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「言わないでって言われると、言っちゃうやつ……どうしてなんでしょうねぇ?」
上階の用……とやらを済ませた局長が、局長室に戻って来て。
俺はすぐさまエレベーターでの無礼を詫びた。
すると……返って来たのが、その言葉。
すまんレイラ。局長に、全てを察せられてしまった。
「あの、レイラは俺を気遣って……申し訳ありません。俺が無理に聞き出したようなものです」
「それは責任を負い過ぎでしょう。本当にあなたという人は……ルークの事も、なぜそこまで自分を責めるのか」
大きなため息を吐いて、局長は座った。立派な局長椅子から軋む音が聞こえるくらい、珍しく、乱暴に。
俺はその音と、直球的に出て来たアイツの名前に、少々肩をびくつかせてしまう。
「この際だから、はっきり言っておきます。ルークが自殺したのは、フレンのせいじゃありません」
「局長……」
「私だけじゃない。あの件を知る全員がそう思っています。ティリアンだってそう言っていたでしょう? 犯してもいない罪を背負って、苦しむのはやめなさい」
これまた珍しく、強めの口調。俺を納得させ、罪悪感の沼から引き上げる為。
局長も、レイラも、ティリアンもカイも……皆、俺を救おうとしてくれている。
俺はいつまで、この力強い思い遣りを裏切るのだろう。
いい加減……覚悟を決めるべきだ。
「お心遣い、ありがとうございます。ですが局長……ルークの死は、俺の責任なんです。俺が……俺がついた嘘のせいで、あいつは死んだ……。ずっと隠してて……申し訳ありませんでしたっ」
言った。ついに言ってしまった。胸の奥がひどく痛む。
張り詰める空気。背中を伝う汗。急加速する鼓動。
けれど……局長の表情は、自白前と変わらずで。
「はい? 嘘? ああそうなんですか。フレンも嘘なんてつくんですね」
「へ?」
意外すぎるリアクションに、拍子抜け。てっきり、それはどういうことだと胸ぐらを掴まれるかと思っていたのに。
「あ、このフルーツティー、フレンが淹れてくれたんですか? すみません、気が付くのが遅くて。冷めちゃいましたかね?」
「や、あの、局長……? 聞かないんですか? それはどういう意味だーとか、どんな嘘をついたんだーとか」
神妙な面持ちで尋ねる俺に反し、机の隅に置かれたティーカップを手に取る局長は、ケロっとした表情。
「興味ありません。どんな嘘も、あなたを責める材料にはならないんです。あなたに、ルークを自殺するほど追い詰める事なんて、出来るはず無いですから」
「できます! 俺はそんな優しい人間じゃ」
「優しいから出来ないのではなく、あなたはそこまでルークの事を知らないでしょうと言っています」
局長の言葉に、ハッとする。
「どういう……意味ですか?」
「そのままの意味です。フレン、あなたはルークの事をどれ位知っていますか? 家族は? 出身は? 初恋の想い出や、いじられたくない学生時代の黒歴史は?」
そんな話、聞いたこともない。局長は、そんな俺の心の中の返事を受け取ったようで。
「知りませんよね? 出会ってから一度でも、彼に悩みを相談された事はありますか? ないでしょう? ルークにとって、あなたは決して"全て"ではなかったんです。そんなあなたの言葉ひとつで、自殺なんてするわけがない。他人が他人に死を選ばせるのは、そう簡単じゃないんですよ。自分の影響力を過大評価しないでください」
反論する間も与えない、怒涛の、そして厳しい説教。
これもまた……理想の上司と言われる局長には、とても珍しい。
けれど、俺には分かる。これは、あえて、だ。
言葉の端を丸くすれば、俺はきっと、気休めや慰めと受け取ってしまうだろう。
キツイ言い方をして、これは忖度の無い事実だと思わせる事で、俺の背を軽くしようとしている。
この人はそういう人だ。だから……沼った。
「……はい……すいませんでした……。ありがとうございます」
愛のムチをふるってくれた上司に、深々と頭を下げた。
「わかってくれればいいんです」
局長はそう言ってから、すっかりぬるくなったフルーツティーを口に運んだ。
その表情はいつもの穏やか微笑みモードに戻っている。けれど……その中にまだどこか、強張りを感じて。
「あの……局長はご存知なんですか? ルークの事……俺よりも、よく?」
「……それは……どっちでもよくないですか?」
よくないですよ。今の話の流れ的に、明らかに。けれど、問い詰めるのはやめておいた。
「……失礼しました」
改めて……この人はなんなんだろう? と、思ってしまう。
そっけないかと思えば、気遣ってくれて。寄り添ってくれたかと思えば、突き放されて。
正直、疲れる。でも……やめられないんだ。
「お茶、淹れ直しましょうか。真冬に冷たい飲み物は、苦行ですよね」
「いえ、十分美味しいです。でも本当……最近ぐっと冷え込んできましたね。今夜は何か温かいものでもどうです?」
「は?」
「昨日、大して飲み食いせずに帰ってしまったでしょう? 改めて、御馳走させてください」
思わぬお誘いに、胸が弾む。
「ああ、でも体調がすぐれないなら無理を」
「行きます、行かせて頂きます、よろしくお願いしますっ」
食い気味に返答をする俺に、局長は笑った。
いつもの穏やか聖母スマイルでは無く……本当におかしくて笑っているような、力の抜けた笑顔が、嬉しかった。
上階の用……とやらを済ませた局長が、局長室に戻って来て。
俺はすぐさまエレベーターでの無礼を詫びた。
すると……返って来たのが、その言葉。
すまんレイラ。局長に、全てを察せられてしまった。
「あの、レイラは俺を気遣って……申し訳ありません。俺が無理に聞き出したようなものです」
「それは責任を負い過ぎでしょう。本当にあなたという人は……ルークの事も、なぜそこまで自分を責めるのか」
大きなため息を吐いて、局長は座った。立派な局長椅子から軋む音が聞こえるくらい、珍しく、乱暴に。
俺はその音と、直球的に出て来たアイツの名前に、少々肩をびくつかせてしまう。
「この際だから、はっきり言っておきます。ルークが自殺したのは、フレンのせいじゃありません」
「局長……」
「私だけじゃない。あの件を知る全員がそう思っています。ティリアンだってそう言っていたでしょう? 犯してもいない罪を背負って、苦しむのはやめなさい」
これまた珍しく、強めの口調。俺を納得させ、罪悪感の沼から引き上げる為。
局長も、レイラも、ティリアンもカイも……皆、俺を救おうとしてくれている。
俺はいつまで、この力強い思い遣りを裏切るのだろう。
いい加減……覚悟を決めるべきだ。
「お心遣い、ありがとうございます。ですが局長……ルークの死は、俺の責任なんです。俺が……俺がついた嘘のせいで、あいつは死んだ……。ずっと隠してて……申し訳ありませんでしたっ」
言った。ついに言ってしまった。胸の奥がひどく痛む。
張り詰める空気。背中を伝う汗。急加速する鼓動。
けれど……局長の表情は、自白前と変わらずで。
「はい? 嘘? ああそうなんですか。フレンも嘘なんてつくんですね」
「へ?」
意外すぎるリアクションに、拍子抜け。てっきり、それはどういうことだと胸ぐらを掴まれるかと思っていたのに。
「あ、このフルーツティー、フレンが淹れてくれたんですか? すみません、気が付くのが遅くて。冷めちゃいましたかね?」
「や、あの、局長……? 聞かないんですか? それはどういう意味だーとか、どんな嘘をついたんだーとか」
神妙な面持ちで尋ねる俺に反し、机の隅に置かれたティーカップを手に取る局長は、ケロっとした表情。
「興味ありません。どんな嘘も、あなたを責める材料にはならないんです。あなたに、ルークを自殺するほど追い詰める事なんて、出来るはず無いですから」
「できます! 俺はそんな優しい人間じゃ」
「優しいから出来ないのではなく、あなたはそこまでルークの事を知らないでしょうと言っています」
局長の言葉に、ハッとする。
「どういう……意味ですか?」
「そのままの意味です。フレン、あなたはルークの事をどれ位知っていますか? 家族は? 出身は? 初恋の想い出や、いじられたくない学生時代の黒歴史は?」
そんな話、聞いたこともない。局長は、そんな俺の心の中の返事を受け取ったようで。
「知りませんよね? 出会ってから一度でも、彼に悩みを相談された事はありますか? ないでしょう? ルークにとって、あなたは決して"全て"ではなかったんです。そんなあなたの言葉ひとつで、自殺なんてするわけがない。他人が他人に死を選ばせるのは、そう簡単じゃないんですよ。自分の影響力を過大評価しないでください」
反論する間も与えない、怒涛の、そして厳しい説教。
これもまた……理想の上司と言われる局長には、とても珍しい。
けれど、俺には分かる。これは、あえて、だ。
言葉の端を丸くすれば、俺はきっと、気休めや慰めと受け取ってしまうだろう。
キツイ言い方をして、これは忖度の無い事実だと思わせる事で、俺の背を軽くしようとしている。
この人はそういう人だ。だから……沼った。
「……はい……すいませんでした……。ありがとうございます」
愛のムチをふるってくれた上司に、深々と頭を下げた。
「わかってくれればいいんです」
局長はそう言ってから、すっかりぬるくなったフルーツティーを口に運んだ。
その表情はいつもの穏やか微笑みモードに戻っている。けれど……その中にまだどこか、強張りを感じて。
「あの……局長はご存知なんですか? ルークの事……俺よりも、よく?」
「……それは……どっちでもよくないですか?」
よくないですよ。今の話の流れ的に、明らかに。けれど、問い詰めるのはやめておいた。
「……失礼しました」
改めて……この人はなんなんだろう? と、思ってしまう。
そっけないかと思えば、気遣ってくれて。寄り添ってくれたかと思えば、突き放されて。
正直、疲れる。でも……やめられないんだ。
「お茶、淹れ直しましょうか。真冬に冷たい飲み物は、苦行ですよね」
「いえ、十分美味しいです。でも本当……最近ぐっと冷え込んできましたね。今夜は何か温かいものでもどうです?」
「は?」
「昨日、大して飲み食いせずに帰ってしまったでしょう? 改めて、御馳走させてください」
思わぬお誘いに、胸が弾む。
「ああ、でも体調がすぐれないなら無理を」
「行きます、行かせて頂きます、よろしくお願いしますっ」
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