その最強魔剣士には、いかがわしい噂がある

杏 みん

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 「それじゃ!」

 「おっつ~! また明日な!」

 拘置所の門の前で、笑顔で手を振るレイラとカイ。
 手を振り返しながら、内心ホッとする。

 あんな事があってから、初めての面会。絶対に、皆、緊張していた。
 けれどそんな心のうちをおくびにも出さず……正面から、かつての仲間と向き合った。

 「やっぱり……華の86期は、すげぇな……」

 思わず、呟く。
 すると、隣にいたティリアンが、『ふふふ』と笑い出して。

 「え、なに」

 「フレンも含めて、ね。今日は本当に、お疲れ様……」

 そう言って、手を出してくれた。俺はその手を固く握って、頭を下げる。

 「今回の事は、本当に申し訳なかった。うちの家が、とんでもない迷惑を……」

 「もうさ、よそうよ。家と俺達、分離しない? フレンはただのフレンで、俺はただの俺。……婚約者を同期に寝取られた、憐れなピエロだよ」

 ティリアンはそう自嘲気味に笑うけれど……俺は、真剣な顔を崩さない。

 「悪かった……。俺を救う為とはいえ……同期の婚約者と……」

 「まぁ……正直、俺が呪われれば良かったのに。とか思っちゃったけどね」

 「全然、気づいてなくて……すごいよな。お前も局長も。婚約者だって事を隠しながら何年も、ただの上司と部下みたいに振る舞ってたわけだろ」

 「うん。ふふ、クロエの為にも公私は分けなきゃって、頑張ったからね……とにかく、もう気にしないで。フレンが助かってよかった。じゃ、俺もそろそろ行くね。これから式場に行くんだ。クロエのドレスの試着で」

 久しぶりに聞いた、あの人の名前。
 胸の奥が、チクリと痛む。

 「局長……あ、もう局長じゃねぇけど。元気か? 俺が退院した頃には、もう退職届が出された後で……」

 スマホの番号も、変わってて。会う事も、話すことも出来なくなってしまった。

 「ああ。元気だよ。12歳の頃から忙しくしてたからさ。今は実家で母さんとゆっくり過ごしてる。専業主婦のリハーサルをしながらね」

 想像するだけで、思わず口元が緩む。
 けれど……ここは、気を引き締めて、切り出さねばならない場面で。

 「ティリアン。さっき俺が謝ったのは……これからする事も含めて、だ」

 「ん?」

 「俺は……局長と関係は持ったけど、寝は無い。……まだ」

 俺の真顔を見て、言わんとしている事を悟ったのだろうか。ティリアンの表情もまた、キリっと引き締まる。

 「これから……寝取ろうと思ってる。っていう、宣戦布告かな? それは?」

 「そう受け取って貰って、かまわない」

 「わかった。好きにしてくれていいよ」

 意外なほどの、即答。思わず、たじろいでしまう。

 「え、ちょ、いいのか? 本当に? 俺、改めて告白とかしちゃおうかと思ってるんだけど……?」

 どもる俺を見て、ティリアンはニヤつきながら、腕組みをした。

 「選ぶのはクロエだよ。……でも、どうかな? 結婚は当人同士だけの問題じゃない。相手の両親との繋がりでもある。……母親が亡くなって以来、クロエを我が子同然に育てて来たのは、うちの母だ。その大好きな母を捨ててまで……君を選ぶかどうか……?」

 「……お前、そんなに性格悪かったか?」

 率直に思った事を伝えると、同期イチの優等生は声を挙げて笑い出して。

 「あはは、そうだよ! 今頃気付いた? フレンも皆も……俺をキラキラの国の王子様みたいに思ってたもんな? はは、俺はただ、人に……クロエに良く見られたくて、一生懸命、完璧人間になろうとしてた、ただの打算的な男だよ。あはは……」

 それは多分、本心なのだろう。

 でも……やはり爽やかで優しいその笑顔は、こいつの本質的な部分から来ているものだろうと思えた。

 その証拠に……ひとしきり笑い終えた後、ティリアンは悲しそうな笑顔を、俺に向けて。

 「それでも……クロエは俺を選ばなかった……フレン、あとは頼んだぞ」

 「……ティリアン……」

 86期の王子様は、長いコートをひらりと翻し、俺に背を向けた。

 「クロエ、8時には式場を出ると思う! その時が最後のチャンス! 明日婚姻届を出す予定だから! あとで式場までのマップ、送っておく!」

 そう叫んで手を振る、同期の大きな背中。
 夕暮れを照らす、赤い太陽すら……その背の輝きには、敵わない。

 この温かな光がきっと……局長を、今の局長にしてくれたのだ。

 「ティリアン! お前はやっぱり王子様だよ! 局長にとってのじゃなく……俺にとっての王子様!」

 「……ふっ……イヤだな~! それ!」

 優等生らしからぬ、幼稚な言葉を残して……86期の王子様は、去って行った。
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