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魔法警察庁のあるダイヤ・シティから20キロほど離れた場所にある、パール・シティ。
ダイヤ・シティのように華やかではないけれど、大きな公園や、ゆったりとした歩道、駅から少し離れた場所に広がる住宅街、それらの場所全てを彩る豊かな緑……ダイヤ・シティに無い物が、ここには多くある。
かといって、不便な田舎という感じでも無い。
商店街を真っ直ぐに歩いているだけで、生活必需品はしっかりと揃えられそうな、温かな充実感を感じる。
道行く人々の多くが家族連れで、皆、笑顔。つまりは……子育て世代が集まっているエリア。という印象。
と言っても、ここに来るのは初めてじゃなかった。
俺だけじゃなく……86期の全員が。
「あれ……!? ここって……っ!」
商店街の一角にある、小さなレストラン。
先頭を歩く局長が、『ここが待ち合わせ場所です』と立ち止まると、俺とレイラとカイは、互いに顔を見合った。
「ちょ、ここって、あれだよな? いつだったか、ルークの誕生日サプライズで、皆で来た……!」
「そうよ間違いない! 予約したの私だもん! あいつ、肉が食べられなかったから……当時はまだヴィーガン向けのレストランが少なくて……探すのに苦労したの覚えてる!」
そうだ。よく覚えている。
ルークは本当に優しい奴だったから、食事の為に動物を殺すのが辛い、とか言って。
「そのようですね。ティリアンから聞きました。ルークはその時に、この店の経営者である被害女性と出会って……交際するフリをして、魔力を奪っていたようです」
「つまり、結婚相談所以外の場でも、ターゲットを探していた……という事なんだ。だから、潜在的被害者は、もっとずっと多いのかもしれない……」
苦しそうに、辛そうに説明をしてくれる局長と、ティリアン。
同期が開いた、サプライズバースデーパーティーの会場。その店の人間に手を出し、魔力を奪った。
それが本当なら、ルークのクソ野郎ぶりは相当のものだ。もし、本当なら……だけれど。
「それにしても……おかしいですね。待ち合わせ場所は自分のお店がいい、という事だったのですが……」
真っ暗な店内を窓越しに覗きながら、局長は首をひねる。
店のドアには『closed』の札。
「私、彼女に電話してみますね。ティリアン、あなたは……」
「はい。監査局に連絡が入って無いか、確認してみます」
局長とティリアンはそれぞれにスマホを手に取り、訝し気な表情で、少し離れた場所に駆けて行った。
チャンス……。俺とレイラ、そしてカイの、小声会議が、始まる。
「おかしくね? 明らかおかしくね?」
「おかしい……。あの二人、まだ何かを隠してるのかしら? それとも、ルークが犯人て話し自体が、嘘?」
「でも、そんな嘘をつく意味ってなんだよ? 二人共、部下や同期を貶めるような人じゃないだろ」
「んじゃ、ルークの件は本当で、まだ何か秘密がある説が有力って感じか?」
「や、わからねぇけど……」
「も~なんだよぉ~! はっきりしろよ~! モヤモヤするぅ~!」
そんな事、俺に言われても。
ぐにゃぐにゃしながら、俺の肩を掴んで揺するカイが、うざい。
「っし! 局長が来る!」
人差し指を立てるレイラの言葉で、会議は終了。
俺達は何事もなかったような顔で、小走りで戻って来た局長を迎えた。
「局長、いかがでしたか?」
「大変です。彼女、突然倒れて……救急車で運ばれたようで」
深刻な報告。一気に空気が張り詰める。
「倒れたって……どうしてっすか!?」
「魔力略奪の影響で、体調が悪いとは聞いていたんです。でも……ここまで悪化しているなんて」
唇をかみしめる局長。その時……誰もいないはずの店内から、陶器が割れるような音が聞こえた。
直後、レイラは右手を掲げて、彼女の『剣』である刀を取り出し、店の窓ガラスを粉砕。そこから店内に入り込んで。
「ええ~!? ちょいちょいレイラ!」
「物音がしただけでそれはやり過ぎだろ!」
カイと俺は少々引きつつ、ツッコミを入れるけど。局長は、レイラの後に続いて、ガラス片がささくれ立つ窓枠に足をかけた。
「レイラ! 待って! 私が行きます!」
「ちょ、局長まで!」
「カイ! 俺達も行くぞ! 剣を出せ!」
「マジかよ!? これで何も無かったら、始末書は魔対名義でよろ!」
俺とカイはそれぞれに剣を出した。俺の剣は、真っ黒な大剣。カイの剣は両端に刃のついた槍、双頭刃。
「誰かいるなら出て来い!」
店内に入ると、先陣を切ったレイラは、すでにカウンターの奥にまで足を踏み込んでいて。
俺とカイは、それぞれに店内を捜索した。……と言っても……店内は大ぶりな刃物を振り回すせるほど広くなく……一周視線を回しただけで、侵入者の影が無いと判断できて。
「局長! 倉庫の奥に出入口があります! そこから逃げたのかも……追います!」
「レイラ待って! 私が行きます! あなたたちはここで待機!」
と、声を張り上げて命令を出し、右手を掲げる局長。
思わず、注目してしまう。
最強魔剣士の美しい刀剣を、久々に拝める……。近頃は、剣を出すほどの相手がいなかったせいか、とんとご無沙汰していたから。
しかし、その期待は淡く散った。
右手に集まっていた、オーロラのように煌めく魔力は霧のごとく散り……ふらついた局長が、そばにあったテーブルの上に、倒れ込んだのだ。
「きゃああ~! 局長!?」
「やっべ! そうじゃん! 局長病み上がりじゃん!」
「局長は俺が! レイラ! カイ! お前らで不審者を追ってくれ!」
局長の肩を両手で支えながら、同期達に追跡を託す。けれど、勢いよく顔を上げた局長が、それを阻んだ。
「ダメ! 追わなくていいです! 全員待機!」
「は!? どうしてですか!?」
「た……ただの空き巣とかかもしれません! 住宅街で剣を振り回しながら追う程のアレでは」
「窓ガラスガシャーンしといて、なにを今更……! 局長だって顔色変えて追おうとしてたじゃないですか!?」
「とにかく今は命令に従ってください!」
「ん……!? 何事!?」
強い口調で言い合う俺と局長……の間に入り込んで来たのは、ティリアンの声。
すっかり風通しのよくなった窓から、店内を覗いている。
険しい表情で剣を携えた俺達を見て、困惑している様子。
「詳しくは、後で……。どうでしたか? 監査の方には連絡入ってましたか?」
体を支える俺を押しのけ、おぼつかない足取りでティリアンの元へ歩く局長。
「あ、ああはい。彼女、今病院にいるようです。いきなり倒れて運ばれて……今は容体が安定しているようですが。約束は延期してくれないかって、電話があったみたいで」
「……相変わらず、真面目な人ですね」
局長は小さく苦笑いをしてから、店のドアのカギを中から開け、外へ出た。
「お見舞いに行きます」
「ですが局長、彼女は局長に連絡をしたら、そういう気遣いをされると思ったから、監査に電話をくれたのだと思いますよ……ん? なんだか、顔色が悪くありませんか?」
元上司の異変に気付いたティリアンが、そう言って顔を覗き込むけれど。局長はそれを阻むように『大丈夫です』と言ってそっぽを向いた。
しかし、大丈夫じゃないと知っているカイが、局長の腕を掴んで、止める。
「バレバレの顔色で嘘はダメっすよ局長! 今日はとりあえず戻って、また後日」
「あなたたちは帰還して大丈夫です。一人で行けます。今度はケチらずにタクシーを使うので、心配いりません」
「ややや、確かに行きはビビりましたけど! 俺らすでにタクシー捕まえてたのに、私は電車で行きます、とか……局長レベルが公共交通機関で移動かい! ってめっちゃビビりましたけど!」
「だって、この距離をタクシーって……メーターの数字と反比例してお財布の中身が減るんだと思うと、ストレスで……」
「どうしても行くなら、俺が同行します」
局長とカイが、緊迫した空気にそぐわないやり取りを始めた所で、切り込んだ。
「今の局長は、明らかに一人にしておける状態じゃありません。補佐役として、俺が付き添います」
「フレン、でも私は……」
「あっ、じゃあこうしないか? 局長には俺が同行して、三人はここの後処理を」
「局長補佐は俺だ。俺が、同行するっ」
柔和な笑顔で投じられたティリアンの提案を一蹴し……俺は、局長の肩を支えた。
「……りょーかい! フレン、局長をお願いね」
「後始末は俺らに任せとけ! 始末書は、魔対名義にするけどな!」
快活な笑顔で親指を立てるレイラとカイとは違い、ティリアンは笑みは、どこか不安げ。
でも、構わず歩き出す。局長の肩を抱いたまま。
とにかく今は、二人きりになりたい。下心ゆえでは無い。いや、下心が微塵もないかと言えば嘘になるけど……それよりなにより、真実を確かめるためだ。
振り返り、薄暗いままの店内に目をやる。
あの場所に立ち込めていた……泣きたいほどに懐かしい、あの魔力の気配。胸の奥が、痛いくらいにざわついた。
あれは間違いなく……あいつのものだったから。
ダイヤ・シティのように華やかではないけれど、大きな公園や、ゆったりとした歩道、駅から少し離れた場所に広がる住宅街、それらの場所全てを彩る豊かな緑……ダイヤ・シティに無い物が、ここには多くある。
かといって、不便な田舎という感じでも無い。
商店街を真っ直ぐに歩いているだけで、生活必需品はしっかりと揃えられそうな、温かな充実感を感じる。
道行く人々の多くが家族連れで、皆、笑顔。つまりは……子育て世代が集まっているエリア。という印象。
と言っても、ここに来るのは初めてじゃなかった。
俺だけじゃなく……86期の全員が。
「あれ……!? ここって……っ!」
商店街の一角にある、小さなレストラン。
先頭を歩く局長が、『ここが待ち合わせ場所です』と立ち止まると、俺とレイラとカイは、互いに顔を見合った。
「ちょ、ここって、あれだよな? いつだったか、ルークの誕生日サプライズで、皆で来た……!」
「そうよ間違いない! 予約したの私だもん! あいつ、肉が食べられなかったから……当時はまだヴィーガン向けのレストランが少なくて……探すのに苦労したの覚えてる!」
そうだ。よく覚えている。
ルークは本当に優しい奴だったから、食事の為に動物を殺すのが辛い、とか言って。
「そのようですね。ティリアンから聞きました。ルークはその時に、この店の経営者である被害女性と出会って……交際するフリをして、魔力を奪っていたようです」
「つまり、結婚相談所以外の場でも、ターゲットを探していた……という事なんだ。だから、潜在的被害者は、もっとずっと多いのかもしれない……」
苦しそうに、辛そうに説明をしてくれる局長と、ティリアン。
同期が開いた、サプライズバースデーパーティーの会場。その店の人間に手を出し、魔力を奪った。
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「それにしても……おかしいですね。待ち合わせ場所は自分のお店がいい、という事だったのですが……」
真っ暗な店内を窓越しに覗きながら、局長は首をひねる。
店のドアには『closed』の札。
「私、彼女に電話してみますね。ティリアン、あなたは……」
「はい。監査局に連絡が入って無いか、確認してみます」
局長とティリアンはそれぞれにスマホを手に取り、訝し気な表情で、少し離れた場所に駆けて行った。
チャンス……。俺とレイラ、そしてカイの、小声会議が、始まる。
「おかしくね? 明らかおかしくね?」
「おかしい……。あの二人、まだ何かを隠してるのかしら? それとも、ルークが犯人て話し自体が、嘘?」
「でも、そんな嘘をつく意味ってなんだよ? 二人共、部下や同期を貶めるような人じゃないだろ」
「んじゃ、ルークの件は本当で、まだ何か秘密がある説が有力って感じか?」
「や、わからねぇけど……」
「も~なんだよぉ~! はっきりしろよ~! モヤモヤするぅ~!」
そんな事、俺に言われても。
ぐにゃぐにゃしながら、俺の肩を掴んで揺するカイが、うざい。
「っし! 局長が来る!」
人差し指を立てるレイラの言葉で、会議は終了。
俺達は何事もなかったような顔で、小走りで戻って来た局長を迎えた。
「局長、いかがでしたか?」
「大変です。彼女、突然倒れて……救急車で運ばれたようで」
深刻な報告。一気に空気が張り詰める。
「倒れたって……どうしてっすか!?」
「魔力略奪の影響で、体調が悪いとは聞いていたんです。でも……ここまで悪化しているなんて」
唇をかみしめる局長。その時……誰もいないはずの店内から、陶器が割れるような音が聞こえた。
直後、レイラは右手を掲げて、彼女の『剣』である刀を取り出し、店の窓ガラスを粉砕。そこから店内に入り込んで。
「ええ~!? ちょいちょいレイラ!」
「物音がしただけでそれはやり過ぎだろ!」
カイと俺は少々引きつつ、ツッコミを入れるけど。局長は、レイラの後に続いて、ガラス片がささくれ立つ窓枠に足をかけた。
「レイラ! 待って! 私が行きます!」
「ちょ、局長まで!」
「カイ! 俺達も行くぞ! 剣を出せ!」
「マジかよ!? これで何も無かったら、始末書は魔対名義でよろ!」
俺とカイはそれぞれに剣を出した。俺の剣は、真っ黒な大剣。カイの剣は両端に刃のついた槍、双頭刃。
「誰かいるなら出て来い!」
店内に入ると、先陣を切ったレイラは、すでにカウンターの奥にまで足を踏み込んでいて。
俺とカイは、それぞれに店内を捜索した。……と言っても……店内は大ぶりな刃物を振り回すせるほど広くなく……一周視線を回しただけで、侵入者の影が無いと判断できて。
「局長! 倉庫の奥に出入口があります! そこから逃げたのかも……追います!」
「レイラ待って! 私が行きます! あなたたちはここで待機!」
と、声を張り上げて命令を出し、右手を掲げる局長。
思わず、注目してしまう。
最強魔剣士の美しい刀剣を、久々に拝める……。近頃は、剣を出すほどの相手がいなかったせいか、とんとご無沙汰していたから。
しかし、その期待は淡く散った。
右手に集まっていた、オーロラのように煌めく魔力は霧のごとく散り……ふらついた局長が、そばにあったテーブルの上に、倒れ込んだのだ。
「きゃああ~! 局長!?」
「やっべ! そうじゃん! 局長病み上がりじゃん!」
「局長は俺が! レイラ! カイ! お前らで不審者を追ってくれ!」
局長の肩を両手で支えながら、同期達に追跡を託す。けれど、勢いよく顔を上げた局長が、それを阻んだ。
「ダメ! 追わなくていいです! 全員待機!」
「は!? どうしてですか!?」
「た……ただの空き巣とかかもしれません! 住宅街で剣を振り回しながら追う程のアレでは」
「窓ガラスガシャーンしといて、なにを今更……! 局長だって顔色変えて追おうとしてたじゃないですか!?」
「とにかく今は命令に従ってください!」
「ん……!? 何事!?」
強い口調で言い合う俺と局長……の間に入り込んで来たのは、ティリアンの声。
すっかり風通しのよくなった窓から、店内を覗いている。
険しい表情で剣を携えた俺達を見て、困惑している様子。
「詳しくは、後で……。どうでしたか? 監査の方には連絡入ってましたか?」
体を支える俺を押しのけ、おぼつかない足取りでティリアンの元へ歩く局長。
「あ、ああはい。彼女、今病院にいるようです。いきなり倒れて運ばれて……今は容体が安定しているようですが。約束は延期してくれないかって、電話があったみたいで」
「……相変わらず、真面目な人ですね」
局長は小さく苦笑いをしてから、店のドアのカギを中から開け、外へ出た。
「お見舞いに行きます」
「ですが局長、彼女は局長に連絡をしたら、そういう気遣いをされると思ったから、監査に電話をくれたのだと思いますよ……ん? なんだか、顔色が悪くありませんか?」
元上司の異変に気付いたティリアンが、そう言って顔を覗き込むけれど。局長はそれを阻むように『大丈夫です』と言ってそっぽを向いた。
しかし、大丈夫じゃないと知っているカイが、局長の腕を掴んで、止める。
「バレバレの顔色で嘘はダメっすよ局長! 今日はとりあえず戻って、また後日」
「あなたたちは帰還して大丈夫です。一人で行けます。今度はケチらずにタクシーを使うので、心配いりません」
「ややや、確かに行きはビビりましたけど! 俺らすでにタクシー捕まえてたのに、私は電車で行きます、とか……局長レベルが公共交通機関で移動かい! ってめっちゃビビりましたけど!」
「だって、この距離をタクシーって……メーターの数字と反比例してお財布の中身が減るんだと思うと、ストレスで……」
「どうしても行くなら、俺が同行します」
局長とカイが、緊迫した空気にそぐわないやり取りを始めた所で、切り込んだ。
「今の局長は、明らかに一人にしておける状態じゃありません。補佐役として、俺が付き添います」
「フレン、でも私は……」
「あっ、じゃあこうしないか? 局長には俺が同行して、三人はここの後処理を」
「局長補佐は俺だ。俺が、同行するっ」
柔和な笑顔で投じられたティリアンの提案を一蹴し……俺は、局長の肩を支えた。
「……りょーかい! フレン、局長をお願いね」
「後始末は俺らに任せとけ! 始末書は、魔対名義にするけどな!」
快活な笑顔で親指を立てるレイラとカイとは違い、ティリアンは笑みは、どこか不安げ。
でも、構わず歩き出す。局長の肩を抱いたまま。
とにかく今は、二人きりになりたい。下心ゆえでは無い。いや、下心が微塵もないかと言えば嘘になるけど……それよりなにより、真実を確かめるためだ。
振り返り、薄暗いままの店内に目をやる。
あの場所に立ち込めていた……泣きたいほどに懐かしい、あの魔力の気配。胸の奥が、痛いくらいにざわついた。
あれは間違いなく……あいつのものだったから。
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