6 / 22
6
しおりを挟む
「はぁあああああああ!!! これ……ジャルダン・フリュイテの、フルーツサンドじゃないですか!?」
ヒヨッコ局員の現場監督を終え、警察庁に帰還し、会議にハシゴ出席し、ようやく局長室に戻って来た、午後4時。
デスクに置かれたフルーツサンドを見た局長から……歓喜の絶叫、頂きました。
「はい。監査局の定例報告会は機密性が高く、補佐役は同席不可という事でしたので。その間に買ってきました」
「うそ! うそ! うそ!」
「嘘じゃ無いです」
珍しく、ハイテンションで甲高い声をあげる局長。
俺は知っている。この人がこうなるのは、大好物のフルーツを前にした時と……ベッドの中だけだという事を。
「ほ、本当に嬉しいです! ここのフルーツサンドは生クリームが入って無くて、フルーツだけの甘味を楽しむ事ができるんです! でも仕事が終わる頃にはいつも閉店していて……!」
「局長、クリームとか甘い物は苦手ですもんね。でもフルーツはお好き」
「大っっっっっ好きです! ありがとうございますフレン!」
満面の笑みからの、大好き。これだけで、白米五合はいける。たとえその目的語が、俺でなくとも。
「あ、あの、まだ仕事中なんですけど……頂いても?」
チラチラとフルーツサンドを見ながら、俺にお伺いを立てる上司が、可愛すぎる。
「俺の許可なんていりません。ろくに昼休みも取れていないんですから、どうぞ召し上がって下さい」
「わぁ~い!」
わぁ~いて。
こんな風にはしゃいでも痛くも何ともない28歳女性は、世の中でこの人くらいじゃなかろうか。
いや、痛いどころかむしろギャップ萌え。
非の打ちどころがない最強人格者なのに、果物を前に子供のように目を輝かせて。
「お……おいしい……っ。おいしいですフレン!」
「それはなによりです」
「あ、お代……いくらでしたか? 足代も合わせて、しっかり請求してください」
「いえ、気持ちなので」
そんなものいらない。この笑顔が見れるなら、俺の貯金と株式を全て投じて、果樹園を作ってもいい。
と言っても……子供の頃からエリート部署である魔対で働いてきて、今や局長にまで上り詰めたこの人の方が、豊富な資金を備えているのだろうが。
「そういうわけには……あ、じゃあ今度、お礼にご馳走しますね」
「えっ!」
嬉し過ぎる代案に、今日一大きな声を出してしまった。
「じゃ、こ、今夜とかいかがですか? ちょ、ちょうど、局長の好きそうなお酒があるバーを見つけて」
どもる自分が気持ち悪い。でも、どうしたって気持ち悪くなってしまうのが、焦がれるということで。
「あ、もしかして今夜のハチロク会に誘ってくれています? ついさっき、レイラも声を掛けてくれたんですよ。たまには局長も来ませんかと」
「…………は?」
口をポカンと開けた間抜け面を返す俺に、局長は綺麗な目をぱちくり。
「あら? フレン、忘れちゃってますか? 86期に魔対に入局したお仲間の、月一回の集まり……今夜なんですよね? 皆とちゃんと会うのは久しぶりなので、楽しみです」
宝くじの一等を当て、注文住宅を建てる為に土地購入の契約をしたら、『その当選番号、去年のだよ』と言われたとしたら……こんな気分だろうか。
入局以来、苦楽を共にしてきた同期。尊い同志。かけがえのない仲間。
その存在を……初めて、疎ましく思った瞬間だった。
ヒヨッコ局員の現場監督を終え、警察庁に帰還し、会議にハシゴ出席し、ようやく局長室に戻って来た、午後4時。
デスクに置かれたフルーツサンドを見た局長から……歓喜の絶叫、頂きました。
「はい。監査局の定例報告会は機密性が高く、補佐役は同席不可という事でしたので。その間に買ってきました」
「うそ! うそ! うそ!」
「嘘じゃ無いです」
珍しく、ハイテンションで甲高い声をあげる局長。
俺は知っている。この人がこうなるのは、大好物のフルーツを前にした時と……ベッドの中だけだという事を。
「ほ、本当に嬉しいです! ここのフルーツサンドは生クリームが入って無くて、フルーツだけの甘味を楽しむ事ができるんです! でも仕事が終わる頃にはいつも閉店していて……!」
「局長、クリームとか甘い物は苦手ですもんね。でもフルーツはお好き」
「大っっっっっ好きです! ありがとうございますフレン!」
満面の笑みからの、大好き。これだけで、白米五合はいける。たとえその目的語が、俺でなくとも。
「あ、あの、まだ仕事中なんですけど……頂いても?」
チラチラとフルーツサンドを見ながら、俺にお伺いを立てる上司が、可愛すぎる。
「俺の許可なんていりません。ろくに昼休みも取れていないんですから、どうぞ召し上がって下さい」
「わぁ~い!」
わぁ~いて。
こんな風にはしゃいでも痛くも何ともない28歳女性は、世の中でこの人くらいじゃなかろうか。
いや、痛いどころかむしろギャップ萌え。
非の打ちどころがない最強人格者なのに、果物を前に子供のように目を輝かせて。
「お……おいしい……っ。おいしいですフレン!」
「それはなによりです」
「あ、お代……いくらでしたか? 足代も合わせて、しっかり請求してください」
「いえ、気持ちなので」
そんなものいらない。この笑顔が見れるなら、俺の貯金と株式を全て投じて、果樹園を作ってもいい。
と言っても……子供の頃からエリート部署である魔対で働いてきて、今や局長にまで上り詰めたこの人の方が、豊富な資金を備えているのだろうが。
「そういうわけには……あ、じゃあ今度、お礼にご馳走しますね」
「えっ!」
嬉し過ぎる代案に、今日一大きな声を出してしまった。
「じゃ、こ、今夜とかいかがですか? ちょ、ちょうど、局長の好きそうなお酒があるバーを見つけて」
どもる自分が気持ち悪い。でも、どうしたって気持ち悪くなってしまうのが、焦がれるということで。
「あ、もしかして今夜のハチロク会に誘ってくれています? ついさっき、レイラも声を掛けてくれたんですよ。たまには局長も来ませんかと」
「…………は?」
口をポカンと開けた間抜け面を返す俺に、局長は綺麗な目をぱちくり。
「あら? フレン、忘れちゃってますか? 86期に魔対に入局したお仲間の、月一回の集まり……今夜なんですよね? 皆とちゃんと会うのは久しぶりなので、楽しみです」
宝くじの一等を当て、注文住宅を建てる為に土地購入の契約をしたら、『その当選番号、去年のだよ』と言われたとしたら……こんな気分だろうか。
入局以来、苦楽を共にしてきた同期。尊い同志。かけがえのない仲間。
その存在を……初めて、疎ましく思った瞬間だった。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】遅いのですなにもかも
砂礫レキ
恋愛
昔森の奥でやさしい魔女は一人の王子さまを助けました。
王子さまは魔女に恋をして自分の城につれかえりました。
数年後、王子さまは隣国のお姫さまを好きになってしまいました。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
私の旦那様はつまらない男
おきょう
恋愛
私の旦那様であるロバート伯爵は、無口で無愛想な仕事バカ。
家庭を返り見ず仕事に精を出すのみのつまらない男である。
それでも私は伯爵家の妻として今日も面倒な社交の場に出なければならないのだ。
伯爵家の名を落とさないために。あぁ面倒くさい。
※他サイトで投稿したものの改稿版になります。
婚約破棄? あら、それって何時からでしたっけ
松本雀
恋愛
――午前十時、王都某所。
エマ=ベルフィールド嬢は、目覚めと共に察した。
「…………やらかしましたわね?」
◆
婚約破棄お披露目パーティーを寝過ごした令嬢がいた。
目を覚ましたときには王子が困惑し、貴族たちは騒然、そしてエマ嬢の口から放たれたのは伝説の一言――
「婚約破棄されに来ましたわ!」
この事件を皮切りに、彼女は悪役令嬢の星として注目され、次々と舞い込む求婚と、空回る王子の再アタックに悩まされることになる。
これは、とある寝坊令嬢の名言と昼寝と誤解に満ちた優雅なる騒動録である。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
王子の魔法は愛する人の涙に溶けた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢にされそうになった女の子がなんだかんだで愛を取り戻すお話。
またはヤンデレな王太子が涼しい顔で復讐を果たすお話。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる