その最強魔剣士には、いかがわしい噂がある

杏 みん

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 「申し訳ありません。俺一人で対応出来ればよかったんですが」

 無事に容疑者全員を連行し、警察庁へ還る車の中で。
 頭を下げる俺に、局長は目を瞬かせた。

 「何を謝る事があるんです? 後輩にマリオネットにされたら、誰だって思うように動けません。ふふ」

 あ、やっぱそんな感じに見えてたんだ。

 「ですが……俺、そんな仕事は下っ端にやらせておけばいいと度々口にするくせに、結局は局長にしか出来ない事が多く……情けないです」

 「それは仕方ないのでは? なにせ私は最強魔剣士です。あなた方上級魔法使いの、倍量以上の魔力を持って生まれたんですから」

 ぐうの音も出ない返答。情けなさが増す。


 この世界に住む全ての人間は、魔法使い。皆、『剣』を持って生まれる。

 と言っても、母親のお腹にいる時から帯刀しているわけでは無い。出生直後に体内の魔力が結晶化し、出現するのだ。
 『剣』とはあくまでその結晶物の総称であって、いわゆる刀状の武器とは限らない。

 調理に特化した魔力を持つ者の剣は、包丁。
 ファッションデザインに特化した魔力を持つ者の剣は、ミシン針。
 プログラミングに特化した魔力を持つ者の剣は、ノートパソコン。だったりする。

 魔法使いの数だけ、それぞれの魔力特性があり、それぞれの剣がある。
 その中で『魔剣士』と表されるのは、刀、レイピア、長剣のように、まごうことなき『剣』が、剣である魔法使い。 

 この魔剣士になれるのは、一般的には魔力量最大レベルの上級魔法使いのみ。
 つまり、魔剣士である時点で魔法使いピラミッドの頂点に君臨できるのだ。

 そして、その頂点の中でも他の追随を許さない魔力量を誇るのが、このクロエ・ブランシェ局長なわけで。

 「……持って生まれたものはどうにもならないとはいえ、悔しいです」

 「あ、ごめんなさい。嫌味な言い方でしたか」

 そうじゃない。局長が最強なのは事実であり、それを偉ぶる事無く自負している冷静さは尊敬している。だがしかし。

 「いえ。ただ……守る側でいたかったな、というだけです」

 言った直後、後悔した。素直に吐いてしまったが、ダサすぎる。

 「すいません、聞き流してください」

 「ふふ、流しません。しっかり鼓膜でキャッチしました。可愛いですね、フレンは」

 情けなさ、更に爆増。
 ただでさえ、年齢も実力も立場も……何もかもがこの人より下なのに。可愛いと笑われて、喜べるわけがない。
 苦し紛れに、話を逸らす。

 「そういえば……というのもアレですが。若手には、もう少し厳しく接しても良いのでは? 本来は奴らの直属の上司の役目ですが」

 「代打の私がやかましく言うのはよくありません。心配しなくても、本来の教育係が退院したら、しっかり教育してくれますよ」

 「代打であろうがなかろうが、きつく叱るつもりはないでしょう? 局長の姿勢は、時代に沿っているものかもしれませんが……威圧的な上司は緊張感を与えます。それが成長を促す場面も多いのでは? いつもニコニコで大丈夫ですよ~じゃ、困ったらこいつを頼ればいいや~っていうナメた若手を量産してしまいますよ」

 「困っても、上司が怖くて頼れない若手を量産するより、マシです」

 穏やかな表情で、けれどはっきりとそう言う、局長。
 わかっている。この人はこういう人だ。でも……

 「ありがとうございます。フレンは私の負担を減らそうとしてくれているのはわかるんです、でも」
 
 「そうやって、頼られやすい環境を作っているから、昼食をとれない日が続いているんです」

 食い気味に返した俺の言葉に……局長は少しの間黙りこんでから、『いいんですよ』と笑った。

 「私はランチをしなくても死にませんが……人の役に立たなくなったら……死にます」

 ちょっと意味不明な事を言って、局長は窓の外を見た。
 何を考えているのか分からない、横顔。

 そこに落ちる影を、少しでも払いたいだけなのに。届かない。

 だからイライラするんだ。
 この人の自己犠牲的な献身に、身勝手に苛立つ自分に。
 そして、それを止める事が出来ない自分自身に。

 透明感ある眼差しの先には、小さなケーキ屋。
 俺は、後で買いに行こうと決めた。
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