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「………………無事で、よかったです」
連絡を受けて、警察庁に戻り、医務室に直行。
ルークとの戦闘で負傷したという、ティリアンとレイラを見舞う為に。
幸い、二人は軽傷で済んだようだ。だから、そう伝えた……のだけれど。ベッドの上のティリアンは、昔ながらの、美味しくないタイプの青汁を飲んだような顔をしていて。
「……いいよ、クロエ。無理せずに、怒ってくれて」
「無事でよかったというのは、本心です。勝手な事をしてくれた叱責は……フレンを取り戻してから、たっぷりと」
「……ん……あっ、局長?」
私とティリアンの話声で、起こしてしまったのか。隣のベッドで眠るレイラが、目を覚ました。
「レイラ。具合はどうですか?」
「私……あれ? あ!? そうだ局長! ルークが……痛っ!」
取り調べ室での事を思い出したのだろう。レイラは勢いよく起き上がり……包帯の巻かれた頭に、手をやった。
「無理をしてはいけません。あなたは頭を打ったようなので……」
「頭……っ、え、これ包帯!? や、やだやだ! 私、今大丈夫ですか!? 局長の前でボサボサヘアーとか……半世紀は落ち込む事態なんですけど!」
よかった。頭を強打したと聞いた時は息が止まるかと思ったけれど……いつも通り、変な女の子だ。
「クロエ。あいつの魔力は予想以上だ。レイラの剣技はハチロクの中ではフレンに次ぐ実力……なのに、こんな……」
「そうですね。だろうなと思っていたから、昨日フレンから魔力を取り返して……魔対が踏み込む予定だった、ルークの潜伏先に行ってきたのですが……すでにもぬけの殻でした」
「……ああっ……」
苦悶の声を漏らしたティリアンは、おでこに手を当て、天井を見上げる。
昔から変わらない王子様フェイスには『やらかした』と書いてあって。
「ごめん、クロエ……っ。君がそんなつもりだとは……俺はただ」
「わかっています。フレンに健診結果を渡して、私のしている事を気付かせようとしたのは、私を守る為。そして、フレンを逮捕したのは……魔対局員が大勢いる警察庁内で、フレンを守る為。すでにルークが潜伏先を出ていると、あなたは気付いていたのですね」
「実は……クロエに隠れて、俺もあの潜伏先に行ってみたんだ。そうしたら……だから慌てて逮捕を……ああ、でも、本当にバカなことをした。よりによって、魔力が減った状態のフレンを、ルークに……」
「……ほう、れん、そう。……徹底するように、言っておいたんですけどね……?」
思わず、語気に怒りを滲ませてしまう。『申し訳ありません』と、肩を落とすティリアンを見ても、おさまらない。
『局長!』
頭を占拠するのは、フレンの顔。声。ぬくもり。それが、永遠に失われるかもしれない。
自分を落ち着かせるように、左胸に手を当てる。
どれだけ懸命に平静を取り繕っていても……上昇し続ける心拍数は、正直だ。
「えっと……? 口挟んでいいですか? さっきから、局長とティリアンが何の話をしてるのか……てか、ティリアンお前、なんで私の局長をクロエ呼ばわり?」
痛む頭を抑えながら、そう言って目を瞬かせるレイラ。
私とティリアンは、互いの顔を見合って、小さく頷いた。それは、『もう全てを打ち上げるしかない』という、合意の証。
「レイラ。緊急事態なので、今から色々とびっくりな話をします。傷がうずいている中申し訳ないのですが……落ち着いて聞いてくださいね。……実は」
バアン!!!
意を決した私の口を閉ざしたのは……乱暴に開けられた、ドアの音。
いつでも剣を取り出せるように、右手に力を込め……訪問者の姿を確認する。
「カーティス公爵……!」
「私の息子を逮捕したらしいな……どういう事だ、このアバズレ!」
太い眉を限界まで吊り上げる彼の後ろには、高級スーツを着こんだ大勢の紳士達。有力貴族に、政府関係者、警察庁の大幹部まで……知った顔ばかり。
公爵は、あらゆる力のパイプを使って、息子を取り戻しに来たのだと、察する。
「公爵……申し訳ありませんが、今は公爵のお相手を務めている場合ではありません。フレンの……ご子息の危機なんです」
「どの口が言う! あれを危機とやらに陥れたのは、お前とキャンベルの息子だろうが!」
本当は今すぐにでも彼の元に駆け付けたいのに。このヒゲジジイ、マジで勘弁してくれよ。
という、本心が口から飛び出ないように、一つ、深呼吸をする。
「公爵、どうか落ち着い」
「私が知らないとでも思ったか!? お前の死んだ母親は、キャンベル家に仕えていた魔法医! 身寄りのなくなったお前を育てたのはキャンベル夫妻! お前は恩あるキャンベルに命じられて、カーティス家を陥れるために、こんなマネをしだんだろう!?」
「え……!?」
公爵の言葉に、目を丸くするレイラ。
なるほど……。公爵身元が知られていた事は承知していたけれど。
「カーティス公爵、それは誤解ですっ。俺……私も両親も、誇りある貴家に泥を塗ろうだなんて、そんな」
「青二才は黙ってろ!!!」
丁寧な姿勢で弁解しようとするキャンベル家の子息をも、恫喝して一蹴。改めて……公爵の人となりを知る。
「とにかく! すぐに息子を釈放しろ! 既に弁護団は結成した! たとえどんな手を使っても、無罪を勝ち取ってやる! 今に見ていろアバズレ! カーティス家に……この私に喧嘩を売った愚行を、死ぬ程後悔させてやるからな!!」
「…………ああ、イラッとする」
ガシャアァァッッ!!!
今度、乱暴な音で空気を震わせたのは……私。
足元にあった、小さなゴミ箱を蹴り上げたのだ。
ゴミ箱は高速で公爵の頬をかすめ、壁の薬棚に激突して、扉のガラスを粉砕した。
「な……」
立ったまま、わなわなと震える公爵。
突然の無礼に驚いたのか、それとも……一流の上級魔法使いである自分が、私の動きを目で追えなかった事に驚いたのか。いっそ、どちらでもいい。私はまっすぐに、彼をみた。
「公爵。本当に時間が無いんです。あなたが今すべきは、私に噛みつく事ではありません。あなたの息子を救う事です」
「え、偉そうに! 貴様なんぞに言われずとも、私はこうしてフレンの為に」
「フレンだけでは、ないでしょう?」
私の言葉に、公爵の顔が固まる。
「な……にを……なんの事か私には……っ」
「……いいです。公衆の面前では、認めにくいのですね。でも、とぼけるのはこの場限りにしてください。ご子息は、私が必ず連れ戻します。そうしたら、ちゃんと向き合うんです。息子と……自分がしてきた事と……。もし、その時が来ても、今の様にすっとぼけていらしたら、その時は……」
瞬きもせずに、フレンと同じ色の瞳を、捕らえる。逃げられないよう、鋭い視線を突き立てて。
「私の剣を、あなたの後頭部に突き刺して貫通させて標本のように床に打ち付けて……強制的に、あなたの息子達に土下座をさせます」
体の奥底でマグマのように煮え立ち、爆ぜ、湧き上がる魔力。
髪の毛の先が、ジャケットの裾が、まるで風に煽られているかのように、音もなく浮き、ゆらゆらと舞う。
溢れ出た魔力は部屋中に充満して、公爵の取り巻き達はその重圧に耐えきれず、うずくまり、声すら出せない様子。
「す、すご……っ! これが局長のガチ……!?」
「だめだクロエ! こんな狭い部屋で……死人が出る!」
「……大丈夫です。ここで暴れようなんて、思っていません」
本当はちょっと……いえ、かなり、イライラしてしまったのだけれど。冷静にならなければ。
私は周囲に漂う魔力を、自分の中に回収した。
それから、ベッドで休む二人の部下の方を、振り返って。
「フレンとルークを、助けに行きます。一緒に来てください。あと、カイにも連絡を。なるべく早く」
「「え……っ」」
二人は、揃って目をぱちくり。
無理も無い。負傷直後の部下に……そして、別部署で仕事中の元部下達に、こんなパワハラ全開の命令をするのは、初めてだから。
それでも……カーティス公爵だけじゃない。私も、86期のメンバーも、それぞれが、彼と向き合うべきなのだ。
ティリアンとレイラは、互いの顔を見合ってから、力強く頷いてくれた。
「「お供します、局長……!」」
「ありがとうございます」
頼もしい部下を連れて、歩き始める。
「……というか局長……助けに行くってどこに? 二人の居場所、心当たりでもあるんですか?」
「無いです。でも、そう遠くには行ってないはず……」
「町中の防犯カメラ映像を確認しましょうっ! 魔対の皆にも、ワケを話して協力してもらいます!」
「お願いします。……フレンならきっと、こちらに手がかりを残してくれているはずです」
「でも……ルークが何か、不信感を持たせるような嘘を拭き込んでいたら……」
表情を曇らせたティリアンが、そんな不安を口にする。
でも私は、少しも心配していなかった。
あの補佐役は……きっと私を信じてくれる。信じて……私の所に戻る手立てを、必死に考えてくれる。
出入り口の扉に向かうと、そこで群れを成していたお偉い方は逃げるように私達から距離を取り……。卒業式などのセレモニーでよく見る、人垣の完成。
「定年を迎えられたら……部下達にこうして、見送ってもらえたのでしょうか……」
恐らくもう、訪れる事のない未来を想像して、呟く。締め付けられるように痛む胸を、おさえながら。
けれど……守りたいのは、私の未来じゃない。彼の今と未来だ。
必ず助けてみせる。たとえ……この魔力と……命と引き換えにしたとしても。
『あなたのためなら、魔力なんて惜しくないです』
母の魔力を犠牲にするなんて、以前の私なら考えもしなかった。
それでも、今の私には、できる。
母はきっと、許してくれる。それどころか……喜んでくれる。
自分と同じ想いを知る事の出来た、この親不孝な娘の事を……きっと笑顔で、見守ってくれているだろうから。
連絡を受けて、警察庁に戻り、医務室に直行。
ルークとの戦闘で負傷したという、ティリアンとレイラを見舞う為に。
幸い、二人は軽傷で済んだようだ。だから、そう伝えた……のだけれど。ベッドの上のティリアンは、昔ながらの、美味しくないタイプの青汁を飲んだような顔をしていて。
「……いいよ、クロエ。無理せずに、怒ってくれて」
「無事でよかったというのは、本心です。勝手な事をしてくれた叱責は……フレンを取り戻してから、たっぷりと」
「……ん……あっ、局長?」
私とティリアンの話声で、起こしてしまったのか。隣のベッドで眠るレイラが、目を覚ました。
「レイラ。具合はどうですか?」
「私……あれ? あ!? そうだ局長! ルークが……痛っ!」
取り調べ室での事を思い出したのだろう。レイラは勢いよく起き上がり……包帯の巻かれた頭に、手をやった。
「無理をしてはいけません。あなたは頭を打ったようなので……」
「頭……っ、え、これ包帯!? や、やだやだ! 私、今大丈夫ですか!? 局長の前でボサボサヘアーとか……半世紀は落ち込む事態なんですけど!」
よかった。頭を強打したと聞いた時は息が止まるかと思ったけれど……いつも通り、変な女の子だ。
「クロエ。あいつの魔力は予想以上だ。レイラの剣技はハチロクの中ではフレンに次ぐ実力……なのに、こんな……」
「そうですね。だろうなと思っていたから、昨日フレンから魔力を取り返して……魔対が踏み込む予定だった、ルークの潜伏先に行ってきたのですが……すでにもぬけの殻でした」
「……ああっ……」
苦悶の声を漏らしたティリアンは、おでこに手を当て、天井を見上げる。
昔から変わらない王子様フェイスには『やらかした』と書いてあって。
「ごめん、クロエ……っ。君がそんなつもりだとは……俺はただ」
「わかっています。フレンに健診結果を渡して、私のしている事を気付かせようとしたのは、私を守る為。そして、フレンを逮捕したのは……魔対局員が大勢いる警察庁内で、フレンを守る為。すでにルークが潜伏先を出ていると、あなたは気付いていたのですね」
「実は……クロエに隠れて、俺もあの潜伏先に行ってみたんだ。そうしたら……だから慌てて逮捕を……ああ、でも、本当にバカなことをした。よりによって、魔力が減った状態のフレンを、ルークに……」
「……ほう、れん、そう。……徹底するように、言っておいたんですけどね……?」
思わず、語気に怒りを滲ませてしまう。『申し訳ありません』と、肩を落とすティリアンを見ても、おさまらない。
『局長!』
頭を占拠するのは、フレンの顔。声。ぬくもり。それが、永遠に失われるかもしれない。
自分を落ち着かせるように、左胸に手を当てる。
どれだけ懸命に平静を取り繕っていても……上昇し続ける心拍数は、正直だ。
「えっと……? 口挟んでいいですか? さっきから、局長とティリアンが何の話をしてるのか……てか、ティリアンお前、なんで私の局長をクロエ呼ばわり?」
痛む頭を抑えながら、そう言って目を瞬かせるレイラ。
私とティリアンは、互いの顔を見合って、小さく頷いた。それは、『もう全てを打ち上げるしかない』という、合意の証。
「レイラ。緊急事態なので、今から色々とびっくりな話をします。傷がうずいている中申し訳ないのですが……落ち着いて聞いてくださいね。……実は」
バアン!!!
意を決した私の口を閉ざしたのは……乱暴に開けられた、ドアの音。
いつでも剣を取り出せるように、右手に力を込め……訪問者の姿を確認する。
「カーティス公爵……!」
「私の息子を逮捕したらしいな……どういう事だ、このアバズレ!」
太い眉を限界まで吊り上げる彼の後ろには、高級スーツを着こんだ大勢の紳士達。有力貴族に、政府関係者、警察庁の大幹部まで……知った顔ばかり。
公爵は、あらゆる力のパイプを使って、息子を取り戻しに来たのだと、察する。
「公爵……申し訳ありませんが、今は公爵のお相手を務めている場合ではありません。フレンの……ご子息の危機なんです」
「どの口が言う! あれを危機とやらに陥れたのは、お前とキャンベルの息子だろうが!」
本当は今すぐにでも彼の元に駆け付けたいのに。このヒゲジジイ、マジで勘弁してくれよ。
という、本心が口から飛び出ないように、一つ、深呼吸をする。
「公爵、どうか落ち着い」
「私が知らないとでも思ったか!? お前の死んだ母親は、キャンベル家に仕えていた魔法医! 身寄りのなくなったお前を育てたのはキャンベル夫妻! お前は恩あるキャンベルに命じられて、カーティス家を陥れるために、こんなマネをしだんだろう!?」
「え……!?」
公爵の言葉に、目を丸くするレイラ。
なるほど……。公爵身元が知られていた事は承知していたけれど。
「カーティス公爵、それは誤解ですっ。俺……私も両親も、誇りある貴家に泥を塗ろうだなんて、そんな」
「青二才は黙ってろ!!!」
丁寧な姿勢で弁解しようとするキャンベル家の子息をも、恫喝して一蹴。改めて……公爵の人となりを知る。
「とにかく! すぐに息子を釈放しろ! 既に弁護団は結成した! たとえどんな手を使っても、無罪を勝ち取ってやる! 今に見ていろアバズレ! カーティス家に……この私に喧嘩を売った愚行を、死ぬ程後悔させてやるからな!!」
「…………ああ、イラッとする」
ガシャアァァッッ!!!
今度、乱暴な音で空気を震わせたのは……私。
足元にあった、小さなゴミ箱を蹴り上げたのだ。
ゴミ箱は高速で公爵の頬をかすめ、壁の薬棚に激突して、扉のガラスを粉砕した。
「な……」
立ったまま、わなわなと震える公爵。
突然の無礼に驚いたのか、それとも……一流の上級魔法使いである自分が、私の動きを目で追えなかった事に驚いたのか。いっそ、どちらでもいい。私はまっすぐに、彼をみた。
「公爵。本当に時間が無いんです。あなたが今すべきは、私に噛みつく事ではありません。あなたの息子を救う事です」
「え、偉そうに! 貴様なんぞに言われずとも、私はこうしてフレンの為に」
「フレンだけでは、ないでしょう?」
私の言葉に、公爵の顔が固まる。
「な……にを……なんの事か私には……っ」
「……いいです。公衆の面前では、認めにくいのですね。でも、とぼけるのはこの場限りにしてください。ご子息は、私が必ず連れ戻します。そうしたら、ちゃんと向き合うんです。息子と……自分がしてきた事と……。もし、その時が来ても、今の様にすっとぼけていらしたら、その時は……」
瞬きもせずに、フレンと同じ色の瞳を、捕らえる。逃げられないよう、鋭い視線を突き立てて。
「私の剣を、あなたの後頭部に突き刺して貫通させて標本のように床に打ち付けて……強制的に、あなたの息子達に土下座をさせます」
体の奥底でマグマのように煮え立ち、爆ぜ、湧き上がる魔力。
髪の毛の先が、ジャケットの裾が、まるで風に煽られているかのように、音もなく浮き、ゆらゆらと舞う。
溢れ出た魔力は部屋中に充満して、公爵の取り巻き達はその重圧に耐えきれず、うずくまり、声すら出せない様子。
「す、すご……っ! これが局長のガチ……!?」
「だめだクロエ! こんな狭い部屋で……死人が出る!」
「……大丈夫です。ここで暴れようなんて、思っていません」
本当はちょっと……いえ、かなり、イライラしてしまったのだけれど。冷静にならなければ。
私は周囲に漂う魔力を、自分の中に回収した。
それから、ベッドで休む二人の部下の方を、振り返って。
「フレンとルークを、助けに行きます。一緒に来てください。あと、カイにも連絡を。なるべく早く」
「「え……っ」」
二人は、揃って目をぱちくり。
無理も無い。負傷直後の部下に……そして、別部署で仕事中の元部下達に、こんなパワハラ全開の命令をするのは、初めてだから。
それでも……カーティス公爵だけじゃない。私も、86期のメンバーも、それぞれが、彼と向き合うべきなのだ。
ティリアンとレイラは、互いの顔を見合ってから、力強く頷いてくれた。
「「お供します、局長……!」」
「ありがとうございます」
頼もしい部下を連れて、歩き始める。
「……というか局長……助けに行くってどこに? 二人の居場所、心当たりでもあるんですか?」
「無いです。でも、そう遠くには行ってないはず……」
「町中の防犯カメラ映像を確認しましょうっ! 魔対の皆にも、ワケを話して協力してもらいます!」
「お願いします。……フレンならきっと、こちらに手がかりを残してくれているはずです」
「でも……ルークが何か、不信感を持たせるような嘘を拭き込んでいたら……」
表情を曇らせたティリアンが、そんな不安を口にする。
でも私は、少しも心配していなかった。
あの補佐役は……きっと私を信じてくれる。信じて……私の所に戻る手立てを、必死に考えてくれる。
出入り口の扉に向かうと、そこで群れを成していたお偉い方は逃げるように私達から距離を取り……。卒業式などのセレモニーでよく見る、人垣の完成。
「定年を迎えられたら……部下達にこうして、見送ってもらえたのでしょうか……」
恐らくもう、訪れる事のない未来を想像して、呟く。締め付けられるように痛む胸を、おさえながら。
けれど……守りたいのは、私の未来じゃない。彼の今と未来だ。
必ず助けてみせる。たとえ……この魔力と……命と引き換えにしたとしても。
『あなたのためなら、魔力なんて惜しくないです』
母の魔力を犠牲にするなんて、以前の私なら考えもしなかった。
それでも、今の私には、できる。
母はきっと、許してくれる。それどころか……喜んでくれる。
自分と同じ想いを知る事の出来た、この親不孝な娘の事を……きっと笑顔で、見守ってくれているだろうから。
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