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『水月の国』と曲芸団
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「ちょっと、あんた! それ、碧の前で言ったら許さないからね!?」
「えっ……あ、はい。すみません……」
「どうして分かったの? 私、そんなに分かりやすい?」
「ふふっ。そうですね」
「わ、笑わないでよ!」
あれで好意が悟られないと思っているのか、渚は慌てふためいている。悪いことをしてしまったと内心詫びながらも、波音は堪えきれずにくすくすと笑った。
「波音は……私のこと、気持ち悪いって思わないの?」
「いえ、全然。女性が好きな女性だっていますし、そんなの普通ですよ」
「そう、なのね……。もしかして、あんたのいた世界では、私のような人たちに対して、あんまり偏見とかない?」
「うーん。全くないとは言い切れませんけど……理解は広まってきていると思います」
「いいわねぇ。私もそういう世界に生まれたかった」
渚は気を取り直すように溜め息を一つついて、「電話機を持ってくるわ」と医務室を出て行った。渚の反応から推察するに、この世界では白い目で見られることがほとんどだ、ということだ。
(世界が違うと、風潮も考え方も感じ方も、変わってくるんだな)
渚が碧に恋をしたということは、碧は渚を色眼鏡で見ることなく、仲間として大切にしているのだ。まだ出会ったばかりだが、碧の人柄が少しずつ見えてくる。
この世界での碧は、過去の『碧兄ちゃん』を思い出させる。彼も、渚に出会ったら、きっと優しく受け入れたはずだ。
(根本的な優しさは、似ているのかもしれない)
この世界の碧と、二度と会うことはできないもう一人の碧。容姿も声も異なるのに、滲み出る優しさに、二人を重ねてしまう。波音は一人、静かに笑みを零した。別世界に来てしまったというのに、悠長なものだ。
「ん? 別世界ってことは、電話も繋がらない……?」
「はーい、お待たせ」
大事なことに気付いたところで、渚が電話の子機らしきものを手にして戻ってきた。渚もまだ、電話が繋がらないことは察していないようだ。波音は礼を言ってそれを受け取ったのだが、なかなか番号ボタンを押せないでいた。
「どうしたの? 折角持ってきてあげたんだから、早く掛けなさいよ」
「すみません。でも、多分繋がらないんです」
「えっ……ああ、そうよね! ま、ものは試し。やってみたら?」
「はい」
波音は、大和の携帯電話、職場であるスポーツジムと、実家の番号の三つははっきりと覚えている。まずは、震える指で大和の番号を押し、受話口を耳に当てた。大和は今頃、波音を探して救助隊を要請しているかもしれない。
(南さんも助かってるといいな……)
僅かな望みを掛けて、繋がるように念じてみたが、聞こえてきたのは『お掛けになった番号は、使われておりません』という、不通を知らせる音声ガイダンスだった。
試しに残り二つも掛けてみたが、結果は同じ。これで、波音が別世界に来たということは、明白になった。
「えっ……あ、はい。すみません……」
「どうして分かったの? 私、そんなに分かりやすい?」
「ふふっ。そうですね」
「わ、笑わないでよ!」
あれで好意が悟られないと思っているのか、渚は慌てふためいている。悪いことをしてしまったと内心詫びながらも、波音は堪えきれずにくすくすと笑った。
「波音は……私のこと、気持ち悪いって思わないの?」
「いえ、全然。女性が好きな女性だっていますし、そんなの普通ですよ」
「そう、なのね……。もしかして、あんたのいた世界では、私のような人たちに対して、あんまり偏見とかない?」
「うーん。全くないとは言い切れませんけど……理解は広まってきていると思います」
「いいわねぇ。私もそういう世界に生まれたかった」
渚は気を取り直すように溜め息を一つついて、「電話機を持ってくるわ」と医務室を出て行った。渚の反応から推察するに、この世界では白い目で見られることがほとんどだ、ということだ。
(世界が違うと、風潮も考え方も感じ方も、変わってくるんだな)
渚が碧に恋をしたということは、碧は渚を色眼鏡で見ることなく、仲間として大切にしているのだ。まだ出会ったばかりだが、碧の人柄が少しずつ見えてくる。
この世界での碧は、過去の『碧兄ちゃん』を思い出させる。彼も、渚に出会ったら、きっと優しく受け入れたはずだ。
(根本的な優しさは、似ているのかもしれない)
この世界の碧と、二度と会うことはできないもう一人の碧。容姿も声も異なるのに、滲み出る優しさに、二人を重ねてしまう。波音は一人、静かに笑みを零した。別世界に来てしまったというのに、悠長なものだ。
「ん? 別世界ってことは、電話も繋がらない……?」
「はーい、お待たせ」
大事なことに気付いたところで、渚が電話の子機らしきものを手にして戻ってきた。渚もまだ、電話が繋がらないことは察していないようだ。波音は礼を言ってそれを受け取ったのだが、なかなか番号ボタンを押せないでいた。
「どうしたの? 折角持ってきてあげたんだから、早く掛けなさいよ」
「すみません。でも、多分繋がらないんです」
「えっ……ああ、そうよね! ま、ものは試し。やってみたら?」
「はい」
波音は、大和の携帯電話、職場であるスポーツジムと、実家の番号の三つははっきりと覚えている。まずは、震える指で大和の番号を押し、受話口を耳に当てた。大和は今頃、波音を探して救助隊を要請しているかもしれない。
(南さんも助かってるといいな……)
僅かな望みを掛けて、繋がるように念じてみたが、聞こえてきたのは『お掛けになった番号は、使われておりません』という、不通を知らせる音声ガイダンスだった。
試しに残り二つも掛けてみたが、結果は同じ。これで、波音が別世界に来たということは、明白になった。
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