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「わ~お! 男前が過ぎるな!」
タキシードにオールバック。バチバチに決めている俺を見たレイラの感想が、それ。
これほどストレートに褒められるのは珍しくて……リアクションに困る。
「なんか緊張してきたな……本当に俺に出来るのか……」
「フレン、出来る出来ないじゃない。やるんだ! ふふ」
イタズラっぽく笑って、トレーに乗っているグラスを差し出すレイラ。給仕役に変装しているから、それらしく振舞っているつもりなのか。
気つけの一杯を一気飲みして……俺は、柱の陰にいるターゲットを見つめた。
魔法警察省から20キロほど離れた郊外にある、リゾートホテル。その中のだだっ広いホールが、今俺達がいる場所。
ずらりと並んだ長テーブルには真っ白なシーツ。その上には彩り豊かな料理やドリンクが並び、高い天井には大きなシャンデリア。
大勢のゲストのうち、大半は若い女性。皆華やかに着飾っていて、会場の雰囲気を一層煌びやかなものにしている。
そんな彼女らを品定めするような目で眺め、尻やら胸やらを堂々と撫でまわしているのは、中高年の男性ゲスト達。誰もが上等なスーツに身を包み、それなりの経済力をうかがわせる。
さて。なぜこんな怪しげなパーティーに、俺たちが参加しているかというと……話は三日前、レイラがティリアンにギブアンドテイクを持ちかけた時に、遡る。
「あの女性バーテンダーを、吊り上げるのよ」
ティリアンに局長の健診結果を調べさせるために、こちらは何を『ギブ』しようとしているのか。それをたずねた俺に、レイラはそう答えた。
「女性バーテンダー? って……ハチロク会で行ったバーの、か? キャンベルホテルの?」
「そ。フレンはすぐに帰っちゃったから知らないだろうけど……最初に話をふってきたのはカイなの。あいつ今、パーティーを利用した集団売春を追ってるみたいで」
「集団売春……」
思いがけず、深刻そうな内容。肩に力が入る。
「表向きは"上級魔法使いの情報交換会"とやらなんだって。でも参加者の半数以上は下級、中級魔法使いの女性。しかも会場は毎回、高級ホテルの宴会場。男性参加者は必ず……宿泊予約をしている」
「成程……パーティーで女を見繕って、そのまま客室にお持ち帰りってわけか。売買春は魔対の管轄じゃねぇけど……生活安全局のカイが話をよこしてきたってことは……」
「そう。売春の対価にされているのは、魔力」
低い声でそう答えるレイラの顔は、真剣だ。
交わりでは、略奪だけではなく供与も可能。そして、後者は犯罪ではない。
しかし……何らかの利益に対する対価として与えた場合はアウト。
すなわち、性交の報酬として魔力の授受が行われた際は、売春買春と不正供与の罪で、与えられた方も与えた方も、お縄となる。
実はこの手の売春は随分前から社会問題になっていて……カイが所属する生安局と魔対とがタッグを組んで撲滅を目指している犯罪でもある。
「話しの流れから察するに……あの女性バーテンダーも、それに関わってるってのか?」
「らしいわよ。捜査を進めるうちに、頻繁にパーティーに参加している女性の身元が特定されてきて……その中にあのバーテンちゃんがいたって。で、ティリアンの耳に入れておいてあげたかったみたい」
アホなフリをして同期想いなカイらしい。
従業員が売春で得た魔力を使って、酒を作り、客に提供していたなんて……公になれば、キャンベルグループが受けるダメージは計り知れないだろうから。
「で、ティリアンはなんて?」
「ティリアン王子は、"忖度無しに捜査を進めてくれ。父もそれを望むはずだ"とおっしゃっていらっしゃいましたよ」
想像通りのお答え。良い意味で、あの親にしてこの子あり。親子共に清廉過ぎる。
「らしいっしょ? でもね~、複雑そうな横顔を、レイラ様は見逃さなかったわけ! だから提案してみたの。一緒にパーティーに潜入して、彼女が売春をする現場をおさえない? って。で、彼女の罪を明らかにした上で、どうしてそんな事をしたのか……話を聞いてみるのも、未来の雇用主として大事だと思う! ってね」
「……お前、すげぇな」
見事を通り越して、怖い。
レイラにかかれば、あの完全無欠の優等生さえ、手の平の上で、転がされるのか。
「話はわかった。ようは、誰かが客のフリをして彼女に接触して、一緒に部屋に入ったところをティリアンと引き会わせればいいんだな。重要なのは、誰に客役をやらせるか……被疑者のうち、警察に協力してくれそうな男に司法取引を持ち掛けるか、もしくは」
腕組みをし首を捻り……俺は至極真剣に考えを巡らせていたのだけれど。そんな俺をレイラは笑い飛ばして。
「なにすっとぼけちゃってんの! いるじゃん! ここに! 顔面偏差値の高い上級魔法使いが!」
そんなわけで……俺はバーテンダーを釣り上げる餌になったのだ。
「心配しなくても、割とすんなりいけると思うんだよね。普段、脂っこいおっさんばっか相手にしてるんだもん。フレンみたいにビジュ良しな若者とやれて、魔力までもらえるならって、ラッキーって思うのが普通じゃない?」
「そう簡単にいくか? おっさんの中にポツンと若いのがいたら、逆に警戒されるんじゃないか」
なんて不安を拭えない俺を無視して……優雅なクラシック音楽が流れ始めた。
と同時に、ホールの中央に集まり始めるゲスト達。どうやら……ダンスが始まるよう。
「始まった! フレン! とにっかく彼女を見つめろ! 俺にはお前しか見えてないんだ位の熱を、視線にこめろ! そしたら、こっちがその気ムンムンだって悟るはず!」
「わ、わかった」
『行け!』とレイラに背中を押され……ダンスの輪に入る。
カイの調べによると……ダンスの時間はマッチングの時間。
女性は円の内側、男性は外側を周り、順に踊る。そこで囁き合うのだ。互いの『条件』を。そうして交渉成立したペアは、ダンスの輪から外れ、消えていく……。
先程まで柱の陰に隠れていたバーテン女性も、慣れた足取りでダンスに参加。
その姿を目で追いながら……4、5番目くらいに彼女とあたるかな、という位置にポジショニング。
あまりに最初の方でも、勝手がわからず交渉決裂の危険があるし、後の方では彼女が先に相手を決めてしまう可能性があるから。
「こんばんは~。お兄さんみたいな若い人はじめて~。10Ⅿでどう?」
最初に組んだのは、ねっとりとした上目遣いが色っぽい女性。
Мとは魔力量の単位。国の規定では、100M未満は下級、100以上1000M未満は中級、10000M以上は上級に分類される。
一回10Mか……上級にとっては大した量じゃないが、下級にとっては大きい。おいしい仕事だと考える女性が多いのも頷けてしまう。
「あなた、冷やかしに来たんでしょ。若くてルックスもいい男が、魔力を払ってまで女を買うはずがないもの。私達は真剣なの。その気がないなら帰ってちょうだい」
次の女性は、気が強くて、賢そう。オフィス街でスーツを着てバリバリと働いていそうな雰囲気。彼女のようなタイプが売春に手を出すなんて……どんな事情があるのだろう。
「お願いっ! 2Mでいいから私を買って……! 客を取れなかったってバレたら、また彼氏に殴られる……!」
青あざを化粧で隠し、涙目で訴えて来る女性もいた。
今回のターゲットはあくまでバーテン女性だけれど……それだけじゃ終わらせない。このヤマは、必ず総ざらいしなくては。
そんな決意を固めた所で、ハッとした。
全然、見つめてない。
目の前の女性達に気を取られて、肝心のターゲットから目を離してしまっていた。慌てて視線を四方八方へやる。彼女がまだ輪の中に残っているなら、次か、次の次あたりのはず……。
「よかった……いた……」
思わず、呟いてしまう。よかった。彼女はまだ、踊っていた。
このままいくと、次の次……。と、小さくうなずくようにして女性ゲストの人数を数えていたら……目の前に、次に踊る女性が現れた。
「え!?」
「こんばんは、お兄さん……。1000Mで、いかがですか?」
彼女の名前はクロエ・ブランシェ。
最強魔剣士と誉れ高い、総魔力量100000M越えの、反則級魔法使い。
タキシードにオールバック。バチバチに決めている俺を見たレイラの感想が、それ。
これほどストレートに褒められるのは珍しくて……リアクションに困る。
「なんか緊張してきたな……本当に俺に出来るのか……」
「フレン、出来る出来ないじゃない。やるんだ! ふふ」
イタズラっぽく笑って、トレーに乗っているグラスを差し出すレイラ。給仕役に変装しているから、それらしく振舞っているつもりなのか。
気つけの一杯を一気飲みして……俺は、柱の陰にいるターゲットを見つめた。
魔法警察省から20キロほど離れた郊外にある、リゾートホテル。その中のだだっ広いホールが、今俺達がいる場所。
ずらりと並んだ長テーブルには真っ白なシーツ。その上には彩り豊かな料理やドリンクが並び、高い天井には大きなシャンデリア。
大勢のゲストのうち、大半は若い女性。皆華やかに着飾っていて、会場の雰囲気を一層煌びやかなものにしている。
そんな彼女らを品定めするような目で眺め、尻やら胸やらを堂々と撫でまわしているのは、中高年の男性ゲスト達。誰もが上等なスーツに身を包み、それなりの経済力をうかがわせる。
さて。なぜこんな怪しげなパーティーに、俺たちが参加しているかというと……話は三日前、レイラがティリアンにギブアンドテイクを持ちかけた時に、遡る。
「あの女性バーテンダーを、吊り上げるのよ」
ティリアンに局長の健診結果を調べさせるために、こちらは何を『ギブ』しようとしているのか。それをたずねた俺に、レイラはそう答えた。
「女性バーテンダー? って……ハチロク会で行ったバーの、か? キャンベルホテルの?」
「そ。フレンはすぐに帰っちゃったから知らないだろうけど……最初に話をふってきたのはカイなの。あいつ今、パーティーを利用した集団売春を追ってるみたいで」
「集団売春……」
思いがけず、深刻そうな内容。肩に力が入る。
「表向きは"上級魔法使いの情報交換会"とやらなんだって。でも参加者の半数以上は下級、中級魔法使いの女性。しかも会場は毎回、高級ホテルの宴会場。男性参加者は必ず……宿泊予約をしている」
「成程……パーティーで女を見繕って、そのまま客室にお持ち帰りってわけか。売買春は魔対の管轄じゃねぇけど……生活安全局のカイが話をよこしてきたってことは……」
「そう。売春の対価にされているのは、魔力」
低い声でそう答えるレイラの顔は、真剣だ。
交わりでは、略奪だけではなく供与も可能。そして、後者は犯罪ではない。
しかし……何らかの利益に対する対価として与えた場合はアウト。
すなわち、性交の報酬として魔力の授受が行われた際は、売春買春と不正供与の罪で、与えられた方も与えた方も、お縄となる。
実はこの手の売春は随分前から社会問題になっていて……カイが所属する生安局と魔対とがタッグを組んで撲滅を目指している犯罪でもある。
「話しの流れから察するに……あの女性バーテンダーも、それに関わってるってのか?」
「らしいわよ。捜査を進めるうちに、頻繁にパーティーに参加している女性の身元が特定されてきて……その中にあのバーテンちゃんがいたって。で、ティリアンの耳に入れておいてあげたかったみたい」
アホなフリをして同期想いなカイらしい。
従業員が売春で得た魔力を使って、酒を作り、客に提供していたなんて……公になれば、キャンベルグループが受けるダメージは計り知れないだろうから。
「で、ティリアンはなんて?」
「ティリアン王子は、"忖度無しに捜査を進めてくれ。父もそれを望むはずだ"とおっしゃっていらっしゃいましたよ」
想像通りのお答え。良い意味で、あの親にしてこの子あり。親子共に清廉過ぎる。
「らしいっしょ? でもね~、複雑そうな横顔を、レイラ様は見逃さなかったわけ! だから提案してみたの。一緒にパーティーに潜入して、彼女が売春をする現場をおさえない? って。で、彼女の罪を明らかにした上で、どうしてそんな事をしたのか……話を聞いてみるのも、未来の雇用主として大事だと思う! ってね」
「……お前、すげぇな」
見事を通り越して、怖い。
レイラにかかれば、あの完全無欠の優等生さえ、手の平の上で、転がされるのか。
「話はわかった。ようは、誰かが客のフリをして彼女に接触して、一緒に部屋に入ったところをティリアンと引き会わせればいいんだな。重要なのは、誰に客役をやらせるか……被疑者のうち、警察に協力してくれそうな男に司法取引を持ち掛けるか、もしくは」
腕組みをし首を捻り……俺は至極真剣に考えを巡らせていたのだけれど。そんな俺をレイラは笑い飛ばして。
「なにすっとぼけちゃってんの! いるじゃん! ここに! 顔面偏差値の高い上級魔法使いが!」
そんなわけで……俺はバーテンダーを釣り上げる餌になったのだ。
「心配しなくても、割とすんなりいけると思うんだよね。普段、脂っこいおっさんばっか相手にしてるんだもん。フレンみたいにビジュ良しな若者とやれて、魔力までもらえるならって、ラッキーって思うのが普通じゃない?」
「そう簡単にいくか? おっさんの中にポツンと若いのがいたら、逆に警戒されるんじゃないか」
なんて不安を拭えない俺を無視して……優雅なクラシック音楽が流れ始めた。
と同時に、ホールの中央に集まり始めるゲスト達。どうやら……ダンスが始まるよう。
「始まった! フレン! とにっかく彼女を見つめろ! 俺にはお前しか見えてないんだ位の熱を、視線にこめろ! そしたら、こっちがその気ムンムンだって悟るはず!」
「わ、わかった」
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カイの調べによると……ダンスの時間はマッチングの時間。
女性は円の内側、男性は外側を周り、順に踊る。そこで囁き合うのだ。互いの『条件』を。そうして交渉成立したペアは、ダンスの輪から外れ、消えていく……。
先程まで柱の陰に隠れていたバーテン女性も、慣れた足取りでダンスに参加。
その姿を目で追いながら……4、5番目くらいに彼女とあたるかな、という位置にポジショニング。
あまりに最初の方でも、勝手がわからず交渉決裂の危険があるし、後の方では彼女が先に相手を決めてしまう可能性があるから。
「こんばんは~。お兄さんみたいな若い人はじめて~。10Ⅿでどう?」
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一回10Mか……上級にとっては大した量じゃないが、下級にとっては大きい。おいしい仕事だと考える女性が多いのも頷けてしまう。
「あなた、冷やかしに来たんでしょ。若くてルックスもいい男が、魔力を払ってまで女を買うはずがないもの。私達は真剣なの。その気がないなら帰ってちょうだい」
次の女性は、気が強くて、賢そう。オフィス街でスーツを着てバリバリと働いていそうな雰囲気。彼女のようなタイプが売春に手を出すなんて……どんな事情があるのだろう。
「お願いっ! 2Mでいいから私を買って……! 客を取れなかったってバレたら、また彼氏に殴られる……!」
青あざを化粧で隠し、涙目で訴えて来る女性もいた。
今回のターゲットはあくまでバーテン女性だけれど……それだけじゃ終わらせない。このヤマは、必ず総ざらいしなくては。
そんな決意を固めた所で、ハッとした。
全然、見つめてない。
目の前の女性達に気を取られて、肝心のターゲットから目を離してしまっていた。慌てて視線を四方八方へやる。彼女がまだ輪の中に残っているなら、次か、次の次あたりのはず……。
「よかった……いた……」
思わず、呟いてしまう。よかった。彼女はまだ、踊っていた。
このままいくと、次の次……。と、小さくうなずくようにして女性ゲストの人数を数えていたら……目の前に、次に踊る女性が現れた。
「え!?」
「こんばんは、お兄さん……。1000Mで、いかがですか?」
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