です。この度はお招き誠にありがとうございます」

「これはご丁寧にどうも」


なんとも爽やかなイケメンである。少しタレ目な感じが親しみやすく、背も高くて、声が渋めの美声である。これ絶対モテるな……とフェリは確信した。アデルは目元がバードに似ているとても可愛らしい顔立ちの女の子だ。少し癖のある明るい茶髪をツインテールにしていて、それがよく似合っている。
いつまでも玄関にいても仕方がないので、皆で居間に移動した。
とりあえずバード父娘をソファーに座らせると、お盆を持ったクラウディオが台所からやって来た。


「いらっしゃい……って、な、な、な……」

「クラウディオ?」

「なんっでお前がいるんだ!バード!」


にこやかに居間に入ってきたクラウディオが驚愕の顔で、ビシッとバードを指差した。指を指されたバードは先程の爽やかさをどこかにやったのか、なにやらニヤニヤしている。


「娘が男と2人で会うって言うもんでな。心配でついてきちゃった」

「はぁ!?娘って、もしかしてアデルちゃんか?お前結婚したのかよ」

「あぁ。俺の娘ちょー可愛いだろ?」

「お前グレードに赴任中の筈だろ?」

「今年の春から本部勤務なんですよ。クラウディオ分隊長殿」

「……うっそだろ、おい」


クラウディオがものすごーく渋い顔をした。知り合いなのだろうか。


「父上」

「ん?」

「アデルのお父さんと知り合いなの?」

「……まぁ、国軍時代からの同僚……みたいな」

「正直に元彼って言えよ、クラウディオ」

「「はぁっ!?」」

「おいバードてめぇ!」

「アデル。もとかれって何か知ってる?」

「前の彼氏のことよ」

「ねー。アデルのお父さん」

「ん?なんだい、ジェラルド君」

「父上と恋人だったの?」

「昔ね」

「「へー」」

「俺にとっては単なる黒歴史だクソ野郎。アデルちゃん置いて今すぐ出ていけクソ野郎。帰りは送るし」

「はっはっは。それは無理な相談だな、ハニー」

「誰がハニーだ。殺すぞクソが」

「俺が可愛い愛娘を男と2人きりになんてさせるわけがないだろう?不埒な真似をしないか、バッチリ監視しとかないと」

「7歳児が不埒な真似するわけないだろうが馬鹿野郎」

「あ、俺的には手を握るのも駄目だから」

「心狭すぎだぞ」

「あ、クラウディオは俺の手を握ってもいいぞ?」

「くたばれ」

「やれやれ……昔はあんなに可愛かったのに」

「消え失せろ」


何だか訳がわからないことになってきた。
フェリはポリポリ頭を軽く掻いて、バードを睨み付けているクラウディオからお盆を取り上げ、先に子供達にお茶とケーキをあげた。


「2人とも積もる話があるなら外でやれよ。ジェラルドとアデルちゃんは新聞記事書くためにうちに来たんだから」

「いえいえ、フェリ様。俺はアデルといますので」

「……ちょーっと表出ろやクソ野郎」

「断る。俺のアデルを男と2人きりにはさせん」

「だからまだ7歳だろうが!」

「いくつでも男は狼なんだよ。アデルはちょーー可愛いからな。パパは心配です」

「きめぇ」

「うるせぇ」


クラウディオがバードと顔を合わせた時から、見たことがないくらいに荒ぶっている。元彼と言っていたが、この様子だと円満な別れ方はしてないっぽい。
フェリは何か場を和ますことを言いたいが、何も思いつかない。ロヴィーノを見れば、少し困ったような顔をしているので、多分フェリと同じような事を考えているのではないだろうか。
本当どうしよう。
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