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「ええ~? なになに? 今日は皆お揃いなの? 拘置所の面会室でハチロク会だなんて、ざんしん~」
面会室に入るやいなや、そう言って笑う、同期の桜。
俺とティリアン、カイ、レイラのハチロクメンバーは平静を保ったまま、ルークと対峙した。
「ああ。取り調べでのお前の供述が、あまりにも俺達の悪口だらけで……仕方ねぇから、直接聞きに来てやったんだよ」
「そうよ! まったく! 読んでて手が震えたわ! あ、ショックで、じゃないわよ? 勿論、怒りで、ね?」
不敵な笑みを浮かべながら、俺とレイラは粗末なパイプ椅子に座り……ティリアンとカイは、その後ろで立ったまま、かつての仲間を睨みつけた。
「ホントだよ! 仲良しこよしのハチロクだと思ってたのによ! 俺なんて、カイはチャラすぎて、歩いてるだけで頭から鈴の音がする位。とか……ひどくね?」
「ルーク。こうなったら、腹を割って話そう。君が今まで……どんな不満を、俺たちに抱えてきたのか」
冷静なティリアンがそう切り出すと、ルークは嘲るような笑みを浮かべてから……急に、真顔になって。
「レイラ……僕がヴィーガンだって話した時、なんて言ったか覚えてる?」
「は? ううん? 私、何か気に障る事言った?」
目を瞬かせるレイラに、ルークは眉を吊り上げ、透明な仕切り板を思い切り叩いた。
「言ったんだよ! ああ確かにルークってめっちゃ草食っぽい! 肉食獣に追い回されて、一日中草原走ってそう! って!!」
突然キレた同期に、レイラは完全にキョトン状態。
「ええ!? だって……ぽくない!? ルークってライオンていうよりはシマウマだよね? 私はただ、可愛くて癒し系って意味で……」
そのレイラの様子から、本当に悪気はなかったのだろうと、感じる。そもそも、こいつはそういう奴だから。
しかし、ひとたび怒りに火のついたルークは止まらない。次は、後ろに立つカイを睨みつけて。
「カイ! お前も事あるごとに僕をバカにして……!」
「え! 俺!? バカにした事なんかないじゃん! そのメガネの特性だって、いつも褒めて……」
「いいな~そのメガネ、変身とか便利だよな~、俺の剣は剣だから、ありきたりでつまんね~よ~。って!! どうせ僕は魔剣士じゃないよ! 86期の中で唯一! 皆がかっこよく武器をふりまわしてるのに、僕はメガネの上げ下げ! どれだけ恥ずかしかったか……!」
メガネが恥ずかしい? むしろ、聞き込みや尾行といった捜査が欠かせない警察職員にとって、変身魔法は強力な武器。魔剣士よりもよほどレアな魔力特性だ。
だからこそ、戦闘力に乏しいルークが、魔対局員になれた。
その事は、俺達ハチロクメンバーは勿論わかっていたし、ルーク本人も理解していると思っていたのに。
どうやらわかっていなかったらしい元レア局員は、次のターゲットであるティリアンを指さした。
「あと、ティリアン! お前はもう、いるだけでムカつく!」
「ええ……っ」
あんまりな言いように、困惑するティリアン。
「金持ちの家! 優しい両親! 顔も性格も成績も良くて……光り過ぎ! 近くにいるだけで、こっちは全部陰になって大迷惑なんだよ! お前みたいな苦労知らず、ある日突然隕石にぶつかって死んじゃえばいいのに!!」
息を切らせながら、理不尽な文句を言い倒すルーク。
その勢いに押されて、『……なんか、ごめん』と謝ってしまうティリアンの背中を、レイラが叩いた。
「よ~くわかったわ。あんたはつまり、私達が大嫌いだったのよ。でもそれは、私達が意地悪したからじゃない。優秀すぎる私達を、あんたが勝手にやっかんでただけ! 優しさも褒め言葉も、全部全部歪めて受け取っちゃうくらい、あんた自身が歪んでたのよ!」
「うるさぁい!! 何も知らないくせに、偉そうなことをいうなぁあ!!」
指をさして容赦ない反論をするレイラに、ルークは勢いよく立ち上がった。
俺はゆっくりと、正面のルークを見つめて。
「さて……次は俺か? 兄貴?」
その単語を出した途端、一気に強張る、ルークの表情。
「お前……きいたの!? カーティス公爵に!?」
聞いた。入院中、局長と共にやってきたあの人に、全て。
覚悟を決めるように腹に力を込め、息を吐く。それから再び、血を分けた兄の顔を真っ直ぐに見て……頭を下げた。
「え……!? フレン!?」
俺の行動が予想外だったのだろう。頭の上から、兄の戸惑う声が降って来る。
「何も知らなくて……悪かった」
俺が生まれる3年前……。
上級しか生まれない筈のカーティス家に、兄は中級として生まれた。
「親父は……焦っていたと言ってた。経済貴族であるキャンベル家が勢いを増して来たあの時期に、カーティス家に中級が生まれたと世間に知れたら……カーティスの権威は失墜する……当主である自分も、失脚を免れないと」
「そ……そうだよ! だから僕を捨てた! 苗字も違う遠い親戚の家に育てさせて……存在自体を隠して、消そうとしたんだ!」
そう訴える兄の目は……まるで子供のよう。
重苦しい話題に、事前に全てを知らせていたハチロクメンバーも、険しい表情を浮かべる。
しかしティリアンだけは、静かに一歩踏み出して。
「俺の父……キャンベル侯爵は、君の存在を知っていた。母が、大きなお腹を抱えるカーティス夫人を見かけた事があったようで……。それからずっと、影ながら気にかけていたんだよ」
「気にかける!? 時々服や本を送りつけてきただけじゃない! 言っとくけど、あれ全部クズな養父母が金に換えてたから! あいつらに殴られながら、残飯をむさぼる僕の毎日は、少しも救われてなかったから!!」
穏やかに対話しようとするティリアンにも、充血した目をひん剥いて言葉を荒げるルーク。
「しかも、必死に勉強して魔対に入った後は、局長とグルになって、いつでも僕を監視して……!!」
「監視なんかじゃ……っ、俺もクロエも、ルークを心配して」
「うるさい! その上、同じ補佐役候補には優秀な弟! ああっ!! ストレスでおかしくなりそうだったよ! 僕より優秀で、僕より若くて背も高くて顔もよくてダークファンタジーの主人公みたいに影があって本人は無自覚だけど庁内でもモテモテで局長にも同期にも好かれてて……父さんにもっ、期待されてて……!」
『父さん』……。自分を捨てた男をそう呼ぶルークの声は、震えていた。
「僕だって頑張ったんだ! 体を張って父さんの大事なフレンを守ったし、手柄を譲ってあげた事もある! なのに……あれもこれも、局長達に暴かれて、その上補佐役にもなれなくて……あぁ! どうして誰も、僕を認めてくれないんだよ!?」
そう、叫ぶように言ってから……ルークは、頭を抱えてうずくまってしまった。
胸が、痛む。
勝手にやっかんだ。受け取り方が歪んでいる。その通りだ。
でも確かなのは……ルークは……兄は、そうなりたくてなったわけじゃない。
「ルーク……」
「何も言うなっ! どうせ、不遇の中でも一生懸命正しく生きてる人は大勢いる、とか言うんでしょ! そんな正論、取り調べで聞き飽きたよっ」
「いや、明後日、姉を連れて来るから……一緒に、親父の悪口大会開かないか」
「「「「は??」」」」
殺伐とした雰囲気にそぐわない、お誘い。ルークだけでなく、他のハチロクメンバーも、間抜け顔を浮かべる。
「不幸自慢なら、俺も姉も負けない自信がある。俺達は確かに上級魔法使いだけど……お前に負けない位、ヤバイ目に合って生きて来た」
「そ、そうよ! 聞いたら絶対引くと思う! も、普通に虐待だから! ね!?」
「あ、ああ! 通報されてたら、一発で逮捕のヤバイやつ! あのメモリー聞いたら、ルークも、ああ自分だけじゃなかったんだ~って思えるかもだぜ!?」
俺の主張を、援護射撃してくれるレイラとカイ。
ティリアンは、何とも言えない苦笑いで、そんな二人を見ている。これで、いい。これがいい。これがハチロクだから。
「そ、そんな事言ったって、僕の方が絶対辛い目に合ってるに決まってる!」
そう反論するルークは、なんだかムキになっている様子。
辛い記憶を忌まわしく思いつつも、自分を超える苦労人はいないという……おかしなプライドを感じる。
そしてそのおかしな感じ……きっと俺や姉は、共感できてしまうだろう。
「だから、ガチで話し合って、勝敗を決めよう。審判は……そうだな。親父でどうだ?」
「はぁあ!?」
「あの人に1ミリでも良心や罪悪感があるなら……兄弟三人がかりで、刺激してやろう」
不敵な笑みを浮かべながらの、提案。ルークは唖然とした表情で、俺を凝視した。その顔を見ていたら……なんだか笑えてきてしまって、肩の力が抜ける。
「まぁ、お前が断っても、俺達は来るから。……大丈夫、一緒に向き合おう。お前には俺も姉ちゃんも…………支えてくれる人だって、いるんだから」
そう伝えてから……出入口の方を、振り返る。俺の視線に誘われ、ルークもまた、同じ場所を見た。
すると……開いた扉の向こうから、例の彼女が現れて。
「ルーク……っ」
「あ……ああ……!!」
車いすをこぐ、かつての恋人に……たまらず目元をおさえるルーク。
「はいはい、ルーク! 久々の再会なんだからさ! それ以上情けない所見せちゃダメダメ~!」
彼女の背後にまわり、車いすをゆっくりと押しながら、カイがチャラく笑う。
「ルーク……元気だった? ちゃんとごはん食べてる?」
仕切り板に、そっと手の平をそえる彼女の肩に、レイラが手を置く。
「私達がパール・シティに行った時、彼女のお店に来たのは……心配だったから、よね?」
「ううっ、うう……っ」
嗚咽を漏らしながら、彼女と手を合わせるルーク。
アクリル製の板ごしではあったけれど……二人の間には、割って入れるものなど無いと、感じた。
「私は大丈夫だから。あなたが帰って来るまで、ずっと、待ってるから……!
「う……ごめん……ごめん……っ、ううううっ!」
そんな二人の姿を……俺達は、じっと見守った。
「俺達も、同じ想いだよ」
「っそ! またチョコチョコ来るからな! 俺だって苦労自慢なら負けねぇし! ただのチャラ男じゃないって事、わからせてやるよ!」
「私も! 仕方ないから、ヴィーガン料理差し入れしてあげるわよ。私の可愛いシマウマちゃんの、オヤツにね」
「じゃ、行くか。俺達はお邪魔なようだから。あとは若いもん同士でって事で」
さっそうと立ち上がり、気持ちを確かめ合う二人に、背を向ける。
「うう……何が若いもんだ、バーカ……僕の方が3つも年上なんだよっ」
去り際に、なんとも幼稚な捨て台詞を吐いた兄に、口の端を上げながら……俺達は、面会室を後にした。
面会室に入るやいなや、そう言って笑う、同期の桜。
俺とティリアン、カイ、レイラのハチロクメンバーは平静を保ったまま、ルークと対峙した。
「ああ。取り調べでのお前の供述が、あまりにも俺達の悪口だらけで……仕方ねぇから、直接聞きに来てやったんだよ」
「そうよ! まったく! 読んでて手が震えたわ! あ、ショックで、じゃないわよ? 勿論、怒りで、ね?」
不敵な笑みを浮かべながら、俺とレイラは粗末なパイプ椅子に座り……ティリアンとカイは、その後ろで立ったまま、かつての仲間を睨みつけた。
「ホントだよ! 仲良しこよしのハチロクだと思ってたのによ! 俺なんて、カイはチャラすぎて、歩いてるだけで頭から鈴の音がする位。とか……ひどくね?」
「ルーク。こうなったら、腹を割って話そう。君が今まで……どんな不満を、俺たちに抱えてきたのか」
冷静なティリアンがそう切り出すと、ルークは嘲るような笑みを浮かべてから……急に、真顔になって。
「レイラ……僕がヴィーガンだって話した時、なんて言ったか覚えてる?」
「は? ううん? 私、何か気に障る事言った?」
目を瞬かせるレイラに、ルークは眉を吊り上げ、透明な仕切り板を思い切り叩いた。
「言ったんだよ! ああ確かにルークってめっちゃ草食っぽい! 肉食獣に追い回されて、一日中草原走ってそう! って!!」
突然キレた同期に、レイラは完全にキョトン状態。
「ええ!? だって……ぽくない!? ルークってライオンていうよりはシマウマだよね? 私はただ、可愛くて癒し系って意味で……」
そのレイラの様子から、本当に悪気はなかったのだろうと、感じる。そもそも、こいつはそういう奴だから。
しかし、ひとたび怒りに火のついたルークは止まらない。次は、後ろに立つカイを睨みつけて。
「カイ! お前も事あるごとに僕をバカにして……!」
「え! 俺!? バカにした事なんかないじゃん! そのメガネの特性だって、いつも褒めて……」
「いいな~そのメガネ、変身とか便利だよな~、俺の剣は剣だから、ありきたりでつまんね~よ~。って!! どうせ僕は魔剣士じゃないよ! 86期の中で唯一! 皆がかっこよく武器をふりまわしてるのに、僕はメガネの上げ下げ! どれだけ恥ずかしかったか……!」
メガネが恥ずかしい? むしろ、聞き込みや尾行といった捜査が欠かせない警察職員にとって、変身魔法は強力な武器。魔剣士よりもよほどレアな魔力特性だ。
だからこそ、戦闘力に乏しいルークが、魔対局員になれた。
その事は、俺達ハチロクメンバーは勿論わかっていたし、ルーク本人も理解していると思っていたのに。
どうやらわかっていなかったらしい元レア局員は、次のターゲットであるティリアンを指さした。
「あと、ティリアン! お前はもう、いるだけでムカつく!」
「ええ……っ」
あんまりな言いように、困惑するティリアン。
「金持ちの家! 優しい両親! 顔も性格も成績も良くて……光り過ぎ! 近くにいるだけで、こっちは全部陰になって大迷惑なんだよ! お前みたいな苦労知らず、ある日突然隕石にぶつかって死んじゃえばいいのに!!」
息を切らせながら、理不尽な文句を言い倒すルーク。
その勢いに押されて、『……なんか、ごめん』と謝ってしまうティリアンの背中を、レイラが叩いた。
「よ~くわかったわ。あんたはつまり、私達が大嫌いだったのよ。でもそれは、私達が意地悪したからじゃない。優秀すぎる私達を、あんたが勝手にやっかんでただけ! 優しさも褒め言葉も、全部全部歪めて受け取っちゃうくらい、あんた自身が歪んでたのよ!」
「うるさぁい!! 何も知らないくせに、偉そうなことをいうなぁあ!!」
指をさして容赦ない反論をするレイラに、ルークは勢いよく立ち上がった。
俺はゆっくりと、正面のルークを見つめて。
「さて……次は俺か? 兄貴?」
その単語を出した途端、一気に強張る、ルークの表情。
「お前……きいたの!? カーティス公爵に!?」
聞いた。入院中、局長と共にやってきたあの人に、全て。
覚悟を決めるように腹に力を込め、息を吐く。それから再び、血を分けた兄の顔を真っ直ぐに見て……頭を下げた。
「え……!? フレン!?」
俺の行動が予想外だったのだろう。頭の上から、兄の戸惑う声が降って来る。
「何も知らなくて……悪かった」
俺が生まれる3年前……。
上級しか生まれない筈のカーティス家に、兄は中級として生まれた。
「親父は……焦っていたと言ってた。経済貴族であるキャンベル家が勢いを増して来たあの時期に、カーティス家に中級が生まれたと世間に知れたら……カーティスの権威は失墜する……当主である自分も、失脚を免れないと」
「そ……そうだよ! だから僕を捨てた! 苗字も違う遠い親戚の家に育てさせて……存在自体を隠して、消そうとしたんだ!」
そう訴える兄の目は……まるで子供のよう。
重苦しい話題に、事前に全てを知らせていたハチロクメンバーも、険しい表情を浮かべる。
しかしティリアンだけは、静かに一歩踏み出して。
「俺の父……キャンベル侯爵は、君の存在を知っていた。母が、大きなお腹を抱えるカーティス夫人を見かけた事があったようで……。それからずっと、影ながら気にかけていたんだよ」
「気にかける!? 時々服や本を送りつけてきただけじゃない! 言っとくけど、あれ全部クズな養父母が金に換えてたから! あいつらに殴られながら、残飯をむさぼる僕の毎日は、少しも救われてなかったから!!」
穏やかに対話しようとするティリアンにも、充血した目をひん剥いて言葉を荒げるルーク。
「しかも、必死に勉強して魔対に入った後は、局長とグルになって、いつでも僕を監視して……!!」
「監視なんかじゃ……っ、俺もクロエも、ルークを心配して」
「うるさい! その上、同じ補佐役候補には優秀な弟! ああっ!! ストレスでおかしくなりそうだったよ! 僕より優秀で、僕より若くて背も高くて顔もよくてダークファンタジーの主人公みたいに影があって本人は無自覚だけど庁内でもモテモテで局長にも同期にも好かれてて……父さんにもっ、期待されてて……!」
『父さん』……。自分を捨てた男をそう呼ぶルークの声は、震えていた。
「僕だって頑張ったんだ! 体を張って父さんの大事なフレンを守ったし、手柄を譲ってあげた事もある! なのに……あれもこれも、局長達に暴かれて、その上補佐役にもなれなくて……あぁ! どうして誰も、僕を認めてくれないんだよ!?」
そう、叫ぶように言ってから……ルークは、頭を抱えてうずくまってしまった。
胸が、痛む。
勝手にやっかんだ。受け取り方が歪んでいる。その通りだ。
でも確かなのは……ルークは……兄は、そうなりたくてなったわけじゃない。
「ルーク……」
「何も言うなっ! どうせ、不遇の中でも一生懸命正しく生きてる人は大勢いる、とか言うんでしょ! そんな正論、取り調べで聞き飽きたよっ」
「いや、明後日、姉を連れて来るから……一緒に、親父の悪口大会開かないか」
「「「「は??」」」」
殺伐とした雰囲気にそぐわない、お誘い。ルークだけでなく、他のハチロクメンバーも、間抜け顔を浮かべる。
「不幸自慢なら、俺も姉も負けない自信がある。俺達は確かに上級魔法使いだけど……お前に負けない位、ヤバイ目に合って生きて来た」
「そ、そうよ! 聞いたら絶対引くと思う! も、普通に虐待だから! ね!?」
「あ、ああ! 通報されてたら、一発で逮捕のヤバイやつ! あのメモリー聞いたら、ルークも、ああ自分だけじゃなかったんだ~って思えるかもだぜ!?」
俺の主張を、援護射撃してくれるレイラとカイ。
ティリアンは、何とも言えない苦笑いで、そんな二人を見ている。これで、いい。これがいい。これがハチロクだから。
「そ、そんな事言ったって、僕の方が絶対辛い目に合ってるに決まってる!」
そう反論するルークは、なんだかムキになっている様子。
辛い記憶を忌まわしく思いつつも、自分を超える苦労人はいないという……おかしなプライドを感じる。
そしてそのおかしな感じ……きっと俺や姉は、共感できてしまうだろう。
「だから、ガチで話し合って、勝敗を決めよう。審判は……そうだな。親父でどうだ?」
「はぁあ!?」
「あの人に1ミリでも良心や罪悪感があるなら……兄弟三人がかりで、刺激してやろう」
不敵な笑みを浮かべながらの、提案。ルークは唖然とした表情で、俺を凝視した。その顔を見ていたら……なんだか笑えてきてしまって、肩の力が抜ける。
「まぁ、お前が断っても、俺達は来るから。……大丈夫、一緒に向き合おう。お前には俺も姉ちゃんも…………支えてくれる人だって、いるんだから」
そう伝えてから……出入口の方を、振り返る。俺の視線に誘われ、ルークもまた、同じ場所を見た。
すると……開いた扉の向こうから、例の彼女が現れて。
「ルーク……っ」
「あ……ああ……!!」
車いすをこぐ、かつての恋人に……たまらず目元をおさえるルーク。
「はいはい、ルーク! 久々の再会なんだからさ! それ以上情けない所見せちゃダメダメ~!」
彼女の背後にまわり、車いすをゆっくりと押しながら、カイがチャラく笑う。
「ルーク……元気だった? ちゃんとごはん食べてる?」
仕切り板に、そっと手の平をそえる彼女の肩に、レイラが手を置く。
「私達がパール・シティに行った時、彼女のお店に来たのは……心配だったから、よね?」
「ううっ、うう……っ」
嗚咽を漏らしながら、彼女と手を合わせるルーク。
アクリル製の板ごしではあったけれど……二人の間には、割って入れるものなど無いと、感じた。
「私は大丈夫だから。あなたが帰って来るまで、ずっと、待ってるから……!
「う……ごめん……ごめん……っ、ううううっ!」
そんな二人の姿を……俺達は、じっと見守った。
「俺達も、同じ想いだよ」
「っそ! またチョコチョコ来るからな! 俺だって苦労自慢なら負けねぇし! ただのチャラ男じゃないって事、わからせてやるよ!」
「私も! 仕方ないから、ヴィーガン料理差し入れしてあげるわよ。私の可愛いシマウマちゃんの、オヤツにね」
「じゃ、行くか。俺達はお邪魔なようだから。あとは若いもん同士でって事で」
さっそうと立ち上がり、気持ちを確かめ合う二人に、背を向ける。
「うう……何が若いもんだ、バーカ……僕の方が3つも年上なんだよっ」
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