48 / 53
48
しおりを挟む
「それじゃ!」
「おっつ~! また明日な!」
拘置所の門の前で、笑顔で手を振るレイラとカイ。
手を振り返しながら、内心ホッとする。
あんな事があってから、初めての面会。絶対に、皆、緊張していた。
けれどそんな心のうちをおくびにも出さず……正面から、かつての仲間と向き合った。
「やっぱり……華の86期は、すげぇな……」
思わず、呟く。
すると、隣にいたティリアンが、『ふふふ』と笑い出して。
「え、なに」
「フレンも含めて、ね。今日は本当に、お疲れ様……」
そう言って、手を出してくれた。俺はその手を固く握って、頭を下げる。
「今回の事は、本当に申し訳なかった。うちの家が、とんでもない迷惑を……」
「もうさ、よそうよ。家と俺達、分離しない? フレンはただのフレンで、俺はただの俺。……婚約者を同期に寝取られた、憐れなピエロだよ」
ティリアンはそう自嘲気味に笑うけれど……俺は、真剣な顔を崩さない。
「悪かった……。俺を救う為とはいえ……同期の婚約者と……」
「まぁ……正直、俺が呪われれば良かったのに。とか思っちゃったけどね」
「全然、気づいてなくて……すごいよな。お前も局長も。婚約者だって事を隠しながら何年も、ただの上司と部下みたいに振る舞ってたわけだろ」
「うん。ふふ、クロエの為にも公私は分けなきゃって、頑張ったからね……とにかく、もう気にしないで。フレンが助かってよかった。じゃ、俺もそろそろ行くね。これから式場に行くんだ。クロエのドレスの試着で」
久しぶりに聞いた、あの人の名前。
胸の奥が、チクリと痛む。
「局長……あ、もう局長じゃねぇけど。元気か? 俺が退院した頃には、もう退職届が出された後で……」
スマホの番号も、変わってて。会う事も、話すことも出来なくなってしまった。
「ああ。元気だよ。12歳の頃から忙しくしてたからさ。今は実家で母さんとゆっくり過ごしてる。専業主婦のリハーサルをしながらね」
想像するだけで、思わず口元が緩む。
けれど……ここは、気を引き締めて、切り出さねばならない場面で。
「ティリアン。さっき俺が謝ったのは……これからする事も含めて、だ」
「ん?」
「俺は……局長と関係は持ったけど、寝取っては無い。……まだ」
俺の真顔を見て、言わんとしている事を悟ったのだろうか。ティリアンの表情もまた、キリっと引き締まる。
「これから……寝取ろうと思ってる。っていう、宣戦布告かな? それは?」
「そう受け取って貰って、かまわない」
「わかった。好きにしてくれていいよ」
意外なほどの、即答。思わず、たじろいでしまう。
「え、ちょ、いいのか? 本当に? 俺、改めて告白とかしちゃおうかと思ってるんだけど……?」
どもる俺を見て、ティリアンはニヤつきながら、腕組みをした。
「選ぶのはクロエだよ。……でも、どうかな? 結婚は当人同士だけの問題じゃない。相手の両親との繋がりでもある。……母親が亡くなって以来、クロエを我が子同然に育てて来たのは、うちの母だ。その大好きな母を捨ててまで……君を選ぶかどうか……?」
「……お前、そんなに性格悪かったか?」
率直に思った事を伝えると、同期イチの優等生は声を挙げて笑い出して。
「あはは、そうだよ! 今頃気付いた? フレンも皆も……俺をキラキラの国の王子様みたいに思ってたもんな? はは、俺はただ、人に……クロエに良く見られたくて、一生懸命、完璧人間になろうとしてた、ただの打算的な男だよ。あはは……」
それは多分、本心なのだろう。
でも……やはり爽やかで優しいその笑顔は、こいつの本質的な部分から来ているものだろうと思えた。
その証拠に……ひとしきり笑い終えた後、ティリアンは悲しそうな笑顔を、俺に向けて。
「それでも……クロエは俺を選ばなかった……フレン、あとは頼んだぞ」
「……ティリアン……」
86期の王子様は、長いコートをひらりと翻し、俺に背を向けた。
「クロエ、8時には式場を出ると思う! その時が最後のチャンス! 明日婚姻届を出す予定だから! あとで式場までのマップ、送っておく!」
そう叫んで手を振る、同期の大きな背中。
夕暮れを照らす、赤い太陽すら……その背の輝きには、敵わない。
この温かな光がきっと……局長を、今の局長にしてくれたのだ。
「ティリアン! お前はやっぱり王子様だよ! 局長にとってのじゃなく……俺にとっての王子様!」
「……ふっ……イヤだな~! それ!」
優等生らしからぬ、幼稚な言葉を残して……86期の王子様は、去って行った。
「おっつ~! また明日な!」
拘置所の門の前で、笑顔で手を振るレイラとカイ。
手を振り返しながら、内心ホッとする。
あんな事があってから、初めての面会。絶対に、皆、緊張していた。
けれどそんな心のうちをおくびにも出さず……正面から、かつての仲間と向き合った。
「やっぱり……華の86期は、すげぇな……」
思わず、呟く。
すると、隣にいたティリアンが、『ふふふ』と笑い出して。
「え、なに」
「フレンも含めて、ね。今日は本当に、お疲れ様……」
そう言って、手を出してくれた。俺はその手を固く握って、頭を下げる。
「今回の事は、本当に申し訳なかった。うちの家が、とんでもない迷惑を……」
「もうさ、よそうよ。家と俺達、分離しない? フレンはただのフレンで、俺はただの俺。……婚約者を同期に寝取られた、憐れなピエロだよ」
ティリアンはそう自嘲気味に笑うけれど……俺は、真剣な顔を崩さない。
「悪かった……。俺を救う為とはいえ……同期の婚約者と……」
「まぁ……正直、俺が呪われれば良かったのに。とか思っちゃったけどね」
「全然、気づいてなくて……すごいよな。お前も局長も。婚約者だって事を隠しながら何年も、ただの上司と部下みたいに振る舞ってたわけだろ」
「うん。ふふ、クロエの為にも公私は分けなきゃって、頑張ったからね……とにかく、もう気にしないで。フレンが助かってよかった。じゃ、俺もそろそろ行くね。これから式場に行くんだ。クロエのドレスの試着で」
久しぶりに聞いた、あの人の名前。
胸の奥が、チクリと痛む。
「局長……あ、もう局長じゃねぇけど。元気か? 俺が退院した頃には、もう退職届が出された後で……」
スマホの番号も、変わってて。会う事も、話すことも出来なくなってしまった。
「ああ。元気だよ。12歳の頃から忙しくしてたからさ。今は実家で母さんとゆっくり過ごしてる。専業主婦のリハーサルをしながらね」
想像するだけで、思わず口元が緩む。
けれど……ここは、気を引き締めて、切り出さねばならない場面で。
「ティリアン。さっき俺が謝ったのは……これからする事も含めて、だ」
「ん?」
「俺は……局長と関係は持ったけど、寝取っては無い。……まだ」
俺の真顔を見て、言わんとしている事を悟ったのだろうか。ティリアンの表情もまた、キリっと引き締まる。
「これから……寝取ろうと思ってる。っていう、宣戦布告かな? それは?」
「そう受け取って貰って、かまわない」
「わかった。好きにしてくれていいよ」
意外なほどの、即答。思わず、たじろいでしまう。
「え、ちょ、いいのか? 本当に? 俺、改めて告白とかしちゃおうかと思ってるんだけど……?」
どもる俺を見て、ティリアンはニヤつきながら、腕組みをした。
「選ぶのはクロエだよ。……でも、どうかな? 結婚は当人同士だけの問題じゃない。相手の両親との繋がりでもある。……母親が亡くなって以来、クロエを我が子同然に育てて来たのは、うちの母だ。その大好きな母を捨ててまで……君を選ぶかどうか……?」
「……お前、そんなに性格悪かったか?」
率直に思った事を伝えると、同期イチの優等生は声を挙げて笑い出して。
「あはは、そうだよ! 今頃気付いた? フレンも皆も……俺をキラキラの国の王子様みたいに思ってたもんな? はは、俺はただ、人に……クロエに良く見られたくて、一生懸命、完璧人間になろうとしてた、ただの打算的な男だよ。あはは……」
それは多分、本心なのだろう。
でも……やはり爽やかで優しいその笑顔は、こいつの本質的な部分から来ているものだろうと思えた。
その証拠に……ひとしきり笑い終えた後、ティリアンは悲しそうな笑顔を、俺に向けて。
「それでも……クロエは俺を選ばなかった……フレン、あとは頼んだぞ」
「……ティリアン……」
86期の王子様は、長いコートをひらりと翻し、俺に背を向けた。
「クロエ、8時には式場を出ると思う! その時が最後のチャンス! 明日婚姻届を出す予定だから! あとで式場までのマップ、送っておく!」
そう叫んで手を振る、同期の大きな背中。
夕暮れを照らす、赤い太陽すら……その背の輝きには、敵わない。
この温かな光がきっと……局長を、今の局長にしてくれたのだ。
「ティリアン! お前はやっぱり王子様だよ! 局長にとってのじゃなく……俺にとっての王子様!」
「……ふっ……イヤだな~! それ!」
優等生らしからぬ、幼稚な言葉を残して……86期の王子様は、去って行った。
0
あなたにおすすめの小説
聖銀竜に喰われる夜――冷酷な宰相閣下は、禁書庫の司書を執愛の檻に囚える
真守 輪
恋愛
「逃がさない。その賢しい口も、奥の震えも――すべて、私のものだ」
王宮で「禁書庫の未亡人」と揶揄される地味な司書・ルネ。
その正体は、好奇心旺盛でちょっぴり無作法な、本を愛する伯爵令嬢。
彼女には、誰にも言えない秘密があった。
それは、冷酷非道と恐れられる王弟・ゼファール宰相に、夜の禁書庫で秘密に抱かれていること。
聖銀竜の血を引き、興奮すると強靭な鱗と尾が顕れる彼。
人外の剛腕に抱き潰され、甘美な絶望に呑み込まれる夜。
「ただの愛人」と割り切っていたはずなのに、彼の孤独な熱に触れるたび、ルネの心は無防備に暴かれていく。
しかし、ルネは知らなかった。
彼が近づいた真の目的は、彼女が守る「禁書」――王国を揺るがす禁断の真実にあったことを。
「君は、私のものだ。禁書も、その魂も、すべてな」
嘘から始まった関係が、執着に変わる。
竜の情欲と宮廷の陰謀が絡み合う、背徳のインモラル・ロマンス。
同期の姫は、あなどれない
青砥アヲ
恋愛
社会人4年目を迎えたゆきのは、忙しいながらも充実した日々を送っていたが、遠距離恋愛中の彼氏とはすれ違いが続いていた。
ある日、電話での大喧嘩を機に一方的に連絡を拒否され、音信不通となってしまう。
落ち込むゆきのにアプローチしてきたのは『同期の姫』だった。
「…姫って、付き合ったら意彼女に尽くすタイプ?」
「さぁ、、試してみる?」
クールで他人に興味がないと思っていた同期からの、思いがけないアプローチ。動揺を隠せないゆきのは、今まで知らなかった一面に翻弄されていくことにーーー
【登場人物】
早瀬ゆきの(はやせゆきの)・・・R&Sソリューションズ開発部第三課 所属 25歳
姫元樹(ひめもといつき)・・・R&Sソリューションズ開発部第一課 所属 25歳
◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。
◆他にエブリスタ様にも掲載してます。
婚約破棄された元聖女、魔王の息子に攫われて溺愛されています
百合川八千花
恋愛
魔王を討伐し、十年にわたる戦いを終えた聖女アルティア。
帰還した王国で待っていたのは、王太子からの婚約破棄と――その子供だった。
絶望の中、現れたのはかつて共に戦った魔王の息子、ヴェルグ。
「君はもう自由だ。だったら僕が攫うよ」
突然の求婚(という名の略奪)と共に、アルティアは隣国・アシュフォード帝国へ連れ去られる。
辺境伯となったヴェルグの領地で始まるのは、
「君のために用意してた」
と語られる豪華すぎる“同棲部屋”、
壁一面に飾られた聖女の肖像画コレクション、
そして、「僕のもの」発言が止まらない溺愛×執着ラブ生活!
しかしその頃、聖女を失った王国では、魔王の呪いによる異変が始まっていて――
これは、運命に選ばれ続けた聖女と、ただ彼女だけを愛した元魔王の息子の、
甘くて狂おしい、世界と愛の再構築ラブファンタジー。
〖完結〗終着駅のパッセージ
苺 迷音
恋愛
過去、使用人に悪戯をされそうになった事がきっかけとなり、分厚い眼鏡とひっつめた髪を編み帽で覆い、自身の容姿を隠すようになった女性・カレン。
その事情を知りながらも夫ローランは、奇妙で地味な姿の妻を厭い目を逸らし続けた。
婚姻してからわずか三日後の朝。彼は赴任先の北の地へと旅立ちその後、カレンの元へと帰省してきたのは、片手で数えるほどだった。
孤独な結婚生活を送る中。
ある冬の日に、ローランの上官であり北の地を治める領主ハルシオン公爵が、カレン夫妻の邸にやってきた。
始まりは、部下の家族を想う上司としての気遣いだった。
他愛もない会話と、節度を守ったやり取り。ほんの僅かな時間を重ねていく。
そのうちに、お互いに灯り始めた小さな心の想い。
だが二人は、それを決して明かさず語ることはなかった。
それから一年ほどたった冬の夜。
カレンから届いた手紙に、たった一度だけハルシオンは返事を書く。
そこには彼の想いが書かれてあった。
月日は流れ、カレンとローランが婚姻して三年目の冬の日。
カレンはひとつの決意と想いを胸に、北へ向かう汽車に乗った。
※微さまぁか、もしくはざまぁになっていないかもしれないです。
※舞台は近世・産業革命初頭を基にした架空世界だと思っていただけましたら有難いです。
稚拙な作品ではありますがご覧くださいましたら凄く嬉しいです。よろしくお願い致します。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
「愛想がなく可愛くない」と捨てられた私、最強の竜騎士に拾われる。「その美しさに僕だけが狂わされたい」と、愛の重さでベッドから下ろしてくれない
唯崎りいち
恋愛
夜会の最中、王子に「愛想がなくて可愛くない」と婚約破棄された無表情令嬢。
だが彼女の美しさに一目惚れした隣国最強の竜騎士に連れ去られ、
「君はもう僕のものだ」
と毎晩愛の重さでベッドから下ろしてくれない生活が始まる——。
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる