その最強魔剣士には、いかがわしい噂がある

杏 みん

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 「あああああん! 局長! お待ちしておりましたぁああ!」

 店に足を踏み入れた直後、黄色い声をあげて出迎えたのは、レイラ・ヒルズ。
 入局同期の一人であり、現魔対の主任。

 「レイラ、お疲れ様です。良かった……お互い、今日は早めにあがれましたね」

 「はい! 超久しぶりに局長とお酒が飲めるっていうのに遅刻なんかさせたら、お前ら全員生まれた事を後悔させてやるぞって、部下に言っておいたので!」

 局長の手を両手で包むように握りしめ、目からハートを飛ばしながら、恐ろしい事を言う。相変わらずだ。

 「さぁさぁ! VIPルームへどうぞ! 皆、楽しみに待ってますから!」

 自慢の金髪をかき上げ、局長から鞄を預かった……もとい、奪い取ったレイラは、フレンには目もくれず店の奥へと進む。

 「VIPルームなんてあるんだな。お前、この前来た時はそんな事言ってなか」

 「局長と二人っきりで来るために隠しておいたに決まってんだろボケがぁ!」

 警察庁一とも言われる美貌を不機嫌に歪め、怒号を飛ばす同期の桜。それも慣れたものだが。

 「なんだよ……局長が、若手の現場監督に向かったのが気に入らねぇのか?」

 「分かってるなら説明させるんじゃねぇ! お忙しい局長のスケジュールから、無駄を削ぎ落すのが補佐役の役目だろうが! どうしてヒヨッコがピヨピヨ鳴いてる庭の草むしりを、尊き最強魔剣士様がするハメになるんじゃ!」

 「仕方ねぇだろ。本来監督する筈の局員が、この前の現場で負傷して入院」

 「肋骨の複雑骨折と内臓損傷くらい、3日で治させろ!」

 「んな無茶苦茶な……部下に無理をさせないっていう上司の意向を汲んでスケジューリングするのも、補佐役の仕事」

 「ああもう! 局長! どうして私を補佐役に選んでくれなかったんですか!? フレンじゃ、局長の労力が下っ端に搾取される一方です!」

 「うふふふ……やっぱり、86期は仲良しですねぇ」

 今のやり取りを見ていて、どうしてそういう感想を抱くのか。
 けれど、そこがまた局長らしい。俺とレイラは互いの顔を見て、一時休戦協定に暗黙のサインをした。

 「おおお! 局長! 久しぶりっす!」

 VIPルームに入ると、一番に立ち上がり、両手を広げて局長の方へ向かって来たのはカイ・ガルシア。
 ツンツンの赤髪という見た目もチャラい、中身もチャラい、正統派のチャラ男。

 挨拶のノリで局長にハグしようとするカイを制しつつ、もう一人の同期……豪勢なソファに品よく座る、ティリアン・キャンベルの方を見る。

 「お疲れ様、フレン。局長も……お忙しい中、ありがとうございます」

 「お疲れ様です。カイもティリアンも、元気そうでなによりです」

 にっこり笑顔の局長の手を引き、超自然にエスコートして、着席させるティリアン。こいつも、相変わらずだ。

 王子様のように輝くルックスを持つ、大貴族の跡取り息子であり、誠実で親切で優秀で……非の打ちどころがない、同期イチの優等生。
 ティリアンが爽やかすぎる笑顔で見せる白い歯も、サラサラの金髪も碧眼も、全てが俺には眩し過ぎて……こいつの隣に座る位なら、やかましいカイの横の方が、心が安らぐ。
 
 俺はレイラに手渡されたシャンパングラスを持ち、力なくカイの横に着席した。

 「あれ? フレン俺の隣でい~の? 補佐役として、局長の隣で酒つがないと」

 「いいんですよカイ。お酒の席でくらい、私のお世話から解放されたいんですよね?」

 「いえ、そういうわけじゃ」

 無いに決まってる。隣がいいさ勿論。
 でも今は、このポジションがベストだ。ガラスのローテーブルをぐるりと囲む、ゆったりとしたソファ。局長の両隣はレイラとティリアン。その正面に、俺とカイ。

 ティリアンのようなスマートパーフェクトプリンスの横で、笑顔すらまともに作れない俺がいたんじゃ、局長に気を遣わせる。そしてそれは、俺を惨めにする。

 「はいは~い! んじゃ、全員そろった所で、かんぱ~い! 今月もお疲れっした~!」

 まごつく俺をスルーして、声高らかにグラスを掲げるカイ。

 「ちょ、今日は局長がいるんだぞ。乾杯の音頭は上席の人間に乞うもの」

 社会人としての常識を持って突っ込むが、当の上席ほんにんはそんな事を気にする人では無く。

 「かんぱ~いっ。今日はお招きありがとうございます。お疲れ様でした~」

 可愛らしい声でそう言って、部下達とグラスを合わせはじめた。

 「かんぱ~い!」
 「ふふ、乾杯」

 「ほらほら、フレンも」

 そして、わざわざ立ち上がって、俺にもグラスを差し出してくれて。

 「あ、すいません、乾杯、お疲れ様です」

 「今夜は私がご馳走しますから、沢山食べて、飲んでくださいね」

 その笑顔は、いつもと同じ。出会った頃とも同じ。
 未熟な俺達をあたたかく見守り、育ててくれる、聖母のような笑み。

 それでも……俺の胸はざわつくのだ。

 このメンバーがそろったら、必ずあいつの話になる。

 今回もテーブルの中央に置いてあるシャンパングラスと、そこに添えられた一凛の花。
 視界に入ると、息が止まりそうになる。

 月に一度、俺が自分の罪と向き合わざるを得ない、時間。

 皆が、局長が、無垢な笑顔を見せるほどに……俺の心は、重たく沈んで行くのだ。
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