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「ん…………」
「フレン……! 気が付いたかい?」
重い瞼を開けると、そこにいたのはルーク。少し前まで、もう二度と会えないと思っていた、同期の姿。
「ルーク……俺……ここは……?」
見慣れた天井。よく知っている匂い。安心感のある枕の膨らみ。
「うん。フレンの家だよ。勝手にごめんね? 僕の隠れ家は……もう見つかっちゃったようだから」
「隠れ家って……ゴホ……ゴホッ!」
起き上がろうとしただけで、むせてしまった。言葉と言葉の間の息継ぎですら、苦しい。
「ああっ、無理しないで。魔力が限界まで減って……肺の機能を保つのも、難しい状態なんだと思う。可哀想に……全部、局長とティリアンのせいだよ」
「局長……? どう、いう意味……」
息も絶え絶えに尋ねると、ルークは大袈裟な位悲しそうな顔を浮かべて。
「やっぱり何も知らなかったんだね……局長はね、幼い頃に親を亡くして、キャンベル侯爵夫妻に育てられたんだ。だから、ティリアンとは幼馴染で……両親公認の婚約者でもある」
「……こ、こん……?」
「そして僕もまた、キャンベル一族の一員なんだ。といっても……上級魔法使いしか生まれない筈の貴族家に、中級として生まれた僕は、侯爵に存在を否定されて……隠すように育てられたから、あの二人は僕の事を知らなったみたい」
ルークがキャンベル家の人間? 存在を否定? あの人格者である侯爵が?
信じられない情報が続き、ただでさえ動きの鈍くなった脳みそが、軋み始めた。
けれど、ルークはそんな俺に構う事なく、話を続けて。
「でもね、半年前……僕は知ってしまったんだ。あの二人が、君を陥れようとしている事。つまり……君と恋人のような関係を続けて魔力を奪い、全てを吸い尽くす直前に、ほんの少しだけ局長の魔力を与える。そうして、局長への魔力略奪容疑を固める……。つまり、今回の逮捕劇は、目障りな古参貴族であるカーティスを潰すために、キャンベルが仕掛けたワナだったってわけ」
「局長が……ティリアンが……そんな……」
「僕が社会的に抹殺されたのは、その計画を立ち聞きしてしまったからなんだよ。婚活事件? だっけ? あんな身に覚えのない事件の犯人にされて、自殺した事にされて……本当に、恐ろしい連中さ」
「そ……だったのか……悪い、俺……何も……知らなくゴホ! ゴホ!」
苦しい。まともに話す事も出来ない。
俺は枕にしがみつくように顔をうずめ、腹が痛くなる程に咳をした。
「ああ、ああっ、フレン! 苦しいよね! かわいそうに!」
そんな俺の背中を少し乱暴にさすりながら、悲嘆の声をあげるルーク。
「でも大丈夫だよ! ここにいれば、必ず僕が守ってあげる! まさかフレンが自分の家に戻っているなんて、誰も思いもしないもの! 警察にいたら、体調不良を訴えても医者にみせてくれたりはしない! カーティスの名に傷をつけて、跡取り息子を殺す! それがあの二人の目的なんだからさぁ!」
「ルーク……」
俺は力の入らない手を、同期の背中にまわした。
「うふふふ……安心してよ……僕が必ず君の潔白を証明する。だからそれまで……ここで休んでてよ……ずっと……ずうっっっと……うふふふふ……」
耳元で響く、笑い声。
それは、小さくて、懐かしくて…………邪悪で。
「……ん? フレン?」
背にまわした手に、急に力を込めた俺に、ルークは戸惑いの声をもらす。
「局長ってさ……俺の胸鎖乳突筋が好きなんだと……」
「へ? きょう……ああ、首のとこ?」
「だから……そういう時も、繰り返し首筋を、せめてくるんだよ……」
「うふふふ、ちょっとぉ~、やめてよ。同期に何の話を聞かせるの?」
「でも……その理由がようやくわかった。局長は……気付いたんだ。俺の、耳の後ろ……胸鎖乳突筋の付け根のあたりに……呪印があるのを」
呪印。その言葉を出した直後、ほんの一瞬……抱き合うルークの呼吸が、確かに止まった。
「……え、ええ~? じゅいん? 呪いって事? ていうか……フレン、自分を騙した女の話なんてやめない? 僕も聞いててつら」
「お前は、俺を呪ったんだろう!?」
かろうじて膨らむ肺の力を借りて……精一杯語気を荒げる。
一気に張り詰める、室内の空気。
数秒間の冷たい静寂……。
「……な、なにを言ってるの? フレンの魔力が減ったのは局長」
「局長は魔力を奪っていたんじゃない……俺に、与えてくれていたんだ」
そう……こんな状態になって、やっと気づいた。
『魔力が……減ってる……っ?』
『めまい。頭痛。呼吸苦……。全てが始まったのは半年前ではなかったか』
『今はすこぶる調子がいいし』
『少し前に局長の顔色が悪かった件とか、パール・シティーで店に突入する時に、剣を出せなかった事からも、魔力を奪われたのは明らかで』
局長が、剣を出せなくなる程に不調に陥ったのも。
それと反比例するように、俺の活気が戻ったのも。
俺も局長も、健診で魔力が減っていたのも。
全ては……ルークが俺を呪い、魔力を奪い……局長が俺に魔力を与え、救っていてくれてた事が、原因。
「フレン~! しっかりしてよ! さっき説明したでしょ? 局長とティリアンは」
「お前の話は……全部デタラメだ。局長も、ティリアンも、キャンベル侯爵も……ゴホッ、そんな事する人達じゃ……絶対ない」
局長はきっと、俺の首筋を繰り返し確認していたんだ。呪印が浮かび上がってきていないか。
ルークの魔力量が増えるか、俺の魔力量が減って弱るかで、呪印は目視できるようになる。だから……
「なんだよ~ひどいなぁ? あの人達の事は信じるのに、僕の事は信じてくれないのかい? 自分が捕まる危険を冒してまで、君を助けに行ってあげたのに?」
ルークの口調に、変化はない。相変わらず、まったりと、おっとりとした喋り方。
でも、その声は確実に震えている。
「ゴホっ……! 俺を連れ出したのは、死ぬのを見届ける為だろ? 局長がいなきゃ、俺はお前の呪いで……魔力を全部失って……ゴホ!」
ルークのシャツが皺くちゃになる位、つかむ。
「ちょ……フ、フレン、強く抱きしめすぎだよ~、痛い~放してよ~……っ」
と言っても、恐らくもう大した力は出ていない。それでも……絶対に、放すわけにはいかない。
「俺は魔対の局員だぞ……? ゴホゴホ! 魔力略奪犯を、逃がすわけねぇだろ」
ベッドに入ったまま、タックルをするように低い姿勢で、ルークにしがみつく。
奴の背にまわした指を絡め、組んで、身動きがとれないように。
「……フ……フレン~~~~!!!」
ルークは背筋がぞっとするような低い声で俺の名を呼ぶと、傍にあった枕の一つを手に取り、俺の背中に思いきり叩きつけた。
「離せ! 離せ! 離せ~~~!!!」
「離すかバカ! ゴホッ! お前は無関係な女性達から魔力を奪った! 数えきれない位、大勢から! 俺を呪って、自分も魔力をなくして……ゴホゴホ! その補填の為だったんだろうけど……ゴホ!」
いくら柔らかな枕とはいえ、多くの女性から魔力を奪ったルークの腕力は、中々のもの。
背中に走る衝撃に表情を歪めながらも、俺は口を閉ざす事はなかった。
「いや、その前から……俺を呪う前から、お前はそうやって魔力を増やし……ゴホッ! ガッハ……!」
「うるさいうるさいうるさいうるさい~~~~! お前に何がわかるんだよぉ!? 上級として生まれて、公爵の期待を一身に受けてきたお前にぃいいい!」
枕のカバーがちぎれ、中身の羽が優雅に舞う。
修羅場と化したこの部屋には、いささか不似合いな光景。
「ゴホ! ゴ、ゴホ! わからねぇし、わかりたくもね……ゴホ! 魔対局員が、そんな……ゴホ! お前は局長から、何を学んで来たんだよ!?」
……と、その時。俺への打撃が、突然止んだ。
まさか……。
こめかみに嫌な汗が伝うのを感じながら、枕のあったあたりに、視線を移す。
そこにあったのは、スマホ。
画面に表示されているのは……『ティリアン 通話中 05:12』の、文字。
「な……どうして……!? フレンのスマホは警察に押収されてるはずじゃ……っ」
ルークの言う通り。
これは俺のじゃない……局長のスマホだ。
昨日の夜、いつものように枕の下に突っ込んで、そのまま忘れられた……。
最中に緊急連絡が来ても応じれるようにと続けて来た癖が、まさかこんな所で役に立つなんて。
「……お~ま~え~!!!」
地獄の底から出たような声をあげ、ルークはスマホを素手で叩き割り投げて砕き、手にしていた枕とともに放った。
そして……俺の首根っこを掴むと、思い切り放り投げて。
「っつううう!」
ただでさえ、息をするにも苦しい状態の体から、悲鳴が上がる。
全身が痛い。重い。苦しい。
こんな状態でここまでルークを拘束できた事が、奇跡のように思える。
ルークはかけていた眼鏡を一度額の辺りまで上げ、再び下ろした。
すると……みるみるうちにその姿は局長に変わって……右手には、長らく見る事もかなわなかった、あの人の剣までが現れた。
「もう殺す。すぐ殺す! ほんとは……じわじわ苦しんで行く君が見たかったけど。だから呪いなんてまどろっこしい事をしたんだけど……」
引きつった笑顔で、俺ににじり寄ってくる同期の桜。
「ゴっホ……ヒュー……ヒュー……や、めろ……」
いつでも穏やかな笑顔を絶やさなかったあの人の……悲しくても、辛くても、人の役に立とうと、歯を食いしばって笑って来たあの人の姿で……そんな汚い言葉を吐くな。
「でも、フレンなかなか死なないからさぁ!? なんでだろ~と思って、ダイヤ・シティに戻って来たんだよ! そしたら……あの局長とイチャイチャして、魔力を貰ってたなんて! なんでよ!? なんでいつもフレンばっかり!」
床に倒れる俺を見下ろして、ルークは思い切り剣を振り上げた。
思わず、目を閉じる。
怖いからじゃない。いや、間違いなく怖くはあるのだけれど……。
最後に見るのが、ニセモノの局長というのは、悔いが残り過ぎる。
あの人はもっと、優しく笑う。穏やかに語る。
悲しみを抱えながらも、そのあたたかさで、いつでも、どこでも、誰かを救っている。
それが……俺の愛した最強魔剣士、クロエ・ブランシェ局長。
叶うことなら……死ぬ前にもう一度……会いたかった。
叶わないならせめて、脳裏にあの笑顔を焼き付け、冥途の土産にしよう。
なんて、眉間に力を入れた瞬間だった。
寝室の扉が、爆ぜるような音を立てて吹き飛んだ。
途端に部屋中に充満する、恐ろしい量の魔力……
その中心に、最強魔剣士は立っていた。
「フレン……! 気が付いたかい?」
重い瞼を開けると、そこにいたのはルーク。少し前まで、もう二度と会えないと思っていた、同期の姿。
「ルーク……俺……ここは……?」
見慣れた天井。よく知っている匂い。安心感のある枕の膨らみ。
「うん。フレンの家だよ。勝手にごめんね? 僕の隠れ家は……もう見つかっちゃったようだから」
「隠れ家って……ゴホ……ゴホッ!」
起き上がろうとしただけで、むせてしまった。言葉と言葉の間の息継ぎですら、苦しい。
「ああっ、無理しないで。魔力が限界まで減って……肺の機能を保つのも、難しい状態なんだと思う。可哀想に……全部、局長とティリアンのせいだよ」
「局長……? どう、いう意味……」
息も絶え絶えに尋ねると、ルークは大袈裟な位悲しそうな顔を浮かべて。
「やっぱり何も知らなかったんだね……局長はね、幼い頃に親を亡くして、キャンベル侯爵夫妻に育てられたんだ。だから、ティリアンとは幼馴染で……両親公認の婚約者でもある」
「……こ、こん……?」
「そして僕もまた、キャンベル一族の一員なんだ。といっても……上級魔法使いしか生まれない筈の貴族家に、中級として生まれた僕は、侯爵に存在を否定されて……隠すように育てられたから、あの二人は僕の事を知らなったみたい」
ルークがキャンベル家の人間? 存在を否定? あの人格者である侯爵が?
信じられない情報が続き、ただでさえ動きの鈍くなった脳みそが、軋み始めた。
けれど、ルークはそんな俺に構う事なく、話を続けて。
「でもね、半年前……僕は知ってしまったんだ。あの二人が、君を陥れようとしている事。つまり……君と恋人のような関係を続けて魔力を奪い、全てを吸い尽くす直前に、ほんの少しだけ局長の魔力を与える。そうして、局長への魔力略奪容疑を固める……。つまり、今回の逮捕劇は、目障りな古参貴族であるカーティスを潰すために、キャンベルが仕掛けたワナだったってわけ」
「局長が……ティリアンが……そんな……」
「僕が社会的に抹殺されたのは、その計画を立ち聞きしてしまったからなんだよ。婚活事件? だっけ? あんな身に覚えのない事件の犯人にされて、自殺した事にされて……本当に、恐ろしい連中さ」
「そ……だったのか……悪い、俺……何も……知らなくゴホ! ゴホ!」
苦しい。まともに話す事も出来ない。
俺は枕にしがみつくように顔をうずめ、腹が痛くなる程に咳をした。
「ああ、ああっ、フレン! 苦しいよね! かわいそうに!」
そんな俺の背中を少し乱暴にさすりながら、悲嘆の声をあげるルーク。
「でも大丈夫だよ! ここにいれば、必ず僕が守ってあげる! まさかフレンが自分の家に戻っているなんて、誰も思いもしないもの! 警察にいたら、体調不良を訴えても医者にみせてくれたりはしない! カーティスの名に傷をつけて、跡取り息子を殺す! それがあの二人の目的なんだからさぁ!」
「ルーク……」
俺は力の入らない手を、同期の背中にまわした。
「うふふふ……安心してよ……僕が必ず君の潔白を証明する。だからそれまで……ここで休んでてよ……ずっと……ずうっっっと……うふふふふ……」
耳元で響く、笑い声。
それは、小さくて、懐かしくて…………邪悪で。
「……ん? フレン?」
背にまわした手に、急に力を込めた俺に、ルークは戸惑いの声をもらす。
「局長ってさ……俺の胸鎖乳突筋が好きなんだと……」
「へ? きょう……ああ、首のとこ?」
「だから……そういう時も、繰り返し首筋を、せめてくるんだよ……」
「うふふふ、ちょっとぉ~、やめてよ。同期に何の話を聞かせるの?」
「でも……その理由がようやくわかった。局長は……気付いたんだ。俺の、耳の後ろ……胸鎖乳突筋の付け根のあたりに……呪印があるのを」
呪印。その言葉を出した直後、ほんの一瞬……抱き合うルークの呼吸が、確かに止まった。
「……え、ええ~? じゅいん? 呪いって事? ていうか……フレン、自分を騙した女の話なんてやめない? 僕も聞いててつら」
「お前は、俺を呪ったんだろう!?」
かろうじて膨らむ肺の力を借りて……精一杯語気を荒げる。
一気に張り詰める、室内の空気。
数秒間の冷たい静寂……。
「……な、なにを言ってるの? フレンの魔力が減ったのは局長」
「局長は魔力を奪っていたんじゃない……俺に、与えてくれていたんだ」
そう……こんな状態になって、やっと気づいた。
『魔力が……減ってる……っ?』
『めまい。頭痛。呼吸苦……。全てが始まったのは半年前ではなかったか』
『今はすこぶる調子がいいし』
『少し前に局長の顔色が悪かった件とか、パール・シティーで店に突入する時に、剣を出せなかった事からも、魔力を奪われたのは明らかで』
局長が、剣を出せなくなる程に不調に陥ったのも。
それと反比例するように、俺の活気が戻ったのも。
俺も局長も、健診で魔力が減っていたのも。
全ては……ルークが俺を呪い、魔力を奪い……局長が俺に魔力を与え、救っていてくれてた事が、原因。
「フレン~! しっかりしてよ! さっき説明したでしょ? 局長とティリアンは」
「お前の話は……全部デタラメだ。局長も、ティリアンも、キャンベル侯爵も……ゴホッ、そんな事する人達じゃ……絶対ない」
局長はきっと、俺の首筋を繰り返し確認していたんだ。呪印が浮かび上がってきていないか。
ルークの魔力量が増えるか、俺の魔力量が減って弱るかで、呪印は目視できるようになる。だから……
「なんだよ~ひどいなぁ? あの人達の事は信じるのに、僕の事は信じてくれないのかい? 自分が捕まる危険を冒してまで、君を助けに行ってあげたのに?」
ルークの口調に、変化はない。相変わらず、まったりと、おっとりとした喋り方。
でも、その声は確実に震えている。
「ゴホっ……! 俺を連れ出したのは、死ぬのを見届ける為だろ? 局長がいなきゃ、俺はお前の呪いで……魔力を全部失って……ゴホ!」
ルークのシャツが皺くちゃになる位、つかむ。
「ちょ……フ、フレン、強く抱きしめすぎだよ~、痛い~放してよ~……っ」
と言っても、恐らくもう大した力は出ていない。それでも……絶対に、放すわけにはいかない。
「俺は魔対の局員だぞ……? ゴホゴホ! 魔力略奪犯を、逃がすわけねぇだろ」
ベッドに入ったまま、タックルをするように低い姿勢で、ルークにしがみつく。
奴の背にまわした指を絡め、組んで、身動きがとれないように。
「……フ……フレン~~~~!!!」
ルークは背筋がぞっとするような低い声で俺の名を呼ぶと、傍にあった枕の一つを手に取り、俺の背中に思いきり叩きつけた。
「離せ! 離せ! 離せ~~~!!!」
「離すかバカ! ゴホッ! お前は無関係な女性達から魔力を奪った! 数えきれない位、大勢から! 俺を呪って、自分も魔力をなくして……ゴホゴホ! その補填の為だったんだろうけど……ゴホ!」
いくら柔らかな枕とはいえ、多くの女性から魔力を奪ったルークの腕力は、中々のもの。
背中に走る衝撃に表情を歪めながらも、俺は口を閉ざす事はなかった。
「いや、その前から……俺を呪う前から、お前はそうやって魔力を増やし……ゴホッ! ガッハ……!」
「うるさいうるさいうるさいうるさい~~~~! お前に何がわかるんだよぉ!? 上級として生まれて、公爵の期待を一身に受けてきたお前にぃいいい!」
枕のカバーがちぎれ、中身の羽が優雅に舞う。
修羅場と化したこの部屋には、いささか不似合いな光景。
「ゴホ! ゴ、ゴホ! わからねぇし、わかりたくもね……ゴホ! 魔対局員が、そんな……ゴホ! お前は局長から、何を学んで来たんだよ!?」
……と、その時。俺への打撃が、突然止んだ。
まさか……。
こめかみに嫌な汗が伝うのを感じながら、枕のあったあたりに、視線を移す。
そこにあったのは、スマホ。
画面に表示されているのは……『ティリアン 通話中 05:12』の、文字。
「な……どうして……!? フレンのスマホは警察に押収されてるはずじゃ……っ」
ルークの言う通り。
これは俺のじゃない……局長のスマホだ。
昨日の夜、いつものように枕の下に突っ込んで、そのまま忘れられた……。
最中に緊急連絡が来ても応じれるようにと続けて来た癖が、まさかこんな所で役に立つなんて。
「……お~ま~え~!!!」
地獄の底から出たような声をあげ、ルークはスマホを素手で叩き割り投げて砕き、手にしていた枕とともに放った。
そして……俺の首根っこを掴むと、思い切り放り投げて。
「っつううう!」
ただでさえ、息をするにも苦しい状態の体から、悲鳴が上がる。
全身が痛い。重い。苦しい。
こんな状態でここまでルークを拘束できた事が、奇跡のように思える。
ルークはかけていた眼鏡を一度額の辺りまで上げ、再び下ろした。
すると……みるみるうちにその姿は局長に変わって……右手には、長らく見る事もかなわなかった、あの人の剣までが現れた。
「もう殺す。すぐ殺す! ほんとは……じわじわ苦しんで行く君が見たかったけど。だから呪いなんてまどろっこしい事をしたんだけど……」
引きつった笑顔で、俺ににじり寄ってくる同期の桜。
「ゴっホ……ヒュー……ヒュー……や、めろ……」
いつでも穏やかな笑顔を絶やさなかったあの人の……悲しくても、辛くても、人の役に立とうと、歯を食いしばって笑って来たあの人の姿で……そんな汚い言葉を吐くな。
「でも、フレンなかなか死なないからさぁ!? なんでだろ~と思って、ダイヤ・シティに戻って来たんだよ! そしたら……あの局長とイチャイチャして、魔力を貰ってたなんて! なんでよ!? なんでいつもフレンばっかり!」
床に倒れる俺を見下ろして、ルークは思い切り剣を振り上げた。
思わず、目を閉じる。
怖いからじゃない。いや、間違いなく怖くはあるのだけれど……。
最後に見るのが、ニセモノの局長というのは、悔いが残り過ぎる。
あの人はもっと、優しく笑う。穏やかに語る。
悲しみを抱えながらも、そのあたたかさで、いつでも、どこでも、誰かを救っている。
それが……俺の愛した最強魔剣士、クロエ・ブランシェ局長。
叶うことなら……死ぬ前にもう一度……会いたかった。
叶わないならせめて、脳裏にあの笑顔を焼き付け、冥途の土産にしよう。
なんて、眉間に力を入れた瞬間だった。
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