その最強魔剣士には、いかがわしい噂がある

杏 みん

文字の大きさ
15 / 53

15

しおりを挟む
 「お~ま~え~~~~~~!!!」

 魔対とは別フロアの庁内カフェ。
 その窓際のスタンディングスペースで……レイラは、コーヒーの入ったカップを握りつぶした。
 それから、鬼の形相で俺につかみかかってきて。

 「よくも! よくも! 私の局長と~~~~!」

 「いや、お前の局長じゃねぇし。あ、違う、立場的には確かにお前の局長だけど」

 「魔力を四割も失くしといて、言葉遊びか!? さすが、同期の想い人を寝取った男の余裕は半端ないな!?」

 「バッ、声がでかい! お前は1年目に告白してフラれて、もうそっと見守るだけにしたって言ってただろ!」

 慌ててレイラの口を手で塞ぐ。そして周囲を確認。よかった。知っている顔は見当たらない。
 そんな俺を見て、ようやくレイラも冷静さを取り戻したようで。

 「はぁ……それにしても……まさか局長が略奪なんて……あのいかがわしい噂は本当だったとか……マジか」

 深いため息をついて、コーヒーでびしょびしょになった手を拭くレイラ。
 同じくコーヒーが滴るテーブルはシカト。仕方なく、俺が処理する。半裸を見せつけてしまった詫びだ。

 「俺も信じたくない。でも、それ以外に心当たりがないんだ」

 「でもありえなくない? あれだけ優しくて部下想いの人が……部下であり彼氏であるフレンから、略奪なんてする?」

 『彼氏』……ギクリとする言葉だ。
 このまま流してしまいたいけれど、現状をきちんと理解してもらう為には、否定が必須。

 「それがその……付き合ってはいないんだ。なんていうか、それだけの関係で」

 「は? セフ〇ってこと? なんで? 告白した時、セ〇レならいいよ、とか言われたの?」

 「いや、ええと……実は、告白自体、まだしてなくて」

 俺の返事を聞くやいなや、崩壊する美貌。

 「なにやってんのあんた!? チキンが過ぎるわ!」

 「ちが、俺だって、言おうと思ってたんだよ!」

 「お母さんに宿題やりなさいって言われた子供か! 今やろうと思ってたんだよ~! って!? 情けな! んな中途半端な関係をダラダラ続けてるから、魔力を奪われても気付かないんだっつーの!」

 同期の容赦ない言葉が、グサグサと刺さる。

 「さっきはありえないとか言ってたのに……局長が魔力を奪った事は、もう疑わないんだな……」

 「局長の事は信じたいわよ。でも、物事には優先順位がある。今は愛する人の潔白より、チキンなパンイチ同期の命! 魔力を八割失くしたら、命に関わるんだから」

 「レイラ……」

 じーん……と心が震えようとするのを、端々の侮辱的な言葉が妨げる。もう、ちゃんと服着てるんだけど。

 「とりあえず、フレンはなる早で病院行っとけ。もしかしたら、魔力が減るタイプの病気の可能性だってあるわけだし」

 「そうだな、どこかで時間を見つけて……」

 「私は、なんとかして局長の健診結果を手に入れる。本当にあんたから奪っているとしたら……局長の魔力量は増加してるはずだもん」

 「なんとかって……んな超個人情報、無理だろ」

 「何言ってんの! ティリアンがいるでしょう?」

 そう言われて頭の中に浮かぶ、爽やかな王子様スマイル。

 「ティリアンは監査局の主席監察官……警察職員の不正を調査するっていう名目で、動いてもらえばいいのよ」

 「ややや、待て待て、それじゃあティリアンにも、俺と局長の事を話さなきゃいけなくなるじゃねぇか」

 「それが何よ? 命がかかわってるんだから、恥ずかしいとか言ってる場合じゃないでしょ」

 恥ずかしい? 違う。いやそれもあるけど。俺がティリアンに抱いている感情は、もっと複雑で、面倒くさくて。

 「無理だっ。なんとか他に、適当な理由をつけられないか?」

 「適当って……たとえば、"最近局長は実戦任務続きで、魔力を過剰消費している可能性がある。本人は大丈夫だって誤魔化してるけど、心配だからこっそり調べてくれない?" とか?」

 「天才」

 お世辞じゃない。心からの賛辞。やっぱりこいつは、
 単なる局長バカじゃない。現実社会で活用できる、女性特有の頭の回転の速さがある。

 「オッケー! じゃ、さっそくメッセージ入れとくわ」

 事態が切迫していると主張しておきながら、慎重さに乏しいノリでスマホを操作するレイラに、少々慌ててしまう。

 「ちょ、もーちょい考えてから……っ。考えてみれば、ティリアンはいい奴だけど、同期のためとはいえ、簡単に職権乱用するタイプじゃないぞ」

 「そんなんわかってるっつうの。余計な心配せず、私に任せて……あ、返信きた。はや。さすがね。ほら、オッケーだって」

 「ええ!? すご……何て言って頼んだんだよ?」

 「ふふ。あいつはね、優しそうに見えて、情だけでは流されない、シビアなビジネスマンなのよ。なにせ一流経営者の息子だもん。そんな未来のキャンベル伯爵を落とすためには……ギブアンドテイクしかないっしょ」

 驚く俺を嘲るように、厚い唇をにぃっと上げるレイラ。
 その角度が、なんだか妙にいやらしくて……嫌な予感しかしない。それが、率直な感想だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖銀竜に喰われる夜――冷酷な宰相閣下は、禁書庫の司書を執愛の檻に囚える

真守 輪
恋愛
「逃がさない。その賢しい口も、奥の震えも――すべて、私のものだ」 王宮で「禁書庫の未亡人」と揶揄される地味な司書・ルネ。 その正体は、好奇心旺盛でちょっぴり無作法な、本を愛する伯爵令嬢。 彼女には、誰にも言えない秘密があった。 それは、冷酷非道と恐れられる王弟・ゼファール宰相に、夜の禁書庫で秘密に抱かれていること。 聖銀竜の血を引き、興奮すると強靭な鱗と尾が顕れる彼。 人外の剛腕に抱き潰され、甘美な絶望に呑み込まれる夜。 「ただの愛人」と割り切っていたはずなのに、彼の孤独な熱に触れるたび、ルネの心は無防備に暴かれていく。 しかし、ルネは知らなかった。 彼が近づいた真の目的は、彼女が守る「禁書」――王国を揺るがす禁断の真実にあったことを。 「君は、私のものだ。禁書も、その魂も、すべてな」 嘘から始まった関係が、執着に変わる。 竜の情欲と宮廷の陰謀が絡み合う、背徳のインモラル・ロマンス。

同期の姫は、あなどれない

青砥アヲ
恋愛
社会人4年目を迎えたゆきのは、忙しいながらも充実した日々を送っていたが、遠距離恋愛中の彼氏とはすれ違いが続いていた。 ある日、電話での大喧嘩を機に一方的に連絡を拒否され、音信不通となってしまう。 落ち込むゆきのにアプローチしてきたのは『同期の姫』だった。 「…姫って、付き合ったら意彼女に尽くすタイプ?」 「さぁ、、試してみる?」 クールで他人に興味がないと思っていた同期からの、思いがけないアプローチ。動揺を隠せないゆきのは、今まで知らなかった一面に翻弄されていくことにーーー 【登場人物】 早瀬ゆきの(はやせゆきの)・・・R&Sソリューションズ開発部第三課 所属 25歳 姫元樹(ひめもといつき)・・・R&Sソリューションズ開発部第一課 所属 25歳 ◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。 ◆他にエブリスタ様にも掲載してます。

婚約破棄された元聖女、魔王の息子に攫われて溺愛されています

百合川八千花
恋愛
魔王を討伐し、十年にわたる戦いを終えた聖女アルティア。 帰還した王国で待っていたのは、王太子からの婚約破棄と――その子供だった。 絶望の中、現れたのはかつて共に戦った魔王の息子、ヴェルグ。 「君はもう自由だ。だったら僕が攫うよ」 突然の求婚(という名の略奪)と共に、アルティアは隣国・アシュフォード帝国へ連れ去られる。 辺境伯となったヴェルグの領地で始まるのは、 「君のために用意してた」 と語られる豪華すぎる“同棲部屋”、 壁一面に飾られた聖女の肖像画コレクション、 そして、「僕のもの」発言が止まらない溺愛×執着ラブ生活! しかしその頃、聖女を失った王国では、魔王の呪いによる異変が始まっていて―― これは、運命に選ばれ続けた聖女と、ただ彼女だけを愛した元魔王の息子の、 甘くて狂おしい、世界と愛の再構築ラブファンタジー。

〖完結〗終着駅のパッセージ 

苺 迷音
恋愛
過去、使用人に悪戯をされそうになった事がきっかけとなり、分厚い眼鏡とひっつめた髪を編み帽で覆い、自身の容姿を隠すようになった女性・カレン。 その事情を知りながらも夫ローランは、奇妙で地味な姿の妻を厭い目を逸らし続けた。 婚姻してからわずか三日後の朝。彼は赴任先の北の地へと旅立ちその後、カレンの元へと帰省してきたのは、片手で数えるほどだった。 孤独な結婚生活を送る中。 ある冬の日に、ローランの上官であり北の地を治める領主ハルシオン公爵が、カレン夫妻の邸にやってきた。 始まりは、部下の家族を想う上司としての気遣いだった。 他愛もない会話と、節度を守ったやり取り。ほんの僅かな時間を重ねていく。 そのうちに、お互いに灯り始めた小さな心の想い。 だが二人は、それを決して明かさず語ることはなかった。 それから一年ほどたった冬の夜。 カレンから届いた手紙に、たった一度だけハルシオンは返事を書く。 そこには彼の想いが書かれてあった。 月日は流れ、カレンとローランが婚姻して三年目の冬の日。 カレンはひとつの決意と想いを胸に、北へ向かう汽車に乗った。 ※微さまぁか、もしくはざまぁになっていないかもしれないです。 ※舞台は近世・産業革命初頭を基にした架空世界だと思っていただけましたら有難いです。 稚拙な作品ではありますがご覧くださいましたら凄く嬉しいです。よろしくお願い致します。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

「愛想がなく可愛くない」と捨てられた私、最強の竜騎士に拾われる。「その美しさに僕だけが狂わされたい」と、愛の重さでベッドから下ろしてくれない

唯崎りいち
恋愛
夜会の最中、王子に「愛想がなくて可愛くない」と婚約破棄された無表情令嬢。 だが彼女の美しさに一目惚れした隣国最強の竜騎士に連れ去られ、 「君はもう僕のものだ」 と毎晩愛の重さでベッドから下ろしてくれない生活が始まる——。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

処理中です...