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「では、カイ! アリシアさん! ご結婚おめでとうございま~す!」
まるで自身が結婚したかのように、幸せそうな笑顔を浮かべ……クラッカーの紐を引くレイラ。
パン、パンという乾いた音が、新婚家庭にこだまする。
「ありがと~みんな~! 局長も、あざっす!」
「いえいえ。ではアリシアさん。これ……私達からのお祝いです」
「ありがとうございます! わぁ~! もしかしてプロジェクターですか? おしゃれ~」
「カイがね、休日は奥さんとドラマの一気見するのが至福の時間なんだって言ってたんでっ」
「これ、俺のオススメなんですよ。専用のスクリーンがなくても、白い壁だけでかなり綺麗な画をうつせて……自宅で映画館気分が味わえるので、楽しいですよ」
レイラも局長もティリアンも、皆、にこにこ。
勿論家主のカイも、その奥さん……俺の、姉も。
でも俺は、口をへの字に曲げたまま。
「ほら、フレン~! いつまでむくれてんのよっ」
リビングの隅……並べられた姉の手料理に見向きもせず、不満全開の表情で立ち尽くす俺の背を、レイラが叩く。
「……別に」
「別にじゃね~じゃん! 明らかキレてんじゃん!」
そして、続いて絡んで来たのはカイ。酒の入ったグラスを片手に、俺の肩を組んで来た。
「黙ってたのは悪かったって謝っただろ~? でもしょ~がなかったんだって! フレンに報告したらパパにバレちゃうかもって思ってさ!」
ああ、イラっとする……祝いの席で水を差すのも悪いから、我慢しようと思っていたのに。
「だって知ってた~? あの人、フレンがアリシアをかくまってるかもって……お前の事尾行してたんだぜ? マジこわ!」
「カイ、ちょっと……フレンはきっとまだ混乱してるんだよ。だから」
「てか、この前パパリンと初めて会って、よ~くわかったわ! あれはアリシアが逃げるのも無理ない! まさに毒親! フレンも大変だったな~? あんなパパに育てられたのに、よくぞここまでまともな大人になったもんだよ~」
常識人のティリアンが止めるにも関わらず、チャラチャラと絡み続けるカイに……我慢の限界が訪れた。
「おまえ……っ」
無理矢理持たされていたクラッカーを乱暴に放り、カイの胸ぐらを掴む。すると……
「待って、フレンちゃん!」
すかさず俺を止めたのは……姉だった。
「ごめん……ごめんねっ。私もカイも、フレンちゃんを巻き込みたくなかっただけなの。結婚の事、フレンちゃんに伝えたら……きっとフレンちゃんは私達を応援してくれるでしょう? でもそれじゃあ、お父様を敵にまわすことに」
「誰が応援するか! 相手の親に挨拶もせず、コソコソと女をさらって結婚するようなクズを、誰が!」
爆発した感情は、乱暴な言葉になって、俺の口から飛び出して行った。
なんとも言えない空気が、新婚家庭を占拠する。
「ん~……挨拶、ねぇ? あんなパパでも、フレンは挨拶すべきだと思ってんだ~?」
「当然だっ。常識ある大人が結婚するなら……省いていい過程じゃないっ」
「へへ、かった……やっぱり、いいとこのお坊ちゃんだよね~フレンちゃんは」
未だにニヤけ顔を浮かべている同期の桜を、力いっぱい睨みつける。
だって、許せない。
俺の知らない所で姉と出会って、想いを寄せ合って……それはいい。苦労ばかりだった姉の幸せは、俺だって望んでる。でも……
「お前は……ちっともわかってない! カーティス家の……あの人のやばさを! この事が知れれば、あの人はどんな手を使ってもお前を潰そうとするぞ!? いや、いっそお前はいい、自業自得だ! でも姉ちゃんは……姉はどうなる!? 今まで散々あの人の期待に応える為に、必死になってやってきたのに! それが全部パーだ!」
「アリシアも、はじめはそれをビビってたよ……でもさ、フレン。もう解放してやれよ。姉ちゃんも……お前自身も」
急に声のトーンの変わったカイの言葉。
意味が分からない。なのに、心臓を掴まれたような衝撃を感じる。
「解放って……どういう」
「お前もアリシアも……父ちゃんに否定されようが、攻撃されようが、生きていける。逃げりゃいいんだよ。世の中には、正面から向き合っちゃいけない人間だっている」
「マジで甘っちょろい考えだな……あの人からは逃げられない。つうか、自分の嫁さんに一生逃げ続ける人生を強いるって……情けないと思わねぇのかよ?」
「思わないね。俺は一生逃げる覚悟をしたんじゃない。一生守る覚悟をしたんだ。あのヒスパパがどんな手を使ってこようが……俺は絶対、アリシアの手を離さない」
「カイ……」
うるんだ目で、俺の同期を見つめる姉。
気持ちわるい……どうしてここまで愚かになれるんだ。
これまで散々、あの人に地獄を見せられてきたのに。
だからこれから訪れる地獄の光景も、想像がつくだろうに。
「……祝いの席で……邪魔したな」
俺は、二人の新居を飛び出した。
「フレン!」「フレンちゃん!」「フレン!」
いくつもの声が、俺を引き止めてくれたけれど……振り返る事はできなかった。
カイの想いはわかる。その覚悟も、姉への想いも、本物だろう。
でも、それでも……長い時間に蓄積された俺の中の親父が、低い声で繰り返し言うのだ。
逆らったら、お前に生きる価値は無いと。
まるで自身が結婚したかのように、幸せそうな笑顔を浮かべ……クラッカーの紐を引くレイラ。
パン、パンという乾いた音が、新婚家庭にこだまする。
「ありがと~みんな~! 局長も、あざっす!」
「いえいえ。ではアリシアさん。これ……私達からのお祝いです」
「ありがとうございます! わぁ~! もしかしてプロジェクターですか? おしゃれ~」
「カイがね、休日は奥さんとドラマの一気見するのが至福の時間なんだって言ってたんでっ」
「これ、俺のオススメなんですよ。専用のスクリーンがなくても、白い壁だけでかなり綺麗な画をうつせて……自宅で映画館気分が味わえるので、楽しいですよ」
レイラも局長もティリアンも、皆、にこにこ。
勿論家主のカイも、その奥さん……俺の、姉も。
でも俺は、口をへの字に曲げたまま。
「ほら、フレン~! いつまでむくれてんのよっ」
リビングの隅……並べられた姉の手料理に見向きもせず、不満全開の表情で立ち尽くす俺の背を、レイラが叩く。
「……別に」
「別にじゃね~じゃん! 明らかキレてんじゃん!」
そして、続いて絡んで来たのはカイ。酒の入ったグラスを片手に、俺の肩を組んで来た。
「黙ってたのは悪かったって謝っただろ~? でもしょ~がなかったんだって! フレンに報告したらパパにバレちゃうかもって思ってさ!」
ああ、イラっとする……祝いの席で水を差すのも悪いから、我慢しようと思っていたのに。
「だって知ってた~? あの人、フレンがアリシアをかくまってるかもって……お前の事尾行してたんだぜ? マジこわ!」
「カイ、ちょっと……フレンはきっとまだ混乱してるんだよ。だから」
「てか、この前パパリンと初めて会って、よ~くわかったわ! あれはアリシアが逃げるのも無理ない! まさに毒親! フレンも大変だったな~? あんなパパに育てられたのに、よくぞここまでまともな大人になったもんだよ~」
常識人のティリアンが止めるにも関わらず、チャラチャラと絡み続けるカイに……我慢の限界が訪れた。
「おまえ……っ」
無理矢理持たされていたクラッカーを乱暴に放り、カイの胸ぐらを掴む。すると……
「待って、フレンちゃん!」
すかさず俺を止めたのは……姉だった。
「ごめん……ごめんねっ。私もカイも、フレンちゃんを巻き込みたくなかっただけなの。結婚の事、フレンちゃんに伝えたら……きっとフレンちゃんは私達を応援してくれるでしょう? でもそれじゃあ、お父様を敵にまわすことに」
「誰が応援するか! 相手の親に挨拶もせず、コソコソと女をさらって結婚するようなクズを、誰が!」
爆発した感情は、乱暴な言葉になって、俺の口から飛び出して行った。
なんとも言えない空気が、新婚家庭を占拠する。
「ん~……挨拶、ねぇ? あんなパパでも、フレンは挨拶すべきだと思ってんだ~?」
「当然だっ。常識ある大人が結婚するなら……省いていい過程じゃないっ」
「へへ、かった……やっぱり、いいとこのお坊ちゃんだよね~フレンちゃんは」
未だにニヤけ顔を浮かべている同期の桜を、力いっぱい睨みつける。
だって、許せない。
俺の知らない所で姉と出会って、想いを寄せ合って……それはいい。苦労ばかりだった姉の幸せは、俺だって望んでる。でも……
「お前は……ちっともわかってない! カーティス家の……あの人のやばさを! この事が知れれば、あの人はどんな手を使ってもお前を潰そうとするぞ!? いや、いっそお前はいい、自業自得だ! でも姉ちゃんは……姉はどうなる!? 今まで散々あの人の期待に応える為に、必死になってやってきたのに! それが全部パーだ!」
「アリシアも、はじめはそれをビビってたよ……でもさ、フレン。もう解放してやれよ。姉ちゃんも……お前自身も」
急に声のトーンの変わったカイの言葉。
意味が分からない。なのに、心臓を掴まれたような衝撃を感じる。
「解放って……どういう」
「お前もアリシアも……父ちゃんに否定されようが、攻撃されようが、生きていける。逃げりゃいいんだよ。世の中には、正面から向き合っちゃいけない人間だっている」
「マジで甘っちょろい考えだな……あの人からは逃げられない。つうか、自分の嫁さんに一生逃げ続ける人生を強いるって……情けないと思わねぇのかよ?」
「思わないね。俺は一生逃げる覚悟をしたんじゃない。一生守る覚悟をしたんだ。あのヒスパパがどんな手を使ってこようが……俺は絶対、アリシアの手を離さない」
「カイ……」
うるんだ目で、俺の同期を見つめる姉。
気持ちわるい……どうしてここまで愚かになれるんだ。
これまで散々、あの人に地獄を見せられてきたのに。
だからこれから訪れる地獄の光景も、想像がつくだろうに。
「……祝いの席で……邪魔したな」
俺は、二人の新居を飛び出した。
「フレン!」「フレンちゃん!」「フレン!」
いくつもの声が、俺を引き止めてくれたけれど……振り返る事はできなかった。
カイの想いはわかる。その覚悟も、姉への想いも、本物だろう。
でも、それでも……長い時間に蓄積された俺の中の親父が、低い声で繰り返し言うのだ。
逆らったら、お前に生きる価値は無いと。
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