17 / 22
17
しおりを挟む
オフショルダーの、ロングドレス。
グラデーションがかった紫色のシフォン生地には、細かなラメがちりばめられていて。まるで、星雲を抱く小宇宙のよう。
サラサラの髪の毛は後頭部でまとめられ、そのふもとには真っ白なうなじ。
いつもより濃い目、太目にひかれたアイラインは、目尻の所で挑発的に跳ね上がっていて……これは、やばい。
「……レン。フレンっ。聞いていますか?」
「っは……! あ、え、すいませんっ」
完全に見惚れていて、聞いてませんでした。なんて言えるはずもない俺は、とりあえず平謝り。
売春婦……としてダンスの輪に加わっていた俺の上司は、華麗なステップを踏みながらため息を吐いた。
「どうしてあなたがこんな所にいるんです」
「俺達はその……というか、局長こそこんな所でなにを?」
「仕事に決まっているでしょう? 男あさりに来ているとでも思いましたか? 最近は、胸鎖乳突筋の美しい部下が、ちっとも相手をしてくれないから?」
ギクリ。思わず、絡めた手に力が入ってしまう。
「なに言ってるんですか。俺は別に」
「とぼけるの下手すぎ選手権があったら優勝ですね。あなたはここ数日、私を避けている。仕事中もよそよそしいし、誘っても予定があるからと断って……気付いていないとでも思いましたか?」
おっしゃる通り……魔力の減少が発覚したあの日……局長からの略奪を疑ったあの日以来、俺は局長を避けている。気付かれている事も、気付いていた。でも……
「どうでもいいでしょうそんな事。俺に避けられようが、何されようが、局長はノーダメージの筈です」
そう思ったから、避け続けた。自分の魔力を……心を、守る為に。
「私が何か気に障る事をしましたか? きちんと言ってくれなければわからな」
言い終えるのを待たずに変わる、曲調。
一つ横にずれて、踊る相手を変えて下さいという、合図だ。
「交代の時間なんで……」
「私が嫌になったんですか? フレン……っ」
振り払うようにして、絡めた手をほどいた。名前を呼ばれても、返事もせず。
「はじめまして~。私、大抵のプレイはNG出さないですよ? 50Mでどうです?」
次のダンスパートナーの言葉が、右から左に抜けていく。
見たら負け。見たら負け。
そう自分に言い聞かせているのに……つい目で追ってしまうのは、流れて行った、小宇宙。
そして局長もまた、他の男とダンスをしながら、俺を見つめていた。
その表情は、明るい曲調に似合わず、とても悲し気。
嫌になったんじゃない。なるわけない。なれないから、辛いのに。
本当は、避けるなんてださいマネをせずに、聞きたいんだ。
あなたは俺から魔力を奪っていたんですか。
そのために俺に近付いたんですか。
あなたにとって、俺は一体何――
「あの……あなた、前にどこかでお会いした事ないです?」
「……へ!?」
ハッと我に返り、視線を目の前の女性に向ける。そこにいたのは、あのバーテン女性。今回が俺が吊り上げなければならない、ターゲット。
いつの間にか再び曲が代わり、ダンスパートナーが交代していたのだ。
「あ、そ、や……っ」
まずい。やっちまった。
局長に気を取られて、かんっぜんに彼女の事を忘れていた。どうしよう、微塵も見つめていない。『君にロックオンしてるよ』という意志を、全くアピールできていない。つまり、ゼロからの交渉スタート。
これは……控えめに言って、大ピンチ。
なんて、思っていたのに。
「あ! この前バーに来てくれたお客様だ! 嬉しい! 素敵な人だなぁって思ってたんですよ!」
「は……? あ、そ、そうなんですか……」
青天の霹靂。真っ黒な曇り空に、一筋の光が射した。
「ふふ……お客様、私のタイプだからサービスしちゃいます。お店への口止め料もあるし……10Mで、どうですか?」
グラデーションがかった紫色のシフォン生地には、細かなラメがちりばめられていて。まるで、星雲を抱く小宇宙のよう。
サラサラの髪の毛は後頭部でまとめられ、そのふもとには真っ白なうなじ。
いつもより濃い目、太目にひかれたアイラインは、目尻の所で挑発的に跳ね上がっていて……これは、やばい。
「……レン。フレンっ。聞いていますか?」
「っは……! あ、え、すいませんっ」
完全に見惚れていて、聞いてませんでした。なんて言えるはずもない俺は、とりあえず平謝り。
売春婦……としてダンスの輪に加わっていた俺の上司は、華麗なステップを踏みながらため息を吐いた。
「どうしてあなたがこんな所にいるんです」
「俺達はその……というか、局長こそこんな所でなにを?」
「仕事に決まっているでしょう? 男あさりに来ているとでも思いましたか? 最近は、胸鎖乳突筋の美しい部下が、ちっとも相手をしてくれないから?」
ギクリ。思わず、絡めた手に力が入ってしまう。
「なに言ってるんですか。俺は別に」
「とぼけるの下手すぎ選手権があったら優勝ですね。あなたはここ数日、私を避けている。仕事中もよそよそしいし、誘っても予定があるからと断って……気付いていないとでも思いましたか?」
おっしゃる通り……魔力の減少が発覚したあの日……局長からの略奪を疑ったあの日以来、俺は局長を避けている。気付かれている事も、気付いていた。でも……
「どうでもいいでしょうそんな事。俺に避けられようが、何されようが、局長はノーダメージの筈です」
そう思ったから、避け続けた。自分の魔力を……心を、守る為に。
「私が何か気に障る事をしましたか? きちんと言ってくれなければわからな」
言い終えるのを待たずに変わる、曲調。
一つ横にずれて、踊る相手を変えて下さいという、合図だ。
「交代の時間なんで……」
「私が嫌になったんですか? フレン……っ」
振り払うようにして、絡めた手をほどいた。名前を呼ばれても、返事もせず。
「はじめまして~。私、大抵のプレイはNG出さないですよ? 50Mでどうです?」
次のダンスパートナーの言葉が、右から左に抜けていく。
見たら負け。見たら負け。
そう自分に言い聞かせているのに……つい目で追ってしまうのは、流れて行った、小宇宙。
そして局長もまた、他の男とダンスをしながら、俺を見つめていた。
その表情は、明るい曲調に似合わず、とても悲し気。
嫌になったんじゃない。なるわけない。なれないから、辛いのに。
本当は、避けるなんてださいマネをせずに、聞きたいんだ。
あなたは俺から魔力を奪っていたんですか。
そのために俺に近付いたんですか。
あなたにとって、俺は一体何――
「あの……あなた、前にどこかでお会いした事ないです?」
「……へ!?」
ハッと我に返り、視線を目の前の女性に向ける。そこにいたのは、あのバーテン女性。今回が俺が吊り上げなければならない、ターゲット。
いつの間にか再び曲が代わり、ダンスパートナーが交代していたのだ。
「あ、そ、や……っ」
まずい。やっちまった。
局長に気を取られて、かんっぜんに彼女の事を忘れていた。どうしよう、微塵も見つめていない。『君にロックオンしてるよ』という意志を、全くアピールできていない。つまり、ゼロからの交渉スタート。
これは……控えめに言って、大ピンチ。
なんて、思っていたのに。
「あ! この前バーに来てくれたお客様だ! 嬉しい! 素敵な人だなぁって思ってたんですよ!」
「は……? あ、そ、そうなんですか……」
青天の霹靂。真っ黒な曇り空に、一筋の光が射した。
「ふふ……お客様、私のタイプだからサービスしちゃいます。お店への口止め料もあるし……10Mで、どうですか?」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】遅いのですなにもかも
砂礫レキ
恋愛
昔森の奥でやさしい魔女は一人の王子さまを助けました。
王子さまは魔女に恋をして自分の城につれかえりました。
数年後、王子さまは隣国のお姫さまを好きになってしまいました。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
私の旦那様はつまらない男
おきょう
恋愛
私の旦那様であるロバート伯爵は、無口で無愛想な仕事バカ。
家庭を返り見ず仕事に精を出すのみのつまらない男である。
それでも私は伯爵家の妻として今日も面倒な社交の場に出なければならないのだ。
伯爵家の名を落とさないために。あぁ面倒くさい。
※他サイトで投稿したものの改稿版になります。
婚約破棄? あら、それって何時からでしたっけ
松本雀
恋愛
――午前十時、王都某所。
エマ=ベルフィールド嬢は、目覚めと共に察した。
「…………やらかしましたわね?」
◆
婚約破棄お披露目パーティーを寝過ごした令嬢がいた。
目を覚ましたときには王子が困惑し、貴族たちは騒然、そしてエマ嬢の口から放たれたのは伝説の一言――
「婚約破棄されに来ましたわ!」
この事件を皮切りに、彼女は悪役令嬢の星として注目され、次々と舞い込む求婚と、空回る王子の再アタックに悩まされることになる。
これは、とある寝坊令嬢の名言と昼寝と誤解に満ちた優雅なる騒動録である。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
王子の魔法は愛する人の涙に溶けた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢にされそうになった女の子がなんだかんだで愛を取り戻すお話。
またはヤンデレな王太子が涼しい顔で復讐を果たすお話。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる