その最強魔剣士には、いかがわしい噂がある

杏 みん

文字の大きさ
24 / 53

24

しおりを挟む
 魔法警察庁のあるダイヤ・シティから20キロほど離れた場所にある、パール・シティ。

 ダイヤ・シティのように華やかではないけれど、大きな公園や、ゆったりとした歩道、駅から少し離れた場所に広がる住宅街、それらの場所全てを彩る豊かな緑……ダイヤ・シティに無い物が、ここには多くある。

 かといって、不便な田舎という感じでも無い。
 商店街を真っ直ぐに歩いているだけで、生活必需品はしっかりと揃えられそうな、温かな充実感を感じる。
 道行く人々の多くが家族連れで、皆、笑顔。つまりは……子育て世代が集まっているエリア。という印象。

 と言っても、ここに来るのは初めてじゃなかった。
 俺だけじゃなく……86期の全員が。


 「あれ……!? ここって……っ!」

 商店街の一角にある、小さなレストラン。
 先頭を歩く局長が、『ここが待ち合わせ場所です』と立ち止まると、俺とレイラとカイは、互いに顔を見合った。

 「ちょ、ここって、あれだよな? いつだったか、ルークの誕生日サプライズで、皆で来た……!」

 「そうよ間違いない! 予約したの私だもん! あいつ、肉が食べられなかったから……当時はまだヴィーガン向けのレストランが少なくて……探すのに苦労したの覚えてる!」

 そうだ。よく覚えている。

 ルークは本当に優しい奴だったから、食事の為に動物を殺すのが辛い、とか言って。

 「そのようですね。ティリアンから聞きました。ルークはその時に、この店の経営者である被害女性と出会って……交際するフリをして、魔力を奪っていたようです」

 「つまり、結婚相談所以外の場でも、ターゲットを探していた……という事なんだ。だから、潜在的被害者は、もっとずっと多いのかもしれない……」

 苦しそうに、辛そうに説明をしてくれる局長と、ティリアン。

 同期が開いた、サプライズバースデーパーティーの会場。その店の人間に手を出し、魔力を奪った。
 それが本当なら、ルークのクソ野郎ぶりは相当のものだ。もし、本当なら……だけれど。

 「それにしても……おかしいですね。待ち合わせ場所は自分のお店がいい、という事だったのですが……」

 真っ暗な店内を窓越しに覗きながら、局長は首をひねる。
 店のドアには『closed』の札。

 「私、彼女に電話してみますね。ティリアン、あなたは……」

 「はい。監査局に連絡が入って無いか、確認してみます」

 局長とティリアンはそれぞれにスマホを手に取り、訝し気な表情で、少し離れた場所に駆けて行った。

 チャンス……。俺とレイラ、そしてカイの、小声会議が、始まる。

 「おかしくね? 明らかおかしくね?」

 「おかしい……。あの二人、まだ何かを隠してるのかしら? それとも、ルークが犯人て話し自体が、嘘?」

 「でも、そんな嘘をつく意味ってなんだよ? 二人共、部下や同期を貶めるような人じゃないだろ」

 「んじゃ、ルークの件は本当で、まだ何か秘密がある説が有力って感じか?」

 「や、わからねぇけど……」

 「も~なんだよぉ~! はっきりしろよ~! モヤモヤするぅ~!」

 そんな事、俺に言われても。
 ぐにゃぐにゃしながら、俺の肩を掴んで揺するカイが、うざい。

 「っし! 局長が来る!」

 人差し指を立てるレイラの言葉で、会議は終了。
 俺達は何事もなかったような顔で、小走りで戻って来た局長を迎えた。

 「局長、いかがでしたか?」

 「大変です。彼女、突然倒れて……救急車で運ばれたようで」

 深刻な報告。一気に空気が張り詰める。

 「倒れたって……どうしてっすか!?」

 「魔力略奪の影響で、体調が悪いとは聞いていたんです。でも……ここまで悪化しているなんて」

 唇をかみしめる局長。その時……誰もいないはずの店内から、陶器が割れるような音が聞こえた。

 直後、レイラは右手を掲げて、彼女の『剣』である刀を取り出し、店の窓ガラスを粉砕。そこから店内に入り込んで。

 「ええ~!? ちょいちょいレイラ!」

 「物音がしただけでそれはやり過ぎだろ!」

 カイと俺は少々引きつつ、ツッコミを入れるけど。局長は、レイラの後に続いて、ガラス片がささくれ立つ窓枠に足をかけた。

 「レイラ! 待って! 私が行きます!」

 「ちょ、局長まで!」

 「カイ! 俺達も行くぞ! 剣を出せ!」

 「マジかよ!? これで何も無かったら、始末書は魔対名義でよろ!」

 俺とカイはそれぞれに剣を出した。俺の剣は、真っ黒な大剣。カイの剣は両端に刃のついた槍、双頭刃。

 「誰かいるなら出て来い!」

 店内に入ると、先陣を切ったレイラは、すでにカウンターの奥にまで足を踏み込んでいて。
 俺とカイは、それぞれに店内を捜索した。……と言っても……店内は大ぶりな刃物を振り回すせるほど広くなく……一周視線を回しただけで、侵入者の影が無いと判断できて。

 「局長! 倉庫の奥に出入口があります! そこから逃げたのかも……追います!」

 「レイラ待って! 私が行きます! あなたたちはここで待機!」

 と、声を張り上げて命令を出し、右手を掲げる局長。
 思わず、注目してしまう。
 最強魔剣士の美しい刀剣を、久々に拝める……。近頃は、剣を出すほどの相手がいなかったせいか、とんとご無沙汰していたから。

 しかし、その期待は淡く散った。   
 
 右手に集まっていた、オーロラのように煌めく魔力は霧のごとく散り……ふらついた局長が、そばにあったテーブルの上に、倒れ込んだのだ。

 「きゃああ~! 局長!?」

 「やっべ! そうじゃん! 局長病み上がりじゃん!」

 「局長は俺が! レイラ! カイ! お前らで不審者を追ってくれ!」

 局長の肩を両手で支えながら、同期達に追跡を託す。けれど、勢いよく顔を上げた局長が、それを阻んだ。

 「ダメ! 追わなくていいです! 全員待機!」

 「は!? どうしてですか!?」

 「た……ただの空き巣とかかもしれません! 住宅街で剣を振り回しながら追う程のアレでは」

 「窓ガラスガシャーンしといて、なにを今更……! 局長だって顔色変えて追おうとしてたじゃないですか!?」

 「とにかく今は命令に従ってください!」

 「ん……!? 何事!?」

 強い口調で言い合う俺と局長……の間に入り込んで来たのは、ティリアンの声。
 すっかり風通しのよくなった窓から、店内を覗いている。
 険しい表情で剣を携えた俺達を見て、困惑している様子。

 「詳しくは、後で……。どうでしたか? 監査の方には連絡入ってましたか?」

 体を支える俺を押しのけ、おぼつかない足取りでティリアンの元へ歩く局長。

 「あ、ああはい。彼女、今病院にいるようです。いきなり倒れて運ばれて……今は容体が安定しているようですが。約束は延期してくれないかって、電話があったみたいで」

 「……相変わらず、真面目な人ですね」

 局長は小さく苦笑いをしてから、店のドアのカギを中から開け、外へ出た。

 「お見舞いに行きます」

 「ですが局長、彼女は局長に連絡をしたら、そういう気遣いをされると思ったから、監査に電話をくれたのだと思いますよ……ん? なんだか、顔色が悪くありませんか?」

 元上司の異変に気付いたティリアンが、そう言って顔を覗き込むけれど。局長はそれを阻むように『大丈夫です』と言ってそっぽを向いた。

 しかし、大丈夫じゃないと知っているカイが、局長の腕を掴んで、止める。

 「バレバレの顔色で嘘はダメっすよ局長! 今日はとりあえず戻って、また後日」

 「あなたたちは帰還して大丈夫です。一人で行けます。今度はケチらずにタクシーを使うので、心配いりません」

 「ややや、確かに行きはビビりましたけど! 俺らすでにタクシー捕まえてたのに、私は電車で行きます、とか……局長レベルが公共交通機関で移動かい! ってめっちゃビビりましたけど!」

 「だって、この距離をタクシーって……メーターの数字と反比例してお財布の中身が減るんだと思うと、ストレスで……」

 「どうしても行くなら、俺が同行します」

 局長とカイが、緊迫した空気にそぐわないやり取りを始めた所で、切り込んだ。

 「今の局長は、明らかに一人にしておける状態じゃありません。補佐役として、俺が付き添います」

 「フレン、でも私は……」

 「あっ、じゃあこうしないか? 局長には俺が同行して、三人はここの後処理を」

 「局長補佐は俺だ。俺が、同行するっ」

 柔和な笑顔で投じられたティリアンの提案を一蹴し……俺は、局長の肩を支えた。

 「……りょーかい! フレン、局長をお願いね」

 「後始末は俺らに任せとけ! 始末書は、魔対名義にするけどな!」

 快活な笑顔で親指を立てるレイラとカイとは違い、ティリアンは笑みは、どこか不安げ。
 でも、構わず歩き出す。局長の肩を抱いたまま。

 とにかく今は、二人きりになりたい。下心ゆえでは無い。いや、下心が微塵もないかと言えば嘘になるけど……それよりなにより、真実を確かめるためだ。

 振り返り、薄暗いままの店内に目をやる。
 あの場所に立ち込めていた……泣きたいほどに懐かしい、あの魔力の気配。胸の奥が、痛いくらいにざわついた。

 あれは間違いなく……あいつのものだったから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖銀竜に喰われる夜――冷酷な宰相閣下は、禁書庫の司書を執愛の檻に囚える

真守 輪
恋愛
「逃がさない。その賢しい口も、奥の震えも――すべて、私のものだ」 王宮で「禁書庫の未亡人」と揶揄される地味な司書・ルネ。 その正体は、好奇心旺盛でちょっぴり無作法な、本を愛する伯爵令嬢。 彼女には、誰にも言えない秘密があった。 それは、冷酷非道と恐れられる王弟・ゼファール宰相に、夜の禁書庫で秘密に抱かれていること。 聖銀竜の血を引き、興奮すると強靭な鱗と尾が顕れる彼。 人外の剛腕に抱き潰され、甘美な絶望に呑み込まれる夜。 「ただの愛人」と割り切っていたはずなのに、彼の孤独な熱に触れるたび、ルネの心は無防備に暴かれていく。 しかし、ルネは知らなかった。 彼が近づいた真の目的は、彼女が守る「禁書」――王国を揺るがす禁断の真実にあったことを。 「君は、私のものだ。禁書も、その魂も、すべてな」 嘘から始まった関係が、執着に変わる。 竜の情欲と宮廷の陰謀が絡み合う、背徳のインモラル・ロマンス。

同期の姫は、あなどれない

青砥アヲ
恋愛
社会人4年目を迎えたゆきのは、忙しいながらも充実した日々を送っていたが、遠距離恋愛中の彼氏とはすれ違いが続いていた。 ある日、電話での大喧嘩を機に一方的に連絡を拒否され、音信不通となってしまう。 落ち込むゆきのにアプローチしてきたのは『同期の姫』だった。 「…姫って、付き合ったら意彼女に尽くすタイプ?」 「さぁ、、試してみる?」 クールで他人に興味がないと思っていた同期からの、思いがけないアプローチ。動揺を隠せないゆきのは、今まで知らなかった一面に翻弄されていくことにーーー 【登場人物】 早瀬ゆきの(はやせゆきの)・・・R&Sソリューションズ開発部第三課 所属 25歳 姫元樹(ひめもといつき)・・・R&Sソリューションズ開発部第一課 所属 25歳 ◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。 ◆他にエブリスタ様にも掲載してます。

婚約破棄された元聖女、魔王の息子に攫われて溺愛されています

百合川八千花
恋愛
魔王を討伐し、十年にわたる戦いを終えた聖女アルティア。 帰還した王国で待っていたのは、王太子からの婚約破棄と――その子供だった。 絶望の中、現れたのはかつて共に戦った魔王の息子、ヴェルグ。 「君はもう自由だ。だったら僕が攫うよ」 突然の求婚(という名の略奪)と共に、アルティアは隣国・アシュフォード帝国へ連れ去られる。 辺境伯となったヴェルグの領地で始まるのは、 「君のために用意してた」 と語られる豪華すぎる“同棲部屋”、 壁一面に飾られた聖女の肖像画コレクション、 そして、「僕のもの」発言が止まらない溺愛×執着ラブ生活! しかしその頃、聖女を失った王国では、魔王の呪いによる異変が始まっていて―― これは、運命に選ばれ続けた聖女と、ただ彼女だけを愛した元魔王の息子の、 甘くて狂おしい、世界と愛の再構築ラブファンタジー。

〖完結〗終着駅のパッセージ 

苺 迷音
恋愛
過去、使用人に悪戯をされそうになった事がきっかけとなり、分厚い眼鏡とひっつめた髪を編み帽で覆い、自身の容姿を隠すようになった女性・カレン。 その事情を知りながらも夫ローランは、奇妙で地味な姿の妻を厭い目を逸らし続けた。 婚姻してからわずか三日後の朝。彼は赴任先の北の地へと旅立ちその後、カレンの元へと帰省してきたのは、片手で数えるほどだった。 孤独な結婚生活を送る中。 ある冬の日に、ローランの上官であり北の地を治める領主ハルシオン公爵が、カレン夫妻の邸にやってきた。 始まりは、部下の家族を想う上司としての気遣いだった。 他愛もない会話と、節度を守ったやり取り。ほんの僅かな時間を重ねていく。 そのうちに、お互いに灯り始めた小さな心の想い。 だが二人は、それを決して明かさず語ることはなかった。 それから一年ほどたった冬の夜。 カレンから届いた手紙に、たった一度だけハルシオンは返事を書く。 そこには彼の想いが書かれてあった。 月日は流れ、カレンとローランが婚姻して三年目の冬の日。 カレンはひとつの決意と想いを胸に、北へ向かう汽車に乗った。 ※微さまぁか、もしくはざまぁになっていないかもしれないです。 ※舞台は近世・産業革命初頭を基にした架空世界だと思っていただけましたら有難いです。 稚拙な作品ではありますがご覧くださいましたら凄く嬉しいです。よろしくお願い致します。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

「愛想がなく可愛くない」と捨てられた私、最強の竜騎士に拾われる。「その美しさに僕だけが狂わされたい」と、愛の重さでベッドから下ろしてくれない

唯崎りいち
恋愛
夜会の最中、王子に「愛想がなくて可愛くない」と婚約破棄された無表情令嬢。 だが彼女の美しさに一目惚れした隣国最強の竜騎士に連れ去られ、 「君はもう僕のものだ」 と毎晩愛の重さでベッドから下ろしてくれない生活が始まる——。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

処理中です...