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第七章 宮中
10.車座の推理
「え…わたくしが…お夕食に毒を盛ったと…?」
あたしは眩暈がしそうになる。
どうして、そんな話が出てくるの?
「そんなことあるはずがない!
それはここにいる皆、女房達、中宮や女御だって皆知っている。
食中毒の対策に、先頭きって指示を出していた月子姫にそんなヒマがあるものか!」
東宮は憤りを隠せないように声を殺して言う。
東宮はあたしを抱き寄せようとして、主上の手にぐっと阻まれ、小さく舌打ちする。
東宮も主上も、もうあたしの肩から手を離してくれないかな。
重いんだけど。
「たかが(と言っては申し訳ないが)食中毒にあんなに必死になって患者を助け、感染拡大を食い止めようと頑張っていた月子姫が、毒を盛って中宮や女御を弑し奉る意味がまったく解らない」
権中納言様も、その整った顔を怒りにゆがめて吐き捨てるように言う。
「じゃあ何故、誰が、何のために…」
あたしは涙ぐむ。
途端に、両肩を左右に引っ張られ、あたしは「痛いし重いです!」と両肩に乗る主上と東宮の手を払った。
「それだ。
ここからは他言無用だ。良いな?」
と東宮は声を潜める。
「誰かが司厨長に毒を入れさせたんだ。
月子姫を陥れるために」
「確かに、昨今の宮中では、月子姫の話題で持ちきりだ。
陛下や殿下まで月子姫の噂をなさるのだから。
草紙も後押しして、我らの知らないところでも人気は計り知れないな」
右近衛大将様が考え込むように言う。
「月子姫の人気を妬む、女人の誰か…と考えられないこともないが、今日の牡蠣中毒で、殆どの方が今現在も臥せっている。
中毒の状況でそこまで考えつくものかどうか」
権中納言様が言い足す。
「まあ月子姫を陥れるだけでは、得をするというより損をしない程度だろう。
だから、この話には続きがある」
東宮は皆を見回す。
「月子姫が、恨みを持っていそうな女人を弑すと見せかけて、その実は、己にとって邪魔な存在を排除しようとした」
義光が普段の大声を封印して、奴にとってはできるだけ小声で言う。
「うん。
姉上の入内を阻んで入内した、桐花殿の女御を、姉上が妬んで殺そうとした。
でも粗忽者の姉上が、ついうっかり桐花殿の女御の夕食ではなく、中宮の食事に毒を入れてしまった、という筋書きですね」
伊靖君が、笑いをこらえるように言う。
あたしは手を伸ばして伊靖君の額を指で弾く。
言いすぎなんだよコラ。
「でも実際には、中宮や女御はみんな昨日の牡蠣に当たって、それを助けたのが姫だった。
そして毒を盛るはずの当の姫が、夕食を廃棄するように言ってきた。
それは厨にいる全員が知っている」
「窮した司厨長は、司厨の誰かに中宮に出す料理を食べるように命ずる。
姫が毒を盛ったことを証明するために、司厨をひとり犠牲にした」
元信様が、うつむいて自分の組んだ両手を見ながら考えるように言う。
「桐花殿の女御の父親は誰だ―――太政大臣だ。
今は内親王しかおられない中宮がこれから男皇子をお産みになったら、関白がまだ外戚として権力の座に居続ける。
中宮を弑し、月子姫に罪を擦り付けて、桐花殿の女御をまんまと中宮・皇后にする腹だろう」
東宮が推理を締めくくった。
「…これで平仄は合うな…」
主上がつらそうに呟く。
あたしは眩暈がしそうになる。
どうして、そんな話が出てくるの?
「そんなことあるはずがない!
それはここにいる皆、女房達、中宮や女御だって皆知っている。
食中毒の対策に、先頭きって指示を出していた月子姫にそんなヒマがあるものか!」
東宮は憤りを隠せないように声を殺して言う。
東宮はあたしを抱き寄せようとして、主上の手にぐっと阻まれ、小さく舌打ちする。
東宮も主上も、もうあたしの肩から手を離してくれないかな。
重いんだけど。
「たかが(と言っては申し訳ないが)食中毒にあんなに必死になって患者を助け、感染拡大を食い止めようと頑張っていた月子姫が、毒を盛って中宮や女御を弑し奉る意味がまったく解らない」
権中納言様も、その整った顔を怒りにゆがめて吐き捨てるように言う。
「じゃあ何故、誰が、何のために…」
あたしは涙ぐむ。
途端に、両肩を左右に引っ張られ、あたしは「痛いし重いです!」と両肩に乗る主上と東宮の手を払った。
「それだ。
ここからは他言無用だ。良いな?」
と東宮は声を潜める。
「誰かが司厨長に毒を入れさせたんだ。
月子姫を陥れるために」
「確かに、昨今の宮中では、月子姫の話題で持ちきりだ。
陛下や殿下まで月子姫の噂をなさるのだから。
草紙も後押しして、我らの知らないところでも人気は計り知れないな」
右近衛大将様が考え込むように言う。
「月子姫の人気を妬む、女人の誰か…と考えられないこともないが、今日の牡蠣中毒で、殆どの方が今現在も臥せっている。
中毒の状況でそこまで考えつくものかどうか」
権中納言様が言い足す。
「まあ月子姫を陥れるだけでは、得をするというより損をしない程度だろう。
だから、この話には続きがある」
東宮は皆を見回す。
「月子姫が、恨みを持っていそうな女人を弑すと見せかけて、その実は、己にとって邪魔な存在を排除しようとした」
義光が普段の大声を封印して、奴にとってはできるだけ小声で言う。
「うん。
姉上の入内を阻んで入内した、桐花殿の女御を、姉上が妬んで殺そうとした。
でも粗忽者の姉上が、ついうっかり桐花殿の女御の夕食ではなく、中宮の食事に毒を入れてしまった、という筋書きですね」
伊靖君が、笑いをこらえるように言う。
あたしは手を伸ばして伊靖君の額を指で弾く。
言いすぎなんだよコラ。
「でも実際には、中宮や女御はみんな昨日の牡蠣に当たって、それを助けたのが姫だった。
そして毒を盛るはずの当の姫が、夕食を廃棄するように言ってきた。
それは厨にいる全員が知っている」
「窮した司厨長は、司厨の誰かに中宮に出す料理を食べるように命ずる。
姫が毒を盛ったことを証明するために、司厨をひとり犠牲にした」
元信様が、うつむいて自分の組んだ両手を見ながら考えるように言う。
「桐花殿の女御の父親は誰だ―――太政大臣だ。
今は内親王しかおられない中宮がこれから男皇子をお産みになったら、関白がまだ外戚として権力の座に居続ける。
中宮を弑し、月子姫に罪を擦り付けて、桐花殿の女御をまんまと中宮・皇后にする腹だろう」
東宮が推理を締めくくった。
「…これで平仄は合うな…」
主上がつらそうに呟く。
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