22 / 65
奪われたファーストキス
6
しおりを挟む
碧からおしぼりを手渡され、両手を丁寧に拭いて手を合わせる。「いただきます」と二人同時に言って、朝食が始まった。そういう習慣は共通のようだ。
「あの。この国のルールとか、文化とか、何でもいいので教えてもらえませんか?」
ロールパンにバターを塗って一口囓り、それを飲み込んでから波音は碧に聞いた。日本とは違うこの国のことを、少しでも多く知っておきたいのだ。質問していれば、話題にも困らない。
しかし本音を言えば、食事中に男性を前にしてどういう会話をしたらいいのか分からず、波音は当惑していた。
「構わないが。すぐには理解できなくて、混乱するかもしれないぞ?」
「いいんです。早く慣れたいし……分からないことが多いと不安なので」
「そうか。じゃあ……」
食事を進めながら、碧は水月の国のことについて語ってくれた。
この国は、周囲を海に囲まれた島国で、領土面積や人口は世界最小クラス。観光資源が豊富で、世界各地から人々がやってくる。特に目玉となっているのは、美しい海と砂浜、そして碧が運営する曲芸団。『海上の曲芸団』として、世界でも有名なのだという。
(同じようなこと、確か渚さんも言っていたな)
復習するように、波音は頷く。言葉は波音の扱う日本語や外来語と相違ないようだが、ここではそれらが世界共通の言語であるらしい。『日本語』『漢字』『ひらがな』といった、言語や文字そのものを指す単語は、碧には通じなかった。これにはさすがに、波音も度肝を抜かれる。
(不思議……。どういう仕組みなの?)
碧の言った通り混乱する羽目にはなったものの、波音は気持ちをリセットして、次の話を聞いた。天皇のいる法治国家であることや、国民は戸籍で管理されていること、紙幣や硬貨を用いて売買することなどは、日本のそれらと似ているようだ。つまり、日本とは似て非なる国である。
「あとは……生活するうちに慣れるだろ。分からなかったらその都度聞いたらいい」
「はい。ありがとうございます」
百聞は一見にしかず。見て、体験して覚えることも多いはずだ。ある程度、情報の整理ができて、波音の気持ちが和らぐ。残りの食事をしてしまおうとフォークを握ったところで、碧の皿が目に留まる。
碧ばかりが話していたというのに、その皿はほとんど空になっていた。このままでは、また「早くしろ」と急かされかねない。
「あっ……急いで食べますので!」
「ゆっくりでいい。慌てて食べると喉に詰まらせる」
「……はい」
まただ、と波音は思った。思いがけず優しくされると、調子が狂う。胸がきゅっと絞られるような感覚がするのだ。それは、幼い頃、『碧兄ちゃん』に抱いていた恋心に近いようで、ますます訳が分からなくなる。
(違う……襲われかけて、変に意識しているだけ)
おんぶしてもらった時までは、好感が勝っていた。目の前の碧のことを、もっと知りたいとさえ思っていたのに、今では複雑な気持ちになっている。
「あの。この国のルールとか、文化とか、何でもいいので教えてもらえませんか?」
ロールパンにバターを塗って一口囓り、それを飲み込んでから波音は碧に聞いた。日本とは違うこの国のことを、少しでも多く知っておきたいのだ。質問していれば、話題にも困らない。
しかし本音を言えば、食事中に男性を前にしてどういう会話をしたらいいのか分からず、波音は当惑していた。
「構わないが。すぐには理解できなくて、混乱するかもしれないぞ?」
「いいんです。早く慣れたいし……分からないことが多いと不安なので」
「そうか。じゃあ……」
食事を進めながら、碧は水月の国のことについて語ってくれた。
この国は、周囲を海に囲まれた島国で、領土面積や人口は世界最小クラス。観光資源が豊富で、世界各地から人々がやってくる。特に目玉となっているのは、美しい海と砂浜、そして碧が運営する曲芸団。『海上の曲芸団』として、世界でも有名なのだという。
(同じようなこと、確か渚さんも言っていたな)
復習するように、波音は頷く。言葉は波音の扱う日本語や外来語と相違ないようだが、ここではそれらが世界共通の言語であるらしい。『日本語』『漢字』『ひらがな』といった、言語や文字そのものを指す単語は、碧には通じなかった。これにはさすがに、波音も度肝を抜かれる。
(不思議……。どういう仕組みなの?)
碧の言った通り混乱する羽目にはなったものの、波音は気持ちをリセットして、次の話を聞いた。天皇のいる法治国家であることや、国民は戸籍で管理されていること、紙幣や硬貨を用いて売買することなどは、日本のそれらと似ているようだ。つまり、日本とは似て非なる国である。
「あとは……生活するうちに慣れるだろ。分からなかったらその都度聞いたらいい」
「はい。ありがとうございます」
百聞は一見にしかず。見て、体験して覚えることも多いはずだ。ある程度、情報の整理ができて、波音の気持ちが和らぐ。残りの食事をしてしまおうとフォークを握ったところで、碧の皿が目に留まる。
碧ばかりが話していたというのに、その皿はほとんど空になっていた。このままでは、また「早くしろ」と急かされかねない。
「あっ……急いで食べますので!」
「ゆっくりでいい。慌てて食べると喉に詰まらせる」
「……はい」
まただ、と波音は思った。思いがけず優しくされると、調子が狂う。胸がきゅっと絞られるような感覚がするのだ。それは、幼い頃、『碧兄ちゃん』に抱いていた恋心に近いようで、ますます訳が分からなくなる。
(違う……襲われかけて、変に意識しているだけ)
おんぶしてもらった時までは、好感が勝っていた。目の前の碧のことを、もっと知りたいとさえ思っていたのに、今では複雑な気持ちになっている。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ガネット・フォルンは愛されたい
アズやっこ
恋愛
私はガネット・フォルンと申します。
子供も産めない役立たずの私は愛しておりました元旦那様の嫁を他の方へお譲りし、友との約束の為、辺境へ侍女としてやって参りました。
元旦那様と離縁し、傷物になった私が一人で生きていく為には侍女になるしかありませんでした。
それでも時々思うのです。私も愛されたかったと。私だけを愛してくれる男性が現れる事を夢に見るのです。
私も誰かに一途に愛されたかった。
❈ 旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。の作品のガネットの話です。
❈ ガネットにも幸せを…と、作者の自己満足作品です。
私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。
小さな姫さまは護衛騎士に恋してる
絹乃
恋愛
マルティナ王女の護衛騎士のアレクサンドル。幼い姫に気に入られ、ままごとに招待される。「泥団子は本当に食べなくても姫さまは傷つかないよな。大丈夫だよな」幼女相手にアレクは戸惑う日々を過ごす。マルティナも大きくなり、アレクに恋心を抱く。「畏れながら姫さま、押しが強すぎます。私はあなたさまの護衛なのですよ」と、マルティナの想いはなかなか受け取ってもらえない。※『わたしは妹にとっても嫌われています』の護衛騎士と小さな王女のその後のお話です。可愛く、とても優しい世界です。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる