9 / 22
9
しおりを挟む
魔法警察庁がある大都会、ダイヤ・シティ。
星の光を打ち消してしまうほどに、煌びやかな町。その超一等地に燦然とそびえ立つ、キャンベルホテル。
もうホテルの敷地外に足を踏み出したというのに……背後から追いかけてくる強い灯りは、俺の影を一層濃くしている気がして……眩暈がする。
「フレン!」
「え……ティリアン? どうして……っ」
灯りだけでなく、経営者の息子が追ってきた。
どこまで俺を追い詰めるんだキャンベルホテル。
「どうしてもなにも、心配だからに決まってるだろ。歩き? 送るよ。フレンの家、ここからわりと近かったよな?」
「いや女子じゃねぇんだから。その……飲み過ぎたってのも……実は……」
「大丈夫。フレンのド下手くそな嘘を見抜けない程、酔ってない。俺が話したい気分なんだよ。一緒に歩かせて」
真っ直ぐな瞳。夜に溶ける白い息。皮肉を言う笑顔でさえ、爽やかな男。
「お前は……マジで良い奴だな」
俺は、ほんの少しだけ心があたたかくなるのを感じながら……同期の桜と共に、夜の歩道を歩き始めた。
「はは。その台詞、出会ったばかりのフレンに聞かせてあげてよ」
「どういう意味だよ」
「だって……俺は絶対誰にも負けないし、同期なんてライバルでしかないし、慣れ合う気はないからな。っていうオーラ全開だったじゃないか」
黒歴史を掘り返され、真冬だというのに顔が熱くなるのを感じる。
魔法大学を飛び級で卒業し、国家魔剣士試験に一発合格し、警察庁魔力略奪対策局の入局を勝ち取った、二十歳の春。
毒親による英才教育の弊害か、いい歳にも関わらず、ダークファンタジーの主人公のような、すかした奴だったのだ。俺は。
「そこいじるなよ……」
「地味に、根に持ってるからね。貴族同士、子供の頃はパーティーとかでよく会っていたから……俺は幼馴染と再会できたようで、嬉しくて声を掛けたのに。ダークファンタジーの主人公みたいに、すかした感じだったからさ」
「……悪かったよ」
子供の頃、数える位しか会った事が無かったけれど……俺はこいつが大好きで、大嫌いだった。
華やかなパーティーで、笑顔の両親と、大勢の優しそうな人間に囲まれて、白い歯を見せて笑っていたティリアン。
無愛想で、不器用で、楽しいおしゃべりなんて出来なくて。同年代の貴族からも『フレン君こわ~い』とか言われて俯いている俺を、『一緒に遊ぼう』と誘ってくれた、ただ一人の友人。
こいつとずっと一緒にいたいと思っていた。
太陽のようなこいつが隣にいてくれたら、自分の人生にも光が射す気がしていた。
けれど……両親は、それを許さなかった。
「ごめんごめん、そんな本気謝罪モードやめてくれよ。わかってる。うちみたいにあちこちの商売に手をだしているイマドキの家は、貴族界じゃ嫌われ者だ。伝統と格式あるカーティス家の跡取り息子が、俺なんかと親しくしてたんじゃ……ご両親も、良い顔をしないだろ?」
「違う。いや、それもあるんだけど……俺が、きつかったんだ。お前が羨ましくて、眩し過ぎて」
俺も、こんな人間になりたかった。こんな両親に育てられたかった。そんな事ばかり、考えるようになってしまって。
「ええ? 羨ましい? 俺のどこが? 俺からしたら、フレンの方がよっぽど羨ましかったけどなぁ」
「いいって、そういう無理有るフォローは」
「いや、本当に。ほら、俺達86期はさ、飛び級と国家魔剣士試験一発合格した奴ばかりが集まった、華の86期なんて呼ばれてただろ? その中でも、フレンの実戦力は群を抜いてたから」
『華の86期』……懐かしワード。思わず、鼻で笑ってしまう。
「そんなことはねぇけど……あの頃は大変だったな。変にもてはやされて、期待されて……そのせいで、入局早々、局長補佐にさせられて」
「そうそう。優秀な86期を早急に育成するための、特別なプログラムです。5人で協力して頑張ってください。って説明された時の皆の顔、忘れられない」
「それな。……ホントに……毎日必死だった。あの頃は」
ついこの間まで学生だった俺達が、突然トップの右腕にさせられて。
予定、調整、会議、押印、面談、変更、式典、移動、資料、手配、根回し……初めての社会、初めての仕事で、右も左もわからなかった俺達。5人で分担しても、目のまわるような毎日だった。
なのに……当時を思い出すと、口元が緩むのだ。
「うん、大変だった。でも……楽しかったな。あの頃は」
それは隣を歩く同期も同じだったよう。なぜだか……嬉しくなる。そんな気持ちを悟られないよう、車道を走る車へと視線をうつした。
すると、ティリアンはぴたりと足を止めて。
「フレン……あのプログラムが始まった時から……四年後に、俺達の中の一人が局長補佐に本就任するって、決まってた。そして、フレンを選んだのは局長だ。責任を感じる事はない」
真剣な顔。
わかっていた。ティリアンはそれを伝える為に、ここまで来てくれた事は。
でも……違うんだ。
「ありがとな、ティリアン、でも俺は」
「補佐役に選ばれなかったのは、不合格って事じゃない。俺達四人にはそれぞれ、別の部署で責任ある立場が用意されていた。優劣じゃない、適材適所な判断だった。これは嘘でも慰めでもない、事実だ」
「……わかってる。だけど」
「それでも、ルークは受け入れなかった。誤解したまま絶望して、自ら命を」
「だから違うって言ってるだろ!」
突然大声を出した俺に、目を丸くするティリアン。
通行人の視線も感じる。でも……そんなものを気にしている余裕はない。
「悪い……ちょっと、一人にしてくれ」
「待っ、フレン! ごめん、俺、嫌な言い方を……っ」
慌てるティリアンに背を向けて、速足で歩きだす。
違う。違う。違う。
ティリアンが謝ることなんてない。
悪いのは全部、俺。
あいつが生きてたら、局長は俺を選ばなかった。
全部全部、何もかもは俺のせい。
「フレン!」
そう、俺を呼ぶ優しい同期に打ち明けられたらどれほど楽か。
でも……出来ない。
あいつの命を奪ってもなお、同期の絆を手放せない自分の浅ましさが……欲深い都会の街灯りに、似ている気がした。
星の光を打ち消してしまうほどに、煌びやかな町。その超一等地に燦然とそびえ立つ、キャンベルホテル。
もうホテルの敷地外に足を踏み出したというのに……背後から追いかけてくる強い灯りは、俺の影を一層濃くしている気がして……眩暈がする。
「フレン!」
「え……ティリアン? どうして……っ」
灯りだけでなく、経営者の息子が追ってきた。
どこまで俺を追い詰めるんだキャンベルホテル。
「どうしてもなにも、心配だからに決まってるだろ。歩き? 送るよ。フレンの家、ここからわりと近かったよな?」
「いや女子じゃねぇんだから。その……飲み過ぎたってのも……実は……」
「大丈夫。フレンのド下手くそな嘘を見抜けない程、酔ってない。俺が話したい気分なんだよ。一緒に歩かせて」
真っ直ぐな瞳。夜に溶ける白い息。皮肉を言う笑顔でさえ、爽やかな男。
「お前は……マジで良い奴だな」
俺は、ほんの少しだけ心があたたかくなるのを感じながら……同期の桜と共に、夜の歩道を歩き始めた。
「はは。その台詞、出会ったばかりのフレンに聞かせてあげてよ」
「どういう意味だよ」
「だって……俺は絶対誰にも負けないし、同期なんてライバルでしかないし、慣れ合う気はないからな。っていうオーラ全開だったじゃないか」
黒歴史を掘り返され、真冬だというのに顔が熱くなるのを感じる。
魔法大学を飛び級で卒業し、国家魔剣士試験に一発合格し、警察庁魔力略奪対策局の入局を勝ち取った、二十歳の春。
毒親による英才教育の弊害か、いい歳にも関わらず、ダークファンタジーの主人公のような、すかした奴だったのだ。俺は。
「そこいじるなよ……」
「地味に、根に持ってるからね。貴族同士、子供の頃はパーティーとかでよく会っていたから……俺は幼馴染と再会できたようで、嬉しくて声を掛けたのに。ダークファンタジーの主人公みたいに、すかした感じだったからさ」
「……悪かったよ」
子供の頃、数える位しか会った事が無かったけれど……俺はこいつが大好きで、大嫌いだった。
華やかなパーティーで、笑顔の両親と、大勢の優しそうな人間に囲まれて、白い歯を見せて笑っていたティリアン。
無愛想で、不器用で、楽しいおしゃべりなんて出来なくて。同年代の貴族からも『フレン君こわ~い』とか言われて俯いている俺を、『一緒に遊ぼう』と誘ってくれた、ただ一人の友人。
こいつとずっと一緒にいたいと思っていた。
太陽のようなこいつが隣にいてくれたら、自分の人生にも光が射す気がしていた。
けれど……両親は、それを許さなかった。
「ごめんごめん、そんな本気謝罪モードやめてくれよ。わかってる。うちみたいにあちこちの商売に手をだしているイマドキの家は、貴族界じゃ嫌われ者だ。伝統と格式あるカーティス家の跡取り息子が、俺なんかと親しくしてたんじゃ……ご両親も、良い顔をしないだろ?」
「違う。いや、それもあるんだけど……俺が、きつかったんだ。お前が羨ましくて、眩し過ぎて」
俺も、こんな人間になりたかった。こんな両親に育てられたかった。そんな事ばかり、考えるようになってしまって。
「ええ? 羨ましい? 俺のどこが? 俺からしたら、フレンの方がよっぽど羨ましかったけどなぁ」
「いいって、そういう無理有るフォローは」
「いや、本当に。ほら、俺達86期はさ、飛び級と国家魔剣士試験一発合格した奴ばかりが集まった、華の86期なんて呼ばれてただろ? その中でも、フレンの実戦力は群を抜いてたから」
『華の86期』……懐かしワード。思わず、鼻で笑ってしまう。
「そんなことはねぇけど……あの頃は大変だったな。変にもてはやされて、期待されて……そのせいで、入局早々、局長補佐にさせられて」
「そうそう。優秀な86期を早急に育成するための、特別なプログラムです。5人で協力して頑張ってください。って説明された時の皆の顔、忘れられない」
「それな。……ホントに……毎日必死だった。あの頃は」
ついこの間まで学生だった俺達が、突然トップの右腕にさせられて。
予定、調整、会議、押印、面談、変更、式典、移動、資料、手配、根回し……初めての社会、初めての仕事で、右も左もわからなかった俺達。5人で分担しても、目のまわるような毎日だった。
なのに……当時を思い出すと、口元が緩むのだ。
「うん、大変だった。でも……楽しかったな。あの頃は」
それは隣を歩く同期も同じだったよう。なぜだか……嬉しくなる。そんな気持ちを悟られないよう、車道を走る車へと視線をうつした。
すると、ティリアンはぴたりと足を止めて。
「フレン……あのプログラムが始まった時から……四年後に、俺達の中の一人が局長補佐に本就任するって、決まってた。そして、フレンを選んだのは局長だ。責任を感じる事はない」
真剣な顔。
わかっていた。ティリアンはそれを伝える為に、ここまで来てくれた事は。
でも……違うんだ。
「ありがとな、ティリアン、でも俺は」
「補佐役に選ばれなかったのは、不合格って事じゃない。俺達四人にはそれぞれ、別の部署で責任ある立場が用意されていた。優劣じゃない、適材適所な判断だった。これは嘘でも慰めでもない、事実だ」
「……わかってる。だけど」
「それでも、ルークは受け入れなかった。誤解したまま絶望して、自ら命を」
「だから違うって言ってるだろ!」
突然大声を出した俺に、目を丸くするティリアン。
通行人の視線も感じる。でも……そんなものを気にしている余裕はない。
「悪い……ちょっと、一人にしてくれ」
「待っ、フレン! ごめん、俺、嫌な言い方を……っ」
慌てるティリアンに背を向けて、速足で歩きだす。
違う。違う。違う。
ティリアンが謝ることなんてない。
悪いのは全部、俺。
あいつが生きてたら、局長は俺を選ばなかった。
全部全部、何もかもは俺のせい。
「フレン!」
そう、俺を呼ぶ優しい同期に打ち明けられたらどれほど楽か。
でも……出来ない。
あいつの命を奪ってもなお、同期の絆を手放せない自分の浅ましさが……欲深い都会の街灯りに、似ている気がした。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】遅いのですなにもかも
砂礫レキ
恋愛
昔森の奥でやさしい魔女は一人の王子さまを助けました。
王子さまは魔女に恋をして自分の城につれかえりました。
数年後、王子さまは隣国のお姫さまを好きになってしまいました。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
私の旦那様はつまらない男
おきょう
恋愛
私の旦那様であるロバート伯爵は、無口で無愛想な仕事バカ。
家庭を返り見ず仕事に精を出すのみのつまらない男である。
それでも私は伯爵家の妻として今日も面倒な社交の場に出なければならないのだ。
伯爵家の名を落とさないために。あぁ面倒くさい。
※他サイトで投稿したものの改稿版になります。
婚約破棄? あら、それって何時からでしたっけ
松本雀
恋愛
――午前十時、王都某所。
エマ=ベルフィールド嬢は、目覚めと共に察した。
「…………やらかしましたわね?」
◆
婚約破棄お披露目パーティーを寝過ごした令嬢がいた。
目を覚ましたときには王子が困惑し、貴族たちは騒然、そしてエマ嬢の口から放たれたのは伝説の一言――
「婚約破棄されに来ましたわ!」
この事件を皮切りに、彼女は悪役令嬢の星として注目され、次々と舞い込む求婚と、空回る王子の再アタックに悩まされることになる。
これは、とある寝坊令嬢の名言と昼寝と誤解に満ちた優雅なる騒動録である。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
王子の魔法は愛する人の涙に溶けた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢にされそうになった女の子がなんだかんだで愛を取り戻すお話。
またはヤンデレな王太子が涼しい顔で復讐を果たすお話。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる