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第二章 王族として、神子として~三年前~
ダンジョン調査
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「え? 新しく出現したダンジョンの調査?」
その日の授業は午前の分だけだったので、午後はクルーシスとお茶をしながら雑談していた時のことだ。クルーシスを訪ねてきたスレイが開口一番こう口にした。『ダンジョンの調査に協力して欲しい』と。
というか、スレイはついこの間もネスティアに来ていたような………彼はいつ執務をしているのだろうか。
相変わらず行動がフリーダムな王太子様だ。
そういえば……ゲームの場合は運営がダンジョンの出現ポイントとか、そういうの管理してたんだろうけど、現実であるこの世界ではどうなんだろ。
これまでにも数多くの学者がダンジョン出現の謎に挑戦しては、挫折していて、何故ダンジョンが出現するのかは理由が明らかになってはいない。
分かっていることは、ダンジョンは莫大な魔力溜まりが発生した場所に出現しやすいと言われていることくらいだ。
「ああ。ほら、つい先頃イスペライアの内乱が終結したって宣言が出されたろ?」
「──ええ、私もそれは知っています。たしか先導者はあの国の王太子でしたね。友人が彼の側近をやっていますし、セシリアを保護できたのも彼のおかげでしたね………。いつか礼をしたいと思っていたのですが、内乱が終わったのなら挨拶に行くついでに会談を願い出てみますか。それにしても、随分スムーズに事が進んだのですね。……まあ、現王に不満がある国民からすれば、彼の決起には諸手を挙げて喜んだでしょうし、協力も惜しまなかったでしょうけど。かの王太子も随分葛藤したでしょう。当時の現王たちが腐っていたとはいえ、『王位を簒奪した』という事実は変えようがないですしね……」
スレイの言葉に、クルーシスは痛ましそうに返答していた。たぶん、これ以上の腐敗を見過ごせなかったとはいえ、実の父親であり現王でもあった人を蹴落とす道を選んだシュディスの苦労を労ったのだと思う。言葉の端々から労りの心が感じ取れたから。
そう。イスペライアで起きていた内乱及び粛清は、私が回想したあの日より更に一年経過したのち、一応の終結をみた。現王(今は先代か)や主だった腐敗した貴族たちは討ち取ったそうだ。それでも全ての膿を出しきるには時間がかかったようだ。国事態は不安定な部分もあったこともあり、イスペライアは、しばらく他国との外交もストップしていた。
それが解除されたのはスレイが言ったとおり、本当につい最近のことだ。傾きかけた国を建て直し、他国との国交を再び開始できたのは、シュディスたちの努力の賜物だと私は思った。普通、その手のことを収めるのに数年単位での時間がかかるものなのだから。
「あそこの王族から周辺各国と国交を再開して、同盟を結び直したいって伺いがあったって、父上から言われてさ。その関係で、あそこの王子たち二人と歳の近いオレが外交を任されることになったんだよ」
スレイは喉を潤すために、いったん言葉を区切り、カップの紅茶を飲んで一息吐いた。科学者気質で自由な行動を認めているといっても、そこはやはり王族なのだ。外交の経験を積ませるために、今回のことに抜擢したのだろう。
ちなみにイスペライアの現在の王はシュディスではない。イスペライアの先王の兄君にあたる方が国王代行として政務にあたっている。……うん。いたんだよ、あのクズ王の兄弟とは思えないくらいまともな王族が。聞いたとき、驚いたよ。城にいた頃、他に王家の人間いないのかなぁ……とか思ってたんだけど、たんに私が知らなかっただけみたい。
その方は、身分の低い側室が産んだ王子だったがために、第一王子でありながら、いずれ王位を継ぐ弟──先王のことだ──を支えるための教育を受けて育ったのだそうだ。ところがその弟が王になった途端、国が荒れ始めた。どうやら先王は王位を継ぐ前からクズだったらしいのだが、表面上は猫かぶりをしていた模様。それが王になってから剥がれたらしい。誰も逆らえなくなったからか、クズっぷりに拍車がかかったのだろう。
けど、いくら王とはいえ、なんでも好き勝手にやっていいわけがない。弟のあまりの横暴振りに王兄となったその人は、これが自分の役目なのだからと、先王へ忠言を繰り返していた。けれどその結果、先王とその一派に疎ましがられた彼は、身に覚えのない汚名を着せられ、城の地下牢に幽閉されてしまったのだとか。それが今から十年は前のことだとか。
それが先の反乱によって地下牢から解放されたのだ。
なぜシュディスは自身が王にならずに、代行を任せたんだろう。私は手紙のやり取りをしていると教えてくれた父様に訊いてみた。父様も疑問に思ったらしくて、シュディス自身に訊ねたことがあるそうだ。それに対してシュディスは、「今の私では王位を継ぐことはできない」と答えたのだそうだ。第二王子であるアルシットは成人前だから、王位どうこうの話は論外だからね。シュディスがそのまま王になるんだと思ってたのに……なにか事情があるのかな。
ゲームじゃヒロインが召喚された後の話だっただけに、この先どうなるか分からないんだよね。オンライン版だとクエストとしてクリアするだけだったけど。乙女ゲーム版の場合はヒロインにとってシュディスの好感度をあげるイベントになるはずだったんじゃないかな? そうするとシュディス攻略って難しくなった、というか不可能になったってことだよね………
うーん……考えても仕方がないか。終わっちゃったものはしょうがないし。というかこの一件、私のせいじゃないし。……私のせいじゃないよね? あとあとヒロインに逆恨みされないよね?
閑話休題。
「でさ、『よかったらエディカラードに留学しないか』って手紙を出した矢先に、ダンジョンが出現したって報告を受けてさ。彼らが来る前に調査だけでもしとかなきゃなって思ったんだよ。だからさ、クルーシスの力を借りたくて、協力依頼をするのに、ネスティア王に謁見したんだ。そうしたら、一緒に聞いてたクライト殿下が、『よかったらセシリアにも声をかけてあげて欲しい』って言ってきたんだよ」
ここ最近冒険者として外出できていなかった私を、父様は気遣ってくれたみたいだ。だから、クルーシスとお茶をしているところにスレイがやって来たのだろう。
「っつーわけだ。クルーシス、セシリア。一緒にエディカラードまで来てくれないか?」
「私は構いませんよ。ここしばらくは執務ばかりで体を動かしていませんでしたからね。ちょうどいい」
「私も大丈夫です。ダンジョンに潜るのは初めてなので、足を引っ張らないように頑張りますね」
話を締め括ったスレイの言葉に、クルーシスも私も迷わずに答えた。
「いい返事が聞けてよかったよ。じゃ、準備もあるだろうから、出発は一週間後な。その頃に迎えに来るよ」
「はい」
「分かりました。貴方も執務を終わらせておいてくださいね、スレイ」
「あー、分かってるって。国を空けがちでたしかに滞ってるやつもあったからな。お前たちを迎える前に片づけておくよ」
そうして、スレイは一旦帰って行った。
初ダンジョンかぁ……楽しみだなぁ……シュディスが来る前に終わらせるってことは、彼に会える機会があるかな。かれこれ二年は会ってないから、短くてもいい、話がしたい。もしかしたら、王位を継げない事情も教えてもらえるかもしれないし。それに関して力になれる事があるかもしれない。
その日の授業は午前の分だけだったので、午後はクルーシスとお茶をしながら雑談していた時のことだ。クルーシスを訪ねてきたスレイが開口一番こう口にした。『ダンジョンの調査に協力して欲しい』と。
というか、スレイはついこの間もネスティアに来ていたような………彼はいつ執務をしているのだろうか。
相変わらず行動がフリーダムな王太子様だ。
そういえば……ゲームの場合は運営がダンジョンの出現ポイントとか、そういうの管理してたんだろうけど、現実であるこの世界ではどうなんだろ。
これまでにも数多くの学者がダンジョン出現の謎に挑戦しては、挫折していて、何故ダンジョンが出現するのかは理由が明らかになってはいない。
分かっていることは、ダンジョンは莫大な魔力溜まりが発生した場所に出現しやすいと言われていることくらいだ。
「ああ。ほら、つい先頃イスペライアの内乱が終結したって宣言が出されたろ?」
「──ええ、私もそれは知っています。たしか先導者はあの国の王太子でしたね。友人が彼の側近をやっていますし、セシリアを保護できたのも彼のおかげでしたね………。いつか礼をしたいと思っていたのですが、内乱が終わったのなら挨拶に行くついでに会談を願い出てみますか。それにしても、随分スムーズに事が進んだのですね。……まあ、現王に不満がある国民からすれば、彼の決起には諸手を挙げて喜んだでしょうし、協力も惜しまなかったでしょうけど。かの王太子も随分葛藤したでしょう。当時の現王たちが腐っていたとはいえ、『王位を簒奪した』という事実は変えようがないですしね……」
スレイの言葉に、クルーシスは痛ましそうに返答していた。たぶん、これ以上の腐敗を見過ごせなかったとはいえ、実の父親であり現王でもあった人を蹴落とす道を選んだシュディスの苦労を労ったのだと思う。言葉の端々から労りの心が感じ取れたから。
そう。イスペライアで起きていた内乱及び粛清は、私が回想したあの日より更に一年経過したのち、一応の終結をみた。現王(今は先代か)や主だった腐敗した貴族たちは討ち取ったそうだ。それでも全ての膿を出しきるには時間がかかったようだ。国事態は不安定な部分もあったこともあり、イスペライアは、しばらく他国との外交もストップしていた。
それが解除されたのはスレイが言ったとおり、本当につい最近のことだ。傾きかけた国を建て直し、他国との国交を再び開始できたのは、シュディスたちの努力の賜物だと私は思った。普通、その手のことを収めるのに数年単位での時間がかかるものなのだから。
「あそこの王族から周辺各国と国交を再開して、同盟を結び直したいって伺いがあったって、父上から言われてさ。その関係で、あそこの王子たち二人と歳の近いオレが外交を任されることになったんだよ」
スレイは喉を潤すために、いったん言葉を区切り、カップの紅茶を飲んで一息吐いた。科学者気質で自由な行動を認めているといっても、そこはやはり王族なのだ。外交の経験を積ませるために、今回のことに抜擢したのだろう。
ちなみにイスペライアの現在の王はシュディスではない。イスペライアの先王の兄君にあたる方が国王代行として政務にあたっている。……うん。いたんだよ、あのクズ王の兄弟とは思えないくらいまともな王族が。聞いたとき、驚いたよ。城にいた頃、他に王家の人間いないのかなぁ……とか思ってたんだけど、たんに私が知らなかっただけみたい。
その方は、身分の低い側室が産んだ王子だったがために、第一王子でありながら、いずれ王位を継ぐ弟──先王のことだ──を支えるための教育を受けて育ったのだそうだ。ところがその弟が王になった途端、国が荒れ始めた。どうやら先王は王位を継ぐ前からクズだったらしいのだが、表面上は猫かぶりをしていた模様。それが王になってから剥がれたらしい。誰も逆らえなくなったからか、クズっぷりに拍車がかかったのだろう。
けど、いくら王とはいえ、なんでも好き勝手にやっていいわけがない。弟のあまりの横暴振りに王兄となったその人は、これが自分の役目なのだからと、先王へ忠言を繰り返していた。けれどその結果、先王とその一派に疎ましがられた彼は、身に覚えのない汚名を着せられ、城の地下牢に幽閉されてしまったのだとか。それが今から十年は前のことだとか。
それが先の反乱によって地下牢から解放されたのだ。
なぜシュディスは自身が王にならずに、代行を任せたんだろう。私は手紙のやり取りをしていると教えてくれた父様に訊いてみた。父様も疑問に思ったらしくて、シュディス自身に訊ねたことがあるそうだ。それに対してシュディスは、「今の私では王位を継ぐことはできない」と答えたのだそうだ。第二王子であるアルシットは成人前だから、王位どうこうの話は論外だからね。シュディスがそのまま王になるんだと思ってたのに……なにか事情があるのかな。
ゲームじゃヒロインが召喚された後の話だっただけに、この先どうなるか分からないんだよね。オンライン版だとクエストとしてクリアするだけだったけど。乙女ゲーム版の場合はヒロインにとってシュディスの好感度をあげるイベントになるはずだったんじゃないかな? そうするとシュディス攻略って難しくなった、というか不可能になったってことだよね………
うーん……考えても仕方がないか。終わっちゃったものはしょうがないし。というかこの一件、私のせいじゃないし。……私のせいじゃないよね? あとあとヒロインに逆恨みされないよね?
閑話休題。
「でさ、『よかったらエディカラードに留学しないか』って手紙を出した矢先に、ダンジョンが出現したって報告を受けてさ。彼らが来る前に調査だけでもしとかなきゃなって思ったんだよ。だからさ、クルーシスの力を借りたくて、協力依頼をするのに、ネスティア王に謁見したんだ。そうしたら、一緒に聞いてたクライト殿下が、『よかったらセシリアにも声をかけてあげて欲しい』って言ってきたんだよ」
ここ最近冒険者として外出できていなかった私を、父様は気遣ってくれたみたいだ。だから、クルーシスとお茶をしているところにスレイがやって来たのだろう。
「っつーわけだ。クルーシス、セシリア。一緒にエディカラードまで来てくれないか?」
「私は構いませんよ。ここしばらくは執務ばかりで体を動かしていませんでしたからね。ちょうどいい」
「私も大丈夫です。ダンジョンに潜るのは初めてなので、足を引っ張らないように頑張りますね」
話を締め括ったスレイの言葉に、クルーシスも私も迷わずに答えた。
「いい返事が聞けてよかったよ。じゃ、準備もあるだろうから、出発は一週間後な。その頃に迎えに来るよ」
「はい」
「分かりました。貴方も執務を終わらせておいてくださいね、スレイ」
「あー、分かってるって。国を空けがちでたしかに滞ってるやつもあったからな。お前たちを迎える前に片づけておくよ」
そうして、スレイは一旦帰って行った。
初ダンジョンかぁ……楽しみだなぁ……シュディスが来る前に終わらせるってことは、彼に会える機会があるかな。かれこれ二年は会ってないから、短くてもいい、話がしたい。もしかしたら、王位を継げない事情も教えてもらえるかもしれないし。それに関して力になれる事があるかもしれない。
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